「は、はるか……ごめん……わ、わたしもぉ……」
「いいのよ、さくら。一緒に堕ちよう……」
ダン!ダン!!ダダン!!!
「「この本全部ください!!」」
今日はSF大会にやってきた朝倉さくらが、
「ちょっとオシャレなカフェで優雅にティータイムを楽しむの♪」
なんてほざいたのでついてきたのだが、それがなんと神保町。
あー。こいつアホだなーと思いながら散策した挙句の果てである。
みんな知ってる?
本って重たいんだよ♥
つまり……
「ぉ、ぉも……ぃ……♥」
「暑い……重い……幸せぇ♥」
男どもも黙って首を横に振る両手紙袋残念美女二人のできあがりである。
死にかねない首都東京の猛暑で汗だらだらなのにエロくない。
万一の為に用意したペットボトルの水も秒でなくなり、まず汗で流れるからおしっこが出ない危険信号にも関わらず、この本狂い二人はダボハゼのように古本店に突貫し、本を抱えて出てゆく始末。
「おい。さくらよ……。お前さんの言っていた『ちょっとオシャレなカフェで優雅にティータイム』は何処に行った!?」
「わ、忘れていないわよ。ええ……」
目を反らしながら両手の紙袋を抱えて幽鬼のように歩く私とさくら。
さくらが紹介してくれたお店は、たしかにおしゃれなお店ではあった。
「はーっ。はーっ。はーっ。
さくらがこんなお店を知っていたなんてねー……」
「ぜいぜいぜいぜい……
ここね、書籍化の打ち合わせで編集さんと待ち合わせをしたお店なのよ……ぜいぜいぜい……」
なるほど。納得。
そんな事を思いつつ二人してアイスカフェラテを頼む。
程よく効いたエアコンと、出てきたアイスカフェラテで本狂いの幽鬼から若干女に戻ったさくらが懐かしそうにつぶやく。
「この打ち合わせで上京した時の思い出は今でも覚えているわ。
格安航空会社の飛行機で成田に降りて、カプセルホテルはなんと2000円。
鍵はフック式で、そりゃあ治安なんてよろしくなかったわよ。
で、打ち合わせの後で代金は編集持ちでね。
それが今では大手航空会社の飛行機で空港ではラウンジで一休みしつつ、オーバーツーリズムでバカ高い土曜のビジネスホテル一泊20000円すらカードで片付けて、こうしてはるかにカフェラテを奢るんだから、人生何があるのかわからないわよ……」
さくらは金に困った訳ではないが、かといって金を使うような生活はしてこなかった女である。
ここにきてやっとさくらの「ちょっとオシャレなカフェで優雅にティータイム」というものが見えてきたような気がした。
「だったら何で先に古書店に寄った?言え」
「はるか。目の前に古書店があって、私たちを手招きしているのよ。
拒否できる?」
「できる訳ないじゃない」
そうして、二人して笑ってカフェオレを堪能する。
冷たさとエアコンの冷気が実に心地よい。
「はるか。いちおー再確認するんだけどさ。
コミカライズの話。マジなの?」
「観音さん前にそういうジョークを言えるほど私は大胆じゃないわよ」
「そっかー。若い子に失敗させないように頑張らないと」
「んー? コミカライズで原稿はあるのにさくらは何を頑張るの?」
「だって、書いたはいいけど、私的に使えるの一割ないと思っている」
あっさりと言ってのけるさくらに物書きの矜持が見えたのは私だけだろうか。
さくらは、店員にカフェラテのおかわりを頼むと、続きを口にした。
「はるか。私はね、ありがたい事に小説家になったわ。
だから、ここで討ち死にしても『小説家 朝倉さくら』な訳なの。
コミカライズをするだろう若い子はまだ何者でもないじゃない。
それにも関わらず、私の物語でコミカライズをする。
大将としては後ろでふんぞり返るどころか、刀を担いで指揮官先頭に突貫しないと若い子にも読者にも信用されないわよ」
そーいえばこいつ観音さんとの席でも同じこと言ったんだよな。
『私は討ち死にしてもいいから、コミカライズは世に出さねば』って。
「私なんかは優れた原作のおかげと思うけどね」
「優れている原作ならいいけど、私のは基本書き散らかしよ。
しかも、対象をはるかに絞って書いているから、使えないって訳」
ほどよく暑さもなくなった朝倉さくらは軽く指を回しながら、リズムをとって面白いことをほざきだす。
「あの話、意識しているのは飛行機の機内雑誌なのよ。
ここでクエスチョン。はるか。あの手の雑誌が手に取られる瞬間って何時だと思う?」
ん?
あの手の雑誌を手に取る瞬間だと???
首をひねる私にさくらは楽しそうに答えを告げた。
「機内安全のアナウンスの時よ。
乗り慣れている人は、何度も何度も聞いている上に、モニターとかも使えないから安全のしおりを取るついでに機内雑誌に手を伸ばす訳」
こいつ本当によく見ているな。
感心する私にさくらは種明かしをするように笑顔で言い切る。
「だから、あの手の雑誌は記憶されず、暇が潰せる事が最上なのよ。
面白くて機内安全アナウンス聞いていませんでしたなんて本末転倒でしょう?
解釈は人それぞれだけど、私はそう解釈していままでの話を書き散らかしていた訳。
若い子絶対頭抱えるわよー。やまもおちもいみも意図的に薄くしているんだから」
なるほど。
こいつはこいつなりに、若い子を応援しようとはしているらしい。
そこについては分かった。
「好き勝手書いてくれとは言うけど、原作からかなり手直ししないといけないでしょうね。
方向性の為にも数話追加で作ってあげようかなと」
そう言って笑顔で笑った朝倉さくらは、たしかに小説家朝倉さくらなのだろう。
ここで終わればいいはなしだったのになー。
「で、よ。
この買い過ぎた本どうしたらいいと思う?」
「さくら知ってる?
荷物で送るって手段があって……」
「ナイスアイデア!!!」
絶対若い子には見せられないな。
特に最後は……