応援していた候補者が当選する瞬間、さくらがなんで脳を焼かれたか分かった気がした。
そんなさくらが電話をくれれたのは開票が終わってしばらくしての事である。
「とりあえず当選おめでとう」
「私が選挙に出た訳じゃないのに……けどそう言われると気分がいいわ」
開票が始まる午後8時までに事務所に入れと力説していたのが彼女である。
票読みとその解説を適時電話でしてくれたのありがたかったのだが……話がそれた。
「それが選挙の魅力であり魔力なのよ。
これが負け戦になると……うっ。頭が……」
「おーい。さくら?大丈夫?」
そんな話をしながらさくらは本題を切り出す。
「いい。政治に絡んだ以上、これからあなたに本当に大事なことを教えます」
先ほどとは打って変わって真剣な声のさくらに私も電話越しに姿勢を正す。
そんなさくらの口から出てきたのは想定外の言葉だった。
「絶対に応援していた議員を井戸塀政治家にしちゃだめよ」
「い、いどへいせいじか???」
「政治家が見返りを求めずに私財を投げうち政治に奔走した果てに、最後に残った財産は井戸と塀だけだったという者の例えよ」
さくらが何を言っているのか分からないが、その後の言葉でやっと私にも届く。
「某ゲームのアーチャーみたいな人間にさせるなって事」
「それならなんとなく分かるけどなんで?」
「私やはるかみたいに独身ならそれもいいけど、議員は家族持ちよ。
正義の果てに家族に何も残せませんでしたはあまりに可哀そうじゃない」
まずテレビでは出てこない言葉に私は目をぱちくりさせるばかり。
さくらはそんな私の事などおかまいなしに話を続ける。
「今回表現の自由がらみで応援したけど、都議ともなるとそれ以外の仕事もあるの。
すっごくぶっちゃけるわよ。
貴方の立っている所。床に札束が落ちている魔窟よ」
さくらの淡々とした声に私の背中がぞくりと震える。
この事務所の熱気も、勝利に沸き立つ陣営の何処にそんなものがという気がしている私にさくらが追い打ちをかける。
「そーいえば、蒲蒲線本格的につくるそーね?」
「ん?
そうみたいだけど、あれができると私は羽田に行くのが楽になるかな?
それが今なんの話に繋がるの??」
さくらの声は淡々としていたのに、だからこそその声に私は凍り付く。
「総工費用1360億円とか言われているんだけど、その費用の3割が建設会社の儲けとしておよそ400億円。
知事と都議全員に一億賄賂渡してもまだお釣りが来るのよ」
「は?」
こいつはなにをいっているのだ?
体中からいやな汗が出るのが分かるが、さくらの声は止まらない。
「昔だったら赤字覚悟で取りに行ったゼネコンが多かったのよ。
公共事業を止める事はできないから都や国がバックについて銀行が貸してくれたりしてね。バブル華やかかりし頃の話で、その手の会社があらかた潰れたけど。
いい。はるか。あなたがいる場所はそんな魑魅魍魎の巣よ」
途端に、私のいる場所が何か恐ろしい場所のように思えた。
私の事を察したのか、さくらは口調を変える。
「少し昔話をしましょうか。
今でも政治で『財源がー』ってよく聞くわよね。あれがあるとしたらどうする?」
「あったの!?財源!?」
散々ニュースになったはいいが税金が安くなったとも思えず、うんざりしている私はその話題に食いつく。
「もう二・三十年前の話よ。あの時ですら財政的に問題になっていたのだけど、特大の財源、本物のパンドラの箱の存在が囁かれていたのよ……」
「なによそれ?」
税金安くなったらあれこれ買いたい物を頭に浮かべた私にさくらの声が響く。
「……相続税。今は知らないけど、あの頃の相続税は分かりやすく言うと『財産を持ったまま三代目が遊んで暮らせない』設計になっていたわ」
「ん?それがどうして特大の財源、ましてやパンドラの箱なんて呼ばれるの?」
「つまり、団塊世代が親から財産を受け継ぎ、氷河期世代が消えてその子供たちに残す財産は基本無いって設計なのよ。これが悪辣なのは、あの頃ですら少子高齢化が叫ばれていたという事」
「あっ……!?」
要するに、『遊んで暮らす事は許さん』と国が言っているようなものである。
私でもちょっと怒りが出てきたのだが、さくらの声は変わらない。
「パイの食べ手が減る上にそのパイを国が相続税という形でとるから、それで回収って算段だったのよ。ところが、この国の健康と福祉はその設計を上回る寿命を団塊世代に与える事になり、氷河期世代の使い捨てで全回収するつもりみたいね」
「えげつなー」
私もさくらもその氷河期世代である。
めでたく全回収されるのだから怒りも湧くというものだが、歴史ではそんな事をやらかした国があったりする。この国なんだが。
「戦争負けて財産全没収に近い預金封鎖と新円切替よりましよまし」
「それを言われると……」
「さて問題。そんな氷河期世代から財産を恨まれずに全回収する手段ってなーんだ?」
「あるわけないじゃない!!」
私の怒声にさくらは笑いながら言い切る。
その声に憂いが乗っていたの何でなのだろうか。
「あるんだなー。これが。安楽死と尊厳死。これが社会保障政策として語られる際には気をつけなさい。その大本命は相続税だから」
「……そこに繋がるのか……ってさくらなんでそんな事知っているのよ!?」
私の質問にさくらはあっけらかんと言い切る。
彼女と政治の絡みの一端が見えた気がした。
「下っ端だけど、相続税を財源にって主張した人間の一人だったからよ……私は……」
電話を切った私は電話を持ったまま苦笑する。
当然の質問は当のさくらに届く訳もなく消えた。
「なんでこいつ官能小説デビュー目指していたんだろう……」
井戸塀政治家
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E6%88%B8%E5%A1%80%E6%94%BF%E6%B2%BB%E5%AE%B6
私の安楽死のスタンスはこれを見て無理と悟った
安楽死が合法の国で起こっていること…「生活保護」より「安楽死」の申請のほうが簡単というカナダの事情 合法化からわずか5年で安楽死は4万人超 #プレジデントオンライン https://president.jp/articles/-/77281