万魔殿の主〜胡散臭いトレーナーとウマ娘たちは日本を驚かせたい   作:仙託びゟ

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 一気に時間を飛ばします。プロットの空白期間ェ……


でも私のほうが速いですよ?(光陰矢の如し)

『ビコーペガサス差し切ってゴール!! 未勝利戦3戦目にして遂に勝利を掴みました!!』

 

 2月の後半、ビコーペガサスが未勝利を脱出。これで格上挑戦ではあるが、重賞へのチャレンジができるようになったことになる。次回は3月の中盤にある短距離のGⅢレース、ファルコンステークスを目標とし、体作りを続けるのが主なトレーニングメニューだ。

 《ミラ》加入から4ヶ月、体質自体は改善していないが対策は有効に機能しており、なんとか同期デビューのウマ娘とも勝ち負けできる程度には成長することができた。 

 しかし、ビコーペガサスの目標を考えれば、それでは到底足りない。相手はトップクラスどころか、スプリンター界のトップをひた走るサクラバクシンオーなのだから。

 そもそも、クラシック期デビューに関わらずメイクデビューを含めて三連敗、4戦目で初勝利というのが既に拙い。勝ち負けできるとは言ったが、今のビコーペガサスは明確に同期の中でも下位だ。

 それはビコーペガサスも自覚している。日々トレーニングをするビコーペガサスの目には焦りが見え隠れしていた。

 そもそも、ビコーペガサスの脚質は得意距離である短距離〜マイルで力を発揮しにくい差しから追込という後方脚質だ。よほど筋力がなければ加速力が足りず伸び切らないというのに、その筋力を鍛えづらい。

 小柄で華奢なためにバ群で不利になるという共通点を持つが、中長距離を得意とするナリタタイシンと違い、短距離ではバ群を躱すために外を通る分のロスが大きくのしかかる。

 

(この調子でNHKマイルに出すのは厳しいな……GⅢやGⅡで経験を積ませつつとにかく体を仕上げないと勝負にもならん)

 

 やれることはやる。だが、最終的にはビコーペガサス次第。それが網の見解だ。どんなウマ娘でも、どんな条件でも勝たせてやるだなんてヒーローのようなことを言うつもりはない。

 

 一方、同じく今年デビューする予定のマーベラスサンデーは順調だった。元々虚弱体質というだけで、身体的な成長は十分な素質を持っていた彼女に対して仕込んだのは、《躊躇い》と呼ばれる技術だった。

 ナイスネイチャが得意とする《焦り》や《牽制》のように無駄な挙動を誘発し疲労させる技術ではなく、単純に相手の脚を鈍らせる技術。

 余談だが、無論ナイスネイチャが《躊躇い》を苦手としているわけではない。

 

 閑話休題。なぜマーベラスサンデーにこの技術を教えたかと言えば、それは彼女の悪癖に起因するものが原因だ。彼女は先頭に立つと、集中力が途切れるのだ。

 この悪癖はウマ娘には時折見られる珍しくないもので、業界用語では"ソラを使う"と呼ばれる。この悪癖の影響をできるだけ少なくするために、多くの場合はゴール直前でハナに立ちギリギリで差し切るという、ある意味でシンボリルドルフのような作戦をとる。

 しかしこの作戦には、自他の能力を把握し、その場の状況を加味して出力をコントロールするための思考力と状況把握能力が求められる。それこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能かもしれないが、マーベラスサンデーにそれを求めるのは難しい。

 だから、ある程度余裕を持たせるために《躊躇い》の技術を覚えさせている、というわけだった。正確には少し違うのだが。

 ナイスネイチャのように理論だった技術としてそれを吸収させるのは、極端な感覚派であるマーベラスサンデーには難しい。だから、結果的にそういう効果が現れるなら、過程はすべてマーベラスサンデーに任せることにした。

 結果、基礎能力のトレーニング以外の技術指導では、網はマーベラスサンデーに一切指示をしないという異様な状況になっていた。

 結果的に見れば、その判断はマーベラスサンデーに対しての最適解だったと言える。マーベラスサンデーの戦い方は、どう頑張っても余人が介入できるものではなかったからだ。とはいえ網は、むしろその戦い方を知ってこそ技術指導から手を引いたのだが。

 

 クラシック戦線に参加しないチーム《ミラ》の春はあっという間に過ぎ去っていった。強いて言うならば、大阪杯でナイスネイチャがミホノブルボン、ビワハヤヒデに次ぐ3着に入った程度だろうか。

 《ミラ》に関係する――とまで広げれば、ビコーペガサスの目標であるサクラバクシンオーが無事アルクオーツスプリントを制覇し、短距離GⅠ連勝数を7勝に伸ばして、GⅠ制覇数だけならばシンボリルドルフに並んだ。

 ライスシャワーが海外へ行くために昨年のワンツーが不在となった天皇賞は前評判通りビワハヤヒデが勝利。クラシック路線ではナリタブライアンが二冠を達成と、4月5月はこの姉妹が話題を席巻したと言える。

 ティアラ路線では、桜花賞ではオグリキャップの従妹であるオグリローマンとジュニアクイーンであるヒシアマゾンの激突でオグリローマンが勝利。オークスでは《C-Ma》のチョウカイキャロルが2人を破っての1着と大番狂わせを巻き起こした。

 

 そして、6月。ロイヤル・アスコットが開催される。

 フランスの凱旋門賞ウィークエンド、アメリカのBCチャンピオンシップのように、一週間で多数の重賞レースが同じレース場――イギリス王室が所有する国営レース場、アスコットレース場で行われ、ナリタタイシンが出走するGⅡ、11f221y(約2404m)のレース、ハードウィックステークスと、ステイヤーズミリオンの2戦目、ライスシャワーが出走するGⅠ、19f210y(約4014m)のゴールドカップが開催されるレース週間である。

 ステイヤーズミリオンの1戦目を同じくアスコットレース場で開催されたGⅢ、15f209y(約3208m)のサガロステークスで勝利したライスシャワーはこれが本戦となり、一方来年、同じくアスコットレース場で開催されるキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークスに出走する予定のナリタタイシンは、アスコットレース場を体感するための慣らしだ。日程ではライスシャワーの2日後、ナリタタイシンが走ることになる。

 

 ゴールドカップ当日。地下バ道で出番を待つライスシャワーに声がかかった。

 

『やぁ、ライス。ひさしぶりさね』

 

『あ、えっと……ヴィンテージクロップさん!』

 

 ライスシャワーに話しかけてきたのは、過去にグッドウッドカップで対戦経験があるウマ娘。イギリス生まれアイルランド所属なステイヤーのヴィンテージクロップだった。

 ()()()()()()()()()()()という経歴を持つ彼女は既にシニア3年目であり、ライスシャワーよりも1つ上の代にあたり、先行策を得意とするために前回の対戦ではライスシャワーのマーク対象になったことへの反撃として、ライスシャワーに物騒な二つ名を授けた主犯でもある。

 とはいえ、ふたりの間には既にわだかまりはなく、特段顔を合わせることもなかったため、ヴィンテージクロップが強敵の視察に来た、程度の再会だった。

 

 ヴィンテージクロップとの会話を終えたライスシャワーが目に留めたのは、今回網によって強敵だと知らされていた相手。前年、前々年のゴールドカップ連覇者、ドラムタップスだ。

 レザージャケットにデニムパンツ。ウマ娘用ヘッドホンを首からかけた勝負服と、短く刈った鹿毛。彼女の脚質は追込であるため、ライスシャワーが後ろにピッタリとついてマークすることは叶わない。

 恐らく今回最大の壁と言える相手を目にして、むしろライスシャワーの心は燃え上がる。自分の勝利を願い、信じてくれているファンのために、自分は世界最強のステイヤーで有り続けるのだと。そんな祈りを込めて。

 

 世界最長レース、ゴールドカップが始まる。

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