万魔殿の主〜胡散臭いトレーナーとウマ娘たちは日本を驚かせたい   作:仙託びゟ

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追記:活動報告にて、5月中の投稿についてなんか書いてます。ご一読ください。休止ではないです。


三話題無

■【Splat○○n2】休日だし朝からフェスやる

シンドレイ・618回視聴・13時間前

 

 

 

「あ、あ、あ……あー。声入ってる?」

 

『入ってる』

『キタ』

『おはどれいー』

『おはどれー』

 

「その挨拶やめない? シンド、レイだから。シンで区切らないでよ」

 

『むしろ俺たちが奴隷』

『レイちゃんのイカ久々』

『イカダーイ』

 

「最近はガッツリ詰めたトレーニングばっかりでコントローラー触るのも久し振りだけどちょうどフェス中に予定が空いたからやる」

 

『わーい』

『わーい』

『わーい!』

『入院中にいいもんみっけ! @無敵☆最強☆テイオーちゃんねる』

『テイオー!?』

『モノホンじゃん』

『養生して』

『安静にしててよ!?』

『結局脚折りやがって!! しかも一番ひどい形で!!』

『復帰1年ってなんだよ!!』

 

「いらっしゃい。アンタらフェスどっちに投票した?」

 

『ひどくこざっぱりしてる〜〜〜!!』

『えっらい塩対応で芝』

『仮にもジャパンカップ勝ったウマ娘が自分の放送に来た時のウマ娘の反応とは思えん』

『シンドレイ、ターボ派説』

『ニシノフラワー好きなのでスプリンターにした』

『農民なのでステイヤー』

『同じく農民、ステイヤー』

『ブルボン推しはどっちにすればいいですかね……?』

『ミドルディスタンスはどっちだ?』

『すべてのウマ娘は本質的にマイラー』

『藤沢トレの言ってない台詞じゃん』

 

「アタシはうちのチームにステイヤーが多いからステイヤーかな」

 

『レイちゃん走んのはどっちなん?』

『なんだかんだチーム入ってる娘多いよね』

『名家生まれでもないのに専属がつくのなんて本当にガチでマジの上澄みも上澄みだけだぞ。そして《リギル》や《シリウス》みたいな名チームに入れるのもほんの一握りだけ』

『トレーナー不足は深刻やで……』

『レイちゃんってデビューしてんの?』

 

「特定しようとしてない?」

 

『ムリ。ム リ』

『母数がどんだけいると思ってんだ』

『4桁から3桁まで絞れる程度だぞ』

 

「まぁいいや……アタシはクラシック三冠路線に行くつもり。多分多く走るのはクラシックディスタンスだと思う」

 

『おおう……』

『もうクラシックGⅠ出るのは前提なんか』

『言うて目標言うときはとりあえずGⅠ言わん?』

『私現役時代トレーナーに目標聞かれてアイビスサマーダッシュ連覇って答えたわ』

『おは超絶怒涛のスプリンター』

『頭バクシンかよ』

『いつデビューかはわからんが来年のクラシック組めぼしいのおる?』

『朝日杯勝ったエルウェーウィンとハナ差のビワハヤヒデかな』

『ビワハヤヒデは早熟のマイラーじゃないかってトレーナーが言ってた @無敵☆最強☆テイオーちゃんねる』

『じゃあNHKマイルの方行くんかな』

『ナリタタイシンは? ミラに入った娘』

『ようわからん』

『ミラに入った以上弱くはないと思うけど……』

『タイシンはないよ。細いしちっこいし』

『なんか不良って聞いたけど』

『一部にめちゃくちゃなアンチがいるよな』

『中学一緒だったけど暗くてよくわかんない娘だった。不良っていうより陰キャってイメージだったけど』

『多少弱くても黒い人ならなんとかしてくれんでねか?』

『レイちゃん米読まずに淡々とギアガチャしてて芝』

『流石に神ギア多いっすねぇ!』

『ウイニングチケットは?』

『うるさい』

『うるさい』

『うるさい』

『なんでそういうこと言うの? 聞いただけじゃん』

『そうじゃなくてうるさいんだって』

 

「ダィ」

 

『死』

『耳逝ったんだが?』

『予備の鼓膜あってよかったわ』

『ミュートかな?』

『一瞬だけなんか聞こえたけどそれ以降何も聞こえん』

『てかマジで聞こえん』

『今はガチミュートっぽいぞ』

『レイちゃんの声と違ったからフラったかな?』

『声……声……?』

『破裂音にしか聞こえなかった』

『急用入った午後に放送し直すから一旦解散 @シンドレイ』

『りょ』

『おけ』

『把握』

『おつどれい〜』

『オツ・ド・レ』

 

 

 

次の動画

・【Splat○○n2】急募:何度言ってもノックをしないバカのシメ方【フェス枠】

シンドレイ・398回視聴・7時間前

 

 

 

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三度(みたび)()()れても折れぬ心

 

 

 

 トウカイテイオー、3度目の骨折。今回は重傷か、復帰1年。

 

 その見出しは、ジャパンカップでトウカイテイオーがアメリカの最も新しい伝説に勝利したことで沸き立っていたウマ娘レースファンに冷や水を浴びせるには十分なものだった。

 ある程度の観察眼がある者はライブで左脚をかばうような動きをしていたことで察していたが、ジャパンカップで恐らくヒビが入っていた骨が、直後に砕け粉砕骨折という今までで最も重い故障に繋がってしまった。

 原因はいくつも挙げられたが、そのどれもが理由とするには十分なものであり特定には繋がらなかった。

 批判は意外と少なかった。安井の時と比べて、今回は直前のレースで大きな勝利を収めており、かつ故障するのではないかという危惧がある状態で、トウカイテイオーが自ら出走の意思を表明していたからだ。

 その怪我の程度の大きさに悲嘆はせど、故障したことそれそのものについては、「あぁまたやったか……」という諦観の声が多かった。

 

 サンデーサイレンスへ向かう非難も予想よりもだいぶ少なかった。形はどうあれトウカイテイオーとサンデーサイレンスという夢のマッチングを見ることができたからか、サンデーサイレンスが社北グループに所属し中央トレセン学園でアドバイザーとして勤めることになったこと。

 そしてひと月ほど前に――詭弁ではあるが歪んだ形で――ウマ娘の走ることへの意志を批判することが、最悪の場合どういう結果に繋がるかを見せられたこともあり、そういう意見を投げることに慎重になっていたからだろう。

 

 しかし、身内は容赦がなかった。具体的にはナイスネイチャ、マヤノトップガン、マーベラスサンデーは容赦がなかった。

 

「これより、第1回有罪確定裁判を始めます」

 

「待って!? こんなに存在理由がない裁判ってある!?」

 

「被告人、静粛に。というか安静に」

 

「させる気があったの!? 判決が確定してる公判はただの公開処刑なんだけど!? 魔女裁判でももうちょっと取り繕うよ!?」

 

 慈悲なき異端審問官から鉄槌がくだされようとしていたとき、病室のドアからノックの音が響いた。

 これ幸いとトウカイテイオーが爆速でそのノックに対して入室を許可すると、入ってきたのは4人とも、特にトウカイテイオーとナイスネイチャは見知った顔である今回の元凶サンデーサイレンスと、大柄な栗毛のウマ娘だった。

 栗毛の方も見覚えはある。なんせサンデーサイレンスの宿敵であり、3代目『偉大なる栗毛(ビッグ・レッド)』と呼ばれた彼女、イージーゴアもまた、サンデーサイレンス同様有名人だからだ。

 ただ、4人の目はそこではなく、サンデーサイレンスの首元に向いていた。それもそのはず、表情の引き攣ったサンデーサイレンスの首には、無骨な金属製の首輪のようなものが装着されていたからだ。

 マヤノトップガン辺りはそれを見て、「デスゲームものの首輪爆弾みたい」とわかった結果、連鎖的にイージーゴアの手元のスイッチにも気がついた。

 

「ここはトウカイテイオーさんの病室で間違いないですか?」

 

「……あ、は、はい!」

 

 イージーゴアが流暢とは言えないまでも不自然さの少ない日本語で問いかけると、何故かテンパったナイスネイチャが答えた。

 それを確認して、何かを促すような素振りを見せたイージーゴアに対してサンデーサイレンスが何やら渋ってみせると、突如サンデーサイレンスの体が跳ねてその場に崩れ落ちた。

 

『いいから謝れって言ってるでしょうサンディ』

 

『いやマジで絶対気にしてねぇってコイツら!! 勝ったら謝れとも言われてねぇし日本でもあんくらいの挑発珍しくなあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?』

 

 叫んだと思いきやその場で痙攣し始めるサンデーサイレンス。なお、この場にいるウマ娘は全員英語を理解できる。一番英語が苦手なのがナイスネイチャかサンデーサイレンスというレベルである。

 サンデーサイレンスの主張は半分正しく半分間違っている。まず、サンデーサイレンスの言う通りトウカイテイオーもナイスネイチャも挑発については特に気にしていなかった。

 ナイスネイチャは言われた直後こそ直情的に沸騰したが、その後の挑発合戦をあとから頭を抱えるくらいに恥じる程度にはその場の勢いでの問答だったと言えるし、トウカイテイオーに至ってはジャパンカップに出るための方便と、ナイスネイチャへの日本ダービーのときの意趣返しのために建前としただけだ。

 そもそも、同期に煽りの塊みたいな輩がいる彼女たちがこの程度をいちいち根に持っていたらきりがない。

 もちろん、もう半分の間違っている点は、日本でもこのような挑発が珍しくないという主張である。アメリカでは日常茶飯事である挑発や罵倒のたぐいではあるが、日本ではあまり見られない。しかし、トウカイテイオーとナイスネイチャには何故サンデーサイレンスがそんな勘違いをしたか想像がついていた。

 

(絶対マイカグラだ……)

 

 DEATH_DOSとのロードレースの際に何か吹き込まれたのだろうか。そう思うと、自分たちが大して気にもしていないのにギプスをはめた脚を庇いながら床の上をのたうち回るサンデーサイレンスが哀れに思えてくる。

 

「本当に申し訳ありませんでした。()()、性根がだいぶひん曲がってて……」

 

「あ、いえいえ、アタシたちも相応に言い返しましたし、悪気はなかったっぽいんで……」

 

「まぁ、悪気はなかったと思いますよ。悪気()

 

 ただちょっとナチュラルに他人を見下してるだけで。そんな内心をイージーゴアは声に出さなかった。

 床に転がるサンデーサイレンスを見て、トウカイテイオーが笑みを浮かべる。トレセン組はその笑みが何か悪いことを思いついた時の笑みであることを知っていたため、なにかやらかすのだと察してサンデーサイレンスに同情する。

 

『……ま、ほら、私は彼女に勝ちました(・・・・・)から? しかもキッチリ1バ身差つけて。()()()()()敗者(・・)の謝罪くらい寛大な心で受けてあげないとねぇ?』

 

 サンデーサイレンスの嫌いなもの : 厭味(いやみ)ったらしい()()()()()

 

 トウカイテイオーがわざわざクイーンズイングリッシュで発した言葉のあからさまなほどにバカにしたような言い方とニヤケ面に、サンデーサイレンスは反射的にいきり立つが、即座にイージーゴアの手元のスイッチが押され、再び痙攣しながら床に沈む。

 

「……あの、さっきから気になってたんですケド、それなんすか?」

 

緊箍児(きんこじ)です」

 

「きん……?」

 

「なんで西遊記……?」

 

 緊箍児。孫悟空の頭についているあの輪っかである。ただし、こちらは締め付けるのではなく、ケーブルを伝って全身の各所についた電極パッドへ電流を送るものになっている。

 ちなみに、西遊記であることを看破したのはマヤノトップガンである。

 

「どうせ反省もしないんだからせめて無様を晒して相手の溜飲を下げるくらいのことはしませんと、と思いまして……」

 

「なんか怖いこと言ってる!?」

 

「結局言っても聞かないバカって暴力に訴えるのが一番理解できるんですよね」

 

「なんか怖いこと言ってる!!」

 

 イージーゴアは確かに良家のお嬢様である。しかし、結局のところ彼女もまた生粋の米国育ちなのである。

 さしものサンデーサイレンスも電流という文明的な拷問を受けたことはなかったようで、未知の刺激に年相応な半泣きを見せながらも「このタビはマコトニ申し訳ありませんデシタ……」とクッソ片言な日本語で謝罪することとなった。

 

「こちら、つまらないものですが……」

 

「あ、ハイ……」

 

「それでは、私たちはこれにて失礼いたします」

 

 イージーゴアはサンデーサイレンスを引きずって病室を出ていった。

 しばらくの間沈黙が降りていた病室だったが、誰ともなく「じゃあ裁判再開しよっか」と言い出すと、「まだやんの!?」というトウカイテイオーの悲鳴が響いたという。

 

 

 

■ ??-5/??/?? Memory into N.T

 

 

 

 朝、学校に着いたら上履きをひっくり返す。昇降口の床にパサッと湿った土と少しの砂利のような大きさの小石が落ちた。履き口を下にしたままトントンと上履きの踵を地面に打ち付けて、中の土を出し切ってしまってから、ハンカチで中を払う。

 ふと、後ろから誰かの舌打ちが聞こえた。振り返らない。どうせ誰の舌打ちかなんてわからないし、誰の舌打ちだろうとかわらない。

 教室に入る。ほんの一瞬だけ沈黙が挟まり、同じクラスになった人たちはまた会話を始める。机に何かをされた跡はない。そういった見つかりやすいことはしてこない。

 

 授業中。誰が悪いわけでもない、ただの偶然。自分の番が回ってきた時に黒板に書かれていた問題の位置が、たまたま上の方だっただけ。

 問題の答えを黒板に書いていると、後ろからくすくすと声を潜めて笑う声が聞こえた。野次を飛ばしてくるわけではない。ただ、自分の姿を滑稽だと嗤っている。

 席について、ただ黒板の内容をノートに写すだけの授業。不意に目の前を何かが横切る。危うく目に触れていたであろうそれに反応して顔をあげると、前の席の生徒がプリントを回してきていた。

 プリントを受け取ると、前の席の生徒は前を向き直して、やはり舌打ちをした。それが、プリントを受け取るのが遅かったからか、プリントが彼女の目に当たらなかったからかと疑ってしまうのは、彼女の非ではないだろう。

 

 給食。他の生徒にも親切にしている女子生徒が、彼女の分の給食を多めによそった。余計なお世話だとも言えず、かと言ってわざわざ皆が食べ始めてから前に量を減らしに行くのも、囃し立てられるのが目に見えているために嫌になる。

 結局、そのあとの休み時間をほぼ丸々使って食べ終えて、給食当番でもないのに片付けまでやらされた。担任からは「食べ切れなさそうならはじめに減らしてもいいんだぞ」と言われ、理解されないであろう気持ちを飲み込んでただ頷いた。

 

 過剰に反応する自分が悪いのかと言う気持ちもある。しかし、頻繁に耳にする陰口や揶揄がそれを否定する。これは、明確に自分に向けられた悪意であると。

 ()からはじき出される。気にしない。あんな低俗なやつらと一緒にいたくはない。孤立も悔しくはない。中学の3年間をそうやって棒に振っても、どうせもとから大したものじゃないんだと、狐のように葡萄(ぶどう)(そし)る。

 自分が悪意を向ければ、相手は待ってましたと言うかのように数倍の悪意で返してくる。だからもう、反応なんてせずにただやり過ごす。そうして、来るのかもわからないいつかに向けて、憎悪の火に枕の(たきぎ)を焚べ続ける。

 

『チビのくせに』

『あの子根暗なんだもん』

『通用するわけ無いじゃん』

『調子乗ってない?』

『なんであんたみたいなのが《ミラ》に……』

『チケゾー先輩に悪影響だろう』

『ハヤヒデの重石になってるのはお前だ』

『似合ってないよ、制服』

『出来損ない』

『危ないから辞めたほうが……』

『みんな心配してるんだよ』

『じゃんけんで負けた人でよくない?』

『ちょっと空気読めよ』

『私より下がいてよかったよ』

 

 

 

『もっと大きく生まれたかったよね……ごめんね……』

 

 

 

「ああああああああああああああああああああっ!!」

 

 栗東寮。ルームメイトは数ヶ月前に部屋を出て、今は一人部屋となっているそこに、ナリタタイシンの号哭が響く。

 荒く息をする彼女の瞳孔は起きた直後にも関わらず開ききっていて、冬であるというのに寝汗でパジャマがぐっしょりと湿っていた。

 枕元のウマホで時間を確かめると、午前3時18分という早すぎる時間が示されている。

 

 原因はわかっていた。数日前、唐突に部屋に入ってきた半泣きのウイニングチケットに連れ出された先の食堂で、珍しいことにビワハヤヒデが揉めていた。

 どうやら、揉めた相手はインターネットに書かれていたナリタタイシンの悪評を鵜呑みにして、ビワハヤヒデにナリタタイシンとつるまないように忠告しようとしたらしい。

 インターネットには以前からナリタタイシンに向けたアンチの書き込みは比較的多い方ではあったが、ナリタタイシンがチーム《ミラ》に所属したことが公になってから、その量は大きく増えた。

 菊花賞後の事件もあり人目につくところからは減っているが、その分、裏では多くのアンチがついている。その理由までは、ナリタタイシンは知らないが。

 そう言った虚実交々の噂をなにかの折に目にしてしまい、悪意なく忠告しようとしてしまったのだろう。そういうお節介な者は少なくない。

 

 ナリタタイシンにしてみれば自分に直接向いていない悪意は目に入れなければいいだけだが、ビワハヤヒデにはナリタタイシンが悪く言われたことが我慢ならなかったのだろう。

 結果的にその生徒はビワハヤヒデに謝ったものの、ナリタタイシンに謝ることはなかった。

 

 小柄な体は侮りを生む。知性ある生き物は自分よりも下にある者を見て、それを嘲り、哀れみ、自分は上なのだと再確認して満足を得る。

 今の自分はあの頃とは違うんだ。そう理性はわかっているのに、自分自身が自分の力を信じきれていない。それが、過去の悪意に姿を変えて悪夢として襲いかかってくる。

 震える体を抱きしめ、夜闇から隠れるようにナリタタイシンは再び布団を深くかぶり直した。

 

 

 

 

 

 

「タイシンがわたしより上とか、ありえないから」


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