極彩色に染まれ 作:ノーテア
この世界は、『魔力』によって差別される。
力がある者はイコールで『魔力』が多い者、扱いが上手い者、もしくは性質が特異かつ有用な者であることは周知の事実であり、それには明確な階級分けを持って伴われた。
ここで問題なることが一つある。『魔力』の量の遺伝率は七十五パーセントを超える。つまりは、生まれに依存する世界は限りなく『血筋』による絶対性をも生み出したのだ。
種族による優劣はあれど、それよりも血筋が重要視される世界。勿論、とある機関によって格付けされた少数の最上位種族──有名処で言えば『龍』がそれに当たるだろうか──等は血筋など関係無しに尊敬され、崇拝されたが、それは希有な例だ。
そして、これに拍車をかけたのが『魔力の性質』だ。何を持って『遺伝した』と言うかにもよるが、世間一般の認識では、これの遺伝率は50パーセントほど。
これも血統だ。血筋だ。故に、世界では当たり前のように『血筋による仕分け』が横行した。
つまりは貴族だ、王族だのくくりである。それは発展した魔術文明たる今でも変わらない。
さて、そんなこんなでかなりのディストピアと化したこの世界であるが、ここで話を変えよう。
魔力の性質と言うのは髪や瞳の色に色濃く表れる。端的な例を言ってしまうなら、『火』の魔術に何らかの特異性があれば、髪や瞳に『赤』が混じる、と言うことである。
この混じり具合はこれまた魔力の量に左右され、多い者だと半分以上、少ない者だとそもそも見えすらしない。だがそれでも髪色はそれ一つで多くを曝し過ぎた。
それ故、弱点を晒すに等しい髪色を変えるのは当たり前であり、現代では尚更髪色による差別などなかなか起こらない。
これで一段落付いたかに思われた髪色問題だが、ここで世間で議題に上がったのはその色による性質の違いである。
『赤』は炎、『青』は水──そうくくってしまえれば楽だったのだが、どうもそれは違うらしい。
とある機関があげた、その序文で始まる論文は、ある程度知られていた事とは言えかなりの話題を呼んだ。
一体髪色は何を元に変化しているのだろうか。
どれだけの魔力を保有していればどの程度髪色が変化するのだろうか。
このような髪色に関する疑問は現代に至るまで長く続き、そしてその中でも異色を放つ議題があった。その根本となる、とある天才が残した魔術命題の一つの始まりは、こうだ。
《一体、『極彩色』の髪を持つ者はどのような者なのだろうか──、》
◆◇
《極彩色》──つまりは虹色の髪。それの有無は度々魔術師達の頭を悩まして来た。
幾らか予想はしても、それは所詮机上の理論。どのような結果になるかは分からない。
存在しない確実性に、しかし惹かれる者は多かった。
故にそれは調べ尽くされたし、それは一つの伝説ともなった。オカルト染みた内容であっても、『空に浮かぶ庭園』や『魔の領域』──それらに等しい大きなロマンの一つとして受け入れられたのだ。
だからこそ、それが本当に現れた時、皆はどちらかと言うと困惑に包まれたのだろう。
始まりは公共放送が何者かに乗っ取られた事から始まった。
いつも見ていたバラエティー番組が途切れる。それは世界で同時に起こった。なにより、人口の大半を人間が占める国──『リーラエスティ』では、いわゆるゴールデンタイムな事もあって、かなりの人間が雑音しかたてない崩れた画面に憤慨していた。だが、すぐに画面は色彩を取り戻す。しっかりとした映像が映し出され、そして──、
『あ、あー……これで良いのかしら?』
──少女は現れた。
端正な顔。聞き惚れる様な可憐な響き。だがそれは1つのスパイスにしか成り得なかった。
『大丈夫みたいね?なら、よろしく宣言するわ!私はラティ・グラース!今日は親愛なる貴方達に一つ、宣戦布告をしに来たわ!』
狐につままれるとはまさにこのことか。虹色の髪と共に齎されたあんまりな宣言に、お茶の間が一瞬笑いに満ちた事も馬鹿にしたものでもない。
だが、次の瞬間それにちょっとの異物が混じる事になる発言をする。
『ああ、間違えたわ!貴方達と言うよりは──《龍》ね!!』
ここで識者達はおいおいと慌て始める。なんなら普通の大人でも顔をしかめただろう。
何せ、龍とは『強者』だ。世界魔術統制連合に置いても常任理事に存在し、さらに龍種の国は世界第一位の魔術大国。信仰の対象にすらなっている《龍》と言う種族に宣戦布告することは、最初に言った『貴方達への宣戦布告』とやらの方がより的を射ているだろう。
決してお巫山戯では済まないなと常識のある全ての生物が考え、そして。
この映像がお巫山戯ではないことが、次の瞬間明らかになる。
ドン、と。大きな音をたてて映像が揺れる。少女の後ろを、煌々と煌めく蒼い輝きが覆っていた。
『今ちょっと笑った人達!目をかっぽじりなさい!!そして知るのよ!!』
段々と画面がズームダウンしていく中、少女は楽しそうにその端正な顔を歪める。その笑みは、まさに『世界を敵に回す』と宣言するに足る物で。
そして、それは画面に映った。
蒼い蒼い荘厳な龍だった。そう、
画面越しでも、それは明白だった。ドクドクと流される蒼い鮮血が世界を染め上げる。少女の笑みが最骨頂を迎える。
そして、少女は大きく叫んだ。
『さぁさ、世界よ慄きなさい!!私達は屠龍を成す者!!故に名を《ネイリング》!!
──いつかこの世界から、《龍》を滅ぼす者達よ!!!』
死した龍の亡骸を前に、少女は爛々と煌めく極彩色の瞳を見開く。激しく燃え上がる焔のような存在感を放つ少女は、そして。
瞬きの間に──画面から消え去った。
やはり自分にはあらすじが難しいようで……少し題材からズレているかもしれません。