ぽちはソラを回復し、HPを全快させた。
「回復ありがとう。さて、どうする?」
改めて気を引き締めたソラが尋ねる。
「んー?ねぇ?お腹空かない?」
「はぁー?」
かなり真剣な表情のぽちに、ソラはため息まじりの気の抜けた返事をする。
「ほら!これいつまで続くかわかんないし、食べれるうちに食べといた方がいいかなっーて!」
「(何言ってんだ?コイツ。)」
相変わらず至って真面目な顔のぽちに、ソラは沈黙したまま、訝しげな目を向けた。
今のぽちからは、不穏な雰囲気は一切感じない。隙を狙っているような素振りはないし、杖も背中に背負い、すぐに構えられる状況でもない。
「ソラさん料理得意でしょ?なんか持ってないの?」
ぽちがソラの顔を覗きこむようにして言う。
普段のソラならば、ぽちのこの距離感は、気にしない程度のものだ。でも今は、バトルロイヤル中である。何か裏があるのではと思わずにはいられない。
「(油断させてる?それとも本気でただ自由人なだけ?)」
ソラは疑いを持ちつつも、カバンに手をかけ、ガサゴソと中身を探った。
「これならあるよ。」
「コロッケ?」
小さめのバスケットに入った、丸い揚げ物を見て、ぽちが首を傾げる。
「ちゃうちゃう、クロケット!」
そう主張されても、ぽちにはさっぱり違いがわからない。
「コロッケとクロケットの違いは、油の量が……。」
本業が料理人であるソラは、それに関しての知識が豊富であった。長ったらしく説明を始めるソラを無視して、ぽちは
「いただきまーす!」
とクロケットを1つ手に取り、口にぽーいと放り込む。
「んー!うまっ!サックサク!」
口の中をいっぱいにしたまま、心底美味しそうに感想を述べるぽちを前に、ソラはうんちくを止め、満足したようなドヤ顔を返した。
「てゆーか、こんなとこでのんびりしてたら、危ないんじゃない?」
ふと冷静になったソラが、辺りを警戒しながら尋ねる。ぽちはおかわりのクロケットを口に入れながら、
「大丈夫、大丈夫。周りに参加者が居ないのはちゃんと確認してるよ。」
と、もごもごしながら答えた。
「お腹が空いた」と子供みたいなことを言う割には、抜け目なく周囲をよく観察している。そんな二面性を持つぽちは掴みどころがなく、ソラではその正体を見定めるのは困難であった。
バトルロイヤルの勝者は1人だ。いつかぽちはソラを裏切る。ソラはそれが不安である反面、ぽちの飄々としたその態度に、頼もしさを感じるのも確かだった。
クロケットを食べ休憩しながら、ぽちとソラはお互いの装備とスキルを確認し合う。元々、何度も共闘したことのある仲なので、だいたいのことは把握済みだ。
ぽちは、これまでのソラの実績から、その防御力やプレイヤースキルについて、大きな信頼を寄せている。自分の1番足りないところを補ってくれると期待していた。
なので、大まかな流れだけ打ち合わせし、細かいところは彼自身に任せることにする。あれこれ指示をだすのは、刻一刻と状況が変化する対人戦では、非効率であるし、そのせいでパフォーマンスが下がったら元も子もない。
「さて、そろそろいきますか。」
クロケットを食べ終わったぽちは、真面目な表情でソラに言う。
ソラはこくんと頷くだけで、言葉少なだ。
ぽちがソラの後ろに続く形で、とりあえずエリアの奥へと、2人は移動を始めた。
その間、ぽちは周囲の警戒をしながら、どこか緊張感のないテンションでソラに絡む。
なによりまずは、ソラからの信用を獲得しなくてはならない。リラックスした雰囲気で話しかけ、「敵意はないですよー」とアピールするのは、ぽちの戦略の1つであった。
そうして、ソラというカードを手に入れたことで変更したプランを、気づかれないよう少しずつ修正していく。
しばらく道なりに歩いていると、どこからか大きな爆発音が聞こえてきた。2人は、一瞬立ち止まると、顔を見合わせる。
「今の音……。」
「向かおう!!」
ぽちが言葉を続ける前に、ソラはそう言ってすぐ走り出そうとした。
「待って!」
ぽちはソラのマフラーの端を掴んで、慌ててそれを止める。
「ちょっ!何すんだよ!」
「そうやって自ら巻き込まれに行くのは、得策じゃない。」
相手の人数も、戦力も不明。オマケにあの巨大な爆発音。そこにいるのは、きっと只者では無い。
ぽちの脳裏には、開始前に見かけたある人物が浮かんでいた。もしそうだったとしたら、ぽちとソラ2人がかりでも、苦戦を強いられるであろう。
「まだゲームは序盤だよ。」
わざわざリスクをとる必要は無い。
「……。」
ぽちの言葉に、ソラは若干不満そうな目を向けつつも、立ち止まる。
ぽちには、ソラが少し勝負を急いでいるように見えていた。焦ったところで、良いことは1つもないが、初手でクローバーの猛追を食らったあとなので、それを取り返そうとするのは当然の心理だ。
その心を緩和させるには、もう一押し必要そうだった。
「まだ実践で連携を試してないし、そういうのは、基本不意打ちからじゃないと。今は確実に狙えるって状況かどうか、情報が足りないでしょ?」
ぽちは持っていた戦略カードを数枚切って、ソラに見せる。
このゲームで不意打ちという戦略は、ほぼ絶対的に必要なものだと、ぽちは思っていた。思わぬところから攻撃は、物理的に有利なだけでなく、相手の精神にもダメージを与えられる。それはクローバーがソラで実証済みだ。
「攻撃は俺が受けるから、不意打ちじゃなくても大丈夫だろ?」
「相手がソラさんじゃなくて、先に俺を攻撃したら?」
ソラは口を噤んで、答えられずにいた。
ソラがヘイトを取る前に、ぽちが攻撃されてしまう可能性は大いにあった。それでもぽちが数秒耐えられれば問題ないが、相手がどれくらいの戦力を持っているかわからない状況では、一瞬で教会送りになるリスクは十分高い。そうなれば、残ったソラも一蓮托生である。
「ね?」
首を傾げて、いたずらっぽく目を細めるぽちに、ソラは粘度の高いため息を漏らす。ぽちの考えに従うのは癪のようだが、今はそうするしか選択肢がないのも確かだ。
ソラは、マフラーの端を握るぽちの手を、乱暴に振り払うと、音がした方とは反対の道へ歩みを進めた。
その様子に、ぽちは少しだけ安堵する。とはいえ、まだソラからはピリピリとした空気が漂っていて、手放しで安心というわけにはいかなそうだった。
少し歩くと、赤い髪に大きなリボンを付けた少女が、大事そうに杖を両手に抱えながら、トボトボこちらへ向かってくるのが見えた。
【いちご組】マスター・いちごだ。
いちごは少し俯きがちに歩みを進めながら、ずっとブツブツと何事かをずっと呟いていた。ちょっと異様だが、おかげでぽちとソラの存在にはまだ気がついていないようだ。
ぽちはソラをちらりと見ると、近場の木の影へ隠れる。ソラはそれに倣うように、右の岩の後ろに身を潜めた。打ち合わせなしで意思疎通ができたことに、ぽちは満足する。
出だしは順調だ。
丘の上から少しずつこちらへ下って来るいちごを前に、ソラが今か今かと機会を伺っているのをみて、ぽちは
「(ここはソラさんメインでやってもらうか。)」
と、新たなプランを練る。そして、ソラにアイコンタクトを送り、「任せる」というように、ゆっくり頷いて見せた。
それを見たソラは、勢いよくいちごの前に躍り出る。
「(ちょっと早い。)」
ぽちはそう思って、少し苦い顔をした。
まだソラといちごの間には少し距離がある。
「そ、ソラさん!?」
いちごは驚きながらも顔を上げ、詠唱を始めると、すぐにインシネレイションを放った。
ソラは直撃を避けつつ突っ切るようにいちごに向かっていくが、ダメージは受けてしまう。焦って早く姿を見せたせいで、先手はいちごに取られてしまっていた。
ソラはブレイブチャージで、いちごに突きの一撃を食らわせようとするが、ひょっいと躱されてしまい。勢い余って5歩、6歩と、よろけるように進んでしまう。
「(隙だらけ!)」
隠れたままのぽちが頭を抱える。
慌てて振り返ったソラに、いちごはストーンバレット、リングオブサターンと、連続で魔法をキャストする。その攻撃でソラのHPはあっという間に半分以下になってしまった。
明らかにおかしいダメージ量に、ソラは顔を歪めながら
「どうやって……?」
と、戸惑い呟く。
相手に与えるダメージには、上限が存在する。いくら攻撃力を上げたところで、上限以上のダメージを出すことはできないのだ。
上限はレベルパッシブやコア、装備品で上げられるが、いちごのダメージ量は、それらで上げられる程度のものではなかった。
十二星導士ならば、ミーティアというスキルで、さらに上限の解放ができるが、いちごが今の戦闘でそれを詠唱していた形跡はない。
「(まさか?)」
俯きがちに歩きながら、ブツブツと繰り返し何かを呟いていたいちごの姿を思い出したぽちは、驚くと同時に感心する。
いちごは戦闘の前から、常にミーティアの効果をかけた状態で歩いていたのだ。
「(大人しそうな顔して、とんだファイターじゃないか……。)」
ミーティア二重がけの土印付きリングオブサターンを食らってしまえば、いくらソラでも大ダメージになってしまう。
「(どっちの読みも外れたな。)」
そう思いながら、小さく舌打ちしたぽちは、いちごに気づかれないよう木の影から前に出ると、杖を構える。
ソラは少し混乱しながらも、意地でカレッジブレードをいちごに食らわせた。それでいちごのHPを半分ほどにしたが、彼女は怯まない。1対1であれば、まだいちごの方が有利なのだ。
「私、ソラさんに勝っちゃいますかね?」
ニヤリと得意そうに微笑んだいちごは、肩で息をしているソラに杖先を向ける。
「「フラッシュ!」」
飛んできた放電する光の玉を、ソラは盾で必死にいなす。
「あれ……?」
先に膝を付いたのは、いちごの方だった。
体に力が入らず、何が起こったのかわからないいちごは、震えるように後ろを振り返る。
「ぽ、ぽちさん?」
思わぬ人物の登場に、いちごは目を見開く。
ぽちはいちごが詠唱するのに合わせて、重ねるようにフラッシュを放っていた。真後ろからの攻撃をまともに食らってしまったいちごのHPは、もう幾ばくもない。
痺れるような感覚に、いちごは両手を地面に付き、肩で息をした。
ぽちは1度メガネを持ち上げてその位置を直すと、地面に這いつくばるいちごを、睨むように見下ろす。
「ひっ……。」
蚊の鳴くような声で悲鳴を上げたいちごに、ぽちは
「じゃぁね。」
と、短く言うと、容赦なくウィンドチャリオットをキャストした。
恐怖で固まったままのいちごが、教会へと送られると、ぽちは呆然と立ちつくすソラに向かって、カツカツと靴を鳴らしながら詰め寄る。
「えっと……。」
ぽちが目の前に迫ると、ソラは気まずそうに目を逸らした。どこか頼りなさげなその姿に、ぽちはわざと大きなため息をつく。
「ばーか。」
そう言って、ソラの頭を杖で軽く小突きながらも、ぽちはプシュケーをキャストし、そのHPを回復させる。
開幕先手を取られるし、魔法職相手にブレイブチャージで物理防御を上げても意味が無いし、躱されてバタバタと無防備な姿を晒しているし、カレッジブレードを打つ前に片手剣印をつけてないし、とにかくミスが多い。
ぽちは「なぜその選択をした?」と問いただしたくなるようなソラの動きに、少し怒りを感じていた。勝つために最善を尽くしていないソラを見るのは、面白くも、楽しくもない。
ソラの回復が済むと、ぽちは踵を返し、先に歩き出す。
ソラは何か言いたそうに口を開いたが、そこから発せられる言葉は1つもなく、物悲しい小さなため息しか出なかった。
【あとがき】
このスピンオフ作品「ボンマスバトルロイヤル ぽち編」は【クローバー】と【ぽち】の共同作者による、共同作品となっております。
そもそも、私はスピンオフ作品を作る気は全く無かったのですが、ぽっちーが「書いた」と、自作の小説を差し出してくるから……。
そんなことされたら、書くしかないですよねー?
ぽっちーが書いた小説を、私が文体を整え加筆するという形で、このスピンオフが完成しました。
原作監修がぽっちーで、アレンジがクロ、みたいな関係ですね。
お互いに相談しながら、1つの物語を紡いでいく体験は初めてで、とても楽しかったです!
2話について。
ぽっちーが書いてきたやつを、私が3割増しで黒ぽちにしてあげました(´・ー・`)フフン
「ぽちに恨みでもあるん?」って言われたけど、むしろ好きだからそうしたんですが?←
展開上、ソラさんがやばめのポンコツ()になってしまったけれど、それはぽっちーがそう書いてきたせいです。
ソラさん、苦情はぽっちーにどうぞ。