ボンマスバトルロイヤル   作:cloverlight

3 / 10
第3話

キラ、葵とLUNA*の激闘を崖の上から覗き見ていた【マルちーZoo】のマスター・はるばーは

「うーん……2人でもきついかぁ……。」

と独り言を漏らす。

不意打ちの先制攻撃であったこと、回復役が居なかったことなどを加味すれば、キラと葵の敗北は仕方ないことなのかもしれない。

しかし、その有利な状況を差し引いたとしても、LUNA*は強い。それは、装備の差だけの問題ではなかった。彼女はとにかく、戦闘に迷いが無いのだ。

戦うことに少しでも迷いがあると、それはすぐさま判断の遅れに繋がる。対人戦において、それは致命的な欠陥になりうるものなのだ。1秒の思考の遅れが、取り返しのつかない状況を招くことはざらにある。

覚悟を持って戦闘に挑めば、自分のやるべきことは最初から明確だ。それだけで、迷いがある人より数十倍有利になる。

キラや葵には、戦闘開始直後に少し迷いが見えた。それはほんの一瞬の躊躇いだったが、最終的にそれが大きな敗因になってしまったのだ。

「さて、どうするかなぁー。」

はるばーは、辺りをキョロキョロと警戒しながら、LUNA*が歩いて行った道とは反対方向になる道を下っていく。

自分ならどうするか、はるばーはシミュレーションを繰り返す。

魔物との戦闘にはルールが存在する。彼らは一定のパターンで動いているので、それを解明さえすれば、あとは予定調和だ。パターンの枝分かれはあっても、全てはルールの範囲内のことである。

一方、対人戦は、相手がどう出るか全くの不明のシナリオがない戦闘だ。人間の思考は複雑で、一定の規律があるものではないし、感情に左右される分安定しない。

しかしながら、ある程度のセオリーというものは存在しているのも確かだ。

基本的に、スキルは印やバフをつけることで、大ダメージが出せる。つまり火力を出すためには、スキルをきちんと順序良く使わなければならないのだ。その法則を知っていれば、相手がどんなスキルを使ってくるのかは、大方予想できる。だが、その予想の範疇に収まらないのが、対人戦の厄介なところだった。

「冷静に、冷静に。」

そう自分に言い聞かせながら、道を下って行くと、浜辺に出る。入江のようになっているそこは、隠れる場所もなく、開けているがさほど広くはない。

「いや……?冷静に……?」

美しく広がる海と空と、銀色の砂浜。そこに現れた、1匹と1串。

シミュレーションなど無駄だ。現実はいつでも想定外を持ってくる。はるばーはそう諦めにも似た感情に襲われながら、目の前の光景に戸惑い、思考を停止させてしまうのだった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

【フランボワズ】マスター・ルフナと、【戮力協心】マスター・飛沫の睨み合いは、ゲーム開始まもなくから続いていた。

ルフナはピンクと白の大きく丸っこい鳥の様な姿で、飛沫は顔のついた三色団子の姿だ。1匹と1串が睨み合う光景は、なんともシュールで違和感が強い。

もちろん2人のこの姿は、装備を駆使して作られた見た目である。俵姿のパーン同様、中にはちゃんと普通の人間がいて、要は着ぐるみみたいなものだ。

雪だるまの頭装備は、お互い見つめあってるように見えるが、実際はどこに目線があるのか不明なので、本当のところはわからない。

「……。」

「……。」

お互い動かず、無言のまま、それなりの時間が過ぎていた。

最初はただ驚いただけだった。振り返ったら、リアルのサイズに比べると、かなり巨大な三色団子がこちらに向かって歩いてきていて、ルフナは呆気に取られて止まってしまった。

一方、飛沫は、不意打ちを狙って後ろからルフナを追っていたのだが、見つかってしまい、どうしようかと考えているうちに止まってしまったのだ。

なんとなく親近感のある姿の2人は、そのままぼーっと時が過ぎるのに身を任せていた。特に意味のない沈黙が続いたが、不思議と緊張感はなかった。むしろ、散漫としていて、眠くなるような空気が漂っている。

お互いなんとなく

「「(このまま、知らない間にゲームが終わってればいいなぁ。)」」

と、うっすら感じていた。

そこに出くわしたのが、はるばーだ。

はるばーは砂浜で見つめあう鳥と団子にびっくりしてしまい、戸惑い足を止めた。

誰かが乱入してきた気配に、ルフナも飛沫も気が付き、ゆっくりはるばーの方を向く。

「うっ、うわー!?!!」

はるばーは急いで杖を構えて、2人に向ける。それに反応したルフナと飛沫も、それぞれ杖を取り出す。

はるばーがミーティアを唱えている途中で、先に詠唱の終わったルフナが、インシネレイションを放つ。それは、ゲーム開始直後、パーンに食らわせた魔法と一緒のものだった。

 

【挿絵表示】

 

灼熱の熱線がはるばーに向かってまっすぐ飛んでくる。さらにその後ろから、飛沫の放ったウィンドチャリオットの風の歯車が追いかけて来るのが見えた。

「(しくった。)」

ミーティアのキャストタイムは5.5秒、詠唱中はその場から動くことができない。12星導士は火力が高い職業だが、その分詠唱が長く隙も多いのだ。それを理解しているルフナと飛沫は、敢えてキャストの短い軽めのスキルを使い、先制攻撃に成功した。

炎と風を同時に受け、はるばーは耐えきれず膝をつく。シミュレーションした作戦は、既に崩壊していた。

「思えばこのメンバー、みんなボンドの創設者じゃないマスターだね。」

「はへ?」

急に鳥がしゃべったので、はるばーは呆気に取られ、間抜けな声をだしてしまう。

「そうだねー。みんな代替わりマスターだ。」

「しゃべれるの……?」

鳥に続き、団子もしゃべりだしたので、はるばーの戸惑いは深くなる。

「そりゃ、中身は普通の人だからね。」

「ピピッ!って鳴けば良かったかな?」

どこか面白がるように、団子の姿の飛沫と、鳥の姿のルフナが言う。

ボンドマスターの代替わりは、珍しいことではない。ボンドの創設者であるマスターが、様々な理由でマスターを続けられなくなることは、割とよくあることなのだ。そういうときは、ボンドを継続させていくために、マスター権限をサブマスターやメンバーに讓渡し、代替わりをする。ここにいるマスターは、それぞれ理由は違えど、3人ともそのような代替わりを経てマスターになった者たちだった。

次の詠唱に入った2人を見て、はるばーは慌てて杖を構え直す。

「親近感湧いちゃうなー。」

飛沫はそう言いながら、ワール・オブ・ミゼリーをルフナに向けて放つ。

「お互い、色々大変だよねー。」

ルフナは飛沫の魔法を受け止めながら、ミーティアを唱えて自身のダメージ上限を上げる。

 

【挿絵表示】

 

「なら、ここは穏便に行きませんか?」

はるばーが唱えたリングオブサターンは、ルフナ、飛沫、両者を引き裂くが、土印がついていないので、さほどダメージは与えられなかった。

「それとこれとは別。」

「勝負だから。」

「まぁ、そうですよね。」

誰かからマスターを引き継ぐなど、完全に貧乏くじなのだ。

元々マスターを交代する必要があるくらいになると、ボンドの組織力はかなり弱っていることが多い。

さらに、基本的にメンバーはみな、先代のマスターの元に集った者たちである。その土壌を丸々受け取ったとしても、先代と自分は違う人間で、どう頑張っても、これまでと全く同じにすることはできない。

マスターが変わればボンドが変わる。その変化は止めようがなく、それについていけないメンバーはどんどん離れて行ってしまう。

まさに泣きっ面に蜂。

そんなボロボロの状態から、何とかもがいて建て直しを図るのが、代替わりしたマスターの最初の仕事である。

ボンドの創設は0からの出発であるが、代替わりは100から60になったのを、また100に戻す作業だ。0はそれ以上下がりはしないが、60は50になったり、10になったりするかもしれない。

元あるものを守りながら、上を目指すというのは、とても難しいことなのだ。

でも、3人は頑張ってそれを乗り越えて、今もマスターを続けている。逃げ出さず、投げ出さず、そこに集うメンバーのために。

「ほんと、苦労するよ。」

「色々言われるけど、僕たち十分頑張ってるよね。」

「もっと褒められてもいいと思う。」

ルフナがアクエリアスを、飛沫がアーダーストームを唱える。

 

【挿絵表示】

 

はるばーも、サジタリウスで応戦するが、間に合いそうにない。勝負は1番最初、2人を見つけて、戸惑ってしまった時についていた。あれくらいのことで動揺する自分は、まだまだ未熟なマスターだ。それでも、最後まで諦める訳にはいかない。

大量の水が、嵐のように吹き荒れる風に乗って、はるばーを押しつぶす。

「くっ……。」

何が正しいのかは、今でもわからない。迷って、落ち込んで、それでも立ち上がってやってきた。

戸惑って立ち止まっている間に、指の隙間からポロポロとこぼれ落ちていく希望と人望。メンバーを守り抜くためには、手探りでも動いて突き進むしかなかった。

正解なんてわからないし、決断の結果がどうなるのか予想もできない。空回って、文句言われて、泣きそうになっても、組織のために先の見えない決断を幾重にも重ねた。

「間違ってたのかな。」

ゆっくりと体勢を崩しながら倒れゆくはるばーは、弱々しくそう呟きながらも、なんとかサジタリウスをキャストする。

 

【挿絵表示】

 

地響きとともに天を貫く射手座の矢が地面から突き出て、ルフナと飛沫に襲いかかった。

「正解なんてないよ。」

攻撃をまともに食らってしまったルフナが、地面にペタリとなりながら言う。

「全ては時の運!!」

飛沫はプシュケーで自身を回復し、はるばーの攻撃を耐え抜く。

 

【挿絵表示】

 

はるばーはガクッと両膝をつくと、崩れ落ちるように砂浜に倒れ込んだ。少し生ぬるい砂の感触が頬を撫でる。

「(正解はない……時の運……。)」

先輩マスター2人に励まされても、これでいいかと思えない自分がいた。

「必要なのは一瞬の判断力と決断力!」

自分はそれを持っているだろうか?否、まだ持っていないから、こうして負けてしまうのだ。悔しくなったはるばーは拳を握り砂を掴むが、大した意味はなかった。

急速に薄れゆく意識の中で、飛沫の声が遠ざかっていく。

「まぁ、どんなマスターでも間違う時は、間違う。」

光の粒となって教会へと送られるはるばーを見守りながら、飛沫が呟く。

「間違っても、やり直せばいいだけ。」

飛沫に続いて、ルフナが独り言のようにこぼす。

地面にへたりこんだルフナは溶けた餅というか、柔らかそうなすあまの様な姿だ。そんなルフナに向かって、飛沫がフラッシュを放つ。

「ぴーーー!酷い!!」

鳴き(泣き)声をあげるルフナに、飛沫はイタズラっぽい笑みをこぼす。

「死んでもやり直せるのが、冒険者の良いところじゃん。」

ボンドも、何度だってやり直せる。そこに集まる人がいる限りは、何度でも。

飛沫の魔法がルフナに着弾する。ルフナは

「ぴぃーーー!」

と恨み言の様な声を残し、教会へと送られた。

それを見送った飛沫は、深いため息をつく。さすがに少し疲れていた。だが、休むことは出来ない。

「ほんとに、全ては時の運だよ。」

そう呟くが、それを届けたいはるばーはもうここにはいなかった。飛沫は1度着ぐるみの中で天を仰ぐと、現れた2つの影に向き直る。

「1人に減るまで待ってた?」

相手の返事を待たずに、飛沫はウィンドチャリオットを放つ。

「ちょっと出遅れただけさ。」

はるばーが出てきた、丘の上へと続く道から現れたソラは、盾でそれを受け止めると、払うように弾き返した。

「主役は遅れて来るもんでしょ?ね?ソラさん!」

「ちょっと何言ってるかわからない。」

ソラの後ろから顔を出したぽちは、ソラの返事に肩をすくめると、魔法の詠唱を始める。

「(逃げるか?)」

飛沫は2人とは反対方向のアルス家の裏へと続く道をチラリと見るが、逃げ切るには距離が遠すぎる気がした。

一瞬躊躇いを見せた飛沫に、今度はぽちのウィンドチャリオットが飛んでくる。飛沫は何とか身をかわして、直撃を避けたが、それなりのダメージは受けてしまう。

「素早い団子だなぁ。」

ぽちがおかしそうに笑いながら呟いた。

ぽちに続いて、ソラが動く。弾丸のように、一直線にこちらに向かって来るソラに、飛沫は焦りを覚えたが、どうすることもできない。

ソラのシュヴァリックブレード。飛び上がって上から振り下ろされる斬撃を、飛沫は杖を構えて受け止める。

「(重い……!)」

何とか弾き返したところに、ぽちのワール・オブ・ミザリーが滑り込む。

「2人は無理!!」

全身に走る痛みに、飛沫が悲痛な声をあげる。

判断力だとか、決断力だとか、そんなものは結局小手先の話でしかない。圧倒的不利な状況の前で、それは無力に等しいものなのだ。

最悪な状況にしないためには、最良の選択をしていくしかない。しかし、それは結局、ただの保険である。無駄ではないが、良い未来を保証するものではない。突発的な事故というのもは、どんなに気をつけていても、起きてしまうものなのだ。

飛沫の今の状況は、まさにそういう事故のようなもので、現状、対処のしようがない。

倒れ込んだ飛沫に、ソラがオウスウェルドΩの切っ先を向ける。

「あー、ほんともう最悪。」

団子の中で大の字に寝転びながら、飛沫が悪態をついた。もう抵抗する気にもなれない。

ソラが剣を構え、振りかぶったその瞬間、後ろから

「ぎゃっ!」

と短い悲鳴が上がった。思わず手を止め振り返ったソラと、乱入者の目が合う。

「横入り失礼。」

クローバーが、ぽちにハイドブレードを食らわせていた。

ソラがクローバーに気を取られている隙に、飛沫は立ち上がり、回復魔法を唱えようとする。だが、ソラの判断は早かった。剣を構え直すと、飛沫に向かってリバーサルレイドを放つ。

「(まずは1人確実に。)」

巨大な団子は、光の粒となって消えていった。

「酷いなぁ……もう…….!」

不意打ちをまともに食らったぽちは、痛みに呻き顔を抑えながら、子供が不貞腐れた様な声を出す。

「軍曹……?」

顔をあげたそこに、クローバーの姿はもうない。ぽちに一撃を食らわせたクローバーは、その勢いのまま、ぽちたちが下ってきた丘の上へと続く道をかけ登って行くところだった。

「また逃げるのー?」

不満そうな声を出すぽちに

「君らの相手は、私じゃないよ!」

と、クローバーが叫び返す。そのセリフに、ピンッときたぽちは、慌ててソラを振り返った。

「ソラさん!」

【EDEN】のマスター・エレノアがソラに向かって、巨大な斧を振り上げていた。




【あとがき】
鱗滝さんの「判断が遅い( 'д'⊂ 彡☆))Д´) パーン」みたいな話。
マスターやってると、すぐに答え(応え)なければいけない上に、間違うと大惨事って場面に、ちょくちょく遭遇します。
本文ではるば~さんが漏らす『「間違ってたのかな。」』は、私自身が抱える葛藤みたいなものです。
答え(応え)たことが、本当にその場の最適解だったのか、いつもあとから悩んでしまう。
代替わりマスター、本当に大変。私も3代目マスターとして、色々不甲斐ない思いばかりしてきました。
正しい道なんて、どこにもない。だからこそ迷うし悩む。
マスターの皆様、本当にいつもお疲れ様ですm(*_ _)m

飛沫さんは気のいいお兄さん!
るっふは鳥。「ぴーーー!」って鳴く(泣く)とこお気に入り。
はるば~は若い。そしてすごく頑張ってる!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。