万魔殿の主〜胡散臭いトレーナーとウマ娘たちは日本を驚かせたい 作:仙託びゟ
「ほんじゃ最初の質問。『黒い人はいつも黒いスーツを着ていますが、黒いスーツ以外の私服を持っていないんですか?』」
「持ってますよ」
『は?』
『マジか』
『なんでスーツしか着ないんだよwwww』
「着慣れているからですね」
「私服って言っても大体Yシャツとかのフォーマルファッションなの。スーツと大して変わらないの」
「スーツがそぐわない場というのはありますから、必要とあらば他の服を着るのは社会人としてのマナーですし、必要になれば都度購入します。着物とか浴衣も持っていますよ」
『黒い人の浴衣見てぇ』
『ウマッターのファンクラブが騒ぎ出してる』
『あんのかよ黒い人のファンクラブ』
『顔はいいからな』
「次の質問だ。『いつも黒一色の服を着ていますが、シンコウ軍団となにか関わりがあるのですか?』」
「ありません」
『バッサリ』
『まぁ黒一色と聞けばウラレファンはシンコウ軍団思い出すよな』
『ないんだ』
『そりゃそうだ』
「『チーム《ミラ》のスカウト基準はなんですか? 今のところ名門からはスカウトしていないようですが、寒門になにかこだわりがあるんでしょうか? また、こういうウマ娘は優先的にスカウトしたいという基準があれば教えてください。』これはウチも気になるなぁ」
「フィーリングです。名門寒門は特に気にしてません。メジロ家やシンボリ家でも縁があればスカウトしますし、なければそれまでです」
『意外過ぎて芝』
『別に寒門の星ってわけでもないんやな』
『ただの一匹狼』
『才能で選んでるわけじゃないのか』
『まぁ、寒門をここまで強くできる指導者は貴重だし、寒門中心で育てて欲しさはある』
「トレーナーのモチベーションは多分育ててて面白そうかどうかだと思うの。王道な先行や差しよりも奇を衒ったことができる人材だとスカウトされやすいの。ただ変なことができるんじゃなくて、それを戦術として昇華できるかが重要なの。要するに他人にはないアピールポイントがあると有利。とはいえ、それもトレーナーが勝手に見つけてくれるパターンもあるの」
『デビューしてる面子見てなんか納得する解説だわ』
『セオリー無視のハイペース逃げ、スタートスパートの破滅逃げ、皇帝一歩手前のレース支配、長距離特化(仮)だもんな』
『尖った性能のキャラ作りたくなるのわかる〜』
「あとトレーナーしつこいのとか鬱陶しいの嫌いだから、自分から売り込むのは初回でダメならやめたほうがいいの」
「スカウトされたいから言うて押しかけるなっちゅーことやで。次、『今年のジャパンカップ、日本総大将は誰になると思いますか? できればアイネスさんかネイチャさんに出てほしいです』やって。アイネスはマイルCS出るから無理にしてもネイチャはいけるんちゃう?」
「実際、URAの方からも要請は来てるんですよね、出てくれないかと。ただ、ナイスネイチャも初めての長距離レースのあとすぐになりますし、十全なコンディションでは挑めないと思いますので遠慮したいなと。候補としては今年中に引退予定とはいえまだ現役でGⅠ3勝のハクタイセイか、2400mも十分視野に入っているGⅠ2勝のイブキマイカグラですかね」
『ライアンは?』
『屈腱炎』
『テイオー復帰は無理か……』
『アルダンや白石さんも強いけどGⅠ勝利なしだから日本総大将できるかって聞かれるとな……』
『マックイーンはどうなん?』
『所感だがいいか? マックイーンはステイヤーだから2400mだと少し短い』
『死ねどすさんはマイラーやろ』
『マイラー(菊花賞出走決定済)』
『そこに凱旋門賞とったマイラーがいるじゃろ?』
「ツインターボはアカンの? メンタルがどーのこーの言っとったけど」
「あのタイミングは、ツインターボ自身トウカイテイオーとの関係で悩みがあった時期で没頭できる何かを欲していて、体に刷り込むにはちょうど良かったんですよね。なので、普段より遅いペースのトレッドミルを体力の限界ギリギリまで走らせて体にペースを覚えさせました。だから2400m足りたんです」
「今は違うと?」
「もう元のペースに戻ってるでしょうし、また刷り込むにしても今の精神状態じゃうまくいかないでしょうね……」
『おかしい。言ってることは普通のことなのに疑わしい』
『黒い人は嘘をつかないで真実を隠すの上手いよね』
『すべてを疑え』
『どうせ2400m走れるようにしてくるゾ』
『(今は)無理ですね』
「風評被害ですよね?」
「自業自得なの」
「次だ。『トレーナーさんの好みなタイプはウマ娘で言うとどんなタイプですか?』」
「なぁええんか!? これホンマに流してええんか!?」
『あっ、ッスー……』
『何が始まるんです?』
『第三次大戦だ』
『ファンクラブ民だろこれ』
「んー……そうですね、それこそミホノブルボンとか、オグリキャップとか好みですよ」
「いやアカンアカンアカンアカン!! どんな意図やったとしても荒れるてこれ!!!」
『クール系か?』
『ファンクラブ民阿鼻叫喚で芝』
『本人を目の前にしてのそれはもうプロポーズなんよ』
『アイネスが動じもしないのが逆に怖い』
『良かったなオグリ。好きなだけ飯食えるぞ』
『飯コメで露骨な反応を見せるオグリで芝』
『お前も十分自腹で食えるやろ!!』
「トレーナー、わざとやってる?」
「ええまぁ」
「ホンッマええかげんにせえよ?」
「あの……トレーナーはウサギとかフェレットとかタヌキとかアヒルとかの『一見無表情に見えてめちゃくちゃ感情豊かな動きをする小動物』が好きだから……その……ね?」
『オグリ小動物扱いで芝』
『定期的に訪れるオグリのペットタイム』
『オグリがスンッてしてて芝』
『この面でウサギ好きとかいうギャップよ』
『あざといのわざとやってない?』
『こうどなじょうほうせん』
「私は小動物ではない」
「ハハハ。飲食店でお腹いっぱい食べたいときは事前に食べたいメニューを決めておいて1ヶ月ほど余裕を見て予約しておくと比較的店側も快く受け入れてくれますよ」
「ほんとか」
「店側が恐れるのはいきなり現れて店にある食料を平らげる上に従業員が忙殺され、他の客に対するサービスが滞るからですので、事前に来る日時がわかっていて、注文の量に耐えうる材料も人手も揃えておけるという条件なら、単純に売上が伸びるという点で歓迎されるのではないでしょうか。仮に断る場合でも、店先で断るのと電話先で断るのとでは心理的にも違いがありますし」
『なお、バイトにとっては悪夢』
『オグリ来襲特別手当ほしいわ』
『1ヶ月あれば臨時の短期バイト雇えるかな』
『なるほどこの感じか』
『確かに癒やし』
『無表情なのにキラキラしてるな』
「ただ、食べ放題へ行くのはやめておいたほうがいいですね、流石に。店側が破産しますから」
「むぅ、それは仕方ない。次だ。『アイネスフウジンさんのお好きな男性のタイプはなんですか?』」
「なぁホンマに大丈夫かこれ!!?」
「正直今のところロマンスを味わいたい以外で恋人を作る理由がないし、そんな理由で将来にまで関わるかもしれないような相手を選ぶのは気が引けるのもあって恋愛は考えてないの。強いて言うならそれなりにカッコよくてマイナスポイントができるだけ少ない、あたしのほうが収入が多くても就職はしてくれる人なの」
「アカンこれはこれですごい現実的や!! 無事かリスナー!!」
『なんとか致命傷で済んだぜ』
『たかがメインブレインをやられただけだ!』
『そもそも雰囲気が庶民派で気安くても圧倒的高嶺の花だぞ』
『その条件だとトレーナーはどうなの?』
「いや〜キツイの」
「教え子に手を出すことはありえませんよ」
「黒いのはわかるけどアイネスはなんでやねん。ええやん、条件にあっとるで」
「手のかかる弟みたいな感じで恋愛対象としては見れないの」
『弟……?』
『弟……?』
『????』
『お馴染みリプライ〜』
『これがスペースネイチャ状態か』
「この人けっこう猫かぶりなの」
「あぁ言っちゃうんですねそれ」
『芝』
『容赦なくて芝』
『この黒い人また味方から暴露されてる……』
『黒い人がたいして慌ててないのも芝』
『猫被ってんのはうっすら察してたけど弟みたいってことは割とやんちゃ方向なのか』
「ご想像におまかせします」
「まあ担当に無体なことしとるっちゅー噂はほぼほぼ払拭できるやろ、この感じは」
「それでは次だ。『来年クラシックを迎えるウマ娘たちの中で、自分の担当のライバルになりうるウマ娘はいますか?』だそうだ。これはさっき話題に出たライスシャワーのライバルになるな?」
「そうですね。まず国内ですが、ライスシャワーとステイヤー路線が被りそうという点で菊花賞のライバルになるだろうウマ娘はマチカネタンホイザですね。王道で遊びがない、没個性的でありながらも量産型に収まらないので油断ができない怖さがあります。マチカネ一派では珍しいタイプですね」
『褒めてんのか貶してんのかわかんねぇな』
『多分褒めてるんだよな……?』
『大丈夫、マチタンカノープスだから』
「それと、距離延長がうまくいった場合はミホノブルボンもライバルになりうるかなと。ただこのふたりはアイネスフウジンと似たタイプで格上に対する手札が少ないので、菊花賞で負けることはまずないと思います」
「それとはまた別だけど、ブルボンちゃんとライスちゃんは結構仲がいいの。よく一緒にトレーニングしてるし」
『昨年のクラシック組もそうだしTTNin死ねどすもそうだし、結構ライバル同士って仲良いのな』
『永年3強も仲いいだろ』
『ルドルフとニシキとかシリウスとミホシンザンとかのバチバチしてるイメージが強くてな……』
『ルドルフとニシキそんなバチバチしてたか?』
「前の世代で言えば、当然と言えば当然ですが、春の天皇賞でぶつかるだろうメジロマックイーンですね。あれはステイヤーのひとつの答えとも言えますから」
「まー勝鞍が菊花賞と春天やもんなぁ……もろステイヤーやわあの娘は」
『マックイーンが春天三連覇すると思う?』
『連覇までは確実やろ。今年のクラシック組にあれに勝てるステイヤーおらんし』
『死ねどす』
『死ねどすさんに3200mは長い』
『距離限界おじさんまだ生きてはったん?』
『ここまでダーバンなし』
『ブルボンの三冠阻止よりマックイーンの三連覇阻止のほうが反発多そう』
『メジロ家は信者おるからなぁ……』
『まだ連覇すらしてないのに三連覇の心配すんのか……(困惑)』
「それから国外も当然怖い存在はいると思います。ただやはりステイヤーはクラシックディスタンスのプレイヤーに比べると情報が少ないので……事前の対策は難しいかなと」
「なるほどなぁ……次、『トウカイテイオーの復帰はいつ頃になると思いますか? また、怪我の原因はなんだと思いますか?』これ大丈夫なん? 燃えへん?」
「復帰時期は正確には言えませんが早ければ大阪杯、遅くとも宝塚記念には出てくるでしょうね。怪我の原因に心当たりはあります」
『おっ』
『マジか』
『有能』
『安井とは違うわ』
『黒い人がテイオーのトレーナーやってくれ』
『安易な安井disやめろや』
「まずトウカイテイオーは非常に柔軟性があります。だからこそあれほどのストライドを生み出せるんですが、柔らかい筋肉は衝撃を吸収する能力が低いんです。その上で、トウカイテイオーは叩きつけるような走り方をしていますから……」
「ダメージがモロに骨に行ったっちゅうことか?」
「語弊を恐れず端的に言えばそうなります。ただ、トウカイテイオーのランニングフォームは前史に類を見ない特殊なものです。ストライドピッチと言いましょうか……いえ、テイオーステップですかね? つまり根本的にデータ不足なんです。私のこれも半ばこじつけに過ぎませんし、B種免許を持ってる身としても正確なことは言えないんですよ。事実、安井氏を批判している方でそれを指摘できた方はいらっしゃるんですかね?」
「まぁ、いないだろうな」
「あとからならなんとでも言えますがね。怪我しないようにする改善案は根本的にあのテイオーステップを矯正してランニングフォームから変えてしまうか、筋肉が衝撃を吸収できる程度になるまで鍛えることですが、どちらにしろクラシックに間に合わせるには時間が足りませんでした。これは邪推ですが、安井氏を今批判している方々は、クラシックを回避する判断をしていても批判していたのではないですかね?」
『ホント歯に衣着せねぇなこの人』
『そこが気に入った』
『底国民のライフはもうゼロよ!』
「そういうわけですので、トウカイテイオーは今後も怪我と付き合っていくことにはなると思います。いくら矯正しても、彼女の負けん気によっては本能に負けて解放してしまうかもしれませんし、新任の岡田氏もトウカイテイオーの意思を尊重してそれを黙認するでしょう。ただ、だからと言って弱体化することを期待はできないんですよね……レース中に急激に成長しますから、彼女」
「あぁ、皐月でもダービーでもあったなぁそんなん……」
『ワイ健全なテイオー民、この先も怪我する可能性が高いと言われ号泣』
『岡田Tってヤエノ鼻血事件の人?』
『せやで。皇帝の弟子や』
『本格的にルドルフの肝いりコンビになったわけか』
『あの人、黒い人よりウマ娘優先主義だから確かに怪我するってわかってても無理すること許しそう……』
『期待って……』
「そりゃライバルが弱くなればこちらは勝てますから。期待しますよ、トレーナーとしてはね。担当を勝たせるのがトレーナーの仕事です。ライバル間の仲が良いのは幸いですが、だからと言って相手を叩きのめすのに躊躇はしません。勝者はひとりしかなれないのですから、こちらの夢を叶えるために相手の夢を踏み潰す。それが競争社会というものです」
『まぁ目を逸らせない現実だわな』
『タマとオグリもレースではギラギラしてたしな』
『皇帝の七冠の中途でも夢破れたウマ娘が一山はいたんだよな……』
『正論オブ正論』
「本音を言うと弱すぎても意味はないので競り合ってギリギリ負けるくらいの弱体化でお願いしたいですね」
『そういうとこだぞ』
『キレイな笑顔でなんて物騒なこと言ってんの』
『まーた批判記事増えるぞコレ』
『基本的に聖人ムーブなのに要所要所でオブラートも何もない汚い現実を交えた黒い発言するからアンチが増えるんだよな』
『信者も増えてる』
「というか、ほとんど私への質問なんですね」
「アイネスのほうは割とウマッターとかで質問に答えとるしなぁ……ワタアメやっけ、あのサイト
「網馬トレーナーはこう、極端に情報が少ない。SNSもやっていないしな」
「トレーナーの情報って要ります?」
『人間のファンにとってはそうでもないけど、ウマ娘にしてみれば割と欲しいのよ』
『自分がウマ娘からどれだけ狙われてるか自覚して』
『一部では寒門の救世主みたいな扱いされてるぞ』
「あー……それじゃあいくつか。寒門のウマ娘を受け持ってきて気づいたことなんですが、筋肉の付き方が偏ってます。寒門のウマ娘は上半身が未発達なことが多く、下半身偏重の鍛え方になっていることが多いんです。走ることは全身運動ですので、当然全身の筋肉を使います。筋肉の偏りはそのままランニングフォームの歪みに繋がり、それが余計な負担、スタミナの浪費、スピードの阻害を起こしてろくな事になりません」
「ええんか? そんなん言うてもうて」
「スカウトしてもらいたいウマ娘が詰めかけてトレーニングが滞るよりマシです。いいですか? まず自分の適性を知ることです。素人でも先行や差しができない性格は判別できます。バ群が怖い、周りにウマ娘がいるとイライラする、周りに釣られがちな方は向いていません。逃げるか追い込むかしてください。トレーナーのいない方はトレーナーに聞くよりベテランの教官に聞いたほうが参考になります。トレーナーは担当外の娘に下手なこと言えないので曖昧に済ませがちですが、長く務めてる教官は下手なトレーナーより経験豊富で真摯になってくれます。もちろん礼節を忘れずに」
「ここで止めるとめっちゃ文句言われるからあんま止めたないんやけど尺保たへんから別んとこでやってくれへん? それこそ講演会向けの内容やろそれ」
『寮のルームメイトが部屋を出てった。これ絶対教官探しに行ったわ』
『栗東寮ドタバタで芝』
『美浦も大して変わらんぞ』
『名家出身としては基本的なことを知らない方々が多いことにビックリしました』
「このくらいなら調べればわかります。ただ、寒門の方はこのあたりの知識を軽視して『トレーニング方法』やら『脚を速くするには』みたいな方向で調べがちなんです。ハッキリ言って、間違った努力は努力ではなく徒労です。まずは正しい知識をつけてください。学園で教わることを疎かにしてトレーニングに傾倒すると間違いに気付けないまま時間切れを迎えますよ」
『ひえっ……』
『ウマ娘以外にも効くタイプの説教』
『泣いた』
『無差別テロかな?』
『その忠告あと10年早く聞きたかったよ』
「なんやこっちにも耳に痛いわ」
「若そうなのに苦労が見えるな……そう言えばおいくつなんだ?」
「私ですか? 23ですよ。大学も出ています」
『若っ』
『わっか』
『20代前半の色気か? これが?』
『三十路くらいだと思ってたわ』
『高等部生が何人か立ち上がってて芝』
『そらイケメン金持ちで若手の有能トレーナーやぞ。乙女ゲー世界の住人や』
『なお、教え子に手は出さないと公言済み』
「トレーナーは絶対手出さないと思うから諦めたほうがいいの。卒業してからのほうがまだ可能性があるの」
「どうかトレーナーが未成年に手を出した場合の末路を考えてくださいね。破滅したくないので」
「さて、ええ感じやけど尺ないわ尺! 今回はこんなところでしまいにするで! いやブーイングがすごい! 画面埋まっとるやん!!」
「次回は何事もなければ再来週、秋の天皇賞の予定だ。よろしく頼む」
「はい、てことでおしまい!! タマモクロスと!」
「オグリキャップと」
「アイネスフウジンと〜」
「網馬怜でお送りしました」
「「「ほなな〜」」」
『ほなな〜』
『ほなな』
『ほななって言え』
『ほなな〜』
『網馬……ほななって言え……言わないなら帰れ……』
『無言で手振るだけの黒い人芝』
『ほななー』
『オグリのほななたすかる』
ヤマニンゼファー、こっちでもタイムライン的には出番が近いから来るなら来るで早めにどんなキャラなのか出してくれ。