黒歴史小説 冬の蝉   作:味噌村 幸太郎

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「うわぁ~、スゴイ雨だ。まいったなこりゃ、一ノ瀬君、もう来てるかな?」

 由香は大雨の中、遊園地に到着した。

 

「やっぱり天気予報見て良かった。ヘヘヘッ、折りたたみ傘をもっているのだ」

 傘を開き、入口付近を見渡す。雨は一向に止まず、歩く度に水たまりの中に入ってしまう。

「もう、嫌な雨……しかし、一ノ瀬氏はまだ来ていないらしいのう」

 雨に愚痴をこぼす由香だったが一ノ瀬とのデートに胸を高鳴らせていた。

(一ノ瀬君、まだかな。今日はちと可愛い服に挑戦したけど、派手だったかな?)

 

 普段は着ないような、かなり短いスカートにGジャン、中のTシャツも大胆に胸元までカットされた露出度の高い物を選んだ。

 クールな彼がこれを見てどんなリアクションをするかとても楽しみなのだ。

 由香の顔に自然とえくぼができる。

 

「う~ん、遅いな~」

 かれこれ、十分は待った。だが、守の姿は一向に現れない。真面目な守には珍しい出来事である。

 由香はもう一度、入口付近を見渡した。

 

「あれ?」

 今まで気がつかなかったが目の前の大きな木を囲む円形のベンチにずぶ濡れの男が一人ポツンと、うつむいたまま座っている。

 由香は恐る恐る尋ねた。

 

「あのもしかして……一ノ瀬君ですか?」

 男は前髪から雫を落としながら顔を上げた。

「い、一ノ瀬君!」

 傘を持って守に駆け寄る。

 

「一ノ瀬君、こんな所で傘も差さないで何してるの? ずぶ濡れじゃない。風邪ひいちゃうよ」

 由香が心配そうに傘を差し出した。しかし、守はそれを拒んだ。

「ど、どうしたの。一ノ瀬君……」

 由香はそっと彼の顔を覗きこむとビクッと背中を震わせた。守の目は狼のような鋭い目つきになっていた。とても冷たく重くそして険しい表情をしている。

 

「品田……」

 守は重い口調で初めて言葉を発した。

「え、なに?」

「終わりにしよう……」

 

「ど、どういうこと?」

「俺にとってお前は邪魔な存在だ……」

「え、わけわかんないよ……なに、どうして?」

 由香の目から涙がこぼれる。それと同時に声が震え始めた。

 それを無表情で守は見つめている。

 

「こういうことは今回限りにしてくれ……」

「どうして……私ってそんなにうるさい? そんなに重荷だった?」

 由香は守の顔を見つめられなくなり、両手で顔を覆って背中を小刻みに震わせる。

「……一ノ瀬君、私のこと……嫌い?」

 守は何も言わず、頷いてみせた。

 それを見た由香は耐えきれなくなり、傘を捨てて走り去っていった。

 

 

 守は由香の落としていった傘を拾い、丁寧に折りたたみ、抱え込むように大雨から守った。

「これでいい……これであいつに刃が向けられることはないんだ……これで……」

 雨が流れるように頬にも涙が流れた。あのイレギュラー村の時と同じ、これで二度目だ。自分で自分の体を引き裂いたようにつらい……。

 でも、これで彼女が助かるのならば、品田由香に危険が迫らぬというのならば良かったんだ。

 なのに、なぜ、こんなにも悲しいのだろう。

「それは人間……だから……クッ……クックククク……ハハハハッハハハ!」

 誰もいない遊園地の前で一ノ瀬 守は涙を流しながら笑い続けた。

 

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