あまり具体名を出していないのはその為です。
本棚のとある場所にそれはもう麗しのドレス姿のお嬢様たちが集うエリアがある。
その場所はさながら舞踏会の如し。
そのコーナーの場所は『悪役令嬢』。
世はまさに大悪役令嬢時代である。
美女は当然、美男子もいっぱい。
本屋の一コーナーを使って行われる断罪の宴は、配役を変えつつもかれこれもう数年近くも繰り広げられている。
今日はそんな舞踏会のお話をしようと思う。
悪役令嬢。
元々はゲームにおけるヒロインのライバルキャラとして登場してヒロインを妨害するのが仕事なので悪役令嬢という訳なのだが、実際にゲームではライバルではあるが悪役というかというと疑問符がつくという所。
そんな悪役令嬢に転生したり憑依したりして破滅を回避するのが基本ストーリーである。
Web小説で花開いて今や一大ジャンルとなった悪役令嬢。
そのジャンルについては今後研究がされると思うが、テンプレートというか源流の一つは実は『シンデレラ』ではないかと思っている。
継母と姉から意地悪をされてあたりの悪役周りはこれかな?
その後王子様とくっつく上に悪役の継母と姉はしっかり断罪される訳で。
そんな姉や継母とて幸せになりたいのだろうし、王子様の隣りに立てるのは一人ならば妹とて蹴落とさねばとなれば、恋愛において女という生き物は男よりも容赦がない。
基本、『私、不幸だけど最後幸せになりました。めでたしめでたし』な物語はみんな大好きなのである。
そんな物語、仮に『シンデレラ』を源流にすると17世紀のシャルル・ペローの童話集からだからおよそ400年前、さらにこの物語の源流で確認されるのだとギリシャの歴史家ストラボンが紀元前1世紀に記録した『ロードピス』まで遡るのだからいかにこの物語が愛されたかわかろうというもの。
そんな物語において、どこかの作者が多分ある事に気づいた。
「最後断罪される悪役令嬢かわいそう。あれ?これ主人公と入れ替えても話が成立しない?」
と。
そのときのWeb小説はチート全盛期。
神様転生で転生特典もらって今度こそ幸せになるならば、地位も財産もある悪役令嬢って最適じゃね?
まあ正確な裏とりはしていないが当たらずとも遠からずの所だろう。
かくして、転生特典の一つとして地位も財産もある悪役令嬢は世に出る事になる。
おまけに前世知識持ちのチートもあるから、その強さは正しくweb小説の系譜に連なるのだろう。
なお、悪役令嬢ものについて私はこれを前期後期に分類しているのだが、前期悪役令嬢と後期悪役令嬢の差は敗北の時間にある。
前期悪役令嬢ものは、敗北が物語のクライマックスに発生するのに対して、後期悪役令嬢もの(私は『ざまぁ』ものと呼んでいた)は物語冒頭に敗北する事になる。
もう少し詳しく説明すると、前期悪役令嬢は物語としては最後に負ける。
つまり起承転結で言う所の『転』部分にあたり『どう敗北を回避するか?』が物語の根幹となる。
一方で、後期悪役令嬢ものは最初に負ける。
冒頭で山場を作る事で、物語の自由度を格段に高めているのだが、それは同時に終わりの作り方が難しいという事を意味する。
折角なので今回私が書いた大正浪漫悪役令嬢ものを例に出そう。
ある程度現実世界とリンクさせると読者側が舞台を把握しやすいというメリットがあるが、同時に現実にある程度縛られるというデメリットがある。
大正時代。
何がまずいのかというと、日本史世界史ともに回避しないとまずいどでかいイベントがいくつもあるのだ。
大正3 (1914) 年 第一次世界大戦勃発
大正6 (1917) 年 10月革命。ソ連成立
大正7 (1918) 年 第一次世界大戦終結
大正12 (1923) 年 関東大震災
当たり前だが、お嬢様がこういうパーティーに出る以上はある程度の年齢は必要な訳で。
めんどうなので1900年生まれの18歳。つまり大正7年にそのパーティーがあるならば、このお嬢様は日清戦争と日露戦争の間に生まれて第一次大戦の成金たちの波に乗ったぐらいな背景が作れる訳で、さらに両親はともかく祖父は幕末勝ち組で乗り越える必要が……ええい資料は何処に行った……
で、これをさらにずらすと待っている超特大フラグがある。
みんなご存じてすよね。
昭和16 (1941) 年 太平洋戦争勃発
うん。これだと物語の後で悪役令嬢も主人公も王子様もみんな破滅しない?
かくしてただ悪役令嬢を書くだけなのにひたすら歴史を追いかけ、下手すれば仮想戦記よろしく改変する羽目になる。
何でも、平成を舞台にした悪役令嬢の一人は、バブル崩壊から9.11経由のリーマンショックという何故その時代を選んだというリアルパイセンのジェットストリームアタックを回避する為に小学生なのに北海道の都市銀行を買うという暴挙に出て、悪役令嬢購読者層からかけ離れた30代後半から40代男子の支持をがっちりつかんだ経済仮想小説に成り果てているとか。
なお、その作者曰く「最後は恋愛になる予定」とほざいているらしいのだが……
閑話休題。
大正時代というのはそういう意味で、舞台の前後がものすごく大事になる。
なお、令嬢といえば舞踏会であり、そういうおあつらえ向きの場所も史実にあったりする。
鹿鳴館。
明治維新によって開国した明治政府が欧化政策の一環として国賓や外交官を接待したこの館こそ悪役令嬢にふさわしい舞台だろう。
まぁ「欧米に媚びを売るとは何事ぞ!」と総スカンを食らって失敗に終わるのだが、このツケは1941年の12月8日に容赦なく支払うことに。
ふんわりヨーロッパ風は便利だなぁ。ほんと……