万魔殿の主〜胡散臭いトレーナーとウマ娘たちは日本を驚かせたい 作:仙託びゟ
☆★☆
「さて、休憩明けて、次はツインターボが出走するBCターフだ」
『イクノ惜しかったな』
『走るレース減らしてたら勝ててたかな?』
『いやー、キツイでしょ』
『でも結果だけ見ると調整ミスった感じあるよな』
『ボールストンスパステークス、フラワーボウルステークス、アセニアステークス、ワヤステークスまでGⅢ2勝GⅡとGⅠを1勝で4連勝。続くサンズポイントステークスも3着』
『完全に調子の波を見誤った感じよな。もしくはフィリー&メアターフに出てれば勝ててたかも?』
『レースにタラレバは厳禁。今言っても仕方ないことやで』
『イズミスイセンはシニア相手によく頑張ったよ』
『今回は完全に格上挑戦やったしまた来年頑張って欲しい』
『地方所属に酷なこと言ってやんなよ……今回だって黒い人のお陰で来られたようなもんじゃん……』
『は? 喧嘩売ってんの?』
『今どき地方が中央の2軍みたいな考えの人ってwww』
『ちげぇよ。遠征費用だよ』
『あぁ……うん……』
『それはまぁ……』
『黒い人が全部負担してるってマ?』
『マ。ソースは南坂T』
『正確にはフェブラリーステークス勝ったショウグン組だけBC運営から補助金がある』
『しかもカノープス全員分の合宿費も出してる』
『10万ドルPON☆とくれたぜ』
『実際10万ドルじゃ済まないかもしれないんだよなぁ……』
「BCターフは2400m。直線の短いデルマーレース場だと、2400mでも1周半、コーナーを6回回ることになる」
「ツインターボはルドルフに『自分よりコーナー上手いかもしれん』ってお墨付きもらっとったやんな」
「私もコーナーは得意な方だが、ツインターボのコーナーは圧巻だな」
『ていうかミラはコーナー上手い人多い』
『フーねーちゃんもうまかったしネイチャもタイシンもうまいもんな』
『おい、米食えよ』
『コメェ……』
『ライスはなんか上手いとかそういう話じゃない』
『内ラチの下走ってるやつ初めて見たもん』
「今回の注目はコタシャーンだな。今年に入ってから芝で活躍しているウマ娘だ」
「イクノディクタスんときも言うたけど、向こうさんじゃ芝は下火やからなぁ」
「昨年までの戦績から考えるにまさに覚醒といった感じだな。他にはコタシャーンの目下ライバルでもある麒麟児ビエンビエン、イギリスからの参戦であるオペラハウスなどが要注意だろう」
「おおう、もう発走や。危ない危ない」
『学習してくれ』
『3度目だぞ』
『そろそろファンファーレなしに慣れてほしい』
『ファンファーレなしに慣れて国内レースのとき「うっさいわボケェ!!」って怒鳴るのが見える見える』
『そういうとこだぞ』
「ファンファーレミスはまだしもなんでやってもない逆ギレまで詰られなアカンねん!!」
「さぁスタートを切った。ツインターボ早速先頭」
『知ってた』
『いつもの』
『やっぱこれだね』
『ラビット唖然で芝』
『どうしてラビットより速いんですか?』
『ダービーんときより速くね?』
『そらお前2年前やぞ』
『ラビットはペースメーカーで本人に勝つ気ないからいいけど、タボボはほっとくと勝っちゃうから大変よな』
「他の出走者も戸惑っているようだ。対応しきれず走りが乱れている」
「コタシャーンは流石やな。あんなかでもしっかりペース保っとるで」
「コーナーに入る……うん、やっぱり上手いな……」
『エグい』
『なんであんな膨らまないで曲がれんだあの速度で』
『後続の顔よ』
『昨日今日とGⅠが連続してクッソ荒れてるバ場でこれよ』
『逆に考えるんだ。あんな超小回りコーナーの内ラチ沿いなんて誰も走れないから荒れてないんだ』
『後続焦り出したな。掛かってるのも増えてきてる』
「確かに掛かっているが、オペラハウスに関しては例外だろうな。情報によると、彼女の"
「なんやそのゲームみたいな説明」
「もっと詳しい理屈のようなものもあるんだろうが、わかりやすく結論だけ言えばそうなるんだ」
『先頭から殿まで40バ身とか言われてて芝』
『もうこれ(追込)ムリでしょ』
『あの狭いコーナーで位置取り争いしてるの末法って感じだ』
『【悲報】ラビット終了』
『マジで同情するわ……』
『あの絶望の表情よ……興奮してきたな』
『死ね』
「さぁ、ツインターボが最終コーナーに……なんだ?」
「あ〜、入ったなアレ」
「"
『限界を超えた……ってコト!?』
『ターボ!?』
『タボボの速度が!?』
『すげぇ追い上げ』
『40バ身差ってこんなすぐ埋まるもんなん?』
『タボボがんばれええええええええええええええええ』
『あと直線だけ』
『いけええええええええええええ!!!』
『きてるきてる』
『ヤベェ!?』
『これ追いつかれる』
『逃げ切れターボおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
『あと100!!』
『コタシャーンヤベェ』
『おおおおおおおおおおおおおおおおおお』
『こんな長い100mある?』
『きたあああああああああああああああああああ』
『うおっしゃああああああああああああああああああああ!!』
『勝った勝った勝った勝った!!』
『タボボ最強!! タボボ最強!! タボボ最強!!』
『日本勢アメリカGⅠ初制覇!?』
『いやイクノがフラワーボウルステークス勝ってるって』
『せやった』
『いいだろ? BCターフだぜ?』
『それはそう』
「っしゃあ!! 勝ったで!!」
「1着ツインターボ、2着コタシャーン。3着にはビエンビエンが入った。これで、日本のウマ娘によるBCチャンピオンシップシリーズでの初勝利を飾ったことになる」
『なんだかんだ言ってタボボ以外は順当な順位か』
『ビエンビエンも少しずつタボボのハイペースに順応してたからな……次はゾーンなしでコタシャーン並に詰めてくるかも』
『流石麒麟児って言われるだけはあるな』
『タボボも最後の方失速してたけどやっぱ2400mは長かったか』
『ダービーの逆噴射はネイチャのデバフと黒い人の外付けスタミナトレーニングで相殺だったからな。今回はデバフない分外付けスタミナもなかったんだろ』
『性格的な部分が大きいって言ってたからなぁ』
『次走ジャパンカップ出てほしいけど無理かな』
『いやーキツイでしょ』
『タボボお手々ぶんぶんで芝』
『タボボかわいいよタボボ』
★☆★
関係者席へと戻ってきたツインターボは、ドカッと客席に腰掛けてからコーラのストローをすする。網馬はそんなツインターボに労いの言葉をかけ、そのまま帰りの準備を進めておくと言ってその場を離れた。
現在時刻は11月6日の9時35分。日本時間では7日の2時35分だ。菊花賞の発走時間は15時40分の予定で、フライト時間が10時間ほどになるので余裕がない。
それでも、ツインターボが次のレースは観ていきたいだろうと言うことで、先に準備だけ終わらせることにしたのだ。
『よう
『ん、名前忘れたけど、
そっちの方じゃない?』
『ハハ! 言い返せねぇな』
ツインターボに声をかけてきたのはコタシャーンだった。コタシャーンはツインターボの隣に座り、コースの方を眺める。
『次のレース……BCクラシックにもジャパンのウマ娘が出るのか?』
『うん、アタシのライバルがね』
『芝と土でライバルかよ』
『アタシ一応ダートも走ってるからね。重賞は1回だけだけど』
『へぇ、そりゃ知らんかったわ……まぁ、あんま期待はしてやらんこった。イズミスイセンもそうだったが、ジャパンとアメリカじゃ
それは、単に土質のことを言っているわけではないと、ツインターボには察することができた。
『芝じゃ遅れを取ったが、ダートは
それは、自国への愛国心。ただでさえレース後進国である日本の、さらに劣るダートの選手に負けてたまるかという強烈な自負。
『勝つよ』
しかし、そんなコタシャーンに対してツインターボはただ一言、力強い断言で返した。
『……随分な自信だこった。そんなに強いのか、あのHashiru Shogunってのは……』
『強い』
『ふーん……まぁ精々見せてもらおうってこった。その……言いにくいな。日本語の名前か? なんて意味だ』
『んー、ハシルはGallopingで、ショウグンは……General? かな?』
『「走る将軍」か。そりゃ、随分と手強そうな名前だな。城に引きこもってる王様より、
ふたりが話してる間に、発走時間になる。ゲートに入ったハシルショウグンの表情はリラックスしたもので、海外レースへの萎縮は感じられない。
そしてその日、アメリカのウマ娘レース史に消えない名前が刻まれることとなる。
「ハシルショウグンは勝つだろうな」
ツインターボはハシルショウグンの勝利を確信していたが、その理由はライバルへの信頼もあれど、それ以上に己のトレーナーへの信頼があった。
「初めて会ったときに脚がガタガタになってるのを見てから気にはなってたんだが、合宿中に間近で見て理解できた。ハシルショウグンは足裏の感覚が抜群にいい。あの脚の惨状は体重移動が拙かった頃に蓄積したダメージだ。足裏の感覚が飛び抜けていいからこそ、しっかりと地面を掴んで走れる。芝でも成績が出てるのはそれが理由だ」
地面に足がついた瞬間、適切な体重移動とどれだけ力を入れなければならないかを察知する力。ハシルショウグンはそれが飛び抜けて高かった。足裏から逐一伝わってくる感覚、それにいちいち反応し余計に乱れて脚に負荷がかかるの悪循環。
しかし、感覚に体が追いつけば。
『……WTF』
それは光の道だった。
ハシルショウグンの走るべきルートが、ダートの土の上に映し出されている。
それはまさに、将軍の走る花道。ターフでもダートでも、砂でも土でも、踏みしめ、蹂躙する。将軍の進撃は何人たりとも止められない。
2着以下と5バ身差をつけ、ハシルショウグン、BCクラシックを制す。そのレースはまさに圧倒。砂であろうと土であろうとそこに走るべき道さえあるのなら、何者も寄せ付けず押し通る。
BCターフとBCクラシックを日本の刺客に持っていかれることとなった今年のBCチャンピオンシップは、アメリカのウマ娘レース界隈に強い衝撃を残したのだった。