万魔殿の主〜胡散臭いトレーナーとウマ娘たちは日本を驚かせたい   作:仙託びゟ

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【閑話】「『ウマ』って何?」

「トレーナー、『ウマ』ってなに?」

 

「ハァ?」

 

 アイネスフウジンが、どこぞの小さくてかわいいうさぎのような声を出した網の方へ目を向けると、どうやらツインターボの勉強を見てやっているようであった。

 ツインターボの発した質問はアイネスフウジンも疑問に思ったことがあるので、話に加わるため同じ机につく。

 

「だから、ウマ娘の娘って女の子のことでしょ? じゃあ、『ウマ』ってなに?」

 

「あー……それな、逆なんだわ」

 

「「逆?」」

 

 ウマ娘がふたり揃って首を傾げたところで、網はホワイトボードにペンを走らせる。

 

「酒の肴ってわかるか?」

 

「鮭の魚?」

 

「お酒の肴、おつまみのことなの」

 

「そう、その『肴』。それと、ツインターボの言ったフィッシュの『魚』」

 

 ホワイトボードに書かれた『肴』と『魚』。両方『さかな』と読む言葉だ。網はそのうち、『肴』に波線を引いた

 

「このふたつだと、実は(こっち)のほうが先に使われてたんだよ」

 

「そうなの!?」

 

 これに驚いたのはアイネスフウジンで、ツインターボは『肴』が身近でないためかピンときていないようだった。

 

「『肴』は元々『酒菜』と書いた。菜は今でこそ野菜とか草花の意味で使われることが多いが、昔はむしろ『おかず』という意味で使われることが多かった。主菜副菜の菜だな。つまりそのまま『酒のおかず』という意味だ。そんで、この頃『(こっち)』は別の読み方をしていた。『うお』だ」

 

「うお座のうおだ!」

 

「出世魚とか、魚河岸とかも言うの」

 

「そう。で、江戸時代辺りで肴の主流になったのが刺し身とかの魚だった。ここから、『(うお)』が『さかな』と呼ばれるようになったわけだ」

 

「……え? それがどう関係あるの?」

 

「まぁ、今の若者って『魚』が先に『さかな』と呼ばれてたと思ってるやつが多いんだよ。つまり逆なんだよな。『ウマ』の娘だから『ウマ娘』じゃなくて、『ウマ娘』って言葉から『娘』って言葉が生まれたんだよ」

 

「「ええええ!!?」」

 

 これはふたりにとって衝撃だった。しかしすぐに疑問が浮かぶ。

 

「……でも、『ウマ娘』から『娘』が生まれたなら、やっぱり『ウマ』ってなに? ってならない?」

 

「『ウマ娘』、漢字で書くと『娘』だな。そもそも、『』だけで『うまむすめ』って意味があるんだよ。だから『娘』だとウマ娘娘みたいな……」

 

「チゲ鍋!!」

 

「サハラ砂漠なの!!」

 

「まぁそこはいいんだが。知っての通り漢字のルーツは大陸、漢の国、つまり中国だな。そこではウマ娘って意味で『』が使われてた。読みは『バ、マ』だ。んでこの漢字が日本に渡ってくる前にウマ娘って言葉は生まれてる。元々は『埋まんとする()』だったんだよ」

 

「うまんと……?」

 

「脚の力が強くて、足が地面に埋まってしまうような女。つまり『埋まんとする女』だ。それが変化して『うまむすめ』になった。ここまではいいな?」

 

 網の問いにふたりが頷く。

 

「そんで、ウマ娘ってのは基本的に種族として顔が整ってる。だから、昔は美しい女性を褒めるとき『うまむすめみたいだ』とか言った。それが短くなって『あの女性はうまむすめだ』みたいに言うようになったが、種族の『ウマ娘』と褒め言葉の『うまむすめ』が口頭で区別をつけられなくなってきたんだ」

 

「アホじゃん!」

 

「よくあることだよ。そこで『』が渡ってくる。『この漢字がうまむすめって意味らしい』『なんて読むんだい』『マだかバだってよ』『ンマ? そんじゃあじゃないうまむすめはただのむすめだな』ってことで、ではない、つまり種族的にはうまむすめではないが、褒め言葉のうまむすめに当てはまる人間を『むすめ』と呼ぶようになった。後から漢字が当てはめられて『良い女』で『娘』だ。ここから娘の意味が拡がっていったと」

 

「えーと、つまりどういうことだ?」

 

「元々は『うま、むすめ』じゃなくて『うまむす、め』だった。あとから『うまむすめ』って意味で『ま』と読む漢字が入ってきた。そのせいで『うまむすめ』から『むすめ』が分離したんだ」

 

「「なるほどー!!」」

 

「だから今でも『』だけでウマ娘を表す言葉はいくつもある。『バ身』『バ群』『バ車』とかな……ところで、だ」

 

 網は笑っていない笑みでふたりを見て、問いかける。

 

「これ、中等部のはじめの方で習うんだが?」

 

「「あっ、ッスー……」」

 

「ツインターボはともかく、アイネスフウジンは確認してなかったな? お前、テストの点数とか大丈夫なのか? 補習とかあったら夏合宿の時間とか減るんだが?」

 

 アイネスフウジンは途端に脂汗をたらし始めた。実はアイネスフウジン、しっかり者のようではあるがあまり成績はよろしくない。昔から妹の世話を焼いていて、トレセンに来てからは掛け持ちでバイトをしていたため時間が取れなかったことが原因だ。

 しかし、学生の本分は勉強、バイトより優先させるべきなので自業自得である。

 

「アイネスフウジン、お前も今すぐわからないところまとめてもってこい!! 今日は終わるまでトレーニングなしだ!!」

 

「わ、わかったの〜!!」

 

 この突発的な勉強会によって、ふたりの成績は平均点に届く程度まで持ち直したそうである。

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