東方転心録~少女無表情~   作:ミユメ

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其之1「仏顔で無表情で無言な彼女は」

 

 

 

 幻想郷――そこは、忘れ去られた者達が住む幻想の郷。妖怪はもちろんのこと、人間、獣、物などがある。

 これらは外の世界で消えていく物、忘れ去られた物が幻想郷に入る事を幻想入りと言う。

 この世界の管理者は妖怪の賢者である「八雲 紫」だ。彼女は神にも匹敵するほどの実力者。故に絶対者とも言えよう。

 

 そんな幻想郷の人が住む人里に、ある少女が歩いていた。

 薄紫がかった腰までのロングヘアに同じく薄紫の瞳。

 服装は青のチェック柄の上着に長いバルーンスカート。上着には胸元に桃色のリボン、前面に赤の星、黄の丸、緑の三角、紫のバツのボタンが付いている。

 スカートを囲む顔のような模様は穴になっており、よく見ると足が覗いている。また靴には左右で違う色のリボンが付いていた。

 彼女が目指す場所、そこは甘味処。

 何の用で入って行ったのか…いや、店からして何か甘いものが食べたくなったのであろう。

 彼女は適当なところで座ると、店員であろう男性が彼女に近付いて注文を聞いてくる。

 

「みたらし団子」

 

 注文表など見ずに即答した。相当この店には着ているのであろうと伺える。

 定員はそれだけを聞いてカウンターへ戻って行く。

 

「お待たせ致しやした」

 

 するとどうであろう。かなりすぐ男性は戻ってきて串に白くて丸い団子を三つ刺してあり、それに薄い茶色くて少しドロッとしているタレを付けたみたらし団子が三つある皿が彼女のテーブル前に置かれ、男性は去っていく。

 その流れを見てから、彼女は一本の串を持ってじっくり鑑賞もしずに口に入れて食べる。

 

「……………」

 

 ただただ無言で食べていく。おいしいともしょっぱいとも、ましてや不味いとも言わずにただ無言で食べる。

 周りに客は居らず。ただ静かに部屋にクチャクチャと彼女の口で食べる団子の音だけが鳴る。

 その姿はまるで孤独な姫。だが彼女の場合は、あるものが欠けていた。

 それは…

 

「………………」

 

 無表情だと言う事だ。彼女は最初からずっと、表情を全く変えずに此処まで来ている。

 表情の変え方が分からないのか、それとも彼女は機械で出来ている者なのか…はたまた心がないのか。

 そうしているうちに、彼女はみたらし団子を全て食べ終わっていた。

 皿を持って立ち上がり、男性が居る所へ向かってそのカウンター前に皿を置く。

 

「いつも通り、値引きして200円を150円にしておくよ」

「ありがとう」

 

 何と、男性は値引きをしてくれた。余程彼女は常連客なのであろうか?

 その言葉に対し、彼女はありがとうとお礼を言う。無論、言うまでもないが此処でも無表情なのである。

 お金をスカートのポケットから出し、男性に手渡す。

 

「はい、毎度。また今度もいらっしゃい」

 

 男性は笑顔でそう言う。

 彼女はコクリと頷いてその言葉を了承したかのようにした。言わなくとももう分かると思うが、此処でも無表情である。

 そうして彼女は甘味処から出る。いつも通りな感じな流れであった。

 これが彼女の日常なのであろうか?

 そもそも、彼女は心がないのかそれとも…

 とてもそこが気になるところであろう。

 心が無い。もしくは機械の少女かも知れない。

 それは彼女の心を覗かなければ分からない事だ。

 

 では覗いてみたらどうなっているのか?

 

 それが一番の方法であろう。

 しかし、答えは我等のそんな心が無いなどの考えを覆し、とても想像など出来ない心が見えたのである。

 

 

 

 

 

 

 はい? 心が無い? 機械少女??

 何言ってるの? あるに決まってるじゃん。馬鹿じゃないの? 死ぬの? 死にたいの?

 あ、ごめん。もうそんな考えを抱いている時点で馬鹿だもんね。ごめんね?

 私は今までの段階を見て、一言ガツンと心の中で言いながら人里を歩いて行く。

 それにしても、本当に毎回みたらし団子美味し過ぎてワロチ。しかも無意識に何回も行ってたら店員が

 

「うちの一番の常連さんだから今度から値引きしてやるよ!」

 

 とか言われた日には「マジか」って思ってめっちゃ嬉しかった。

 いやぁ、常連客って良いよね! ほんとに色々得過ぎる。

 そして次は何処に行こう? 毎回の事なんだけど、甘味処に行った後って行く所毎日がロシアンルーレットの如くランダムである。

 あれだ。人生ゲームだ。

 や、まあもう全員人生ゲームしているようなもんだと思うけどもさ…うん。

 いやまずだ。そんな話などしている場合ではない。

 急いでもいないが、時は金なりって言うじゃない?

 だから急ぐ。無意識に急ぐ。

 

「おや、君は」

「?」

 

 意味も無く急いでいると、後ろから女性の声がする。

 私はその声が気になり、後ろを振り返る。

 

「…慧音」

「覚えていてくれて良かったよ」

 

 きもけー…じゃなくて慧音が居た。

 

 上白沢 慧音(かみしらさわ けいね)

 人間の里で寺子屋を開いている。 教師であり、ワーハクタクと呼ばれる半獣人。

 容姿は、腰まで届こうかというまで長い青のメッシュが入った銀髪。頭には頂に赤いリボンをつけ、六面体と三角錐の間に板を挟んだような形の青い帽子を乗せている。

 衣服は胸元が大きく開き、上下が一体になっている青い服。袖は短く白。

 襟は半円をいくつか組み合わせ、それを白が縁取っている。胸元に赤いリボンをつけている。

 下半身のスカート部分には幾重にも重なった白のレースがついている。長い

 

そんな慧音が目の前に居る。

 

「今日もあそこの甘味処で食べてきてたのか」

 

 私はその言葉に無言で頷く。

 だってあそこ美味しいんだもん。行くなとか言われても無理矢理でも行く。死神が来る日まで来たらその死神ぶっ飛ばしてでも行く。

 それほど好きなのだ。

 

「ふむ、それでこの後の予定とかはあるか?」

 

 その質問に対し、無言で今度は顔を振って「無い」と言わずに示す。

 

「では今から少し私の寺子屋にでも来ないか? この後授業なんだが。ちょっとして貰いたい事がある」

 

 ダニィ!?

 して貰いたい事か…うーん、まあ別に良いんだけどね。その頼みの内容が何か怖い気もする。

 いや、まあ慧音がそんな怖いこと頼む訳が無いと思うけどもさ。

 最も、予定などないから最初から構わないんだけど。

 

「行く」

 

 ただ一言、短く無表情でそう言うと、私の正反対で慧音は喜ぶ。

 

「そうかそうか。では今から行こう」

 

 そうして慧音は前へ出て歩き出す。

 私はその後ろから付いて行くのであった。

 

 

 

 

 

 寺子屋まで着き、慧音は先に中へと入って行った。

 私は入らず、扉前で突っ立っている。

 

「あと十分くらいで子供達は来るよ。秦、そこで子供達を出迎えてくれないか」

 

 ………え?

 え、は? 私に出迎えを任せると来たか慧音よ。

 こんな無表情でポーカーフェイスな私に、子供達に「いらっしゃい」とか「おはよう」とか言わないと駄目なのか。

 考えてもみて欲しい。私は常に無表情。そんな仏様のような顔で「おはよう」何か言われたらインパクトって言うか怖さが抜群だ。

 ましてや相手は子供。

 

 絶対に泣く!!

 

 何故確信出来るかと言うと、前にそんな経験があるからだ。

 人里を何の目的もなく歩いていると、親と手を繋いでいる子供が私に挨拶をしてきた。その返答に無表情で答えると、あろう事か急に泣き出してきた。

 おかげでその隣に居た親に酷い顔をされた。

 うん、ごめんね。この顔がデフォルトなんだ…

 毎回何とか表情をつ作ろうと努力をするものの、これが全く出来ない。笑う事は愚か、困っている顔も、嬉しい顔も、怒る顔さえも出来やしない。

 ゆういつ出来るのは、表情を緩めない無愛想な仏顔。つまりは無表情だ。

 っと、そこでこちらに歩み寄る一人の子供が居た。

 あ、やべ。どうしよう。

 そう考えていると、その子供は私の目の前で止まって白い歯を出して笑う。

 

「お姉ちゃんおはよう!!」

 

 懇親の一撃の如く、大きく元気な声で言ってくる子供である。

 私はどうしようか一瞬迷い、眼が少し泳ぐ。

 そして結論が出る。

 そうだ、お面を出して対話すれば良いじゃないか。何で私はそんな事に気付かなかったのか。取り敢えずは試す価値があるであろう。

 右手から光輝く青い妖力を出し、それを圧縮させて一つのお面を作り出し、それを顔に近付ける。

 それは…

 

「近こう寄れ!」

「………」

 

 …あ、間違えて怒りの「般若(はんにゃ)」出しちゃった。

 ご、ごめん! 間違えた!!

 あれは簡単なミスなんです! ほんの出来心とかそんなんじゃなく事故なんです!!

 そもそも事故よりも私の脳が馬鹿なの、本当にごめん!!!

 私は無言の子供を見ながら脳内で何度も謝りつつ般若のお面を消して再度お面を作って顔に当てる。

 

「ごめん……」

 

 出したお面は哀の「姥」

 先程とはまったく音調が違う弱々しい感じで子供に誤る。

 何を隠そう、実は私はお面を変えると口調が変わる。

 だが仏顔の無表情は変わらずだ。

 まあそこは仕方なかろう。何をしても無表情なのだから。表情作れたらどれだけ楽か…いや、嬉しい事か。

 

「あははっ! お姉ちゃん面白い!」

 

 子供が言う。それもまた笑ってだ。

 この子供は変わっているのであろうか。私が怖く無かったのであろうか。あんな般若の顔でめっちゃ渋い声で言われて…

 

「ありがとう」

 

 またお面を作り、今度は喜びの「福の神」を顔に当てる。

 

「うん! またねお姉ちゃん!」

 

 そうして子供は寺子屋へと入って行った。

 …あれ、初めて泣かない子に会った。やっぱしあの子供がおかしいのかな。

 ずっと顔に当てていたお面を徐々にと顔から離していって考え出す。

 

「おはよう!」

「!?」

 

 考え始めて数秒も経っていないのにまた子供の声が聞こえ、お面を驚き顔「大飛出」に変えて顔に当てながらその子供の方に顔を向ける。

 そうして見た後、また「福の神」のお面にする。

 

「おはよう」

 

 ただそれだけを言うと、その子供はそれ以上何も言わずに寺子屋に入っていく。

 正直な話。

 

 お面を変えるのめんどい!

 

 だからいつもあれなんだよね。

 仏顔の無愛想で無表情な顔。ポーカーフェイス。

 いちいちこんな表情を表す為だけに妖力を使ってお面を出すのが話にならない。だからって相手が泣いたりとか嫌われるのはあまり好きではない。

 

 つまり詰んでいる。

 

 どうにかしてこの状況を抜け出したいものだ…だからって無表情しか出来ない私にどうしろと。

 くそ! めっちゃ詰んでる!!

 私はそんな事を心の中で叫び、無表情で無言のまま突っ立っていたのである。

 

 

 

~5分後~

 

 

 

「お疲れ様、どうだったかな」

「…………」

 

 慧音よ、私は今とても哀しいぞ。

 まさか慧音がこんな超労働なことを頼んでくるだなんて何ぞや。私の心を抉りたいのか。

 子供が泣くかどうかひやひやと心配しながら出迎えて居たんだ。

 それがどれだけ私にとっては恐ろしい事か、最早トラウマが出来るとかそんなのでは済まない。

 結構真面目な話で生きるのが辛くなります。まじで辛くなる。

 

「その様子じゃ、ひやひやしてたそうだね」

 

 なん、だと…!?

 コイツ、二ユータイプか!!?

 何で私の気持ちが分かった。無表情なんだぞ?

 慧音が賢いとかそんなのは知っている。だからってなんだ、相手の感情を読み取れるとか、よもや賢いとかそんなのでは収まらない。覚妖怪じゃないか。

 何だ。あれですか、転生したのか覚妖怪に。

 もしそうだったらこの心の中の声が聞かれているのが恥ずかしくて死ねる。

 私でも分かっているさ。無表情なのに心の中では似ても似つかない程に煩くて有頂天になっている事くらい。

 だが仕方なかろう。これが私なのだ。これこそが私なのだ。ギャップの違いがあるだろうが、それでも良いじゃないか。

 そもそもなのだが、私は転生者だ。好きでこうなっている訳ではない。表情を変えれるのであれば変えるさ。

 しかし変えれないのだから仕方ないじゃん!? どうやって変えるんだよ!!

 っと、話がだいぶ逸れた。

 まあ最初に戻して、慧音はニュータイプでした。以上。

 

「あれ、何してるの慧音」

 

 そこに、また人が増えようとしていた。

 隣から歩いてくる長い白髪の少女。藤原 妹紅(ふじわらの もこう)。

 その妹紅がこちらに歩み寄っていた。

 

「妹紅か、どうした?」

「いや、ちょっと人里を歩いていただけだよ。それより久々だね秦」

「そうね」

 

 妹紅の言葉に、私は一言で即答する。

 妹紅とは、昔に会った事がある。確か、三年前だったかな。

 …うん。まあ妖怪が三年如きで久々とかは言えないんだけどね。妖怪は長生きだ。だから時間感覚がいまいち掴めない。

 この世界に転生して100年が経っている。もうめちゃくちゃとは言わないが

 感覚ががががががががが…

 っと言えるくらいまで行ってしまった。

 だから久々と言う言葉に一瞬戸惑ったが、それでも即答した。我ながら矛盾していると思うが、気にしたら負けかなって。

 

「おっと、すまない。これから授業だから私は失礼させて貰うよ。また」

「おう、またなー」

「また」

 

 慧音はそう言い、静かに扉を閉めた。

 残されたのは、ポーカーフェイスの私と不老不死の妹紅。私が何気ない気持ちで妹紅を見ると、それに気付いたのか妹紅も私を見る。

 

「どうする?何かするか?」

 

 気を使っているのであろうか、妹紅が私に聞いてくる。

 何かか…何故か分からないが、しりとりがしたくなった。今思えばしりとりとかもう全然してない。

 いや、やらなくても良いけどもさ。

 うーむ、何かあるか…

 取り敢えず無言かつ無表情で妹紅を見ながら考える。

 

「…あぁ、ごめん。余計なお世話だったね。じゃあ私はこれで失礼させて貰うよ」

「あ…」

 

 何を勘違いされたのか、妹紅はそれだけを言い捨てて背を向け、人里の反対側…迷いの竹林へと向かって行った。

 私は小さく、本当に小さな声で声が漏れる。

 …やっちまった。あれは完全に邪魔者だと相手が勘違いされたぞ。

 無表情でジッと見られてたらそりゃそうだろうと思う。それは分かっている。

 だからって私にどうしろって言うんだ!

 好きでこんな仏顔の無表情をしている訳でもない。だからってお面を出すのもめんどい。

 そりゃ一番の解決策としてはお面を出す事であろう。

 

 だがめんどい。

 

 何でいちいち妖力使わせるんだ。止めてほしい…とてもめんどい。

 

「………」

 

 と、取り敢えずだ。どうするこれ。私だけが取り残されてしまった。

 結構、この状況泣きたい…

 

「……妹紅、追おう」

 

 ふと、そう思った。

 勘違いはあまりされたくもないし好きでもない。だから誤りに行かなければなるまい。うん、そうだね。

 私は静かに足を動かし、前に進む。

 任務・迷いの竹林に向かい。妹紅に謝る。

 よっしゃ、クリア目指しますか。

 

 そうして、仏顔の無愛想で無表情な顔をしたまま、転生者の彼女、秦 こころは進んで行った。

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