「…凜子は安らかに逝ったか?」
屋敷の外に出た達郎に、門前で待ち構えていた黒井が問いかけた。
「あぁ、とても満ち足りた顔で…うん、安らかな最期だったと思う」
「そうか。それにしても相変わらずよく泣くな、貴様は」
黒井の見立ての通り、泣き腫らした達郎の両眼は酷く赤い。
「………」
「凜子の死とて看取ったのは一度や二度ではない…いい加減慣れてもよい頃合いだと思うがな?」
「こればかりは多分、一生無理だと思う」
今の二人は、大元の“原世界”から無数に連なる“並列世界”を渡り歩く
世界間の移動は突如訪れ、二人の意思が介在する余地はない。一つの世界に留まれるのは長くて三ヶ月、短い場合は半月程度であり、その規則性も判然としない。
加えて二人は歳を取ることも無かった。その容姿は旅を始めて二十年以上経つにも関わらず、一切変わる様子がない。
次元の狭間に落ちたのは勿論のこと、その際に黒井が魔力で結界を張ったことも関係しているように思われたが、原因は未だ分からぬままだ。
屋敷を離れ農道を横並びに歩く二人。沈黙を破るのは、大体いつも黒井の方からだ。
「聞いてもいいか、達郎」
「何だよ、改まって」
「いや、実はいつまで経っても俺を殺さない貴様が不思議でな。今や仙術の域に達しつつあるその腕前ならば、叶わない願いでもないだろう?」
「そりゃ、まぁ……」
往く先々の世界で自由奔放、気ままに振る舞う黒井に対し、達郎は己が武芸を絶えず磨き続け、その実力は今や黒井に勝るとも劣らない。
そして、達郎は世界を移動する度に、ゆきかぜや凜子或いはその縁者を探しては、陰ながら見守り続けた。
任務中の窮地は言うに及ばず、敵勢力に
例えその結果が、“並列世界”に新たな分岐を一つ設けるだけの行為だとしても…達郎には見過ごせるはずもなかった。
詰まるところ今の達郎は、ゆきかぜと凜子の因果律に干渉する事象概念とさして変わらない。
「でも……やっぱり一人は寂しいだろ、お互いさ」
達郎はいくばくか逡巡の後、建前とも本音とも取れる曖昧な返事を返した。
「ふん……所詮は人間か、脆弱な返答だ」
黒井は達郎より前を行くと、しばらくして後方の達郎に語りかけた。
「ところでな、達郎。今宵は
「いや、ここ対魔忍の里だし。そんなお店近くにないから」
「まぁ、任せておけ。俺の魔性の
(はぁ…何言ってんだ、こいつは。だから、それが駄目なんだって……)
達郎は大きく溜め息を吐くと、黒井の考えを少しでも早く改めさせねばと、その歩みを速めたのだった。
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人間と魔族の垣根を越え、世界の
二人の在り様は、もはや余人の及ぶべきところにはない。そして抱える想いもまた、誰にも知る由のないものだった。
了
稚作に最後までお付き合いいただいた方々へ、この場を借りて厚くお礼申し上げます。
「世界が達郎を見限ったのではない。達郎が世界の枠組みから逸脱したがために、狭小な世界に住まう者達からはその様子を観測、或いは認識できなくなったに過ぎない」
という現対魔忍世界からの逃げの一手が、今作の主題だったのですが…最後まで準備不足、説明不足な感が否めませんでした。
少しでも真面目な話にしようと思ったら、勢いだけで書いてはいけませんね…
反省は尽きませんが、私の達郎の物語はここで一旦終着です。今後はこれまでの稚作の誤字・脱字、言い回しやらをこっそり見直す程度に留めるつもりです。
話題を少し変えまして、対魔忍シリーズについて少しだけ私見を述べさせていただければと思います。
ネットで見聞きした知識で恐縮ですが、公式の並行世界設定や物語のリスタートについては、正直なところ私からも一家言申し上げたい気分です。
他方、忍者ベースの和風異能系かつ、やや緩めなサイバーパンクな世界観や、ゆきかぜを始めとした数々のキャラクターについては、本当に魅力的だとも感じています。
最後になりますが、今後の対魔忍シリーズが、より良いコンテンツとなりますよう、心よりお祈り申し上げまして、私の最後のご挨拶と代えさせていただければと思います。
本当にありがとうございました。
茶玄( ̄^ ̄)ゞ