ボンマスバトルロイヤル   作:cloverlight

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ぽち編 第3話

はじめとはうってかわって、今度はぽちが先導し、その後ろにソラが続く。

「(どうするかなぁ……。)」

ぽちは目だけでそっとソラの様子を伺う。

いちごとの戦闘で、ソラはいつもなら絶対にしないようなミスを連発していた。明らかに本調子ではないし、肩に力が入りすぎている。

いつも最高のコンディションでいることは、誰にとっても難しい。ましてや、今はバトルロイヤル中で、非日常だ。緊張やプレッシャーから、いつも通りのことができなくなるのは、仕方のないことだ。

ソラは良くも悪くも真面目な性格である。それ故に、張り切りすぎてしまって、逆に本来の力が発揮できていないようだった。

ソラのように、一生懸命なマスターは、一般的には良いマスターかもしれない。でも、今回のように空回って上手く行かないことが続けばいずれは燃え尽きてしまうだろう。

それはマスター以外のプレイヤーにも言えることだ。

モチベーションたっぷりで「毎日何時間でも周回できます!」という人ほど、案外長く続かなかったりする。

一生懸命毎日プレイしても、ある程度のレベルまで行くと、コアがない、ドリルがない、ティンクトラがない、エリアボスチケットがないなどの問題で、やれることにある程度制限ができてしまうのだ。

そうして、「やりたいけどできない」が続くと、パタッと燃え尽きてしまう。

そのどちらにもあるのは「こんなにやったのに」という思いである。

「頑張れば報われる」は、所詮幻想だ。

だからといって、努力をしないという選択をすれば、何も楽しめない。

ぽちは、努力の結果が出なくても、全力で楽しめればそれでいいと思うようにしている。

その分、楽しむために労力が要るし、楽しめない場合は切り捨てる選択肢も必要だ。

誰かのために、何かのために、そうやって頑張るのは素晴らしいことだが、そこに自分の楽しみがなければ、継続は困難だ。

マスターを長く続けるコツは、自分の楽しみを忘れないことだと、ぽちは思っている。

ソラは勝つことばかりに目がいって、このバトルロイヤルを楽しむことをすっかり忘れているようだった。

ふと、前方のそう遠くない所で、煙が上がっているのが見えた。

ぽちとソラは静かに顔を見合わせると、周りを警戒しつつ早足でそちらへ向かう。

崖の上から下を伺うと、巨大な団子と、ピンクのもちもちした鳥に、か弱い人間が襲われていた。鳥はゲーム開始直後に見かけたルフナで、団子は【戮力協心】マスター・飛沫、か弱い少女の姿のファイターは【マルちーZoo】マスター・はるばーだ。

ぽちは、手に力の入ったままのソラに向かって

「焼き鳥と焼き団子ならどっちが良いかなー?」

と、軽口を叩く。

「……。」

いきなりの質問に、ソラは戸惑ったようで、返答に詰まっていた。

「まずはバフをかけてから」だとか、「落ち着いていこう」だとか、そんなことはソラが1番わかっているはずなのだ。わざわざぽちが口に出して言う必要はない。

「よし!決めた!この闘いが終わったら、みんなで酒飲みながら焼き鳥食べよ!」

そうニヤリと、どこかいたずらっぽい笑顔を見せるぽちに、ソラは

「お、おう……。」

と、しどろもどろに返事をした。

ボンドマスターとして、ぽちがメンバーにできることは、こうして今ソラにしているような、『気にかけること』、ただそれだけだ。

直接的な言葉も、行動も必要としない。ただ祈りのような思いを乗せ、普段と同じように話しかける。

「(いつものソラさんなら大丈夫だよ。)」

そんな思いを込めて、ソラの背中をポンと優しく叩く。

伝わったかどうかはわからない。

でも、上手くいかなくても気にする必要はない。ぽちにとっては、芽が出ないのが当たり前であって、自分のやっていることの結果に、過度な期待はしていないのだ。

そうして目を離しているうちに、はるばーが教会送りになっていた。

「さて、そろそろ行きますか!」

ぽちがそう声をかけると、ソラは「ふっ」と小さく微笑んで頷く。

「楽しんでいこう。さぁゲームの始まりだ!」

ここで仕切り直しだ。2人は気持ちも新たに、同時に動き出した。

2人が行動を開始してすぐに

「ぴぃーーー!」

と恨み言の様な声を残し、鳥の姿のルフナが教会へと送られていく。

ぽちとソラが最初発見した時に3人いた参加者は、既に団子姿の飛沫1人にまで減っていた。

ぽちの前を走りながら、ソラがプロテクションを唱え、防御力を強化する。

それを見たぽちは「ふっ」と息をついて安堵した。やはり声がけは必要ない。ソラはやればできる人だ。

「1人に減るまで待ってた?」

現れた2人を前に、飛沫がほんの少し笑うように言った。そして、返事も待たずに、ウィンドチャリオットを放つ。

「ちょっと出遅れただけさ。」

ソラは盾でそれを受け止めると、払うように弾き返した。

最初は複数人での乱戦も覚悟していたソラからすれば、行きたい気持ちを抑えて、ぽちの話に付き合っていたから出遅れただけで、何か作戦があって、わざと待っていたわけではない。

しかし、結果的に何もせずに2対1に持ち込めたのは、かなり都合が良かった。

「主役は遅れて来るもんでしょ?ね?ソラさん!」

「ちょっと何言ってるかわからない。」

ソラの後ろから顔を出したぽちは、ソラの返事に肩をすくめると、魔法の詠唱を始め、一瞬躊躇いを見せた飛沫に、ウィンドチャリオットを放つ。直撃は避けられてしまったが、それなりのダメージは与えられた。

「素早い団子だなぁ。」

ぽちがおかしそうに笑いながら呟く。

今の飛沫の身のこなしは、ぽちの攻撃を予測していたような感じだった。最初ぽちとソラが丘の上から現れた時も、驚きも動揺もなく、真っ直ぐ攻撃してきたのは、予め誰かがくると気がついていたからであろう。

飛沫は中々勘の良いプレイヤーのようだ。

腕が鳴る。こういう戦いこそ、ぽちの望んでいたものだった。

ぽちに続いて、ソラが弾丸のように、飛沫に襲い掛かる。

タイミングバッチリ。ぽちの攻撃で怯んだ所を狙い撃ちだ。

ソラのその動きを見たぽちは、安心と同時に確信する。

「(いける。)」

体が軽いし、頭もクリアだ。

ソラのシュヴァリックブレード。飛び上がって上から振り下ろされる斬撃を、飛沫が杖を構えて受け止める。

「(思ったより堅い。けど……。)」

ソラが突破できない程ではない。押し切ることも十分可能だった。しかし、無理は良くない。

ソラはチラリとぽちにアイコンタクトを送った。ぽちはその意味を理解し、詠唱を始める。

押し合いの末、ソラの剣を弾き返した飛沫に、ぽちのワール・オブ・ミゼリーが滑り込む。

「2人は無理!!」

飛沫が悲痛な声をあげた。

継ぎ目のない滑らかな連携。お互いが何をすべきか明確に理解しているのであれば、声をかけ合う必要すらない。

ぽちには、2年半もの間代替わりもせずに、【franchement】のマスターを続けてきたという実績がある。

ボンドには、初心者から上級者まで、様々なレベルのメンバーが集まる。持ってる装備も、知識も、モチベーションもバラバラなのが当たり前だ。

そのような状態で戦闘をするには、様々な調整が必要である。

上に合わせれば下が付いてこれず、下に合わせれば上が退屈を持て余す。効率を求める人と、みんなとまったりやりたい人。ボンド内での格差や温度差が広がると、様々なところで歪みが出てしまう。

そのバランスを調整するのが、マスターの仕事である。

それは戦闘に限ったことではなく、ボンド運営の様々な場面で必要になるものだ。

周りをよく見て、必要な時に必要な言葉を掛ける。それは些細な努力かも知れない。

しかし、それを意識しているのとしていないのとでは、大きく変わってくるのだ。

でも、今は、何も考える必要がない。

ソラはぽちと同じマスターで、同じ次元にいて、意識せずとも、ぽちは1人のプレイヤーとして、自由に戦えるのだ。

ぽちはボンドのマスターであることに、負担や不満を感じているわけではない。

しかし、たまにこうして自由な時間があると、その解放感に心が踊るのも確かだ。

倒れ込んだ飛沫に、ソラがオウスウェルドΩの切っ先を向ける。

「あー、ほんともう最悪。」

そう言って悪態をつく飛沫は、地面に一の字で寝転がり、抵抗する気を無くしているようだった。

その姿に、ぽちはふっと気を抜いて、ゆっくりと杖をおろす。

しかし、その瞬間赤い何かが、ぽちの懐に飛び込んできた。

間髪入れず、胸に強い痛みが走って、ぽちは思わず

「ぎゃっ!」

と短い悲鳴を上げた。

「横入り失礼。」

そうクローバーが静かに言いながら、ぽちの前をあっという間に通り過ぎていく。

ソラとの共闘があまりにも楽しすぎて、少し気分を高揚させすぎてしまったようだ。ぽちは

「酷いなぁ……もう…….!」

と、痛みに呻き顔を抑えながら、子供が不貞腐れた様な声を出す。周辺の警戒を、ちょっとでも怠った自分の不甲斐なさに、ほんの少しだけ苛立っていた。

「軍曹……?」

ぽちが顔をあげたそこに、クローバーの姿はもうない。

周りを見渡すと、クローバーは勢いそのままに、ぽち達が下ってきた丘の上へと続く道をかけ登って行くところだった。

「また逃げるのー?」

不意打ちで攻撃をされ不満そうな声を出すぽちに

「君らの相手は、私じゃないよ!」

と、クローバーが叫び返す。そのセリフに、ピンッときたぽちは、慌ててソラを振り返った。

「ソラさん!」

【EDEN】のマスター・エレノアが、ソラに向かって巨大な斧を振り上げていた。

 

 

 

「(押し付けられた!?)」

そうぽちが思っている間に、エレノアがソラに、力いっぱいゼノ・テュポンアクスを振り下ろしていた。

ぽちの警告に素早く反応したソラは、エレノアの大斧を盾で受け止める。

ガキンッと重機がぶつかるような音が辺りに響いた。

「ぐっ……。」

ソラがかざしたウーシア盾がギシギシと軋む。

「(どうする?)」

そう迷いながらも、ぽちはプシュケーでソラを回復した。

「(軍曹を追うか?エレノアさんを倒すか?)」

目の前のエレノアを、ソラと2人で倒すのは、難しいことではない。多少時間はかかるであろうが、十分可能である。

だが、ぽちと相性が悪いクローバーを、このまま放置して回復されてしまうと、後々面倒なことになるかもしれない。

そしてクローバーが去り際に放った言葉を思い出す。「君らの相手は私じゃないよ。」それは、暗にエレノアの相手をしろと言っている様なものだ。

息も絶え絶えといった様子だった所を見ると、エレノアに勝てそうにないクローバーが、ぽち達にそれを押し付けたというのが、今の状況だった。

それを踏まえて尚、クローバーの思惑通りになるのは癪である。

ソラと組んだ2対1の状態なら、クローバーに負けることはまずないし、万が一エレノアがすぐ追ってきてもぽちの方が先行をしている状態なら、ソラ対エレノアになり、自分は安全である。

「ソラさん、上に行こう!」

十分勝算はあると読んで、ぽちはそう結論を出した。

ぽちの決断に、ソラは

「あぁあ?!」

と怪訝な声を返す。

「先にクローバーさんをやった方がいい。」

「でも!!」

実際に目の前でエレノアの大斧を受けているソラからすれば、この状況を放って、クローバーを追って上に行く選択肢を持つ余裕などないだろう。

言い合いをしている2人にはお構い無しに、エレノアの2撃目が、ソラに飛んでくる。

「(引き剥がすか。)」

ぽちはワール・オブ・ミゼリーを放つ。そうやって、エレノアを牽制しながら、クローバー戦に向けて、こっそり聖印を貯めに入っていた。

エレノアは、ぽちの攻撃を避けつつ、ソラとの押し合いをやめ、バックステップで距離を取る。

「ソラさん!」

エレノアが離れた隙をついて、ぽちは先に丘の上へと走り出す。

「えぇー!ほんとにそっち追いかけるの?」

ソラは渋々といった声を出しながらも、ぽちの後に続く。

ぽちは走りながら、ちらりとエレノアの様子を伺った。

思った通り、エレノアは立ち止まり、こちらを追ってくる様子はない。

エレノアは賢いマスターだ。去っていく自分たちを追いかけてまで2対1の状況を続けようとはしないと、ぽちは予想していた。

その様子に安心したぽちは、クローバーの元へ、急いで向かうのであった。




【あとがき】
3話はとにかく難産。
言いたいことを詰め込み過ぎて、話の繋がりがめちゃくちゃになってしまって……。筆が迷った私のせいです_(:З」∠)_
最後の最後は、ぽっちーに助けてもらって何とか完成。
共同作者で良かった!
ぽっちーが考えた、たった数行で、たった数文字で、印象がガラリと変わる。小説の良くて、同時に怖いところです。

3話について。
何事も「こんなにしてるのに」ってなったら、もうおしまいなのです( ˇωˇ )己を満たすのは他者ではなく、いつだって自分。
これは私自身への戒めでもあります。
もう1つ、本編2話に通ずるものがあるのですが、私たちマスターができることって、本当に少ない。
マスターは、メンバー達の親でも先生でもないので、教え諭す役割は持てません。ぽっちーのやっている『気にかける』が、限界ギリギリの導きで、それは本当に祈りのようなもの(-人-)
祈りなんて、届かないのが当たり前です。でも、もし届いていたら、嬉しいですね。
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