その共同墓地は、五車町近くの見晴らしの良い小高い山の中腹にあり、眼下を見下ろせば五車の町並みが、晴れている時は正面に遠くの山々をも見渡せる程だった。
かつて、春秋のお彼岸やお盆の時期には、町に住まう多くの人々が、先祖の冥福を祈りに訪れたその場所は、今や足を向ける者も稀で、立ち並ぶ墓石や参道は、長年の風雨と伸び放題の草木に侵食され、荒れ果てるばかりであった。
初夏の澄み渡る青空の下、黒のボタンレスのチェスターコートを羽織り、墓前にて腰を低くし手を合わせる一人の青年。
他と違ってその墓は手入れが行き届いており、縁のある何者かが定期的に訪れているであろう様子が
故人への祈りを終えた青年は立ち上がり一礼するも、一向にその場を動こうとしない。
「ようやく会いに来れたよ。と言っても…この世界では互いに顔も知らぬ仲だったか」
藍色の髪を山風になびかせながら呟いたその声色は、優しくも少し寂しげで。
「それでも、ゆきかぜを置いて先に逝ったお前には、言いたいことが山程あってな。悪いが、もう
そう言うと青年は―――“並列世界“を渡り歩き、今はこの世界に身を置く達郎は、穏やかな表情を浮かべながら、墓の下に眠る旧友に
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久方振りに墓所を訪れたゆきかぜは、墓の香炉に残る線香の灰と微かな残り香に、少しばかり驚いた。
(誰だろう、先客なんて珍しい……)
周辺の雑草を抜き、雑巾と桶の水で以て墓石の汚れを拭き取り、手際良く掃除を進めるゆきかぜ。
一通りの掃除を終え、花と線香を供えると、ゆきかぜは静かに手を合わせ、先ずは暫く足が遠のいていたことを詫びたのだった。
「ごめん、前回来たのは二ヶ月位前だったよね。最近ちょっと忙しくて……今日ここに来れたのも、突然アスカに休むように言われたからなの」
アスカ
「過去を
別の“並列世界”の彼の姿を見て、彼の声を聞き、彼の身体に触れる度、ゆきかぜは喜びに満たされながらも、心の何処かで後ろめたい思いを抱えずにはいられなかった。
「でも…私にとっての貴方は、やっぱり一人だけだから。今日はそれを言いに来たの」
『死者に囚われ過ぎては道を見失う…もう少し気楽に考えたらどうだ?』
彼だったらそう返事を返すような気がした。けれども…今はまだその言葉には従えない。
もしも、生きていたのなら……歳を重ねてもなお、不器用で意地っ張りな自分のことを、彼は
「大丈夫、言われなくても分かってる」
苦笑を返しつつ墓石を見やるゆきかぜの瞳に、迷いの色は見られない。
「そうそう、実は凜子先輩に弟がいたの。達郎って言うんだけど、そいつがもう―――」
そうして、その後もゆきかぜは、日が傾くまで墓の下に眠る彼に延々と語り続けたのだった。
公式のシナリオを一通り読み終えた後、未来編を題材にするならばと、真っ先に思い浮かんだ場面が今話のお墓参りでして。
とても短いお話ですが、思い入れがあったので書けて良かったです。