集められたのは、幾多のメンバーをまとめあげる、ボンドマスターたち。
彼らは皆それぞれの信念を持って、組織の長としての使命を果たしている。
そんな彼らの、生き残りをかけた戦いが、今始まる。
「マスターだってだけで、連れてこられても……。」
「非戦闘員なんですけど。」
そう泣き言をいう人もいるが
「面白いなら、なんでもいいや。」
「狙うなら1番!」
と、やる気満々の人もいる。
「さて、どういう作戦で行くかな……。」
事前に渡された書類に目を落としながら、【シルフィード】のマスター・クローバーは呟いた。
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【ルール】
1.マスター全員で、最後の1人になるまで決闘をする。
2.死亡し、教会送りになった時点で失格。
3.マップは神へ続く道のみ。
4.職、装備、スキルは自由だが、途中で転職はできない。
5.他の人と協力可。
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難しい話は書いていない。実にシンプル且つ、わかりやすいルールだ。その分自由度も高い。だからこそ、予想が付きにくいし、戦略も立てづらそうだった。
クローバーの後ろで、【morning*】のマスター・エルハは不安そうにキョロキョロと辺りを見回し、様子を伺う。誰か協力できる人は居ないかと探ってみたのだが、誰とも目が合わない。そもそも元から、マスターのフレンドが多い方ではないのだ。
マスターはボンドの顔である。ボンドがある程度大きくなれば、そのマスターの顔も自然と売れる。そうすると、お互いをうっすら認識するようになるのだ。そういう顔見知り程度の知り合いは多い。
でも、実際に戦闘を共にしたことがあったり、よくお喋りしたり、そういう交流をする『フレンド』という人は、多くて4-5人、普通は2-3人程度なのだ。
この戦場で共に協力する仲間。それは顔見知り程度ではとてもじゃないが務まらない。お互いを信頼できるだけの絆がなければ到底無理であろう。
「まぁ、でも……最後は戦わなきゃいけないから……。」
エルハはそう言って、暗いため息をついた。
そう、勝者は残った1人のみである。いくら協力し合っても、最後には戦いが待っている。
エルハは、共に戦った友を裏切る勇気も持てないし、裏切られる絶望に、心が耐えられる気もしなかった。
「(それならずっと1人で……。)」
そう覚悟を決めると、エルハは輝く羽根が舞うエフェクトのついた杖・サントプリエΩを力強く握り、前を向いた。
「では、各自散会でー。ゲーム開始は15分後、太鼓の音で合図します。転職等は、それまでに済ませておいてくださいね。」
ゲームの運営委員の1人である【W.o.F】のメンバー・あつが、マスターたちに大声で呼びかけるが、返事をする者は僅かだ。皆一様に集中し、あれこれ準備をしている。既にゲームは始まっているようなものだった。
「さーて、お先に失礼しますよ。」
クローバーはそういうと、赤いしっぽ髪をなびかせながら走り出す。まだ職も装備も整えていなかったが、大勢が見ているここよりも、1人になってから変えた方が、戦略的に有利になる気がした。
クローバーを筆頭に、参加者たちがポツリポツリと散会していく。ただ1人、【君の物語】のマスター・パーンを除いては……。
「いいんですか?始まっちゃいますよ?」
少し離れたところから、あつが呼びかける。
スタート地点、神へ続く道公国側の出入り口近くで、仁王立ちする、全身を籠で覆った不可解な人物が、パーンであった。その見た目から『俵さん』と呼ばれることが多く、今ではそっちの方が通り名になっている。
パーンは返事をせず、籠の中で目を瞑り、その時を待っていた。
「まぁ、いいか……。」
あつはそう言うと、他の運営委員に合図を送る。
太鼓のエモーションをした運営委員の1人がドーンッと和太鼓を打ち鳴らす。それに呼応するように、神へ続く道の各場所で、運営委員がそれぞれ太鼓を鳴り響かせた。
ゲームスタートだ。
ひとしきり、太鼓が鳴り終わった辺りで、仁王立ちしていたパーンが動いた。
「おうおうおうおう!!何処ぞの誰かは知らんが雁首揃えてなんやオラァ!!!!!」
エリア中に響き渡るような大声で、パーンが叫ぶ。
スタート地点からそう遠くない草むらに身を隠していたクローバーはぎょっとし、慌ててその様子を伺う。
パーンは身を隠すどころか、大声で「臆病者」だとか「正々堂々勝負しろ」だとか、クローバーには理解できない意味不明な言動を繰り返していた。
「(とんでもねぇやつがいるな……。)」
そう思いながら、クローバーは武器を手に取ると警戒を強めた。様々な方向から、パーンに視線が集まっているのを感じる。
「ワイに勝てるとおもアイエエエエエ!!!!!!」
突如、クローバーがいる場所の隣の茂みから、炎の光線が、パーンに向けて照射された。それを合図に四方八方からありとあらゆる火属性の攻撃が連続で放たれる。
花火が弾けるような光量の中で、様々な形の炎が上がり、その中心でパーンが「あー!」や「ぎゃー!」と叫んでいた。
一通り攻撃し終わると、最初に手を出した茂みの影は、ふっと息をつき、すぐその場を離脱する。他の攻撃者たちも、続々と移動を始めているようだった。潜伏位置がバレてしまったからには、そこに留まり続けるのはリスクでしかない。このままこの場にいる全員で乱戦状態に持っていくのもありだが、どうやらその気がある者はいないようだ。他の参加者が攻撃してくる前に、逃げるのが得策と判断したのであろう。
「あーあー、ご立派なフラグ立てちゃって。」
そう言って、黒焦げのパーンの前に姿を現したのは【フレアージュ】のマスター・ソラだった。
ソラはブルーアッシュの髪を気だるそうにかきあげると、腰からオウスウェルドΩを抜き、パーンに突きつける。
「あぁん?!?!?」
地面に大の字に寝そべったまま、パーンがソラに食ってかかる。
あれだけの攻撃を受けておきながら、まだ息があることに、クローバーは驚いていたが、ソラは顔色1つ変えない。それどころか、水色と灰色のオッドアイは余裕に満ちて、微笑んでいるようにも見えた。
「こーいう展開で、1番最初にギャーギャー騒ぐとか、死亡フラグでしかないだろ?」
「なんやなんや!偉そうに!これでもくらえぇえ!」
パーンはそう言うと、最後の力を振り絞ってスモッグボールをソラに投げつける。黒いモヤモヤした汚染物質がソラの顔の前で炸裂し、酷い匂いを撒き散らした。
「くっ!」
思わぬ不意打ちに顔をしかめながらも、ソラは剣を振り下ろし、パーンに最期のトドメをさす。
パーンは
「はーはっはっはっ!!」
と高笑いを残し、光の粒となって教会へ送られた。
「まったくっ!」
ソラは顔の前で手を振り、パーンの残り香のような嫌な匂いを散らす。その瞬間、足元に赤い何かが飛び込んできた。
「(やばい。)」
そう思った時にはもう遅かった。ソラの隙を見逃さなかったクローバーは、下から上に向かってフロストライズを放つ。ソラはそれを受け身も取れずにまともにくらってしまった。
腹から胸にかけて、凍りついた刃が鎧に深くくい込み、僅かに肌を傷つける。その痛みにソラは
「うっ……。」
と呻きながら、バランスを崩し後ろに倒れるように仰け反った。
神聖騎士であるソラの防御は、他の職よりはるかに高いが、今はパーンが放ったスモッグボールの効果で、物理防御力が著しく低下させられている。
赤いしっぽ髪をふわりと舞わせながら、クローバーはハイドブレードを力強くソラの胸に叩きつけた。ここに飛び込む前にナイトウォーカーでバフを付けてあったので、2連撃となったそれは、少なくないダメージを彼に与える。
「(一気に決める!)」
クローバーはナイフを握った両手に、一層力を込めた。
クローバーが選んだ暗殺者という職は、2次職なので、上位である3次職のソラと比べると、攻撃面も防御面も大きく性能が劣る。ただ、速さと手数の多さだけは、どの職をも凌ぐものだった。
クローバーの動きは速すぎて、赤い風のようだ。このような不意打ちからでは、残像を追うのも厳しい。ソラは咄嗟に盾を構えることすらできなかった。
「ごめんね、ソラさん。」
ソラの後ろに回り込んだクローバーが、彼の耳元で優しく囁く。どこか面白がるようなその声に、ソラは敗北を意識した。
クローバーが左手に握る短剣・グレイブアッシャーΩが鈍く煌めく。
兇手の短剣の追加効果は攻撃回数プラス1回。たかが1回だが、されど1回。今のソラの残りHPを削り切るには、十分すぎるものだった。
剣と飢餓を持つ者。最期の一撃に、クローバーがグリムリーパーを放とうと、地面を蹴った瞬間、どこからともなく現れた、淡い光のカーテンがソラを包んだ。その様子に、クローバーは目を見張る。回復魔法のプシュケーだ。誰かがソラを支援している。
「くっそ。」
クローバーは小さく毒づくと、地面を蹴った勢いのまま、ソラをスルーして駆け出す。撤退判断だ。
「あれー?軍曹、行っちゃうの?」
クローバーは自分の身長とほぼ同じくらいの段差を飛び降りながら、声の主の方をチラリと一瞬振り返る。クローバーのことを、軍曹というあだ名で呼ぶのは、ただ1人しかいない。【franchement】のマスター・ぽちだ。小さな岩山の上に立っていたぽちは、群青色のドレッドヘアーを風になびかせ、黒縁メガネの奥で赤と水色のオッドアイをイタズラっぽく細めながら、クローバーを見下ろしていた。
「裏切り者!」
クローバーはそう吐き捨てるように言いながら、猫のようなしなやかさで地面に着地し、掲示板がある方に向かって走り出す。
ぽちがメインに持っていた杖は、ウーシアロッド=Aのカオス覚醒。杖の中心には優しい風を想起させるライトグリーンの石があり、覚醒によって禍々しい黒い光が放たれてる。それは攻撃向きの杖だが、風属性の魔法スキルを多く持つ、支援職の聖者とも相性が良い。
さっきソラを支援したのは、おそらく彼である。それがクローバーの見解だった。
「なんのこと?」
とぼけ顔で首を傾げるぽちに
「シルフィードのボンメンのくせに!」
と、クローバーが怒鳴り返す。
ボンドは複数加入が可能で、長であるマスターにも、もちろんその権限がある。なので、あるボンドのマスターをやっている人が、他のボンドのメンバーだったというのは、よくあることなのだ。
ぽちは【franchement】のマスターでありながら、【シルフィード】のメンバーでもあった。そしてクローバーもまた、【シルフィード】のマスターをしながら、いくつかのボンドにメンバーとして所属していた経歴がある。
ぽちに対して、言いたいことは山積みだったが、クローバーは逃げることを優先して、とにかくその場を離れるように走り出す。相手の隙を狙ったとはいえ、少々目立ちすぎてしまった。長く居れば、パーンのように、他の参加者の的になりかねない。幸い、暗殺者は足が速い職だ。逃走にはうってつけであった。
あっという間に見えなくなっていくクローバーの背中を見送りながら、ソラは深いため息をついた。完全に油断していた自分が不甲斐ない。
「大丈夫?」
岩山から飛び降りてきたぽちがソラに声をかけた。
「あぁ……うん……。」
この展開に若干戸惑っていたソラは曖昧な返事をする。普段ぽちとの仲は悪くは無い。一緒に周回したり、冗談を言い合ったりすることもある、良き友人の1人ではあるが、こうやって一方的に助けてもらう程の仲かと聞かれると、少し自信がない。
「軍曹か、ソラさんかなら、ソラさんの方が強いかなって。」
辺りをキョロキョロと警戒しながら、ぽちが言う。
「俺の盾になってよ。」
そう言って、にっこり笑うぽちに、ソラは困ったように眉を下げる。どうやら面倒なやつに、とんでもない恩を売られてしまったようだ。
「あー、しくったな。」
パーンなんか放っておけばよかったと、今更ながら後悔する。
「断ってもいいけどね。」
ぽちはそう言いながら「どうする?」というように首を傾げたが、自信満々に微笑む口元は、断られるとは1ミリも思っていないように見えた。
ソラは忌々しそうに唇を結びながら、少し考える。
今ここで、ぽちと戦ったとして、勝てないわけではない。耐久面でも攻撃面でも、タイマンであればソラの方が上だ。ただ、無傷では勝てないし、最悪とんでもない泥試合になる可能性があった。そんなことをしている間に、他の参加者が割り込んできたら?
クローバーの不意打ちに、何一つ抵抗出来なかったソラは、苦い顔をする。
それに、ぽちをここで倒したとしても、今すぐ何か利があるわけではない。裏切られるリスクを先に切り捨てるだけで、その分リターンは入らない。
この誰がどこに居て、何をしてくるか一切分からない戦場で、協力者がいるということは、大いな強みになる。そのリターンを手に入れるには、このふざけているのか真面目なのかわからない、どこか飄々とした男と手を組む他はなかった。
「わかった。少しの間協力しよう。」
渋々といった声色で、ソラが返事をする。
「えー、なんか嫌そうー。俺めっちゃ勇気出して助けたんだよ?もっと感謝して!」
「はいはい、どーも。」
妙に絡んでくるぽちに、ソラは面倒そうなため息をついた。
【あとがき】
1話目を書いてるときは、まだ全体公開するつもりが無かったので、とりあえず自分を活躍させました←
自分をかっこよく書けるのは作者の特権です( '-' )
パーンさんはTwitterで言ってた通り、登場と同時に燃えてもらいました。セリフや演出もご本人のご希望通りです。
ソラさんは圧倒的主人公枠。正統派。
ぽちさんは飄々としてて、のらりくらり。人の後ろに隠れて攻撃してくる←