幻想郷。人や妖怪、妖精達がひっそりと暮らすその世界の地下には旧地獄と呼ばれる場所がある。そこにとある一人の鬼がいる。身長は高い。着ている上着は現代で言う所の体操服に似ている、また下は半透明のスカートを履いている。手首には引き千切られた枷の様な物がついていて、きらめく様な長い金髪、赤い目、額から生えた大きく太い一本の赤い角を持つその鬼の名前は星熊勇儀。かつて妖怪の山と呼ばれる場所で四天王だった四人の鬼の内の一人である。勇儀は手に持つ杯、星熊盃を傾けながら酒を飲んだ。最近の勇儀は旧地獄での生活に退屈を感じていた。
幻想郷に入る前は自分を退治しに来る人間と勝負をし、楽しんでいた。それに飽き始めた頃に一人の鬼が幻想郷の噂を聞き幻想郷に入った。
幻想郷に入ってすぐの頃は天狗や河童などの妖怪と宴会をしたり、力比べをしたりしていた。
しかし、何時からか他の妖怪達は自分たち鬼を恐れ、ご機嫌取りばかりをするようになった。そしていつの間にか住んでいた妖怪の山に鬼を頂点とする縦社会が出来た。
鬼に挑んだりする者はいなくなり、勝負事が好きな鬼には退屈な日々が続いた。
その日々の中で一人の鬼がまた噂を聞いた。幻想郷の地下には嫌われ者や荒くれ者が集まる旧地獄という場所がある、と。
そして鬼達は一人また一人とその旧地獄に移住していき、ほぼ全ての鬼が地上から姿を消した。
鬼にとって力が全ての旧地獄での生活は快適な物であった。だが、その中に居てもなお勇儀との勝負で勝てる者は少なかった。むしろ単純な腕力勝負で勇儀に勝てる者はいなかった。故に勇儀に挑んでくる者はこの旧地獄でも少なかった。最近した戦いも、少し前に旧地獄の対外的な代表をしている者が起こした異変を解決しに来た人間二人との勝負だけだ。久々に勇儀が負けた戦いではあるが、そもそも力比べではなく妖怪と人間が対等に戦えるようにした弾幕ごっこという遊びであったし、勇儀は盃に入れた酒を一滴もこぼさないようにするという特別なルールを自分に課していたからだ。
「はぁ、何処かに強い奴はいないかねぇ」
勇儀がもう一度星熊盃を傾け酒を飲もうとした時、視界の端に一枚の封書が映った。
「なんだこれ」
勇儀が封書を拾う。封書には達筆でこう書かれていた。”星熊勇儀殿へ”と。勇儀は怪訝な顔をしてから封を切った。そこにはこう書かれていた。
”悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その才能(ギフト)を試すことを望むならば、
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの箱庭に来られたし”
それを読み終えた瞬間、勇儀の体は大空へと飛ばされていた。