科学者ですが、何か? 作:(`・ω・´)
ポティマスとの連名で発表した論文は凄まじい勢いで広まり、そしてあちこちで議論を引き起こした。MAエネルギーの存在とその抽出方法、電力への変換手段。更にはポティマスの目的に一歩踏み込んだ、MAエネルギーによる人体の変異まで。どこの国だってエネルギー資源の確保は頭痛の種だ。それがどこでも大量に手に入るのなら、当然食指が動く。しかしそれ以上に人々の────特に権力者の目を惹いたのは、人体の変異に関して記された一文だった。
────また寿命に関しては、三倍の理論値が見込まれる。
これが余人の名で発表されたものであれば、狂人の戯言として切って捨てることも出来た。しかし、ポティマス・ハァイフェナスという名はこと生命科学という枠組において絶対的と言い切って良い重みを持つ。それまで荒唐無稽、或いは不可能とされてきたものを可能に塗り替えてきた真性の天才。その実績と膨大なデータに裏打ちされた今回の発表内容は、人類にとって劇薬に等しかった。
肯定派、否定派、穏健派、過激派。 各々の勢力は互いに牽制し合いながら議論を重ね、同時に裏で血腥い暗闘を繰り広げる。それを横目に、私とポティマスはより深く潜る準備を進めていった。吸血鬼に手を付けていた時点で既に龍に目をつけられているとはいえ、今回の件は龍も重い腰を上げるだろう。いずれは龍が出張ってくるだろうというのが共通見解で、そうなればまず間違いなく身柄を拘束されてしまう。自由に研究が行えないのは双方にとって死活問題であるので、デコイを用意してさっさと逃げてしまおうという魂胆だ。ポティマスが身代わり用のクローンの製造、私が脳波の受信機と発信機の開発を受け持った。発信機は髪留めに偽装し、受信機は脳髄に仕込む事を前提として設計した。きちんと使うにはマルチタスクが必須という欠陥があるが、私とポティマスにおいては全く問題ないので無視する。ついでにもしもの時の証拠隠滅用の爆弾でも用意した方がいいだろうか。クローンの腹にでも仕込んでおくとしよう。
用意が整った傍からクローン組と本体組に分かれて活動を開始する。クローン組はそれまで使っていた施設に留まり、本体組は新たに構えた拠点でクローン組とは念入りに繋がりを絶った物資を使って当面の研究を進めることにした。クローン組は兎も角、本体組は接触を最低限に抑えて別行動を取っている。情報交換はクローンを通せばいいし、大規模な研究はクローン組の方で捕まった後に国を巻き込んで行う方が効率がいい。更に言えばポティマスは生命科学、私は機械工学と専門分野も違う。手が出せないわけではないにせよ、相手の専門分野では自身が一歩劣るというのは自覚の上であったので、時折技術共有を図る程度で充分だろうと判断した訳である。
いずれ龍は人類を咎めるだろう。直接的な武力行使に出るのが何時になるのかは不明だが、『知識』から鑑みてもそう遠い未来ではない。他がどうなろうと興味などないが、こちらにまで被害が波及するのは御免被る。だが、しかし。人類と龍が争い、サリエルがその争いに介入し始めたならば、その時こそがまさしく腕の見せ所だ。龍の骸。大いに好奇心を擽られる代物といってよい。来たるその時の為に、世界各国に盛大に恩を売りつけておかねばならない。
ああ、何と忙しい事だろうか。しかし未来のことを思えば、この忙しなさすら愛おしい。丁寧に、丁寧に。織物を折るが如く、伏線を張り巡らせていく。軸となる縦糸は『知識』を含む各種情報。そこに絡める横糸は各国政府への支援であったり、地下組織の掌握であったりした。横糸しか見ていない者にはまるで何がしたいのか分かるまい。ある程度の縦糸も見えているポティマスとて、最終的に描いている構図までは見る術がない。ともあれ、これより先の混沌と、その中から得られるであろう研究材料と実践の機会が待ち遠しい。その思いは私とポティマス、双方に共通した想いであろう。
あとは待つだけだ。MAエネルギーという、あまりに大きすぎる火種が大火に膨れ上がるまで。世の中が荒れれば荒れる程、私やポティマスの才覚を必要とせざるを得なくなる。そうなれば研究がやりやすい。実験材料の調達だって楽になるだろう。開発した兵器の実戦運用が出来て、しかもその相手が上位龍を中心とした龍だなんて、なんと贅沢な事だろうか。破綻の日が待ち遠しい。さあ燃えろ、盛大に!