寄せては返す波の音と潮の香り。四肢に
達郎の目覚めは、心地の良いものでは無かった。砂浜に仰向けに倒れたまま見上げた夜空には、大きな深紅の月が輝き、浜辺を真っ赤に染め上げている。
首を
(生きているのか、俺は……)
「…ようやく、目覚めたか」
突如、頭上から聞こえた黒井の声に、達郎は即座に飛び起きると瞬く間に距離を置く。
「安心しろ。人間とはいえ、俺は命の恩人を無下に扱ったりはしない」
(恩人…だと?)
黒井が指差す先の砂浜には、枯れ果てた木遁の幹と不発に終わった無数のC4爆弾が散乱していた。
「ぇ…起爆しなかったのか?」
「時間・空間の不確かな次元の狭間に落ちたのだ。時限信管のタイマーが止まったとて、不思議なことではあるまい」
呆然とする達郎に、黒井は尚も言葉を投げかける。
「それより貴様の方はいいのか?俺を殺したいほど憎んでいたのだろう?」
得物一つ持たない今の達郎が、黒井に抗うには余りにも分が悪い。
「お前を助けるつもりなど毛頭無かったが……俺一人では到底敵うわけもないからな」
達郎は両手を上げ、戦う意志のないことを黒井に示した。
「ふん…存外に冷静なのだな」
「で、此処は一体何処なんだ。次元の狭間に落ちたにしては、想像していたのとは大分違うみたいだが……」
「無論、俺にも分からん。元の世界に通ずる場所か、或いは全く別の異世界か。皆目見当がつかん」
(嘘を言っているようには見えない…如何に淫魔とはいえ、王の位を冠する男。それなりに分別を
「そうか…まぁ、お互い一度は諦めた命だ。精々、生き足掻いてみるとしよう」
そう言うと達郎は黒井の脇を通り抜け、海とは反対方向に向かって歩き出した。
(ゆきかぜや凜子姉《姉さん》のことを考えると胸が痛む。元の世界に戻る方法を早く探さなければ……)
「おい、何処へ行こうというのだ?」
達郎は振り返らずに黒井の問いに答える。
「遠方…あの
「ほう…中々使えるではないか、人間」
ザッ、ザッ…ザッ、ザッ……
背後から聞こえてくる足音に耐えかね、達郎は歩みを止めて後ろを振り返る。
「いや、何で付いて来るんだお前?」
「気にするな。他に当てもないのでな、同行させてもらおう」
(本気かよ、こいつ……)
一時停戦したとはいえ、行動を共にするなら話は別だ。気分次第で己が命を奪いかねない相手が近くにいては、気が休まる暇もない。
(冷静になれ…この先、外敵に襲われる可能性もある訳で。暫くは一緒に行動した方が、
此処は一先ず呉越同舟、考えを改めた達郎は今後の黒井との接し方について、更に頭を悩ませるのだった。
続
実を言うと黒井のことは結構好きな方でして。見た目も良いし、何故か憎みきれません。
淫魔の
良い友人を得られれば、より魅力的なキャラクターになるのではと考え、達郎とペアを組んでもらうことにしました。