私は休むのが下手   作:北部九州在住

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薔薇園鉄道今昔物語

 五月病を発病した私は、治療のために京成バラ園に行く事に。

 薔薇の香りにリセットされつつも、イマジナリー観音さんの、

 

「鉄道会社は路線の終点近くに色々な行楽施設を作って鉄道に観光目的の償却を誘致する……

 そして、その路線の中間に住宅地を開発し、住人の鉄道利用と不動産の双方で儲けてゆくのだ!

 これが鉄道の本当の商売なのだよ。マリコ君はるか君!」

 

の声でエッセイのネタにするかと思い立ったがいいものの、詳しい話をイマジナリー観音さんにばかり頼るのもよろしくないし……あー。こんなのに詳しい女が九州に一人いたなーという事で、朝倉さくらに電話をかける。

 あいつ、原稿に手をつけず一週間新潟庄内湯治グルメ旅なんぞやりやがって……うらやま……ゲフンゲフン。

 

「もしもし?

 はるかかー。

 ……ふむふむ。鉄道の商売について知りたいと」

 

「うんうん。ぜひ小話を教えていただけたらとおもいまして」

 

「よろしい。

 今度東京に行った際に何かお返しを期待していいのね?」

 

「善処します。ええ……」

 

 そんな感じで始まったさくらの鉄道話。出てきたのは地理と歴史だった。

 

「じゃあ、はるかの行った京成電鉄の話からしましょうか。

 何で京成って名乗っているか知っている?」

 

「たしか、東京の『京』と成田の『成』よね?」

 

「そうそう。はるか。成田には何があったのかなぁ?」

 

「成田空港でしょう?」

 

 どうも予想していた通りの答えを私が言ったらしく、さくらの軽やかな笑い声が受話器越しに届く。

 

「あははっ。京成電鉄の初期にまだ成田空港はできていないわよ。

 正解は成田山新勝寺。

 京成はまず、東京から成田山新勝寺への参拝客を輸送する事を目的として作られたのよ。

 この手の有名な神社仏閣への参拝客輸送を目的として設立されたケースが結構あるのよ。京急なんかもこの手の鉄道がスタートなのよ」

 

「え?

 京急本線沿線にそんな有名な神社仏閣ってあったっけ?」

 

「川崎大師」

 

「あーーーーーーーー!!!」

 

 何かいいようにさくらの話術にハマっている私だが、知るというのはこういう興奮を伴ってくるから楽しい。

 さくらの声も楽しそうなのが伝わる。

 

「スタートの神社仏閣への参拝客輸送が支線になってるケースね」

 

「はえー」

 

「鉄道はとにかく初期費用が高いからね。『金を失う道』なんて揶揄され続けただけの事はあるのよ。

 通勤・通学は都市化と共に進んでゆくから、まずは当時の都市部の人が郊外に行く理由が必要だった。で、その最たるものが神社仏閣へのお参り。

 これもなんだけど、私たちが行く初詣。あれ鉄道会社の集客キャンペーンが元よ」

 

「まじかっっっっっっ!!!」

 

 バレンタインがお菓子会社の陰謀とは知っていたが、初詣も鉄道会社の陰謀だったとは……恐るべし資本主義……

 

「観音さんが言っていた『住人の鉄道利用と不動産の双方で儲けてゆく』ってのをきちんとシステム化して大規模開発をやったのが、日本の鉄道王こと小林一三氏で阪急電鉄の生みの親。

 さて問題。はるか。小林一三氏は阪急の終点に何を作ったでしょうか?」

 

「何って阪急沿線って大阪から神戸とか京都に繋がっているから、多すぎて分からないわよ……」

 

「宝塚歌劇団」

 

「まじかっっっっっっ!!!」

 

 ああ。完全にさくらの手のひらで遊ばれる私。

 しかし、小話で出てくるネームがどれもこれもデカいんだから仕方ない。

 

「そんな宝塚の東京進出に作った会社が東京宝塚劇場。

 これ、略してみて」

 

「ん?頭を取ったら東宝……えええええええええっっっっ!!!」

 

 鉄道事業が鉄道収入と不動産で儲けるのではイマジナリー観音さんのおかげで分かっていたが、日本トップクラスの映画会社にまでつながるとは想定していなかったぞ。私。

 

「日本の近代産業史の中核だからね。鉄道は。

 出てくるネームがでかいのはそのせい。

 だから、政治にもガッツリ絡んでいてねー。もー沼よ沼。

 阪急の小林一三氏は戦前の商工大臣をやっていたりするわ。

 京成の創業者の本多貞次郎氏も千葉県議会議員から衆議院議員を務めていたり」

 

 楽しそうに政経沼で溺れて手招きする女。朝倉さくら。

 これで官能小説デビューを目指そうして悪役令嬢デビューをするのだから世の中本当に分からない。

 

「せっかくだから、更にクイズ。

 京成のバラ園もそうだけど、京成が作った一番の集客施設は何でしょう?」

 

 ん?

 首をかしげる私。たしか遊園地があった覚えがあるが、あれ潰れたんだよな……バラ園の事じゃないとすれば……沿線にあったか?そんなの……???

 

「ごめん。降参」

 

「正解はオリエンタルランド」

 

「ん?どこかで聞いたような……何処だっけ?」

 

「東京ディズニーランドの親会社」

 

「京成走ってないじゃん!!!!!」

 

 もう想定しているだろう突っ込みにさくらが電話向こうで笑い転げるのが聞こえる。

 悔しいが、それ以上にしてやられた感でいっぱいな私。

 

「路線引こうとしたらしいけど、京葉線にもっていかれっちゃったよのねー。

 まぁ、こんな感じで鉄道会社は色々な事業を持っているけど、アクティビストの標的になっている訳」

 

「あ、アクティビスト?」

 

「物言う株主って訳される人たち。

 本業に絞って、副業は売り払って、その売却益を株主に還元しろと。

 日本の鉄道会社の成り立ちを知っていれば、それがどれほど無理を言っているかわるものなのにねー。

 それで追い詰められたのが阪神電鉄で、阪急に助けを求めた結果できたのが阪急・阪神ホールディングス」

 

 沼だ。はっきりと悟る。

 これは間違いなく沼だ。

 顔に浮かぶ脂汗が見えていないのにさくらは、私を沼に誘う。

 

「楽しいわよ♪近代鉄道史。日本の政経の奥の院。

 ハマると戻ってこれないけど、ドラマは無駄にあるからこっちに……」

 

「結構です。じゃあね」

「あっ……ちょっと……!?」

 

 文字数も稼げたので容赦なく電話を切る私。

 あんなのに浸かっていたら、そりゃ、出てくる文章がああなるよなーと納得しつつ私も原稿に戻る事になったのである。

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