私は休むのが下手   作:北部九州在住

48 / 54
本の街神保町探索

 神保町。

 正しくは東京都千代田区神田神保町。

 本好きの都であり古書店街が並ぶ私みたいな人間にとっての理想郷である。

 ちなみに地名の由来は、幕臣・神保長治の屋敷があったことに由来するそうで、多くの書店や出版社、出版問屋の取次店が所在し、その規模は世界最大規模だったりする。本ならば古書からドスケベブックに至るまで揃っている本の楽園。神田古本街ともよばれる事がある。

 この街を探索するときにはルールがある。

 

1)古書は送る事ができる

 

 今では多くの人たちが電子書籍に移行したが、ここでしか手に入らない本と言うものが必ずある。そして、そういう本はえてして高くて重たいのである。

 作家と言うものは因果なもので、己で物語を紡ぐのに、先人たちの知識を遠慮なく利用するから、知る事にとにかく貪欲である。

 たった一言の為に万札を叩きつけて己の原稿に取り入れる馬鹿どもの事を小説家と言う。

 そんな小説家どもが本を買うのだ。

 資料と称し、経費で落ちるからと容赦なく徹底的に買う。買う。買う。

 有名なのは巨匠司馬遼太郎で、この人新たな作品に取り掛かるときに膨大な資料収集をしたことで知られ、そのテーマについての資料本が神田神保町の古本屋街から消えるという「伝説」は今でも語り継がれている。

 という事は、古書店がわも分かったもので、大量の本を抱える私にこんな悪魔の誘惑を言って来るのだ。

 

「お買い上げ10000円以上なら、無料で家まで荷物でお送りしますよ」

 

 本当にこの悪魔の囁き容赦がないのだ。

 専門書は元が高いから中古でも平気で1000円超える事が多いのだ。

 するとだね。10冊も買えば手ぶらで帰れるという事な訳で、

 

「そうよね。私は今日資料を買いに来ているんだもの。ちょっと先の事を考えて本を買おうかしらん」

 

 なんてほざいてどんどんどんと己の琴線に触れた本を積み上げてゆくのだ。

 そして10000円を超えたお買い物で手ぶらになったーとほざいて隣の古書店に入ってゆく。

 そこでも10000円以上のお買い物をすれば……ね。恐ろしいでしょう。

 

2)雨の日に行ってはいけない

 

 本当に電子書籍だとそういう事もないのだろうが、私はまだ紙の本が好きなのである。

 という事は、雨が降ろうものならば本が濡れる事に……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 この感情は本好き、ビブリオマニアと呼ばれる連中特有の症状である。

 折角買った貴重な本を濡らしてなるものかと色々対策をする事になるのだが、この手の連中が見落としているのに、本の対策をして己の対策を忘れるという事がとても多くある。

 本を買って濡らさないように体を濡らして風邪をひきましたなんて本末転倒。

 だったら、そういう日には買いに行かない事が一番なのだが、こまったのが地方からやってきてその日しかこの街を探索出来ないケース。

 昔ならスーパーのビニール袋という味気ないアイテムで防水対策をするのだが、最近はレジ袋有料化の結果、なかなか素敵なアイテムが入手可能になったのでご紹介しよう。

 防水保冷機能付きトートバッグである。

 防水は分かるだろう。雨の話をしているからだ。では何で保冷機能つきなのかというと、そのタイプはペットボトルを入れる容量で作られているからで、本を重ねて入れるのに適しているのが一つ。保冷機能つきという事はバッグの口がファスナーで塞ぐことが可能で、上からの雨水を防げる上にそのままトートバッグこど宅急便で送る事が可能だからだ。

 あと、このトートバッグで送れるだけの本しか買わないという欲望リミッターの役目もあるのだが、本当に欲しい本に出合うとそれを無視するのが私たちという人間だったりするのであまりあてにしてはいけない。

 

3)本を得るのならば、いつか本を返すこと

 

 ここで得られる本は、ぶっちゃけると『ここでしか手に入らない』本でもある。

 私たちみたいな人種がヒャッハーと本を買いまくっても、この街から本が消える事はない。それは、この街にめがけて本が集まるからである。

 己が死んだ後でいい。

 ここで買った本はここに売ってあげる事をお勧めする。

 私しか欲しい本というものは、他の誰かも欲しいのだ。貴方が手にした本を別の誰かに手渡してあげなさい。

 この流れは電子書籍ではできない、本ゆえの、古本ゆえのリレーである。

 また、私たちみたいな作家は別の返し方がある。

 つまり己が書いた本がこの街に売られる事だ。

 それは譽だ。栄誉だ。

 己の物語がこの世界最大規模の古書店街に必要とされ記憶されたという事なのだから。

 そんな事を思いながら、とある古書店を物色した時にそれはあった。

 

「あ、私の本だ……」

 

 嬉しくて恥ずかしくて誇らしいこの気持ちは作家にしか味わえない。

 なお、名札を見たら300円だった。

 

 神保町。

 それは本を愛し、本に愛された人たちが本の為に生きる街である。

 あなたがこの街で、あなたの人生を彩る一冊を見つける事ができる事を、作家天野はるかは祈りながらこの話を閉じようと思う。

 

 

追記

 そんな三つのルールがあるこの神田神保町。

 古書の街ゆえにそんな本のお祭りが秋に行われる。

 神田古本まつり。

 初めてこの街に踏み込むならばこのお祭りの時をお勧めする。

 お祭りだから、みんな秘蔵の本を出してくるし、宅配サービスも分かりやすくなっているから家に送る事も楽になっているからだ。

 そのぶんお財布には優しくないのでご注意を。




司馬遼太郎の逸話
司馬遼太郎 資料収集で神保町古本屋街で資料本消滅伝説作る|NEWSポストセブン https://www.news-postseven.com/archives/20130928_212906.html?utm_source=twitter.com&utm_medium=social&utm_campaign=shared #NEWSポストセブン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。