私は休むのが下手   作:北部九州在住

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春河童 SF大会とミッション

 遅刻はいけない事である。

 とはいえ、電車の遅延だから不可抗力ともいえるのだが、その前に条件があると話が変わる。

 

「原稿遅らせる事はできますか?」

「先生。来週にすると落ちます」

 

 ちくしょーめーーーー!!!

 

 かくして遅れた私は恨み言と時計を眺めながら蒲田に到着したのだった。

 なんでかというと、ここで今日日本SF大会が行われるからで、ここで月ノ瀬観音さんと講演を行う事になっていたからだ。

 という事で、エレベーターで会場のある10階に行くと、一人で講演している観音さんと、なぜか席についている朝倉さくらが。

 

(……さくら。なんでてめーそっちに居るんだよ?)

(……この状況で入ったら私が観音さんに引きずり出されるじゃない。見捨てて遅れて入ったのよ♪)

 

 アイコンタクトバチバチだが、観音さんのこめかみは見ないことにした。

 はい。私が悪いのです。ええ……

 

「お久しぶりです。はるか。観音さん」

「お久しぶり。さくら」

「今日は中華を食べに、さくらくんを誘ったのだよ」

 

 講演終了後、三人で蒲田名物の羽根つき餃子を食べに行く話をしていたのである。

 正確には、前回のSF大会で三人で講演していた際に観音さんとさくらが都合で食事に行けなかったので、さくらから一緒に食事に行こうと誘ったのだが、その大事な時に送れるとはという事でしゅんとする春河童こと天野はるか。

 とはいえ、それも酒が入るまでである。

 

「「「かんぱーい♪」」」

 

 私と観音さんはビールでさくらはウーロン茶。

 なんでもマーライオンのように吐いたトラウマかららしいが、そんなの関係なしに話が弾む。

 

「遅れて本当に申し訳ない」

「仕事に列車の遅延だから仕方ないわよ」

「まぁ、そういう事だから今回は水に流して楽しもうではないか」

 

 なんて話をしつつ羽根つき餃子を堪能していると観音さんのアイコンタクトが出る。

 そうなのだ。今回の宴席には目的があるのである。

 さくらの歓待だけでなくもう一つの目的が。

 観音さんが頷くのを確認して私は完全に気が緩んでいるさくらに奇襲をしかける。

 

「さくら聞いてよ。

 出版社の人からこの『朝倉さくらの縁ジョイリセットデイズ』をコミカライズしないかって話が来ているのよ」

 

「おー。おめでとう♪

 すっかり売れっ子作家じゃない♪」

 

 完全他人事のようにウーロン茶をあおるさくら。

 それもここまででさくらは、餃子をゆっくりと咀嚼して箸をおいて一言。

 

「……ぱーどん?」

 

 目が点になるさくらにしてやったりの私と観音さん。

 観音さんが私の後を引き継いで説明する。

 

「若い子でチャンスを上げたい人たちがいてね。

 そんな人たちに『朝倉さくらの縁ジョイリセットデイズ』の原作にコミカライズをお願いするのだよ」

 

「うんうん。

 そこまではわかる。

 で、どうして私に?」

 

 さくらは餃子を口にしながらまだ事態を飲み込めていない。

 さくらよ。あんたは己が『G2勝った程度でG1勝っていない馬なのよ』なんて卑下しているけど、その制作能力とバイタリティーは修羅の国投稿小説サイトで書籍化を勝ち取ってコミカライズまで果たした立派な修羅なんだよ。

 

「だってあなた仕事速いじゃない」

 

「はやいって、精々一日2000字上げる程度よ」

 

「それ、よそで言ったら斧でぶっ叩かれるな」

 

 私の理由に、さくらがボケて、観音さんが突っ込む。

 まだよくわかっていないさくらに私はさくらが書いた原稿を見せる。

 

「あなた、これだけ原稿書いているじゃい。

 これもったいないなーって思うのよ」

 

「もったいないって、エッセイだから気分次第の書き散らかしじゃない。

 使うのは構わないけど、これ原作にするのぉぉぉぉ???」

 

 その疑問形の声は、こいつがコロナ禍デビューのせいで、作家らしいイベントにあまり参加できていなかった事に起因する。

 それでも、何かあると書き散らかして、書いたよーとこっちに送り付ける程度。

 だから、それが、どれだけもったいないのかわかっているのか!!!

 

「いやまあ、使うのならば、はいどうぞと言いますが、原稿足りるかな……」

 

 なんてほざくさくらに私と観音さんのこめかみが引きつる。

 なお、私はともかく観音さんのさくらの評価が高いのは、観音さんが献本を送ったその日にお礼エッセイを送り返したからで、こいつの文章制作能力はガチという共通認識を持っているからである。

 

「さくら。お前その書き散らかし、何話、何文字書いたか言ってみろ」

 

「えっと……大体2000字で45話だから、90000字?」

 

「さくらくん。一冊本ができるね。それ」

 

「ぉぅ……」

 

 そんなに書いたのかと目をそらすさくら。

 これだけ原作ストックがあるのならば、コミカライズ側も大丈夫だろう。

 

「大丈夫?足りる?もう少し増やそうか??」

 

 真顔で餃子を食べながらこんな事をほざくさくらにこいつはと苛立ちつつも笑顔で私と観音さんは無視することにした。

 

「はるかくん。わかっているね?」

「はい。今回は私に奢らせてください……」

 

 遅刻のわびはこの宴席の代金となった。

 このうらみは、コミカライズ作家に原稿を送り付けて、さくらをめっちゃ美人に描いてもらい『私こんなに美人じゃない!』とさくらに悲鳴をあげさせる事にすると帰りの電車の中で心に誓ったのだった。

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