本を開く者   作:あああああ

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覚悟する者

 私は今、とってもバカなことをしていると思う。

 

 とりあえず言っておくが、私は転生者である。

 よく二次創作で見かけるオリ主だと思っても構わない。

 

 生まれ落ちたのは、ジュラの森に隠れ住む黒耳族(ダークエルフ)の集落。

 科学の“か”の字もない、森の恵みと共存する自然に溢れた集落で、現代人だった私からすれば森での生活は苦難を極めた。

 しかし、慣れというのは怖いもので、最初は抵抗のあった得体の知れない果物も時が経つにつれいつのまにか生で食べられるようになってしまっていた。

 集落で異質だった私も、だんだんとだが仲間に認められていき、楽しさすら感じることがあった。

 

 だけど、そんな日常はもう戻ってこない。

 豚頭族(オーク)の軍勢によって蹂躙された私達は、どこかも知れぬ地方に散ってしまった。

 運よく私はリムル様――――――――ジュラ・テンペスト連邦国の盟主に拾われ、九死に一生を得たが仲間の所在は未だに分かっていない。

 行く当てもなかった私は、リムル様の元で働くことになった。

 “本屋”という仕事を与えられ、家族がいないことに僅かな寂しさを感じつつも、テンペストの皆さんに支えてもらい精一杯仕事を頑張っていたつもりである。

 

 そして、私の心の中にはいつしか“恩返しがしたい”という思いが芽生えていた。

 

 今、生きていられること自体が、決して当たり前ではない。

 死ぬなんてのは、もう御免だ。

 だけど、それ以上に仲間が傷つくのはもう嫌だった。

 

 

 私は、だから剣を握りしめる。

 

「へっ、そんなへっぴり腰で俺を殺るつもりかあ?」

 

 うるさい、黙れ。

 私は剣を持つのが初めてなんだ。

 いつも握っていたのはペンだったから。

 

 怖かっただろうと、戦いとはかけ離れた役職をくださったリムル様は優しいお方だ。

 人というかスライムなのだが、そんなものは些細なこと。

 何といわれようと、優しい優しいリムル様は私にとって尊敬に値する人物なのだ。

 

 そんな、優しいリムル様が、仲間が傷つく姿を見たらどうなるのだろう。

 考えただけでゾッとする。

 きっと、リムル様は怒るだろうな。なんで逃げなかったって。

 でも、私は、私達はリムル様の国を守る義務があるんだ。

 

 一生を捧げても、それでも有り余る恩が、テンペストという国を形作っているのだと私は思う。

 

 

 私は、私らしく必ず恩返しをする。

 それが今だというだけで、時に限った話ではないのだ。

 

 震える身体を根性で動かし、口端を上げて私は応える。

 

「つもりじゃないんですよ……殺すんですよ、異世界人」

 

「ぎゃははは!聞いたかキョウヤ、こんなチビが俺を殺すだってよ!立ってるだけで精一杯ってのによお!」

 

「あらあら、それは可哀そうだね。僕達が異世界人であることを知っているのに力量を見誤るなんて」

 

 何がおかしかったのか、下品な声を上げる男を私は冷たい目で識別する。

 タグチとキョウヤ、その後ろにいる女はキラリだったか?

 たぶんだが、全員日本人だろう。顔筋でなんとなくだが分かる。

 

 だが、同郷の者だと分かっても私の殺意は鈍るどころか、むしろその硬度を増した。

 なぜ無垢な民を殺すのか理解できない。日本に生まれておきながら、何が彼らを狂気に陥れたのか。

 

「……一つ、質問させてください」

 

「あ?んだよ」

 

「彼らを、無垢なる民を殺して、何か思うことはありますか?」

 

 その問いにきょとんとした後、彼はすぐさま愉悦を顔に貼りつけた。

 ああ、ダメだ。

 

「知らねえよ、魔物だから殺す!それが異世界ファンタジーの常識だろうが!」

 

 彼の言葉を聞き終わる前に私は走りだしていた。

 怒りが脳を支配する。

 身体が悲鳴を上げる。

 限界を超えた一撃を、私は男に叩き込もうとして―――――――――

 

 

 

 そこで、視界が途切れた。

 

 

 


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