対魔忍ユキカゼ2 〜疾風異譚〜   作:茶玄

2 / 10
第2話 生魂流転

 寄せては返す波の音と潮の香り。四肢に(まと)わりつく冷気と砂の感触に、身体の熱が奪われていく……

 

 達郎の目覚めは、心地の良いものでは無かった。砂浜に仰向けに倒れたまま見上げた夜空には、大きな深紅の月が輝き、浜辺を真っ赤に染め上げている。

 

 首を(ひね)り辺りを見回すも人影は無く、建物らしき人工物さえ見当たらない。達郎は左胸に手を当て、心臓の鼓動を確認する。

 

(生きているのか、俺は……)

 

「…ようやく、目覚めたか」

 

 突如、頭上から聞こえた黒井の声に、達郎は即座に飛び起きると瞬く間に距離を置く。

 

「安心しろ。人間とはいえ、俺は命の恩人を無下に扱ったりはしない」

 

(恩人…だと?)

 

 黒井が指差す先の砂浜には、枯れ果てた木遁の幹と不発に終わった無数のC4爆弾が散乱していた。

 

「ぇ…起爆しなかったのか?」

 

「時間・空間の不確かな次元の狭間に落ちたのだ。時限信管のタイマーが止まったとて、不思議なことではあるまい」

 

 呆然とする達郎に、黒井は尚も言葉を投げかける。

 

「それより貴様の方はいいのか?俺を殺したいほど憎んでいたのだろう?」

 

 得物一つ持たない今の達郎が、黒井に抗うには余りにも分が悪い。此処(ここ)は交戦を避け、一時停戦に持ち込むのが得策なのは明らかだ。

 

「お前を助けるつもりなど毛頭無かったが……俺一人では到底敵うわけもないからな」

 

 達郎は両手を上げ、戦う意志のないことを黒井に示した。

 

「ふん…存外に冷静なのだな」

 

「で、此処は一体何処なんだ。次元の狭間に落ちたにしては、想像していたのとは大分違うみたいだが……」

 

「無論、俺にも分からん。元の世界に通ずる場所か、或いは全く別の異世界か。皆目見当がつかん」

 

(嘘を言っているようには見えない…如何に淫魔とはいえ、王の位を冠する男。それなりに分別を(わきま)えていると信じる他ないか)

 

「そうか…まぁ、お互い一度は諦めた命だ。精々、生き足掻いてみるとしよう」

 

 そう言うと達郎は黒井の脇を通り抜け、海とは反対方向に向かって歩き出した。

 

(ゆきかぜや凜子姉《姉さん》のことを考えると胸が痛む。元の世界に戻る方法を早く探さなければ……)

 

「おい、何処へ行こうというのだ?」

 

 達郎は振り返らずに黒井の問いに答える。

 

「遠方…あの山間(やまあい)の付近から、生活音らしき物音が風に乗り聞こえてきたからな。運が良ければ人がいるかもしれない」

 

「ほう…中々使えるではないか、人間」

 

ザッ、ザッ…ザッ、ザッ……

 

 背後から聞こえてくる足音に耐えかね、達郎は歩みを止めて後ろを振り返る。

 

「いや、何で付いて来るんだお前?」

 

「気にするな。他に当てもないのでな、同行させてもらおう」

 

(本気かよ、こいつ……)

 

 一時停戦したとはいえ、行動を共にするなら話は別だ。気分次第で己が命を奪いかねない相手が近くにいては、気が休まる暇もない。

 

(冷静になれ…この先、外敵に襲われる可能性もある訳で。暫くは一緒に行動した方が、(むし)ろ安全かもしれない)

 

 此処は一先ず呉越同舟、考えを改めた達郎は今後の黒井との接し方について、更に頭を悩ませるのだった。

 




 実を言うと黒井のことは結構好きな方でして。見た目も良いし、何故か憎みきれません。

 淫魔の(さが)ゆえに、その行いは褒められたものではないですが、人間の姿では効果抜群の性技と小賢しい淫夢を扱う程度ですし…

 良い友人を得られれば、より魅力的なキャラクターになるのではと考え、達郎とペアを組んでもらうことにしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。