万魔殿の主〜胡散臭いトレーナーとウマ娘たちは日本を驚かせたい   作:仙託びゟ

41 / 189
視点があっちこっちどっち。


それぞれの1ヶ月、そして日本ダービーが来る

 ■祝電

 

「ターボちゃんおめでとう!」

 

 ウイニングライブが終わり、着替えてレース場から出てきたツインターボをアイネスフウジンが出迎える。ナイスネイチャとライスシャワーは用を足しに行っており、網は車で待機している。

 アイネスフウジンとツインターボの走り方はよく似ているが、ツインターボのそれはアイネスフウジンの走り方を更に尖らせたようなものであり、成功させる難易度に天と地ほどの差がある。

 それを成功させ、何よりあのトウカイテイオーを退けたツインターボを、アイネスフウジンは称賛の笑顔で迎えた。

 

「……あっ、うん、ありがと」

 

 しかし、当の本人であるツインターボの返事は浮かないものだった。

 アイネスフウジンはそれを見て、実感が湧かないのかと推測する。アイネスフウジンも、朝日杯を勝ったあとは喜びよりもふんわりとした世界から切り離された感覚があった。

 インタビューの時はレース後の興奮もあったのかシャカシャカと動いていたツインターボだったが、今はなにやら遠くを見ているようにおとなしかった。

 

「……そうだ! ショーグン!」

 

 とはいえ、すぐに何か思い出したようでスマホをいじり始めたときには普段の雰囲気に戻っていたが。

 アイネスフウジンも、メッセージアプリに溜まったチームメイトへの祝電を確認し、返信していく。ナイスネイチャのホープフルステークスの時もそうだったが、仲のいい友人はチームメイトが勝ったときにもお祝いメッセージをくれる。

 メジロライアン、ハクタイセイ、メジロマックイーン、パッシングショット、と、メッセージを見ていく中で、なんとなく引っかかるメッセージがあった。

 

「ん? ……これ、ヘリオスちゃん……?」

 

『ターボおめうぃんFooooo!!

マジテンションブチアゲフィーバー!!

やっぱ爆逃げしか勝たん!

可能性の先を見たぜぃ!! あざまる水産!!』

 

 いつも通りのテンションの高いダイタクヘリオスからのメッセージ。その中で、なんとなく「可能性の先を見た」というワードが浮いているような気がした。

 パッと見れば、爆逃げで勝ってみせたことへの称賛なのだが、アイネスフウジンはそこに別のニュアンスを感じ取っていた。

 

「……気の所為、かな?」

 

 返す文面を迷っているうちにナイスネイチャたちが戻ってきたので、メッセージを送ってきた友人たちにスタンプで返信をして、網の車へと向かった。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 ■モラトリアム

 

「屈辱ですわ……」

 

 4月の末、ダイイチルビーは実家の療養施設にいた。

 3月に行われた高松宮記念、母親との二代制覇を掲げた大一番で優勝を阻んだのはなんと忌々しい青メッシュの黒鹿毛。

 その悔しさをバネに安田記念でダイタクヘリオスとアイネスフウジンに雪辱を果たすため、ハードトレーニングを積んだ結果、捻挫による靭帯損傷の故障を受けてしまった。

 全治1ヶ月。マージンを取った上で調整やリハビリまで考えると、安田記念にはとても間に合わない。踏んだり蹴ったりである。

 ちなみに、ダイイチルビーの出走回避を見て、アイネスフウジンも安田記念を回避、宝塚記念でメジロライアンと対決することに決めたというのは余談である。

 

「ハハ……ドンマイ、ルビー」

 

「……まぁ、ミラに看病されるのも悪くありませんし、今はこの屈辱を甘受し、マイルチャンピオンシップでこそリベンジを果たしますわ……!」

 

 普段看病される側であるケイエスミラクルは、ダイイチルビーのお見舞いに来たときに彼女に請われて簡単な看病をすることになった。

 はじめはダイイチルビー付きの看護師が諌めていたが、ダイイチルビーが譲らないでいると諦めたように「お嬢様の話し相手になっていただけますか?」と頼まれたのだ。

 そう、看病と言っても、ただの話し相手である。意識ははっきりとしているし、歩くのを避けたほうがいいと言う以外に生活に不便はないのだから。

 

「しかし、このままだとミラに追い抜かれてしまいますわね……というか、アイネスフウジンの所属チームも同じ名前では? ややこしい名前をおつけなさったものですわ……」

 

「ははは……わたしは"ケイエスミラクル"だから正確には同じ名前でもないけど……」

 

 ミラはあだ名である。しかもダイイチルビーが勝手に呼んでいるだけだ。

 

「ミラとの戦いは、その前のスプリンターズステークスになりますわね。えぇ、昨年はわたくしが制覇しておりますから、負けは致しませんわよ」

 

「うん、胸を借りるつもりで挑むよ。でも、そう簡単に連覇できると思わないでほしいね」

 

「っ! そ、そんな……いえ、でもミラにでしたらいつでも胸くらいお貸しします……や、やっぱり心の準備が……」

 

「ルビー?」

 

 ふたりの団欒は続く。例え宝石の輝きがいつか失せるとしても、奇跡がいつまでも続くとは限らなくとも、少なくとも今この瞬間は偽物(イミテーション)ではないのだから。

 

 

 

☆★☆

 

 

 ■なんかちがう

 

 走る。走る。走る。

 ツインターボがこれほど走るトレーニングを行うのは、網にスカウト(欺瞞)されてから初めてのことである。

 その理由は、ツインターボのフォームがかなり整ってきたことと、ライスシャワーの伝手で手に入れた情報により、坂路訓練が骨や関節、靭帯に対する負担の低さの割に筋肉への負荷が大きいという結論が出たためである。

 以前からその負担箇所の偏りによる故障確率の低減は注目していた網であったが、想像以上の効果があることがわかり本格的に運用し始めた。

 ただ、坂路訓練だけでは伸ばしきれない部位がある可能性も懸念として残り、当面は坂路訓練だけではなく他の筋肉トレーニングと併用する形になる。

 なお、この懸念は返礼としてその()()へと伝えられ、あちらのトレーニング内容も少なからず見直されることとなった。

 

 現在ツインターボが行っているのはトレッドミルを使った坂路訓練だ。傾斜をつけ、上りと下りを繰り返す形。

 トレッドミルはランニングと違い、脚への負担が比較的少ない。その分、前に蹴り出す力は鍛えられないため、全身持久力や精神面のトレーニングになる。

 

「た、ターボ、さん……そっ、そろそろっ、やめたほうが……っ」

 

「ぁぁぁぁ!」

 

 もはや言葉の体をなしていない叫びだが、トレーニング開始時から一緒に走っているライスシャワーには、それがなんと言っているかわかった。つまり、「まだまだ」である。

 ライスシャワーと同じように低酸素マシンのマスクを着け、既に坂路2本相当を走っている。ツインターボの全力疾走からすればマシンの速度は抑えられているが、それでもそろそろ一般のウマ娘なら音を上げる頃だ。

 事実、ツインターボの走りは既にへろへろもいいところで、口は開き、天井を仰ぎ、全身から汗を垂らしている。ただ、それでもトップスピードより格段に下がるが遅くはないその速度を落とすことはない。

 

 網がツインターボにした指示は「お前が限界だと思うまでやれ」だった。低酸素マシンも指示してはいない。隣のライスシャワーを見てやりたいと言い出したのはツインターボだ。

 ライスシャワーもツインターボがこうなってから何度か声をかけているが、答えは毎回「まだ」だった。

 

 皐月賞のあと、ツインターボはその功績をそれこそ学園中に自慢する……ものだと思っていた。それぐらいやってもおかしくないと。

 しかし、その予想に反してツインターボはやけに大人しく、時折遠くを見つめるように考え込む。そんなことをしたあと、《ミラ》の面々の前で「なんかちがう」と呟き、さらにトレーニングに没頭するようになった。

 オーバーワークになるような無理は網がさせないようにしているものの、限界ギリギリまでトレーニングを続けるその表情は、今までツインターボが見せたことのないものだ。

 

「――ぁべっ」

 

「ターボさん!?」

 

 そして限界が来る。

 息も絶え絶えと言った感じでトレッドミルによって射出され、マットの上にぽいされたツインターボを介抱するため、ライスシャワーはツインターボのトレッドミルの倍の勾配で作動していたマシンを降りて、ツインターボのマスクを外す。

 トレッドミルの衝撃吸収構造とマットのお陰で怪我はなく、単純に極度の疲労だろう。ライスシャワーはツインターボを小脇に抱えて椅子の上に寝かせると、再びトレッドミルでのランニングを開始するのだった。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

■責任

 

「――もしもし、安井です。お久し振りです。有の時の鼻はもう大丈夫ですか? ……ハハ、そうでしたか。いえ、よかったよかった。……はい、そうです。その話です。早ければダービーが終わった頃にでも。はい、そうなると思います。ならないように最善は尽くしますが……はい。ご迷惑おかけします。貴方ならルドルフさんも納得してくれると思います。はい……ありがとうございます。それでは、失礼します」

 

 電話を切って、安井は深く溜息をつく。

 ニュースで報じられるそれに、安井への批判は驚くほど少なかった。ニュースに映る有識者や専門家は誰もあの新人の策を見破れていなかったのだから当然だ。批判はすべて自分に返ってくる。

 一方、無責任に書き込める匿名掲示板では酷いものだ。戦犯扱いから役立たず発言。酷いものでは殺害予告まである。

 安井とてそれなりの年数をトレーナーとしてやってきているのでこのような経験は初めてではないが、流石に期待されていただけあって規模はだいぶ大きい。

 

 負けるのもおかしくないほど《ミラ》の陣営が見事だったとも、若葉ステークスの映像がウォームアップランまで入っていればとも、言い訳しようと思えばできる。

 しかしそれはトレーナーとしての責任を放棄する行為であり、なによりあの皐月賞で期待以上の能力を引き出したトウカイテイオーへの背信だ。

 今回の敗因はツインターボを侮っていたことではなく、仕掛けるタイミングのミスだ。そもそも領域を出せなければ勝てないという状況に追い込まれた時点で負けていた。

 トータルでツインターボより速く走れるのなら、ツインターボを意識していようがしていまいが勝てていたはずだ。スタミナだけを見ればトウカイテイオーは2000m走り終えても余裕があった。それならもっと手前からスパートをかけるべきだった。

 これをトウカイテイオーの判断ミスと思ってはいけない。自分は指導者なのだから、弥生賞の時点でそれを指摘して皐月賞に間に合わせるべきだった。少なくとも、安井はそう考えた。

 

 安井がトレーニングスケジュールを練るためパソコンを開くと、メールが何通か届いていた。もちろん、殺害予告のような迷惑メールはしっかりと分別されている。

 そしてその何通かも、すべてが別の出版社からのインタビューの依頼だった。トウカイテイオーは皐月賞で負けはしたものの未だ注目株だ。ツインターボのせいで極度のハイペースになったこともあり、負けたトウカイテイオーのタイムも――ついでに言うなら4着のイブキマイカグラまで――レコードを更新するものだったからだ。

 むしろ、ツインターボというライバルが現れたお陰で注目は増している。ツインターボがダービーをとるのか、トウカイテイオーがリベンジを果たし師弟二代ダービー制覇を達成するのか。

 さらにトウカイテイオーがライバル宣言をしたナイスネイチャも日本ダービーには参戦する。他にも、日本ダービーから参戦するライバルはいる。

 トウカイテイオー一強と考えられていたクラシック戦線が一気に戦国時代になったからか、ファンのボルテージは上がり調子だ。

 

 だが、だからと言ってトウカイテイオーのメンタル面にいい影響があるわけではない。皐月賞直後の抜け殻のような状態こそ比較的すぐに脱したが、どこか空元気のような雰囲気が抜けきらなかった。

 負けん気の強さからオーバーワークにならないかを心配したが、トウカイテイオーは思いの外冷静だった。皐月賞の最後に出した領域なしの末脚をものにするため、無理をしない程度のトレーニングで底上げを図っている。

 だが、その落ち着きがいつ崩れるかはわからない。トウカイテイオーという娘は、その才能と強さで忘れがちになるがまだ子供なのだ。

 今まで重圧は自信によって支えられていたのだろうに、皐月賞の敗北で期待の重圧はモロに彼女の身に降りかかるはずだ。

 

 さらに言えば、大慶祭の日にシンボリルドルフから言われたことも安井の心に引っかかっていた。自分の気づかない、気づけていない心の闇がある可能性もある。

 このクラシックシーズン真っ只中に、毎日予定が詰まっているであろうシンボリルドルフが、一番弟子のためとはいえ暇を作ってメンタルケアできるとは安井には思えない。

 今の所、日本ダービーに対するモチベーションは落ちていないように見えるが、なんの弾みで揺らぐかもわからない。

 インタビューの依頼はトウカイテイオーと安井に対するもの。URAからは「ひとつは受けて欲しい」と打診が来ている。

 安井とてその気持ちはわかるが、この綱渡りの状態で受けるのは危険すぎる。やはり断ろうと安井が考えていたときだ。

 

「トレーナー? インタビュー、受けるよ、ボク」

 

「え、テイオー?」

 

 いつの間にか後ろにいたトウカイテイオーが、パソコンを覗き込んでそう言った。安井が見る限り、その顔に無理をしている雰囲気はない。

 流石にあの抜け殻状態でインタビューは受けさせられないと皐月賞直後のインタビューは安井の独断で断っていたのだが、確かに今はそのような様子は見えない。

 

「本当に大丈夫か? 無理してるようなら……」

 

「大丈夫だって! ボクはカイチョーみたいに成るんだから、カイチョーならこのくらいのインタビュー軽くこなすでしょー?」

 

 カラカラと笑って見せるトウカイテイオー。本人がこう言っているのに無理に断らせるわけにもいかず、結局一番メンタルを考慮して無難な質問をしてくれるだろう月刊トゥインクルからのインタビューを受けることになった。

 安井の脳裏には、「無敵のテイオー様」といういつもの言葉が出てこなかったことが、最後まで引っかかっていた。

 

 

 

★☆★

 

 

 

 ■決意

 

「青葉賞2着おめでとー!」

 

「あははー……なんか微妙だよね、やっぱ」

 

 マヤノトップガンからの祝福を素直に受けられないナイスネイチャ。一戦一戦を真面目に勝ちに行くことは決意したものの、流石に日本ダービーという本番前のトライアル、青葉賞に全力を出すわけにもいかず、いくつかの作戦を試行するに留めていたこともあり、一応1着を狙ったものの結果は2着となった。

 2着でも日本ダービーの優先出走権は与えられるのでその点については問題ないが、なんとなく不完全燃焼なのは確かだ。

 日本ダービー、網はツインターボを勝たせるつもりであると話していたが、ナイスネイチャも本気でこれを取りに行くことは既に当人たちに話してある。

 網は「ナイスネイチャが納得できるように」と、ツインターボは「全力でもターボが勝つ!」と言って受け入れてくれたから、遠慮をする気は一切ない。

 

「……それじゃ、やっぱり無理だったかぁ」

 

「うん。多分、テイオーちゃんかなり焦ってる」

 

 マヤノトップガンによるトウカイテイオーのランニングフォーム改善の説得は、再び失敗に終わった。いつものような跳ね返すような態度ではなく、いなすような、躱すような、そんな断り方だったと言う。

 トウカイテイオーのメンタルに変調があるのは間違いないし、それは網()()()()なのだろう。網はトウカイテイオーの精神面が未熟だと言っていた。

 元々ツインターボに日本ダービーを勝たせるつもりだったということは、ナイスネイチャの行動無しでもう一度トウカイテイオーを打倒するつもりだったのだろう。

 と言うことは、むしろ皐月賞敗着で大きく精神的に揺らがせることを前提としていたと考えたほうが自然だとナイスネイチャは思う。

 そして、トウカイテイオーのメンタルにダメージを与える作戦は見事成功したようだ。無敗の三冠という夢の出鼻を挫くことで。

 

 ウマッターなどのSNSでの評価は賛否両論だ。当然、網やツインターボを称賛する声のほうが大きいように見えるが、中には1度『フロック』と言ったことを訂正したくないのか未だその論調を押し通そうとする者や、トウカイテイオーのファンからは不満そうな声もある。

 とはいえ、後者に関してはそれほど不思議でもない。応援していた相手が負けたら不満は出るだろう。実害がない限りは網も放置すると言っていた。

 ツインターボはネットニュースや匿名掲示板はもちろんSNSも見ないし、網はこの程度の悪意でどうにかなるようなメンタルをしていないとナイスネイチャは考えている。

 

 日本ダービーまで勝ってしまったらこの辺りはどうなるだろうと考えて、ナイスネイチャは自然と自分が『トウカイテイオーに勝つ』ことを前提に考えていることに気づいて苦笑した。どうやら、身につけていた謙虚さは随分と痩せ細ってしまっていたようだ。

 

(でも、やるからには勝つ。夢見なきゃ、ね)

 

 それが、ツインターボの勝利によってもたらされたものなのかはわからない。恐らくは今までの積み重ねが一番大きいだろう。

 日本ダービーまで1ヶ月をきった。決戦の日は、近い。

 

 

 

★☆★

 

 

 

 ■先触れ

 

「おはようございます、███████さん。駿川です。お届け物をお預かりしているので確認をお願いします」

 

 事務員である駿川たづなが彼女の部屋にやってきたのは、朝の自主トレが終わったあとだった。彼女のルームメイトは海外からの招待戦に出走するため、一路アイルランドへ飛んで留守にしている。

 そのため最近はルームメイトの遊びに付き合わされることもなく、比較的快適な毎日を送っていた矢先のことだった。

 

「匿名の贈り物ですね。ファンではなくトレーナーさんで、こちらでどなたかは把握しているので不審なものはないと思いますが、念の為にここで確認していただけると助かります」

 

 その要請に特に否もなかったため、駿川が持ってきた段ボール箱を開き、中を確認した。

 まず出てきたのは手紙と思われるメモ。読みやすい丁寧な字はペンで書かれていた。

 時節の挨拶などを除いてさわりだけ抜き出すなら、『担当しているウマ娘から貴女のことを聞いて、先行投資としていくつか贈り物をしたい。スカウトを前提としたいところだが、現在複数担当を抱えていてスカウトは少々先になるため、他のトレーナーがスカウトに来たならそちらを優先して貰うために匿名とした』と言うことだった。

 友人自体は少ない彼女だが、心当たりはある。しかし、お節介焼きな友人たちもまだ担当トレーナーは契約していなかったはずだが。

 そんなことを考えながら中を改めた段ボール箱の中の贈り物は、しかし確かに彼女のために贈られたであろうと予測できるものだった。

 

「これは……なんでしょう、なにかの機械……?」

 

 駿川が疑問をこぼす。箱に書かれた説明書きを読む限り、低速ジューサーであることが見て取れた。

 すぐさまウマホで詳しいことを検索してみる。評判の高い低速ジューサーで、製品の中では手入れがしやすいものであることや、確かに自分向けであることが確認できた。それと同時に、数万円はするものであることもわかり、気が遠くなりかけたが。

 段ボール箱の中にはレシピも同梱されていて、その中には低速ジューサーを使わないものもあった。

 

「こっちの袋は……ビタミンCとビタミンB群の粉末サプリメントですね。飲み物に溶かして飲むことができるもの……」

 

 それの使い方もレシピに書かれていた。水溶性が云々こまめに摂取などということだったが、とりあえず有用であることは見て取れた。なくなったら通販サイトで買い足すといいとも。

 少なくとも怪しいものではない。サプリメントの販売会社もメジャーなもので、品質の保証もできるものだろう。

 彼女は、とりあえずそれを受け取っておくことにした。彼女にとって有益なものであることは間違いないし、最悪、会った時に突き返せばいい。サプリメントも仕送りで買って返せる程度の値段だ。

 

「一応、学園を通したものですからそう悪質なことにはならないと思いますけど……何かあったら、事務の方に相談してくださいね」

 

 駿川はそう言って帰っていった。

 ███████は考える。自分をスカウトしたいなどという奇特なトレーナーがどんな人物かを。期待しながら、しかしそんな期待を押し込めながら。

 

 後日、心当たりである友人たちから知らないと言われ、首を傾げることになるのはまた別の話。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 ■到来

 

「トウカイテイオー、ツインターボ、イブキマイカグラ、シャコーグレイド、そしてナイスネイチャ」

 

「いやぁ、あたしを差し置いてなにやら目立ってくれちゃってるじゃないの」

 

「でも、真打ってのは遅れてやってくるもんだし?」

 

「まぁあたしが来たからにはもうデカい顔させないから」

 

 

 

「そろそろ、あたしも混ぜろよ」

 

 

 

110(ひゃくじゅう)%(ぱー)、勝ってやるし!」

 

 役者は揃った。

 日本ダービーが、来る。




 下から2番目今じゃなくてもよかったかな……
 でもここ逃すとタイミングがな……

 伏線回でもある。これまでも結構まいてきたけど。新人予定の子もチラッと。
 ここまで小ネタも結構まいてきたけどあまり指摘がない辺り小さすぎて気づかれてないのかネタというほど面白いものでもないからスルーされてるのか。
 まあ気づいた人が少し面白い、調べてみてなるほどとなる程度の小ネタなんで気が向いたら探すのも一興。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。