「面白いなら、なんでもいいや。」
ぽちはそう呟きながら、事前に渡された書類を見ていた。
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【ルール】
1.マスター全員で、最後の1人になるまで決闘をする。
2.死亡し、教会送りになった時点で失格。
3.マップは神へ続く道のみ。
4.職、装備、スキルは自由だが、途中で転職はできない。
5.他の人と協力可。
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ルールは単純明快。シンプルかつ、わかりやすい内容だ。
しかし、だからこそ、1つ間違えれば、すぐ失格になってしまうだろう。
楽しむことが最優先ではあるが、そのためには『勝利』を目指すのが、絶対的な条件だった。
真にゲームを楽しむには、中途半端な気持ちでいてはいけない。本気で戦略を考えて、なりふり構わずトップを狙いにいくべきだ。
そうやってぽちは、いつも面白い方に賭ける。
でも、それは案外難しいことなのだ。面白いことは、タダで転がっているわけではない。自分で面白くしないと、面白くならない。それは至極当然の話だ。しかし、そうするためには、あらゆる手段と膨大な手間が必要になる。
ぽちはその労力を惜しまない。『楽しければいい』それがぽちの原動力であり、モチベーションであり、物事の判断基準であるからだ。
「では、各自散会でー。ゲーム開始は15分後、太鼓の音で合図します。転職等は、それまでに済ませておいてくださいね。」
ゲームの運営委員の1人である【W.o.F】のメンバー・あつが、マスターたちに大声で呼びかける。
ぽちが選んだ職業は聖者だ。メインの役割は回復であるが、スキルや装備構成によっては、かなり強力な火力も出せるし、相手のステータスを一時的にダウンさせるデバフもある。いくつかある戦略に合わせて使い分けができ、バランスもいい。
周りの参加者たちをよく観察しながら、少しずつ散会していく彼らを見送った。
観察は戦略の第1歩である。相手の持っている武器を見るだけでも、かなりの情報が得られるのだ。武器と職業は、ほとんど結びついているので、予想は簡単である。職が分かれば、ある程度のスキル構成も予想可能な範囲であった。
その点も含めて、聖者という職は優秀だ。防御に振るか、攻撃に振るかで、大きな違いがでるので、相手に予想されづらいのだ。
「さーて、お先に失礼しますよ。」
そう言って、1番最初に行動を開始した【シルフィード】のマスター・クローバーを、ぽちは思い出す。彼女は片手剣を持っていたので、3次職の神聖騎士である可能性が高かった。さらに性格上、防御寄りで来ることは絶対にない。攻撃全振りで来るだろうというのが、ぽちの予想だ。
ただそれが、クローバーのブラフである可能性も忘れてはいけない。
ぽちのような観察者の目を欺くために、この15分の間にまるっと装備を変えてくる人はきっといるだろう。クローバーは、そんな小手先の騙し合いくらいはやりそうなイメージだ。
ある程度の参加者を見送ってから、ぽちは行動を開始する。
「とりあえず、一旦隠れた方が良さそうかなあー。」
当初はエリアの奥の方に潜伏するはずだったが、気になる人物が残っていたので、予定を変更して、入口付近に陣取ることにする。
何か起こしそうなその人物を見張っていれば、他の参加者の動向をもっと探れそうだったのだ。
ぽちは辺りをキョロキョロ見回し、誰も近くに居ないことを確認すると、入口から少し進んだ所にある、小さな岩山に手をかけ、その上によじ登った。
「よいしょ。」
3次職のステータスを持っていれば、このくらいのことは朝飯前である。息を上げることもなく、岩山のてっぺんに到着したぽちは、小高い岩の上から周囲を見下ろした。
茂みや、木の陰に隠れている参加者たちが丸見えだった。みんな左右や後ろの警戒はしているようだが、上を見上げる者はいない。
ぽちの存在に気づく者は今の所皆無で、近くに人影もない。それにこの高さなら、先制攻撃が可能であるから、万が一戦闘になっても有利な状況を作り出せそうだった。
地の利が最大限に活かせる位置取りだ。
「ふっふーん♪俺ってナイスー。」
周囲への警戒を怠らないようにしながら、ぽちは鼻歌まじりに、いくつかのプランに合わせて、装備やスキルをチェックしていく。
それが終わるとほぼ同時に、ドーンという太鼓の音が会場に響きわたった。
その音に反応した1人の人物が、行動を始める。ぽちが目を付けていた【君の物語】のマスター・パーンだ。
「おうおうおうおう!!何処ぞの誰かは知らんが雁首揃えてなんやオラァ!!!!!」
エリア中に響き渡るような大声で、パーンが叫ぶ。
開始エリアから1歩も動かず仁王立ちする様子は、どこかおかしいと思っていたが、ここまで狂っているとは、さすがのぽちも予想出来なかった。
「(なんか叫んでるよー。)」
がなり声の上、少し距離があるので、パーンが何を言ってるのかまではわからない。しかし、ぽちはその内容に特に興味はないので、問題は無かった。ぽちが見たいのは、パーンそのものではなく、その周辺にいる者たちの行動だ。
ぽちは見つからないよう、身をかがめると、そっと下の様子を伺った。
叫んでいるパーンに向かって、熱線が照射される。それが放たれた左の茂みを見ると、もちもちした鳥のような姿の人物を見つけた。【フランボワズ】のマスター・ルフナだ。ルフナが放ったスキルはインシネレイション。職や武器の制限を受けない類のスキルなので、詳しく特定はできない。ただ、魔法スキルということははっきりしているので、杖職である可能性が高い。
「うーん、12星かなぁ?」
ルフナの攻撃を皮切りに、様々な方向から火スキルが放たれる。
「わーお……。」
花火が弾けるような光量の中で、様々な形の炎が上がり、その中心でパーンが「あー!」や「ぎゃー!」と叫んでいた。
一通り攻撃し終わると、ルフナを含め、参加者たちが次々と移動を始める。
杖職が多めというのが、観察していたぽちの見解だった。
戦闘において『回復』はとても大きなアドバンテージである。ワンパンされない限り、ある程度耐久できるからだ。
職や武器の制限を受けない回復スキルは便利だが、その分効果は薄い。そこで回復力を上げるために、杖の装備が必須になってくるのだ。だから、杖をメインに装備する魔法職の参加者が多くなってしまうのは、自然なことだった。
「あれ?」
もうみんな散っていったと思っていたぽちだが、黒焦げのパーンの前に姿を現した【フレアージュ】のマスター・ソラを見つけて、目を向ける。
ソラはブルーアッシュの髪を気だるそうにかきあげると、腰からオウスウェルドΩを抜き、パーンに突きつけた。
「ふむー。」
思わぬ人物の登場に、ぽちは顎に手を当て考える仕草をしながら、頭の中で描いていたプランを練り直す。
そうしている間に、事態は刻一刻と変化していく。
地面に大の字に寝そべったまま、パーンがソラに食ってかかっていた。ソラはそれをものともせず、どこか涼しげだ。
パーンを攻撃した参加者たちは移動していったが、他の者はまだこの周辺に潜伏している可能性がある。
「隙だらけだなぁー。」
ぽちの右手が少し疼く。頭の中では、まだいくつかのプランが展開しているが、本能が次を求めているようだった。
「(だめだめ、まだまだ。)」
そう自分に言い聞かせながら、ウーシアロッド=カオスAをぎゅっと握り直す。
パーンが何事かを叫んで、ソラにボールのようなものを投げつけた。黒いモヤモヤした物質がソラの顔の前で炸裂する。
「なんかくっさ!スモッグボール?」
風に乗って運ばれてきた悪臭に、ぽちは思わず顔をしかめた。とんでもない置き土産だ。
ソラは忌々しそうに剣を振り下ろし、パーンに最期のトドメをさした。
「むー、これで終わりかー。」
少し残念な気持ちになっていたところに、好機が訪れる。
ソラが顔の前で手を振り、パーンの残り香のような嫌な匂いを散らしていたその瞬間、ルフナがいた茂みのすぐ近くから、赤い何かが飛び込んできた。
「え?!何?」
【シルフィード】のマスター・クローバーだ。
クローバーは目にも止まらぬ速さで、次々とソラに攻撃を加えた。スモッグボールで一時的に防御が下がっている状況だったので、ソラのHPはあっという間に削り取られてしまう。
突然の乱入に、ぽちは目を見張る。
スタート地点では片手剣を持っていたクローバーは、今は両手に短剣を持っていた。ブラフである可能性は考えていたが、2次職である暗殺者でくるのは予想外であった。
ぽちは咄嗟に立ち上がり、杖を構えて加勢しようとしたが、ほんの少し迷う。
「(どっちにつく?)」
今のぽちは、高HPの攻撃型の聖者だ。相手の攻撃を受けつつ、回復しながら、ある程度の火力も出せる装備とスキル構成である。
完全防御の方が、確実に生存率は上がるが、それは死なないだけで、泥仕合の上に、最悪相手を倒せない。だが、このゲームは死なないことが勝利の条件なので、倒せなくても勝つことはできる。
ただ、決して楽しくはない。楽しさを最優先するなら、多少のリスクはあっても、攻撃型の方が、ぽちには合っていた。
そんなぽちに足りないのは防御力である。
強力なスキルで、回復する間もなく、一瞬でHPを削り取られてしまえば、敗北はすぐそこだ。特に今ソラと戦っているクローバーのような、手数が多く素早い暗殺者とは、相性が悪い。
「今ここで殺っておくか?」
普段からソラと交流のあるぽちは、彼が高い防御力を持つプレイヤーだということを、よく知っていた。それはただ単に、ソラの職が神聖騎士だからという訳では無い。ソラの防御力は、そんじょそこらのプレイヤーとは一線を画す。体が鋼鉄でできているのではないかと、疑うレベルで堅いのだ。
ここで恩を売って、運良く協力関係に引き込めれば、ソラという最強の盾を手に入れることができるかもしれない。さらに暗殺者のクローバーという不安要素を1つ潰せるとなれば、正に一石二鳥だ。
ぽちはクローバーに照準を合わせ、フラッシュを放とうとしたが、中々上手く行かない。
赤い風のように素早く動き回るクローバーを狙うのは容易ではなく、おまけにソラとの距離も近い。少しずれれば、ソラに当たってしまう可能性があった。
「俺がソラさんのトドメ刺しちゃうのはやばいなぁ…。」
いくらソラでも、HPが残り少ないこの状況で、クローバーと自分の攻撃を同時に受ければ、一溜まりもないだろう。
クローバーをここで潰せなくても、特段の問題はない。厄介だと思わせるだけで、彼女ならきっと近づいては来ないだろう。
ぽちは作戦を変更して、ソラの援護に回ることにする。
クローバーがソラにトドメの一撃を喰らわそうと1歩引いた瞬間、ぽちはソラに回復魔法であるプシュケーをキャストした。
クローバーが驚愕に目を見開くのが見えた。しかし、それも一瞬で、彼女は地面を蹴った勢いのまま、ソラをスルーして駆け出す。
撤退判断だ。
おそらくそれが最良の判断だとは思うが、ぽちにとっては面白くない選択だった。
ぽちは構えを解き、杖を片手に持ち肩に乗せると
「あれー?軍曹、行っちゃうの?」
と、わざと大声で呼びかけ、挑発する。あわよくば、それで釣れたクローバーを、ソラと一緒に倒してしまおうと思ったのだ。
ちらりとこっちを振り返ったクローバーが
「裏切り者!」
と吐き捨てるように言う。
「なんのこと?」
ぽちは挑発とは関係なく、本当に不思議そうに首を傾げる。
「シルフィードのボンメンのくせに!」
クローバーはそう怒鳴りながらも、止まることなく、掲示板がある方へと駆けて行った。
確かにぽちは、クローバーがマスターをする【シルフィード】のボンメンである。しかも、サブマスターという地位に就いていた。
でも、今のぽちは【franchement】のマスターとしてこのゲームに参加しているし、そもそも誰がどこのボンドに所属していようと、このゲームのルール上は、全員敵である。
裏切るも何も、元々仲間ですらないというのが、ぽちの考えだった。だから、クローバーの「裏切り者」というセリフは、イマイチピンとこない。
結局、クローバーは釣れず、遠くなっていく彼女の背中を見送ったぽちは、ソラの方に目線を落とす。
ソラは自分の不甲斐なさを嘆くように、ため息をついていた。
1度周囲を警戒し、周辺に他の参加者が居ないのを確認すると、ぽちは岩山を飛び降り、ソラの前に立つ。
「大丈夫?」
ぽちの問いかけに、ソラは
「あぁ……うん……。」
と、曖昧な返事をする。
戸惑うのも無理はないだろう。この戦場で、わざわざ人助けをする酔狂なやつがいるなんて、夢にも思わないはずだ。
「軍曹か、ソラさんかなら、ソラさんの方が強いかなって。」
辺りをキョロキョロと警戒しながら、ぽちがソラに言う。
余計な言い訳や、隠し事は、かえって状況の悪化を招くと判断したぽちは、持っている戦略カードの1枚を、惜しみなくソラに開示した。
「俺の盾になってよ。」
そうにっこり微笑むぽちに、ソラは胡散臭そうな目を向けてくる。
「断ってもいいけどね。」
一応逃げ道としてそう付け足したが、ぽちは断られるとは1ミリも思っていなかった。
プシュケーで回復したとはいえ、ソラはまだまだ手負いの状態である。ここでまたぽちと戦闘をするのは、リスクがあるし、利益もさほどない。そもそもこの提案は、ソラにとっても願ったり叶ったりの好条件なはずなのだ。その場の感情優先であるクローバーならまだしも、ソラの性格ならば、多少気に食わなくても、断りはしないというのが、ぽちの予想だった。
そしてその通り
「わかった。少しの間協力しよう。」
と、渋々了承するソラに、ぽちは満足する。
「えー、なんか嫌そう。俺めっちゃ勇気出して助けたんだよ?もっと感謝して!」
ぽちはお近づきの印に、そうおどけてみたが、ソラは
「はいはい、どーも。」
と面倒そうなため息をつくだけで、あまり良い反応は得られなかった。
【あとがき】
まさか、続くとは……。
私も思ってなかったです←
本編の感想をたくさん送ってくれた皆様のおかげです!
きっかけはいつも誰かの何気ない行動から。
あなたのその一言が、誰かを動かす原動力になるかもしれませんよ!
1話について。
導入部分なので、説明が多いですが、ぽっちーの性格を上手く伝えられたかな?と思っています。
ぽっちーの基準は『楽しいかどうか』
リアルに、楽しければ、「まじそこまでする?」ってくらいのことを、言い出す(やり出す)人なので、中々やばめの思想だと個人的には思ってます←
おすすめシーンは、ぽっちーが杖を肩に担いで「あれー?軍曹、行っちゃうの?」って言うところです。
ぽっちーのふてぶてしさが存分に表現できたと思います(´・ー・`)フフン