ボンマスバトルロイヤル   作:cloverlight

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第2話

「いやいやいやいや……無理無理無理!!」

神へ続く道、丸岩周辺入口近くで、【MyStyle】マスター・葵は、ブロンドの髪を掻き乱しながらブツブツと繰り返しネガティブな感情を吐き出していた。

「こんな弱小ボンドのマスターが!!勝ち残れるわけない!!」

【MyStyle】は中級者が集まるゆるふわボンドだと、マスターの葵は思っていた。AW制作や、ウーシア用の魔貨幣集めなどをみんなでワイワイやっていて、新人ばかりの弱小というわけではないが、攻略バリバリ、周回どんどんというわけでもない。上位ボンドに比べると、どうしても見劣りしてしまう、そんな中途半端な立ち位置のボンドだ。

「とりあえず隠れてるけど!見つかったらどうしよう!逃げる?でも、逃げ切れるわけないじゃん?」

葵は岩陰にしゃがみ込みながら、地面を見つめ絶望的な声を出す。

「あああああ!!どーしよー!!」

「あのー?」

急に声をかけられた葵は、あまりの驚きに一瞬石のように固まってしまう。

「大丈夫ですか?」

葵は顔を驚愕に歪めたまま、ゆっくり声のする方を見上げた。声の主は【W.o.F】マスター・キラ。ライラック色の髪をふわふわさせながら、心配するような優しい目で、葵を見下ろしている。

「あんまり大きな声を出すと、みんなに見つかってしまいますよ。」

葵の独り言は、かなりの声量だったので、少し離れた場所にいたキラの元に、一言一句全て届いていた。最初は無視しよう思っていたキラだが、内容的には隠れて居たいようなのに、声量的には全く隠密になっていないギャップが気になってしまい、つい、声をかけてしまったのだ。

「お、終わった……。」

「え?」

葵の言葉に首を傾げるキラ。

「びえーーー!!殺さないでくださああい!見逃してえええ!うわああんん!!」

葵は突然地面に身を丸めるように土下座し、キラに命乞いをし始める。

「え?!えっ!ちょ、ちょっと?!」

「お願いですううう!私なんかくっそ弱雑魚マスターなんですうぅう!殺しても何の得にもなりませええん!」

戸惑うキラに、葵は泣き言を重ねる。

【W.o.F】と言えば、超級周回やダーシャ討伐に加え、現状最上位のコンテンツ、イデア武器制作をポンポンとやっているボンドだ。【MyStyle】とは天と地の差がある上級者集団で、それを率いるマスターのキラはとんでもない化け物というのが、葵のイメージだった。

「ちょっと、落ち着いてください!私はあなたをどうにかする気はないですよ?」

キラは葵を安心させようと、両手を上げて攻撃する意思がないことを示しつつ、目線を合わせるように地面に膝をついた。

「大丈夫、怖くないですよ。顔を上げてください。」

まるで怯える子うさぎをあやすように、キラは葵の肩に優しく触れた。恐る恐る顔をあげた葵に、キラは

「ね?」

っと微笑みかける。

「(かっわいい!!)」

一瞬見蕩れてしまいそうになった葵は、慌ててかぶりを振ると、キラの深紅の瞳を見つめ返した。線の細い優しげな女性で、腰には葵があまり見慣れない拳用の武器を差している。

「大丈夫ですか?かなり緊張されてるようですけど……。」

「だ、大丈夫じゃないです……。」

葵はそう言ってうなだれると、岩陰に隠れるように体育座りをした。キラもそれに倣い、葵の隣に腰を下ろす。

「マスターとして、ボンメンたちが楽しめるよう色々やってるんですけど、大手には叶わないし……」

あれこれ企画や周回を計画し、何とか引っ張っていっても、ある程度成長したメンバーは、自分の元では手に余ってしまう。葵自身が教えられることは、それほど多くなく、手助けできることの限界も早いのだ。

そして、もっと上を目指したいメンバーは、掛け持ちになり、それこそ【W.o.F】のような大手のボンドで周回をするようになる。

「昔のカープですよ……大事に育成した新人を阪神に取られるような感じです……。うちはいつまで経っても弱小で、私自身もさっぱり強くなれない。」

葵は泣きそうになるのを、歯を食いしばって我慢した。

「私はここで膝抱えて、カッコ悪く命乞いして、結局負けて、教会送りになるのがお似合いなんですよ……。」

自分は、大手のボンドに橋渡しするステップアップのための踏み台である。そんな卑屈な思いが、葵の心を蝕んでいた。

「うーん、カープの件はよくわかりませんが……。」

キラは少しだけ苦笑いをすると、励ますように葵の肩に手を置く。

「私はマスターなんですけど、最前線でバリバリ周回してるわけじゃないんです。そういうのは私よりもメンバーの方が得意です。あつとか、ともちんとか。」

物静かそうな雰囲気のキラは、その見た目通りどこか控えめで、目立つタイプではない。

「私にできるのは、毎日メンバーとデイリーダンジョンに行くくらいです。それに比べれば、葵さんは色々やっててすごいと思います。」

最初から大手になれるボンドはない。全ては小さな積み重ねがあって、そこに人が集う。キラ活と称して、マスターのキラがメンバーのためにやってきたことは、メンバーの心に確かに残っているはずだ。

キラの言葉に、葵は少しだけ顔をあげる。

「私たち、マスターができることって、ほんとに少ないんですよ。頑張っても頑張っても、相手が応えてくれるとは限らない。」

それは至極当然のことなのだ。

ボンドとは善意の組織である。そこに集うメンバーは規約上、何の制約も受けない。ボンドで何らかの恩恵受けたとしても、それを返す義務はない。

それはマスターも同じで、人を集めて組織を作って、何もせず放ったらかしにしても、それを咎める規約はない。

それでも、わざわざ責任を負おうとする酔狂な輩がいて、そういう人にこそ人が集う。

「応えてくれなくても、やるしかないんです。そうしないと、人が集まりませんから。」

「つらくないですか?」

ほんの少しだけ悲しげに笑うキラに、葵が言う。

「つらいときもあります。でも、私にはちゃんと支えてくれるメンバーがいますから。葵さんにもきっと居るはずです。」

そう言われた葵は、【MyStyle】のメンバーたちに思いを馳せる。マスターの自分をからかって楽しんだり、いじってボンチャの肥やしにしたり、中々酷い扱いを受けているが、それも彼らの優しさだ。ボンドを楽しい場所にしようと、協力してくれている。みんな気の置けない仲間だ。

葵は滲む涙を腕で乱暴に払う、そして

「まだ、ちゃんとした答えはわかりません。」

と言いながらも、立ち上がった。

「でも、ここでメソメソしたまま倒されるのは嫌になりました。」

きっと【MyStyle】のメンバーなら、そんな葵を笑いつつ、「頑張った」「よくやった」と励ましてくれるだろう。でもだからといって、ここで「何もできない」と膝を抱えていていい理由にはならない。

自分がマスターとしてやっていることは、他のマスターたちだってきっとやっているのだ。

大手だとか、中小だとかは関係ない。マスター同士なら、土俵は同じである。

葵は気合いを入れるように、自分の両頬を叩いた。

「頑張ります!」

やる気になった葵を見て、キラはほっとする。元気がない人を見ると、放っておけない質なのだ。

「キラさん!」

「は、はぃい?」

葵の大声で呼びかけに、キラはビクッと身構えた。

「ほんっとにありがとうございました!!」

鼓膜がビリビリするような声量で、葵はキラに最敬礼する。

「あ、葵さん!ちょ、ちょっと声がおお……き……きゃぁ!!」

キラが立ち上がって、葵をなだめようとした瞬間、突如地面が盛り上がり、鋭い岩が突き出てきた。ジュピターフォール、12星導士専用のスキルだ。

「くっ……。」

葵は咄嗟にキラを突き飛ばすと、攻撃の範囲外に押し出した。

「葵さん!」

キラは体勢を崩し、ゴロゴロと地面を転がりながらも受け身を取り、腰からヘスティアナックル=Iを抜き構える。

「いてて……。」

何事もなかったように元に戻った地面の上に、葵は膝を付きながらも立ち上がった。まともに食らってしまったがダメージは思ったより少ない。逃げ回ることばかり考えていた葵は、装備を攻撃に振らず、防御に全振りしていたのだ。

「やっと見つけた。」

そう言って、2人の前に姿を現したのは【iLL*】のマスター・LUNA*だ。

「ずっと誰にも会えないから、もうみんな居なくなっちゃったのかと思った。」

LUNA*は桜色のロングヘアーを指にクルクルと巻き付けながら、晴れ渡る空のような水色の目を細め、不敵に笑った。

「あわわああああ……。」

【iLL*】は女王ダーシャを初討伐したボンドであり、いつの時代も攻略のトップを走り続けている先駆者集団だ。葵はあまりの畏れ多さに、震えが止まらなくなっていた。

「(どうしよう……。)」

キラは葵の様子をチラリと伺いながら、LUNA*と対峙する。

LUNA*が持っている杖は、イデアロッド=トモスF。現時点でそれを所持できるプレイヤーはごく一部、限られた精鋭のみが手に入れられる最強武器である。

「(勝算は……?)」

リングオブサターン。木星の輪を思わせる土属性のリングが、クロスするように葵とキラを容赦なく引き裂く。

「くっ…….。」

「いたああい!」

勝算など、考えている暇はなかった。キラは五門連環を使い、門印を貯め始める。

 

【挿絵表示】

 

まずは序段・崩吼で物防魔防をダウンさせようと、LUNA*に突っ込んでいく。

「おっと♪」

LUNA*は杖を斜めに構えると、キラの攻撃を受け止める。キンっと金属が擦れ合う音と共に、火花が散った。

「キラさん!」

葵はプロテクションを使い、キラを支援する。長く押し合いする気はなかったキラはバックステップで1度距離を取ると、次の攻撃をしようと再び拳を構えた。

そこに

「こっち向け!」

 

【挿絵表示】

 

とフォアフロントを唱えた葵が割り込み、ヘイトを奪う。続けてアイギスでダメージカットのバフをつける。

 

【挿絵表示】

 

「ふんふん♪ふんふん♪はーをむきだしてー♪」

LUNA*はそんな2人を気にすることなく、呑気に鼻歌まで歌っていた。

マーキュリーショット。

 

【挿絵表示】

 

大きな水の塊が、葵目掛けて飛んでくる。

「うわっ!ゴホッゴホッ……」

水量に溺れそうになりながらも葵は倒れないように何とか足を踏ん張った。

「こっちもですよ!」

葵に目が向いている間に、キラがその影から飛び上がり、破段・踏鳴でLUNA*の脳天目掛けて足を振り下ろす。

「じゃまくさいね♪」

キラの攻撃は再び杖の柄で防がれてしまう。ビリビリとした振動が足から全身に伝わってくる。

「(固くて踏み抜けないっ……!)」

弾かれるように押し返されたキラは、体勢を崩しながらも、ヒラリと宙返りをし、華麗に地面に着地した。

「ふんふん♪ふんふん♪はーをつきだしてー♪」

LUNA*は次の詠唱に入る。12星導士最強の火属性魔法、サン。詠唱後に自身にスタンがついて、数秒間動けなくなるスキルだ。ソロでの戦闘において、その数秒間は致命的である。それでも今ここでそれを使うということは、動けなくなっても問題ないからだ。

この一撃で、決めてしまえばいい。

全身に魔力がみなぎる感覚に、LUNA*は気分を高揚させる。葵が再びプロテクションで物理、魔法防御力を上げているのが見えたが、全く問題ない。それを上回る火力で、押し切ってしまえばいいだけだ。

なぜ戦うのか?それはシンプルに楽しいからだ。戦闘において、LUNA*はどこまでも自由だった。仲間とともに手に入れた、最強武器。これがあれば、自分はなんだってできる。LUNA*はそんな万能感を戦闘の中で感じていた。

キャストタイムが終わり、全てを焼き尽くす、主たる灼熱の星が放たれる。スキルの効果で体が硬直していく感覚にLUNA*は少しだけ頭をクラっとさせ、

「ふふ♪」

と鼻歌交じりに笑みをこぼす。悪くない感覚だった。

一方、葵は、頬に触れる熱風を前に立ち尽くす。

「(あぁ、きっとこれは耐えられない……。)」

どこか冷静な頭で、そう思った。でも、怖くはないし、諦めもない。むしろ、叫び出したいほど、悔しいと感じていた。

「葵さん!」

最後の最後まで、他人を案ずるキラ。何とか葵の元に駆け寄ろうとするが、LUNA*の装備してる疾走のピアスの効果で、サンの攻撃は1回、2回と連続で続く。それに耐えきれず、キラは葵より先に光の粒となって教会に送られてしまった。

「キラさん!ごめんなさい!教会で会いましょう!」

そう叫び返したが、間に合ったのかわからない。その後まもなく、キラに続いて葵も暗闇へと意識を手放した。

「ゆーあーきんぐ♪」

残ったのは、ご機嫌に鼻歌を歌い終えるLUNA*だけだった。

 

 

深淵の中で、葵は溺れるようにもがく。上へ上へ、光のその先へ。

「ぷはぁっ!」

「あ、おかえりなさーい。」

 

【挿絵表示】

 

教会で失格者を管理している運営委員の【フランボワズ】メンバー・謎の少女が、葵に声をかける。

連邦の教会へと帰還した葵は、突然の覚醒に頭が追いつかず、肩で息をした。そうして無理やり酸素を脳に送り込むと、少しずつ自分の輪郭がはっきりしてくる。

「あぁ……。」

そして思い出す。

「負けたんだ。」

敗北を。

「大丈夫ですか?」

先に帰還していたキラが、心配そうに葵の顔を覗き込んできた。

「キラさん!」

「は、はぃい?」

葵の大声に、キラは再び身構える。

「申し訳ございませんでした!!」

また鼓膜がビリビリするような声量をだす葵に、キラはおかしくなって、思わず微笑んだ。

「私のせいで、見つかってしまって……!」

「葵さんのせいじゃないですよ。」

「手も足も出なくて……。」

「それは私もです。」

「悔しいです……。」

「私も……そうですね……。悔しいです。」

ほんの少しの沈黙のあと、2人は顔を見合わせて、苦笑いをする。

LUNA*は恐ろしく強かった。でも、その圧倒的な強さを前に、怯えて降伏する気にはなれそうにもない。

「強くなりたいです!」

「はい、私もです!」

2人はそう言い合うと、握った拳を突き合わせて、照れくさそうに笑った。




【あとがき】
2話目も公開予定がないまま書いたので、かなり自由。
「メインボンドとして選ばれるコンテンツ提供」に関するマスターの葛藤を書いてみました。
アルストというゲームのメインコンテンツがボス周回であるから、そこが強みのボンドに、メンバーが流れるのは自然なこと。それでも、あれこれ努力していれば、たとえ弱小でも、応えてくれるメンバーはきっと居ると思っています。
いつも支えてくれるボンメンに感謝ですm(_ _)m

許可取りで初めてDMする人ばかりでめちゃくちゃビクビクしてました:(っ'ヮ'c):
快くご承諾していただき、本当にありがとうございます!

葵さんは声が大きすぎて隠れたくても隠れられない←
キラさんは慈愛の女神。優しくて芯が強い。
LUNA*さんは強い、超強い(語彙力皆無)
LUNA*さんが歌っている鼻歌はこちら→https://youtu.be/cm-l2h6GB8Q
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