万魔殿の主〜胡散臭いトレーナーとウマ娘たちは日本を驚かせたい 作:仙託びゟ
「ええか? せーのでタイトルコールやぞ」
「大丈夫だ。任せてくれ」
「ほんならいくで? せーの……」
「オグ「オグタマライブ」タマーライブー!! いやちゃうねん!!」
「なにがだ」
「もっとこう、あるやん! タイトルコールって装飾品があるやん! コールとちゃうやんそれ、音読やん!」
「ちゃんとやったぞ」
「いやどこがやねん!」
「ちゃんと台本通りにやった」
「ウチもやわ!!」
流れ出すBGM。事前に録音されていたタイトルコールが流れる。同時に画面上部に視聴者のコメントが流れ出す。
『芝』
『茶番で芝』
『茶番が出鼻』
「茶番とか言うなや! 企画の人が頑張って台本書いてくれとんねん!」
「だがタマも本番前は『なんやこれお笑い舐めとんのか!』って言ってたぞ」
「当たり前やろなんやこの茶番!!」
『茶番言うな』
『言っていいことと悪いことがあるぞ』
『調子のんなチビ』
「なんで初回でこういう流れが完成しとんのや!! もっと時間かけて構築されてくもんとちゃうんか!! あと誰がチビや!!」
「この番組は、ドリームシリーズウマ娘のタマモクロスと、トゥインクルシリーズ現役ウマ娘の私オグリキャップが、レースの実況解説をしたり話題のウマ娘を紹介する番組だ」
「ええか? これがトゥインクルシリーズ現役なんにオグリが呼ばれた理由やで。ウチだけやとコメントとの漫才で番組が一向に進まへんからや」
「私はカサマツの宣伝もできると聞いて引き受けたが、タマはなんでこの仕事を引き受けたんだ?」
「んなもん金に決まっとるがな。ドリームシリーズは間ぁが長いねん。ウン千万ポンとくれるトレーナーなんか別次元にでも行かなおらんわ」
「? トゥインクルシリーズの賞金はどうしたんだ?」
「あんな? オグリは飯以外なんぼも使っとらんから気にしとらんのかもしらんけど、レースの賞金ってごっつ税金かかんねんで。半分くらい持ってかれんのや」
「そんなに」
「飯代とか経費で落とせるからオグリも忘れず領収書もらいや?」
「トレーナーに泣きながらお願いされたからちゃんと貰っているぞ」
『急に世知辛い』
『確定申告してるんだ……』
『ウマ娘の確定申告はトレーナーの仕事だから確定申告できないとトレーナーになれないゾ』
「よう知っとるやん。せやから大抵のウマ娘はトレーナーから確定申告の書き方も教えてもらっとんのや」
「私はまだだぞ」
「アンタははよ教えてもらいや。ボケとるけど物覚え悪いわけちゃうんやから」
「タマ、そろそろ今日のレースが始まる」
「せやな、ほなら見てこか。今日実況するレースは朝日杯フューチュリティステークスやね」
「ジュニア限定のGⅠで中山芝1600mだな。このコースの特徴はスタート直後から始まる緩い下り坂だ」
「途中ちぃと勾配が変わるねんけど、コースの半分は下り坂やね」
「それから、コースがおにぎりのような形になっているのがわかるだろうか」
『わかるけど』
『例え方が食いしん坊』
「まぁオグリの言ってる例えがいっちゃんわかりやすいやんか。スタート直後から緩くカーブ、ほんで第2コーナーから第3コーナーまでがまた緩いカーブを描いてんねん。ほんで第3コーナーと第4コーナーは間ぁが狭くて急。その直後に最終直線や」
『中山の直線だ!』
『中山の直線は短いぞ!』
『中山の直線は短いぞ、後ろの子たちは間に合うのか!』
「そう、310mしかない最終直線は後ろの脚質に不利。しかも、最後の最後ゴール直前に急勾配の上り坂がある」
「逃げ有利なんは確かやけど、半端な逃げやとここで捕まることもままあるわな」
「むしろハイペースになりやすい分、差し有利と言ってもいいかもしれない。そしてそれ以上に、明確に内枠有利だ」
「見ての通りコースの殆どがカーブになっとって直線が最終直線くらいしかあらへん。せやからどうしても内側に入るのが有利になってくんのや」
「それを踏まえて今日の出走者を見てみよう」
「1番人気はアイネスフウジンやね。2番人気は4戦2勝で全戦三連対のカムイフジ、3番人気はGⅡの京王杯ジュニアS含めて3連勝中のサクラサエズリや」
「ふむ、やはり注目はアイネスフウジンだな。ここまでメイクデビューとGⅡの2戦をどちらも逃げで大差をつけて1着。しかもセオリーから外れたハイペースな逃げを打っている」
『やばば』
『清々しい勝ち方で好き』
『スタミナおばけ』
「せやね。今回のコースとこれ以上ないくらい噛み合っとる。しかも、ウチが見た感じこの娘ぉの
「タマ、ホワイトストーンはどうだろう。芦毛だ」
「別にウチらが芦毛やからって芦毛びいきするわけでもないけど、ホワイトストーンはお母ちゃんの弟子みたいなもんでなぁ。普通に知り合いやし頑張ってほしいわ」
『ホワイトストーンちゃんかわいいよホワイトストーンちゃん』
『でもカノープスなんだよな……』
『ホワイトストーンはカノープス所属』
『既にカノープスの香りがしてるんだよな、ホワイトストーン』
「なんでや! カノープスええやろ別に!! 各所に失礼なこと言うなや!!」
「カノープス。あぁ、ダイナアクトレスが所属しているところか」
「せやね。他に有名どころと言えばスダホークとかか。あそこは少数精鋭って感じのチームやね」
「タマ、カノープスの香りとはどういうことだろう。特別な芳香剤でも使っているのか?」
『ピュアオグリン』
『かわよ』
『オグリンはそのままでいて』
「あれやろ。GⅢやGⅡで勝てる実力はあんのにGⅠで勝ちきれない。さりとて惨敗するわけでもなく5着くらいにいつもいるっちゅー立場が板についてもうてるってことやろ。失礼なやっちゃわ」
「あぁ、確かにダイナアクトレスもあの秋天で4着、その前の毎日王冠でも5着だったか」
「シリウスシンボリに蹴られとったときな……否定できひんのがつらいねん」
「今年はカノープスから他にイクノディクタスもデビューしている。このレースにはいないが頑張ってほしいな」
「言うてる間に発走やわ」
「ファンファーレはスリーサウザンドの皆さんがやってくれているぞ」
「3000m以上のレース勝ったことあるウマ娘が集まったブラスバンドやろ? やっぱ肺活量あんなぁ」
「タマは入らないのか? 天皇賞勝ってるだろう」
「ウチは楽器とかサッパリやわ」
『ぱぱぱぱー』
『ぱぱぱぱー』
『ぱぱぱぱー』
「コメ欄もよう鳴いとる」
「ゲート入りは比較的スムーズだな」
「初GⅠだけあってピリついとるけどな。ええ緊張感やないか?」
「……来た。いいスタートだ」
「疾風迅雷やね。流石、反応が早いわ。アイネスフウジンとサクラサエズリのハナ獲り合戦やな」
「サクラサエズリも上手いが、それ以上にアイネスフウジンが強いな。逃げとは思えないハイペースだ」
『はっや』
『ホワイトストーン出遅れた』
『掛かってるんじゃないの?』
『最後まで保つか?』
「サクラサエズリ後ろにつけたな。まだ諦めとらんよ」
「だがアイネスフウジンのコース取りも上手い。これで垂れないのであれば、サクラサエズリの勝ち目はないな……」
「まだ後ろのほうが勝ち目あるわな……んで普通に考えれば保たへんのやけど……行けてまうんやろなぁ……」
『全然緩めないじゃん』
『スタミナもそうだけどこれ曲がれんの?』
『最終コーナー辛くね?』
『ラップタイムヤベェ』
「サクラサエズリからしてみればこのコーナーでどこまで追いつけるかやけど……」
「……曲がりきったな……コーナー、僅かに膨らんだが許容範囲内だろう」
「アンタの基準で言うなや。あんなん膨らんでないも同然やないか。内なんか突けるか」
『来た! 中山の直線!!』
『中山の直線は短いぞ!!』
『中山の直線!!』
「何がアンタらをそこまで掻き立てんねん」
『中山の直線の良さがわからないからオグリに差されんだよ』
「おい今のコメ投稿者覚えたかんな。言っていいことと悪いことがあんねんでホンマ」
「やはり坂は障害にならないか……アイネスフウジンゴール。タイムは……」
「うん、レコードやね。そらあんなハイペース維持しとったらレコードも出るわ」
『つっよ』
『こんなん勝てるわけないやん』
『来年のマイル路線は決まりか?』
「クラシック出てきたらおもろいねんけどなぁ」
「タマ。流石に3000mはキツいと思うぞ」
「そうやろなぁ。2400mくらいはいけそうやけどなぁ」
『ムリです』
『普通のマイラーは2500mも走れねんだわ』
『オグリンは異常個体だから……』
『しかしレコードか……2代目マルゼンスキーだな。走り方からしても』
「はぁ? どこがやねん」
「マルゼンスキーとは走り方が違うな」
「マルゼンスキーは逃げとらんからな。アイネスフウジンは完全に逃げやけど」
「それにまだ精神的にも仕上がりきってはいないようだ」
「あー、最後のあれな、必要ないスパート。レコード狙っとったわけでもなさそうやし」
「まだまだ成長の余地があるのは楽しみだな」
『ウソでしょ……大差のレコードレースにダメ出ししてる……』
『これは漫才コンビのタマオグリンじゃなくて白い稲妻タマモクロスと芦毛の怪物オグリキャップ』
『ホワイトストーン5着で芝』
「芝はやすなぁ! 出遅れた割に頑張っとったやないか!!」
「最後まで諦めないのは大事だ」
「ホワイトストーンは是非GⅠ勝ってコイツらに目にもの見せてほしいとこやね」
「さて、ウイニングライブが始まる前にはお別れという指示が出ているのでこの辺りで締め、か?」
「せやな。ほんなら今日はこの辺で。担当はタマモクロスと」
「オグリキャップでした」
「「ほなな〜」」
『ほなな〜』
『ほなな〜』
『かわいい』
『ほなな〜』
『オグリのほなな〜かわいい』
仕事始めで執筆時間一気に減ってん(言い訳)
極力投稿ペース維持するけど間に合わんかったら許し亭許して