万魔殿の主〜胡散臭いトレーナーとウマ娘たちは日本を驚かせたい   作:仙託びゟ

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【ほぼ閑話】2度目の秋

 9月20日、中山レース場。オールカマー。

 秋の天皇賞の優先出走権を懸けたそのレースの勝者は、予想外と言わないまでも意外なウマ娘だった。何故なら、彼女は国内最上級グレードのレースを6勝した優駿ではあるものの、そのいずれもがダートで行われたレースだったからだ。

 己の領分を弁えず、生意気にも芝というより多くの猛者たちがしのぎを削りあう修羅道へ足を踏み入れてきた慮外者に、格の違いを見せつけてやろうなどと考えていた娘たちを一太刀に撫で切りにして、彼女はその頂点に立った。

 その走りは王道たる好位抜出。しかしそこに駆け引きはなく、にもかかわらずその歩みを止めることができる者はひとりとしていなかった。出走していたウマ娘は一度戦ったことのある、とあるウマ娘を引き合いに出してこう語った。

 

「すぐ目の前にいるのに、まるでツインターボと走っているようだった」

 

 インタビュアーは勝者に問う。優先出走権を手に入れた秋の天皇賞へ出走するのかと。

 トウカイテイオーは出てこない。今、ブランクを打ち消すためのリハビリトレーニングを進めており、ターフに帰ってくるのは有記念辺りになるだろう。イブキマイカグラも同様だが、こちらはさらに先の復帰になりそうだ。

 メジロマックイーンも脚部の不調を療養するためにこの年末はレースを休むと公表されている。ナイスネイチャはジャパンカップに向けて調整を行うために天皇賞は回避した。

 イクノディクタスに至ってはオーストラリアのティアラ路線にあるマイルGⅠレース、エンパイアローズステークスに出走するために日本にさえいないという状態だ。

 しかし、それを差し引いても、今年の天皇賞には巨大な壁が立ちはだかっていた。ミドルディスタンスであれば最強格、昨年URA史上初のクラシック級での天皇賞制覇を成し遂げ連覇を狙う大本命。

 

 『不滅の逃亡者』ツインターボ。間違いなく出走するであろうその優駿の名を出して、インタビュアーは再度問うた。砂の舞台からやってきたばかりのあなたが、昨年の覇者に挑むのかと。

 それに対して、彼女の答えはひどくあっさりしたものだった。

 

「もちろん。わたしはターボのライバルだからね」

 

 たとえそこが自らの本領でなかったとしても、彼女は走る。それが彼女、『将軍』ハシルショウグンなのだから。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 そして、11月1日。東京レース場。天皇賞開催。

 本命であるツインターボと対抗であるハシルショウグン、爆逃げコンビことメジロパーマーとダイタクヘリオス、ホワイトストーン(なんか知ら)カミノクレッセ(んけどいつ)ムービースター(もいる人たち)以外で注目を集めているのは、モデル業でゴールドシチーと肩を並べる美少女、トウショウファルコである。

 競走ウマ娘としては自らの容姿を疎んでいたゴールドシチーとは反対に、その可憐な容姿を武器にファンを増やし、シニア2年目で遂に重賞勝利。初めてのGⅠレースとなる彼女を応援するファンは多く、実力と比べれば高い人気を誇っている。

 宝塚記念での骨折から療養が明けたばかりのヤマニングローバルもまた人気がある。トウショウファルコと違いGⅡを3勝している十分な実力者なのだが、ジュニア期に右脚を複雑骨折し、骨をボルト2本で繋ぐ必要があるほどの重度の故障でクラシック期を棒に振っていた。そして復帰から1年半経過した宝塚記念でまた骨折しながらも、そこで諦めることなくリハビリを続けて復帰しためげない健気な姿に心打たれたファンが多数いるわけだ。

 

 このようにレースの実力以外で華がある者もいるが、しかし当然、レースの主役と言ったらやはり実力で決まるものである。

 発走前、中継カメラで抜かれたツインターボは笑っている。余裕というわけではないが、心の底から湧いてくる『楽しみ』という感情に突き動かされた表情筋がその形へ導いている。

 互いに好敵手という共通認識を持っていながら、デビューからこれまで一度として同じレースを走っていなかった芝と砂の猛者たち。その初めての手合わせが始まろうとしていた。

 

「あれ? そういえばライス先輩は?」

 

 一方こちらは関係者観戦席。チーム《ミラ》のメンバーはいつものごとく、ツインターボのレースを確認するためにそこに集まっている。

 そんな中、ひとり足りないことに気づいたナイスネイチャが網に確認しながらも、今日は観戦せずに来週の菊花賞に向けて追切をしているのかと予想を立てる。しかし、それに対する網の答えは否だった。

 

「ご友人が観戦に来ているとのことで、一緒に見るために一般席へ向かいましたよ」

 

「へぇ……誰だろ。ブルボン先輩は観戦より追切優先させそうだし、フラワーあたりかな?」

 

「いえ、先日中央トレセンに転入してきた留学生ですよ。渡英した際に知り合ったらしいです」

 

 そう言われてナイスネイチャがまず思い浮かべたのは、先日の英セントレジャーステークスでライスシャワーと鍔迫り合いを演じたイギリス所属のウマ娘、ユーザーフレンドリーだろう。

 しかし、デビュー前の留学生がトゥインクルシリーズでデビューしたり、海外所属のウマ娘が遠征に来ることはあれど、海外所属のウマ娘がデビュー後に日本へ所属変更するなどという話は聞いたことがない。

 というところで、ナイスネイチャはURA.netのアプリで直近の転入生について検索し始めた。留学してくるにしろ、この時期にというのは珍しいためそれほど時間もかからず見つかった。

 

(おっ、いたいた。出身はアメリカだけど、この人以外いないしあってるよね。えっと……ダンツシアトル先輩ね……? え゛)

 

 ナイスネイチャが絶句するのも仕方ないことだ。ダンツシアトルは歴史こそそれほど長くないものの、アメリカではそれなりの格を持つ名家の生まれだったのだから。

 本来なら彼女のライダーがアメリカの無敗の三冠ウマ娘であるシアトルスルーであることに驚くものだが、ナイスネイチャは残念なことにそちらの感覚には未だ疎い。

 

(……いや、アタシが交流するわけでもないし、落ち着け落ち着け……)

 

 ナイスネイチャがよく考えてみれば当たり前のことを思い出して現実に引き戻されたタイミングで、ファンファーレが鳴り響いた。

 

 ゲートが開くと同時に領域(ゾーン)によって弾かれるように先頭に立ったツインターボを、メジロパーマーとダイタクヘリオスが追走する。宝塚記念とは逆の構図だ。

 だからメジロパーマーはツインターボに競り合いを仕掛けようと、先を走るツインターボに向けて加速する。

 

(……あ、無理だこれ)

 

 そして、すぐに退いた。

 競りかけるために消費するスタミナと消費させるスタミナが割に合わない。メジロパーマーは感覚でそのことに気づいたのだ。だから冷静に考えて、退いた。

 

 さて、ここで勘違いされがちなことを訂正しておこう。メジロパーマーとダイタクヘリオスのふたりを比べれば、ダイタクヘリオスのほうが頭がいい。

 知識量という意味では、曲りなりにも名家で教育を受けていたメジロパーマーのほうが教養があるだろう。しかし、地頭のよさとなると、実はダイタクヘリオスに軍配が上がるのだ。

 だから、メジロパーマーが競りかけたときに、メジロパーマーが気づいたそれにダイタクヘリオスも気づいていた。

 

「爆逃げヒウィゴー!!」

 

 それはそれとして、ダイタクヘリオスはバカだった。

 当たり前のようにツインターボへと競りかけに加速するダイタクヘリオスにメジロパーマーはギョッとする。メジロパーマーはダイタクヘリオスの本質を掴みきれていなかった。

 彼女は、パリピなのだ。

 

(なんか来たああああああああああ!?)

 

 逃げるツインターボ、追うダイタクヘリオス。最高速はダイタクヘリオスのほうが上であるため、あっという間にツインターボを抜かしてハナに立ったダイタクヘリオス。

 しかし、その直後に入ったコーナーで再びツインターボが先頭に立ち、そのままコーナー全体で大きく引き離す。ここは、コーナーが得意なツインターボが、そもそも道中での競り合いにも慣れていないダイタクヘリオスを蹴り落とした形だ。

 これがメジロパーマーであれば、ハナを再び譲ることにはなれどそこまで離されずに済んだかもしれないが。

 次の直線の途中にある得意な坂を使って、コーナーでつけたリードを守るツインターボ。冷静にダイタクヘリオスはもう駄目だなと判断したメジロパーマーは、ハイペースで逃げながらもツインターボを差すための脚を溜める。

 

 一方、不気味なほどに動きがないのは、逃げ3人を除いた前から2番手にいるハシルショウグン。その安定した走りは、さながら重戦車を連想させるものだ。

 先行という脚質の常として、位置取り争いによってスタミナが削られ続けるというものがある。しかし、ハシルショウグンが発している威圧は自らに近づくことを許さない。

 ライスシャワーのような突き刺さる殺気でも、シンボリルドルフのような支配する神威でもない。ただ寄せ付けない、ハシルショウグンを中心に発せられる、ただ「近寄りがたい」と思わせる斥力。

 悠々と走るその将軍を、誰も止めることは叶わない。

 

 最終直線。砂で鍛えられた、先行脚質にとっては破格の加速力でハシルショウグンがメジロパーマーとダイタクヘリオスを躱しツインターボへと迫る。

 しかし、十分にリードをとっていたツインターボを差し切ることはできず、見事ツインターボの秋の天皇賞連覇によって、その年の天皇賞は幕を閉じた。

 

 そして翌週、クラシック最後の一冠が幕を開ける。




 というわけでほぼ閑話です。
 忘れちゃいけないけどこれ以上のボリュームは出ませんでした。
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