万魔殿の主〜胡散臭いトレーナーとウマ娘たちは日本を驚かせたい 作:仙託びゟ
個体差でお願いします。
神話を終わらせた『
シンボリルドルフが『絶対』ならば、彼女は『無敵』と称された。シンボリルドルフは負けたが、彼女は負けなかった。
ウマ娘として根本的な
『スーパーカー』マルゼンスキー。高校生離れした肢体に制服を纏い、ウェーブのかかった鹿毛を揺らした彼女がそこに立っていた。
「……少なくとも、あたしがたっちゃんを買ったときはイチキュッパだったわよ?」
「1億9800万をイチキュッパと表現するのは無理があるのでは?」
「1980万よ!」
ランボルギーニ・カウンタックが2000万前後で売られていたのはそれこそ
「このセダンはあなたのかしら? 随分いいクルマ乗ってるわね! たっちゃんには負けるけど……」
「おや、競争バとバ車ウマ娘*1を比較する趣味をお持ちで?」
「あら、こりゃまた失礼しました! ねぇ、もしよければ乗せてくれないかしら。何気に、ショーファードリブン*2って乗ったことないのよね〜」
「ははは、構いませんよ」
断っても得はない。受け入れればコネクションができるかもしれない。何よりアイネスフウジンのシフトも迫っているので目的地へ向かい始めたい。
そんな思いもあり、網馬はマルゼンスキーを車内へと招いた。日本は左側通行、先に出るであろうアイネスフウジンが出やすいよう、先にマルゼンスキーが後部座席へ乗り、あとからアイネスフウジンが座る。
ふたりがシートベルトを締めたことを確認して発車してから、網馬は手元のスイッチを操作した。ショーファードリブンである以上、運転席から後部座席をもてなす機能は標準装備されている。
「あら、おったまげ〜」
「ふぇ!? ちょっと! あたしこれ知らないの!」
スゥーッと音もなく上がってきたのはフットレストだ。それだけではない。後部座席のシートが稼働し、背中と腰を押圧するマッサージ機能が働き始めた。
「「あ〜〜……」」
「アームレストのスイッチで調整できますので、そのあたりはご随意に」
そのままアイネスフウジンのバイト先*3まで10分足らず。後部座席のふたりは普段使われない機能をフル活用してもてなされたわけだが、今までこの素敵機能を隠されていた(使っていなかっただけ)アイネスフウジンはご立腹であり、「帰りもお願いするの! あとこれから乗るときも!」とぷりぷりしながらの出勤であった。
そしてヤールフンダートはマルゼンスキーを乗せたまま行くあてもなく走り始める。
「それで、どこまでお送りいたしましょう?」
「ちょっとあなたとおしゃべりしたいから、適当に回してもらえる? アッシー代は出すから」
内心メンドクセェと思いながらも、網馬は笑顔で了承する。マルゼンスキーと親交を深めるのは決して悪いことではない。
マルゼンスキーの主戦場はマイルから中距離だった。アイネスフウジンがその走りから得るものは大きいだろう。
それに、"
「巷じゃあなたの担当ちゃん、
「はは、ご存知でしたか。いやぁ過分なお言葉を頂いております」
「……う〜ん、ねぇ、
「? どれでしょうか。なにかお気に障りましたか?」
「そのおカタい口調よ〜。なんだか他人行儀でお姉さん傷ついちゃうナ〜? 多分だけど、普段のあなたってもっとアブない話し方でしょ? そっちのほうが話しやすいヮ」
他人だろ、という言葉を飲み込んで網馬は考える。ここまで言われて猫をかぶり続けるメリットは薄い。しらばっくれても相手の機嫌を損ねるだけだ。
マルゼンスキーも確信を持って言っているわけではないのだろうが、それ以上に網馬は相手に指摘されてまで猫をかぶり続ける気はない。そもそも網馬のかぶる猫とはそのくらい薄っぺらいものだった。
「ハァ……あとから文句言うなよ」
「ふふ、そっちのほうがよっぽどイイ男よ。それで、担当ちゃんがそんな風に呼ばれる気分はいかが?」
「どこが? って感じだな。節穴どもが雁首並べて」
もちろん、これはアイネスフウジンとマルゼンスキーの走りが似ていると評されたことへの感想である。
網馬はマルゼンスキーの走りを高く評価している。シンボリルドルフが完成形、ミスターシービーが変異形のそれであるなら、マルゼンスキーの走りは
「ただ走っているだけで強い」と称される彼女の走りは、既に多くの有識者によって解析され、その正体は掴めている。
マルゼンスキーの強みは"完全最適化されたランニングフォーム"にある。走りに付随するあらゆる動作において無駄がない。ロスがない。だから
最適なランニングフォームというものはウマ娘ごとに、つまり筋肉の質やつき方、骨格などによって異なる上にひとつしかない。だから基本的には皆、限りなく最適に近い形を目指して妥協する。
最適に
一方、能力のあるトレーナーは、それぞれのウマ娘から割り出した最適値を教える。しかしそれも、なかなか体に覚えさせられるものではない。誤差が出る。『基本』との間に初めから存在する差が上乗せされるよりはマシだが、完璧とは言えない。
マルゼンスキーには、その学習が必要ない。本能に自らの体格に最適なランニングフォームを刻み込まれている。教えられるまでもなく、ただ走るだけで最適値を叩き出し続ける。
ウマ娘がウマ娘である以上出てしまう誤差がない。だからその誤差の分、あらゆる基準値が他のウマ娘を上回る。文字通りの規格外。
故に、『スーパーカー』。ただの
「あんたに似たウマ娘なんか金輪際出てこねぇよ、突然変異種が」
「あら、酷い言い様。クラっときちゃうわぁ……」
「そもそも逃げウマ娘のアイネスフウジンと
あら、そこまで分かっちゃうんだ、と。マルゼンスキーは笑みを浮かべる。
マルゼンスキーの評価は3つに分かれる。一般層や多くのウマ娘、トレーナーからは逃げウマ娘だと思われている。他のウマ娘の先頭を行き、ぶっちぎるからだ。
経験を積んだり才能があるウマ娘やトレーナーからは『結果的に逃げになってしまう差しウマ娘』だと思われている。
そして、一握りのウマ娘やトレーナーが、本当にただ走っているだけと気づく。相手によって走り方を考えるとか、そういったことをする必要がないのがマルゼンスキーだと。
「あんたから学べることが多いのは否定しないがな」
「例えば……"
「…………」
「ダービーで担当ちゃん、入ってたわね」
"
だからこそ、"
その伝手がないウマ娘ほど、GⅠを勝てても一発屋になりやすい。1度"
当然だが、マルゼンスキーは"
それをマルゼンスキーの側から持ちかけてきたのがきな臭い。
「……何かお悩み事でも……?」
「話が早くて助かっちゃうヮ! ……いやぁねぇ、そんな警戒しないでも平気よ」
網馬がバックミラー越しに見たマルゼンスキーは、学生だとはとても思えない妖艶な笑みを浮かべていた。
「ひとり、預かって欲しいコがいるの」
誤字報告していただいた中で、誤字ではない単語があったためここでご報告いたします。
若干ゃ
→「若干ゃ草」で検索。けものフレンズ由来のスラング。
ウォームダウン
→クールダウンの間違いではなくちゃんとあります。