万魔殿の主〜胡散臭いトレーナーとウマ娘たちは日本を驚かせたい   作:仙託びゟ

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 最近こいつ12時に更新してねえな。


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 夕暮れ。本番前の最後の調整から戻ってきたトウカイテイオーを岡田が迎える。折れた骨は昨年内に繋がり、そこからここまではリハビリ。

 岡田とトウカイテイオーの判断。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。トウカイテイオーの強さの根幹には、どうあがいても『テイオーステップ』があったからだ。

 その分トレーニングそれそのものの方向性を変えた。具体的に言えば、そして結果から見れば、そのトレーニングは網がチーム《ミラ》に施しているトレーニングメニューと似たものになっていた。

 すなわち、負担の少ないプール運動と、坂路での軽度の調整。そして、基本的には走らない、走ることで鍛えていた筋肉は別の方法で鍛える。レース以外での負荷を限りなく削る。

 そして、勝負服の調整。シンボリルドルフに寄せて作られていたデザインを一新して、脚の保護能力を上げた。衝撃の吸収を筋肉だけでなく、ブーツ全体で補うことで補強した。

 

 『テイオーステップ』そのものの調整は、レース中に行う。実際、今までの2回のGⅠで、トウカイテイオーはそのランニングフォームを研ぎ澄ませてきた。

 皐月賞ラストの強力な伸び、日本ダービースパートでの最適化、それぞれのレースでトウカイテイオーの強さは、半年のトレーニングを上回る飛躍を見せた。

 トウカイテイオーの肉体は()()()()()()。最高の仕上がりなのだ。必要なのは、それを正しく扱う技術であり、それはもはやレースの中でしか見つからない。しかも、その身を削り合うような接戦の中でしか。

 だから、ふたりの覚悟は決まった。怪我を承知で今までの走りを押し通し、洗練させる。小さな故障は許容する。その結果のブランク期間よりも、よほど大きいものを掴めるからだ。

 岡田の仕事は、その怪我をレース中に発生させないような調整と、致命的な故障にならないようなケア。再起不能になるような故障でなければ、トウカイテイオーは復活できる。それも、前より強くなって。

 問題があるとすれば、怪我をするたび岡田へは多くの批判が集まるだろうということだ。ただでさえトウカイテイオーの故障が原因で担当が交代したということになっているのだから。いわんや、調整に失敗して再起不能になったときなんて。

 

 先日の金鯱賞に、ライバルは出てこなかった。シャコーグレイドは故障で休養、レオダーバンとナイスネイチャ、イブキマイカグラは春の天皇賞に向けて調整、そしてツインターボは賞金額が足りているためトライアルに出走せず、大阪杯に向けて力を溜めている。

 接戦にも削り合いにもならず金鯱賞を勝ち抜いたトウカイテイオーは大阪杯に出られる。ツインターボが出走する大阪杯に。そしてその後は、春の天皇賞。

 金鯱賞のあとのインタビュー、ランニングフォームを変えていなかったことについて聞かれたとき、岡田とトウカイテイオーは自分たちの選択のすべてを話した。

 賛否は両論だった。否が多く岡田の目についたのは精神的に躊躇いが残っていたからだろう。

 

(……いや、ボクが批判されることなんてどうということではないんだ)

 

 岡田は決意を固めた表情のトウカイテイオーを見る。乱暴な言い方になるが結局のところ、ウマ娘は故障の恐怖からは逃げられない。

 無駄な故障はするべきではない。しかし、トウカイテイオーにとって故障してでもやるべきと判断するなら、それは必要な故障だ。

 トウカイテイオー自身がそれを覚悟している以上、トレーナーである自分が仕事を、批判から彼女を守ることを投げ出すわけにはいかない。それが、命さえ懸けて走っている彼女たちに示せる誠意だから。

 

 

 

 そして、4月5日、阪神レース場。大阪杯。先週行われたドバイゴールドカップでライスシャワーが先達を背に1着を手にし、ドバイワールドカップではハシルショウグンが世界の広さを前に7着と涙を飲んだその熱がまだ冷めやらぬ中での開催。

 出走者数は少なく7人。有名どころであればカノープスのホワイトストーンとイクノディクタスがいるが、両者ともにGⅠ勝利はなし。

 故に、本人たちにとっては非常に不本意であるだろうが、このレースは完全なマッチレースとなるだろうと多くの観客から――ホワイトストーンなどは本人さえ――考えていた。

 誰と誰のと聞かれれば簡単である。

 

 同世代ミドルディスタンス(2000m)の覇者、ツインターボ。

 復活のトウカイテイオー。

 

 1番人気は当然ながらツインターボ。2番人気に、療養明けでありながらも金鯱賞での()()()()を評価されてトウカイテイオー。

 世間の声の多くはこのTT対決に期待するもの。特にトウカイテイオーに注目するものには、フォームの改善をしないと決定した岡田を責めるもの、病み上がりのトウカイテイオーがツインターボ相手にどこまで食いつけるのか興味を示すもの、あるいはトウカイテイオーが勝てるのではないかと期待するもの。

 

(皐月とは真逆だ)

 

 くすりと笑って、トウカイテイオーは地下バ道を進む。赤を基調とした勝負服、先日の金鯱賞では、その少しばかり多い露出に対してファンからは「腹を冷やすなよ……」という感想が多かった上着と、不死鳥を思わせる炎のようなスカーフ。

 ブーツの素材は厚いものになり、内部構造は衝撃を吸収するものになっている。もちろんURAの規定以内だ。

 軽くステップを踏む。あの日と変わらぬ『テイオーステップ』。最適化によって跳躍は低く鋭くなり、力のベクトルは前へ向かったため落差での衝撃は幾分か軽減された。しかし今なお、その負荷は大きい。

 

「テイオー」

 

 声をかけられて、トウカイテイオーは振り向く。初めて会った時から大きく変わった周囲からの評価に拘わらず、その2色の瞳は未だにトウカイテイオーを自らのライバルであると認めている。

 トウカイテイオーはこのレースをマッチレースだと認識してはいない。敵は6人。なにより、自分は今は、いや、今()チャレンジャーなのだ。決して油断はできない。

 

「ターボ」

 

 それでも、やはり彼女を前にすると心が疼く。彼女に、ツインターボだけに勝ちたいと叫ぶ。

 自分だけじゃない。ツインターボもあの日から更に強くなっている。他に意識を割いたら負けると本能が警鐘を鳴らしている。

 

「テイオー。あたしを、見てるな」

 

 ツインターボが口角を吊り上げる。嬉しそうに、とても嬉しそうに。

 

「今日こそ、追い抜く」

 

 普段のツインターボからは考えられないほどに静かな宣言。それは、日本ダービーに聞いたものとほとんど同じものだった。

 

「あたしが、ツインターボが勝つ」

 

 それを聞いて、トウカイテイオーは思い直した。そうだ、その通りだ。誰かに負けない、ではない。自分が勝つんだ。

 だけど、それじゃきっと足りない。だから他の5人には頑張ってもらおう。自分は、トウカイテイオーはツインターボだけを見る。見てほしかったら、この視界の中に入ってこい。

 マッチレース上等、それが嫌なら自分の力で覆してみせろ。相手にされないと嘆く暇があるなら、その隙を食い破るくらいやってみせろ。目の前の青はそれをやってのけたぞ。

 トウカイテイオーは開き直ってツインターボを見据える。迷いはない。脚が壊れる恐怖も、皇帝に並べないという焦りもない。ただ、目の前のライバルに負けたくないという、勝利を望む本能。

 今なら、地の果てまで駆けていけそうだ。

 

「ターボ、ツインターボ。帝王を無礼(なめ)るなよ」

 

 どちらが上かは考えない。今からターフで決めるのだ。胸の炎が一際大きく燃え上がる。そのくらいしないとツインターボには勝てない。炎は、青いほうが熱いのだ。

 だから、あくまでも尊大に、不遜に、傲慢に言い放つ。

 

「絶対はボクだ」

 

 今ここに、3度目の戦いが始まる。




 また逆張り(テイオーのフォーム改善)してるよこの作者。
 いや、でも実際こうだと思うんすよ。調教師さんもこの走り方だから勝てたって言ってるし、賛否両論あっても多分こっちのほうがいいと思いました。(直前までどう改善するか考えてた顔)

 史実だと死ねどすさんとダイユウサクもいましたが、ダイユウサクは有で引退、死ねどすは流石にレース出過ぎということでお休みになりました。

 ライスの長距離レースはイギリスのGⅠまではナレ死です。

 今回は短いですがご勘弁ください。

 あとマスコミについてですが、ゲタ以外にもアレなとこはそこそこありますし、ちゃんとしてるとこもそこそこあります。ちゃんとしてるとこがアレな記事書くこともままありますし、逆もあります。
 これ書き始めたきっかけのひとつが、黒い人の「月刊タァ↑フさん!!」が頭から離れなくなったことなので、とりあえずその件までは引っ張りますがその後はマスコミの影は薄くなると思います。

 何故こんなこと言い始めたかというとエゴサしたからです。てか毎日してます。5回くらいしてます。TwitterとGoogleでしてます。しゅき。

 後書きが長いウェブ小説は廃れるというのが個人的な通説ですがどうか見捨てないでください。

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