万魔殿の主〜胡散臭いトレーナーとウマ娘たちは日本を驚かせたい   作:仙託びゟ

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 構想では2000年代で締めとなるので四天王のクラシック世代は描かれない予定なんですよね。
 しかし思いついちゃった設定やキャラがもったいないので閑話でお漏らししていく。

【追記】
ジャングルポケット実装につき工事中です。


【閑話】BNWの日常と四天王の日常と死んだオタク

 ウイニングチケットから見て最初に違和感を覚えたのはいつの頃だっただろうか。ちょうど去年のこのくらいの頃だったかもしれない。

 ナリタタイシンのはじめの変化は水分補給をよくするようになったことだった。水分補給は確かに大事だが、それほど注視していなかったとはいえ、ふと目にしたときに水を飲んでいることが多くなった気がした。

 それから、昼寝をするところを見なくなった。それまでは結構な頻度で授業中や休み時間に、机に突っ伏したりトレセン内の昼寝スポットで寝ていたりというのがなくなった。

 

 元々ナリタタイシン側からウイニングチケットやビワハヤヒデに絡んでくることはほとんどない。それでも仲がいいと表現されるのは、他のクラスメイトだと露骨に避けたり輪から外れたりするような状況でも、このふたりだとそれなりに付き合うからだ。

 しかし、ナリタタイシンにとってふたりの認識は友人以上にライバルなのだろう。トレーニングを一緒にするといったようなことはおおよそないと言っていい。手の内を見せたくないのだろうとウイニングチケットは思っている。

 だから午後の共同トレーニングや自主練で見かけないのはいつも通りなのだが、それを加味しても放課後や昼休みに捕まえにくくなったように感じた。どうやら朝のトレーニングも減らしているらしい。

 そのことをビワハヤヒデに相談してみても「オーバートレーニングを控えるようになったのはいい変化じゃないか」とバナナをぱくつきながら話すばかり。ビワハヤヒデが喜ばしく思っているのはナリタタイシンがバナナをメインにしたスムージーやバナナヨーグルトを食すようになったからだとウイニングチケットは知っている。

 

 去年の夏休みも、7月に行われる教官による合同合宿でもナリタタイシンは見かけなかったし、8月はそもそもまるまるトレセン学園を留守にしていたようで会うことさえできなかった。

 9月に再会したときに問い詰めてみたものの適当に流された。とは言うものの、周りのクラスメイトにしてみればウイニングチケットはかなり構ってもらっている方なのだが。人懐っこく交友を重要視するウイニングチケットの基準も、一般的とは言い難い。

 そもそも、ナリタタイシンの雰囲気はむしろ若干和らいで絡みやすくなっている。自分から絡みに来ることは依然ないし、カラオケやゲーセンに誘っても断りはするものの、昼食時に囲んで食べ始めてみても逃げることはなくなったし、話しかければ会話もしてくれる。

 

 そしてその食事であるが、栄養食品を中心に味気ない食事をしていたナリタタイシンが、この頃には食が細いなりに料理らしい料理を食べるようになっていた。しかしそのメニューが学食にはないものだったということで周囲に激震が走った。

 ナリタタイシンが特別メニューの申請ができる、それはつまりトレーナーがついたということだったからだ。

 ナリタタイシンは以前は「いつも不機嫌*1で目つきが悪く*2、無口だから何考えているかもわからない上に基本的に人の輪に加わってこない。かと言ってレースが上手いわけでもない」という、まさに不良といった印象を持つ者が多かった。

 それが現在は、自身の走る動機を理解してくれて、かつ同情や嘲笑を交えずに小柄な体躯との向き合い方を示してくれるトレーナーが見つかり、実力向上の目処も立ったことでストレスが激減し、雰囲気が柔らかくなった。

 体質と生活リズムの改善で寝不足もなくなり、授業中の居眠りもなくなった、周囲は気づかない程度に体格もやや大きくなったため三白眼も和らいだ。なにより、雰囲気が和らいだことで周囲がナリタタイシンと交流しようとし始めたため、コミュニケーションに難はあるが悪人ではない彼女の人格面が広まった。

 その結果、学園内での風評はともかく、クラス内でのナリタタイシンの印象は大きく改善していた、とはいえ、それは彼女の人格面での印象であり、華奢な肉体とレース下手であることは否定できない。

 そのナリタタイシンが選抜レース以前にスカウトされたのだから、それはもう激震である。ディープなインパクトである。特にウイニングチケットなどには。

 

「ダイ゙ジイ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙ン゙!! な゙ん゙で゙お゙じえ゙でぐれ゙な゙がっ゙だん゙だ゙よ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!」

 

「なにか言ってるのはわかるんだけど第一声で鼓膜やられてなに言ってんのかまったくわからない」

 

 爆発的な音圧が耳に繰り出されたせいで耳がキーンランドカップ(GⅢ)になってしまったナリタタイシンをひょーいと持ち上げて振り回すウイニングチケット。

 耳が回復するまでに6分を要しながらも、改めてウイニングチケットの訴えを聞くナリタタイシンは既に諦めている。ウイニングチケットを相手にこの手の文句は言うだけ無駄だと。制御とかそういう段階じゃないのだ。

 後ろに控えているビワハヤヒデも何も言わない。口の中はバナナで埋まっているからだ。

 

「なんでトレーナーがついたこと教えてくれなかったんだよお!!」

 

「聞かれなかったから」

 

 これが指導の成果である。見事に因子を継承していた。そんなことはない。実際の理由は教えたのをきっかけに根掘り葉掘り聞かれるのが面倒だったからだ。結局先送りになっただけだったが。

 

「ハヤヒデもなんか言ってやってよぉ!!」

 

「いや、私は知っていたからな」

 

「ブルーギル!!」

 

「ブルータスか? ブルーギルは魚だぞ。まったく、URA.NETのアプリから確認できるだろうに」

 

 URA.NET。URAが発信している中央トレセン学園と各地方トレセン学園の生徒、所属トレーナーの情報やレース日程、過去の重賞レースの映像などを閲覧できる完全会員制のページであり、生徒手帳に記載されたIDによって管理されている。

 とはいえ、一般の生徒やトレーナーでは見られる情報は生年月日や所属チーム、担当など当たり障りのない情報であり、プライバシーに関わる情報は掲載されていない。当たり前だが。

 ちなみにウイニングチケットのページは今に至るまで一度も開かれたことがない。使わない生徒はとことん使わないのだ。*3

 

「しかしタイシン、お前が《ミラ》に入るとはな……あそこなr」

 

「えぇっ!? タイシン《ミラ》に入ったのお!!?」

 

 ビワハヤヒデの言葉を遮りながら、ウイニングチケットが渾身の驚きを繰り出す。それはそうだろう。なにせ昨年の10月当時、チーム《ミラ》といえばそれはもう話題の的だったのだから。

 カブラヤオーの再来とも言われる大逃げの皐月賞ウマ娘、自ら降着を申し出た幻のダービーウマ娘、そしてURA史上初の凱旋門賞ウマ娘。しかもいずれも名門はおろか寒門にさえ通っていない市井の出身で、育て上げたトレーナーさえ門外の出身。

 なお、一人目はその後URA史上初のクラシックでの天皇賞ウマ娘、二人目は無事菊花賞ウマ娘の称号を手に入れることになるのだが。

 そんなチーム《ミラ》は網の発言があってなお、特に寒門のウマ娘からは憧れの的であり、人気はチーム《リギル》に並んでいる。

 だというのに、チーム《ミラ》は《リギル》のような試験制ではなく完全スカウト制。《リギル》が軍隊とすれば《ミラ》は特殊機関、《リギル》がFBIなら《ミラ》はCIAのような扱いである。

 

 ウイニングチケットは驚いているが、ビワハヤヒデはそれを知ったとき驚きながらも納得していた。ナリタタイシンの体格が改善してきているのも知っていたし、それが《ミラ》の網が指導した結果だとすれば納得しかない。

 

「ちなみに私も《リギル》への所属が内定している。実際に所属するのはもう少し先になるがな」

 

「エ゛エ゛ッ!!? ハヤヒデもぉ!!? トレーナーいないのアタシだけじゃん!!!」

 

「この時期にトレーナーいないのは普通でしょ」

 

 ナリタタイシンが鼻で笑う。以前から「タイシンは人見知りなんだからマジメに探さないとトレーナー見つからないよぉ!!」とうざったかったことへの意趣返しが成ってご満悦である。

 ぐぬぬと唸るウイニングチケットを尻目に、ナリタタイシンはふたりをしっかりと見据える。

 

「そういうわけだから、これまでのアタシと同じだと思わないこと。アタシも、本気でトゥインクルシリーズ獲りにいくから。ナメてかかってきたら痛い目見るよ」

 

 こっちに気を遣ってる余裕はなくなったぞと、ナリタタイシンはお節介焼きの友人たちに宣告する。そしてそれはふたりにとっては、自分はもう大丈夫だと言っているようにも聞こえた。

 のちに、この3人はBNWと呼ばれ、TTN世代に負けぬ接戦熱戦を繰り広げることになる。そんな彼女たちの歯車が噛み合ったのは、間違いなくこの瞬間だろう。

 

 

 

 

*1
寝不足と自分の実力への不満が原因。

*2
背が低いので三白眼気味になる。

*3
例: ミホノブルボン

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