深夜ドライブ。
それは、限りなく孤独を愛する旅行であり、己との対話を繰り替えす自己を振り返る旅である。
レンタカー屋で車を借りたのは閉店間際。
最近はカーシェアで借りやすくなっているが、ちゃんと整備されて保険プランもあるレンタカーの方を私は選びたい。
まぁ、独り身で車を持つのは結構もったいないなーと思ったりするが、こういうドライブを思いついた時にすぐできないのが難点である。
家の近くの駐車場に置いて、出発まで原稿を仕上げつつ準備を進める。
この深夜ドライブ、明確な定義なんて人それぞれなのだが、一つの定義を私が提示するとするならば、高速の深夜割引が適用される時間という事にしよう。
つまり、深夜0時から4時までだ。
そんなこんなで出発。東京というか関東はこういう時高速網が整備されているので実に気楽である。
そんな訳で、今回の旅の目的は中央道である。
正式名称は中央自動車道。
東京都から日本の山の中を突っ切って愛知県の方まで行く366.8 kmの道路だが、何もそこまで行くつもりも覚悟もない。
気ままなドライブで、諏訪湖あたりで蕎麦でも食べるか程度の旅である。
都会のビル群を避けるように蠢く車のライトもこの時間になるとだいぶ少なくなっている。
とはいえ、物流は止まっておらず、むしろトラックなどはこれからが本番で、深夜割引とともに高速に続々と入ってゆくのはなかなかの見ものだったりする。
一人深夜に車を走らせ、お気に入りの音楽と共にあてのない旅に出る。
こういうのは独り身でないとできない醍醐味だろう。
そんな私の耳に、今回の旅のきっかけとなった曲が流れてくる。
荒井由実 『中央フリーウェイ』
もはや松任谷由実の方しか知らない人がいる中でも、この曲は多くのカバーが出た名曲の一つである。
このエッセイは文学的なものの薀蓄を少し入れる事をテーマの一つにしているので、文学から見た松任谷由実というものを語ってみようと思う。
文学には散文というジャンルもあり、これは詩・短歌・俳句なんかがカテゴリーされている。
実をいうと車が現代社会に一般化された時代は意外と新しく、車を文学の中に入れている作品はまだ文学という過去に昇華できていない。
いずれ、平成が過去になり、昭和が歴史になった際に、平成文学として何かが出てくるのだろうが、その際に多大な影響を与えたテレビと歌謡曲で彼女の名前は外す事はできない。
そんな彼女の歌は当然素晴らしいのだが、歌詞にこそその神髄がある。
彼女のアルバムは歌詞カードを読むだけでも楽しいのだ。
ただ、私みたいな見方はある意味邪道であり、『サラダ記念日』の俵万智や『君のそばで会おう』の銀色夏生あたりが出てくる人も多いだろう。
この時代は、散文というものが歌としてメディアで流布された時代であり、日本文学史の散文分野において『詩人』松任谷由実はどう定義されるのか興味津々なのだが、きっと私の時代ですら解決する事はないだろうと確信をもっていう事ができる。
堅い話となったが、先輩のエピソードを出してこの話をしめたい。
彼女のアルバムでとにかく売れに売れた一枚が『Delight Slight Light KISS』(東芝EMI)なのだが、こと車でナンパする男たちが安牌よろしく買ってカセットに入れた(そう。まだCDの車載は普及しておらず、カセットだったのだ)ので、ナンパにOKするような女の子の方が先に歌を全部覚えてしまったという笑い話が。
そんなこのCDは当時のテレビ音楽ランキングでほぼ一年中名が残り続けた化け物作品であり、その冒頭曲である『リフレインが叫んでいる』はその冒頭部が延々TVで流れた結果、あの世代に容赦なく刻まれたらしく、イントロクイズをすると最初ピアノで分かるらしい。
車は東京をはなれ山梨の方に。
外套もない場所もちらほらと出てくるが、深夜のドライブの売りは走行車線をずっと走っていられる事にある。
この時間だとせいぜい爆走するトラックぐらいなものなので、彼らも私みたいな車一台をなんなく追い越してゆく。
そんなドライブだが、大体2-3のPAごとに休憩を取るように心がける。
文学作品としての車はまだ出てきていないが、漫画作品として車は多くの作品が出ており、むしろこちらの方が当時の若者に多大な影響を与えたのだろう。
今回のドライブ前に読んでドライブの心得を心に刻んだのが『湾岸ミッドナイトC1ランナー』(楠みちはる ヤンマガKCスペシャル)である。
これも運転についての名言が多いが、大人になって読むと周りの人間たちに惹かれるのだ。
急ぐ旅でもなし、急かす車もない。
ただ一人、エンジン音とお気に入りの音楽だけを共に運転すると自然と心も頭も無に近づいてゆく。
そんな悟りが解ける。
街頭以外漆黒だった景色に色が着く。
朝日が山々を照らし、黒から赤に、そして青に変えてゆく。
この瞬間が私は好きだ。
朝が来るという事は人が動き出す時間なので、私は諏訪湖近くのネットカフェに逃げ込む。
もちろんこのまま帰るのは睡眠不足になるので却下。
諏訪湖温泉についでとばかりに一泊するのだ。
ホテルなり旅館成りのチェックインは最短で15時なので、それまではネットカフェで漫画を読むもよし、そのまま寝るもよし。
最近のネットカフェは個室があるのがありがたい。
その後、昼食は信州そばをしゃれこんで、諏訪湖温泉に一泊。
レンタカーはここでそのメリットを発揮する。
「はい。ありがとうございました」
レンタカー現地返却。
大手レンタカー会社だとこれができるのが強いのだ。
帰りは中央本線の特急『あずさ』で新宿まで行ける訳で。
折角旅館に宿をとったのだから、原稿用紙とペンを片手にこの原稿でも書くとしよう。
なお、銀色夏生は作詞もやっており大澤誉志幸『そして僕は途方に暮れる』がこの人だったのかとこれを書く際に知って驚いている。