万魔殿の主〜胡散臭いトレーナーとウマ娘たちは日本を驚かせたい 作:仙託びゟ
「なるほど」
網馬はマンハッタンカフェの話をひと通り聞いて息を吐く。マンハッタンカフェが語ったのはある意味ではよくある話だった。
曰く、霊感がある。マンハッタンカフェ本人は霊感という言葉は出さず、自身の見えるものに対して『不思議な子たち』と表現していたが、まぁ霊感でいいだろう。
「……その、見えるものがなにか、というのはひとまず置いておきましょう。死んだ人間の霊魂か、はたまた妖怪や妖精の類かはわかりませんが、それについては特段悩んでいるわけではないようですし」
「……はい。彼女は……『お友だち』は、少なくとも自分を幽霊ではないと主張しています」
曰く、普段は気配、あるいは意思のようなものを感じるだけの存在、『お友だち』。マンハッタンカフェが走っている時、または走る前になると姿が見えるなにか。
マンハッタンカフェが競走ウマ娘を志したきっかけであり、長年追い続け、追いつけない影であるという。
「私は『お友だち』に追いつくこと……『お友だち』の顔を見ることを目標に走っています」
「ふむ……理解はしました。重ねて言いますが、私は貴女の見るものを否定しません。否定することにメリットがありませんからね。ただ、その目標となる『お友だち』を私は見ることができない以上、目標を超えるのにどの程度能力が足りていないのか判断できるのは貴女だけですので、その差については逐一認識を擦り合わせる必要があることを覚えておいてください……っと、そもそも契約を結ぶかどうか未定でしたね」
「そうですね……」
「現状、私は貴女の走りについて何も知らない状態ですので、スカウトするという言葉に説得力があるかはわかりませんが、貴女をスカウトすることに私は利を見出しています」
「利、ですか……?」
怪訝そうなマンハッタンカフェに対して、網馬は頷いて続けた。
「私は『お友だち』に興味がある。貴女の情報を総括すると、『お友だち』はウマ娘サンデーサイレンスに似た容姿と能力を持ち、常人には見えないが霊魂ではない何か、ということですよね?」
『お友だち』はサンデーサイレンスに酷似している。当初マンハッタンカフェは『お友だち』の姿をマンハッタンカフェ自身に似ているのだと考えていたが、自身に瓜二つであるサンデーサイレンスの走り方を見てからはそう思い始めていた。
特に『コーナリングの巧みさ』は、サンデーサイレンスと『お友だち』の最大の共通点と言えるし、『お友だち』がサンデーサイレンスの走りをしているのであれば、マンハッタンカフェが長年追いつけないことも頷ける。
他に似ているウマ娘がいないとは限らないが、マンハッタンカフェがサンデーサイレンスに会いに行こうとした当初、マンハッタンカフェは『お友だち』の妨害に遭い断念せざるを得なかった。挨拶が遅れたのはこのためだ。
何故妨害したかはわからないが、サンデーサイレンスと『お友だち』の間に何かがあるというのは、ほぼ確実だと考えている。
そんなマンハッタンカフェの考えに、網馬は自分の考察を差し込む。
「しかし、私の見立てでは『お友だち』はサンデーサイレンスと全く異なる人格をしている」
「それは……?」
「『お友だち』は楽しそうに走っている、と先程貴女は仰っていました。しかし、サンデーサイレンスはそうではない。彼女はレースにそれほど娯楽を見出していませんから」
サンデーサイレンスがレースを志した理由は、亡き友の追悼と運命への反抗であるというのは有名な話だ。マンハッタンカフェが評した『お友だち』の走りである、荒々しく野性的な走りというのはまさにサンデーサイレンスの走りに通ずるものがあるが、楽しそうに走る姿というのは疑問が残る。
「……では、『お友だち』とは一体なんなんでしょうか……?」
「結論から言えば、わかりません。が、幽霊ではないという本人の言を信用するのならば、候補はそれほど多くはありません。私はそれを、"
「……"
困惑したようなマンハッタンカフェの声。それに答えるように声をかけたのは網馬ではなかった。
「『ウマ娘とは、異世界から来訪した魂と名前を受け継ぎ、新たな運命を紡ぐ存在である』」
「ライスさん……」
「色んな絵本や物語の題材にもなってる、始祖神話の一節だよ、カフェさん。トレーナーさんは、これが関係あると思ってるんだよね?」
「えぇ。ウマ娘固有の超常現象については、"
「つまり、『お友だち』は別世界のサンデーサイレンスの魂である、と?」
「断言はできません。しかしそう考えれば筋が通るのは確かです」
「……だと、するならば。ユニヴァースさん、あなたなら何かわかりませんか?」
マンハッタンカフェが、ネオユニヴァースへと話を振る。それは的確なパスだったと言っていいだろう。彼女はこの場で唯一
「アファーマティブ……と言っていいのかな。ネオユニヴァースはマンハッタンカフェとサンデーサイレンスの『LINK』を観測しているよ」
「『LINK』……そのままの意味なら、関連しているという意味に捉えられますが」
「それも、アファーマティブ。ぼくの『
「では、やはり『お友だち』は別世界の……」
「……ネガティブ。正しくはそうじゃない」
その否定は、マンハッタンカフェにとっては想定外だった。話の流れは、確実にマンハッタンカフェが想定していた結論に向かっていたはずなのだ。しかし、それをネオユニヴァースは訂正する。
「ぼくの『
「……こんがらがってきましたね……なにがなんだか……」
「まぁ、それが気になるのはこちら側の事情であり、貴女が達成を望む目標には関係ありませんから。さて、それでどういたしますか?」
再度問われて、マンハッタンカフェは考える。素直に言えばマンハッタンカフェにとっても渡りに船と言って過言ではない。
自身の身体の虚弱さや乗り物への弱さについて、マンハッタンカフェは理解している。網馬であればそれらへの対応策を用意してくれるだろう。指導能力については言うまでもない。
しかし、マンハッタンカフェにはまだ言っておかなければならないことがある。
「……私としては、契約したいと思っています……ただ、私は霊障に巻き込まれることが多く、強い縁を持ってしまった場合、あなたもそれに巻き込まれる可能性があります……」
「……成る程、実害が起こる可能性は考慮していませんでしたね……」
「正直、霊障への認識が十分でないかもしれない、とも思っています。なので、試用期間を設けてほしいです。あなたが許容しきれるか……」
「……わかりました。そういうことでしたら、そうしましょう」
交渉成立と網馬は笑う。この先、一体何が起こるのか誰もわからない。いくら魔人と言われていようとも、彼だって人間なのだから。