私は休むのが下手   作:北部九州在住

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思ったより難しいエッセイ小話

 今回はユイ・阿羅本先生と別府ケイ先生とのコラボ企画の話である。

 そんな訳で、真面目にエッセイについて語ろうと思う。

 

「面白い女を書いてください!」

 

「このおバカっ!!」

 

 上の言葉はコラボの席で私が別府ケイ先生に言った言葉であり、下の言葉はそれを知った朝倉さくらの罵倒である。

 なんかいつも怒られているぞ。私。

 こいつもいずれエッセイデビューするはずなのだが、まさかの電話口叱責に目がパチクリとする私。

 

「え?何かまずかった???」

 

「あんたね……完全に読者の事を置き忘れにしているじゃない」

 

「え?読者??」

 

「ユイ・阿羅本先生の取材先」

 

 ん?

 この女は何を言っているのだ?

 首をかしげる私に、朝倉さくらは懇切丁寧に説明してくれる。

 

「いい。はるか。

 ユイ・阿羅本先生と別府ケイ先生のお話を何よりも第一に読んでもらわないといけない相手は、取材先のお店の人なのよ。

 会話の主導権を奪うのが目的とはいえ、そこを止めるってどーいうつもりなのよ!!」

 

「あっ……」

 

 気づいた私に懇切丁寧に説明してくれるさくら。

 宴席で観音さんと語った話を織り交ぜるあたり、こいつ本当に才能はあるのだ。

 

「この間の観音さんとの席で『孤独のグルメ』の話をしたでしょう?

 あれ、原作では失敗とかやらかしもあるんだけど、TV版では現実のお店が出ているからそういうのは基本無くなって、きちんとお店のよい所をアピールしているのよ」

 

「けど、たしか構造的にそれをするのは難しいって……」

 

「そう。だから、TVでは原作者が番組終了後に取材しているでしょ?

 足りないとしたらそれなのよ」

 

 こいつ、コラボの話から歓待の席での小話まで混ぜて、きっちりとアンサーを出してきやがった。

 私に足りなかったのはここだ。

 私は『読者』しか見ていなかったが、こいつは『読者』と『クライアント』を意識して分けやがった。

 

「面白い女を書けというのは正しいのよ。

 と、同時に取材先のお店の事もきちんと伝えないとまずいのよ。

 ちなみに、ユイ・阿羅本先生がどんだけ苦労しているか、恵比寿の話で私は悟ったわよ」

 

「恵比寿の話?

 ああ。あなた、たしか行った事あるんだっけ?」

 

「そう。大手企業サッポロビール株式会社様に取材を申し込んで、恵比寿ガーデンプレイスで取材をして『酒飲みに昼酒を飲ませる口実を与えてしまった…』なんてSNSで使いやすいコマを描かせる仕事に私は脱帽したわよ」

 

 よく見ているな。さくら。

 まぁ、こいつも『書いたから見て』と原稿送り付けてくる人間で作家デビューしているから観音さんや私に目をつけられたとも言えるのだが。

 なお、『肉が食いたい!人の金で!!』という素敵外道コマをSNSで使いだしたのもさくらだったような気が……話がそれた。

 

「『カンパイリセット』それが制約でもあるし、強みでもあるのよ。

 あるお店を紹介するから、読者が『このお店行きたいな』と足を運んでくれたら勝ちな訳。

 で、きちんと説明したクラフトビール店と面白い女が面白い話をしただけの情報しかないクラフトビール店。酒飲みが行くとしたらどっちよ?」

 

 電話を持った私は既に視線がそれて汗だらだらである。

 やっちまったー!これー!!と悟っても後の祭り。

 

「……きちんと説明したクラフトビール店でございます」

 

 さくらは酒は苦手のはすだが、この手の分析においてしっかりと読者視線になるのはさすがである。

 そこまで言ったうえでさくらは己の話に落としてゆく。

 

「ね。私の書き散らかしで使えるのは一割って言い切るのはこれなのよ。

 きちんと読者を定義して、それに向けて書く。

 はるかが私の話を面白いって言ってくれたのは、的をはるかに絞っているからなのよ。

 だから、重版かからないんだけどねー」

 

 SNSで話題になったのだが、本条先生や酒樽先生たちの小説と共にさくらの小説が並べられて語られたのだが、こいつの小説だけ重版がないので『そこにまとめられていいのか?』とちょっと卑屈になっているのを私は知っている。

 なお、それで『G1勝っていないG2馬』とかほざいているので、観音さんと一緒に斧でぶん殴ろうと話したのがこの間の話である。

 

「ちなみにだけど、はるか。

 私はユイ・阿羅本先生みたいに面白い女じゃないから。あしからず」

 

「はい?」

 

 こいつは何を言っているのだ?

 ふつーの作家先生はSF大会で二コマ連荘で話をすらすらとしたりなんてできねーんだぞというツッコミをぐっと我慢する。

 

「焦点をきちんと読者に合わせた上でエッセイを書くのって難しいのよ。

 それでも、エッセイとしての最高傑作があるから、そいつをお手本にチューニングして書き散らかすつもりなんだけどね」

 

「書き散らかしはおいておいて、エッセイとしての最高傑作?」

 

「清少納言の『枕草子』。

 あれほど、完成されたエッセイは他にはないわよ。

 さて、問題。あの『枕草子』の読者って誰だと思う?」

 

「え?読者……???」

 

 私の返事を待たずにさくらはこんな事を言ってのける。

 

「歴史では藤原道隆一族が衰退していく中で、中宮定子の宮廷はこんなにも鮮やかに彩りをもって私たちに語り掛けてくる。

 彼女は歴史を読者に『枕草子』を語ったのよ。

 ただ、幸か不幸か、勝者の中宮彰子の所に『源氏物語』の紫式部が居た。

 歴史ってのは面白いわよねー」

 

 そんな事をいうさくらだが、こいつがユイ・阿羅本先生と同じ立場になったら同じことを言ってやろうと密かに決意する私なのであった。

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