スカイハイ   作:ラケットコワスター

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「何かいる」「いるな」

 同日 一一時〇〇分

 

 一行はそれから川を発ち、地図にあった岩山へ進路を取った。ぺトラの複製魔法で補給を済ませた瑞雲は快調にエンジンを唸らせ、危なげなく飛んでいる。

 それに並走するようにレミーを背に乗せたオスカーが飛び、空を飛ぶ瑞雲を珍しいものでも見るかのように観察していた。

 

「にしてもでっかい鳥だな……」

 

 それを見ながら修一が操縦席で呟く。

 

「多分レミーは南東の地方出身なんじゃないかな。あの辺はレティアの生息域だし、それと共存する文化と技術が育ってるっていうしね」

「へぇ、そいつはすごいな」

 

 修一の感心したような声に対し、ぺトラは座席で手帳を広げながら適当に言葉を投げ返す。レミーの提案を受け、どれ程の距離を短縮できるか、それによってどれだけどれだけ航行計画を短縮できるかを計算していた。

 

「ぺトラさん」

 

 ふと、機外から声がし、顔を上げるといつの間にかレミーが距離を詰めて来ていた。

 

「どうしたの?」

 

 風防を開き、声をかける。

 

「いえその……改めて見てみるとこの機体見たことないなって。なんていうんでしたっけ?」

「ジ……瑞雲って言うんだ。ちょっと珍しい所から来た機体でさ、まぁ見たことないよね。僕も修一に会ってから知ったんだ」

「へぇ……」

 

 レミーが進路を変える。瑞雲の周りを観察するように飛び始めた。

 

「おーい、あんまし近寄るなよ」

 

 プロペラに近づいたあたりで修一に釘を刺され、大人しく後方へ戻ってくる。

 

「……ひょっとしてこれ翼の中に銃埋め込まれてます?」

「みたいだね」

 

 そう言って後部座席の機銃を展開する。

 

「ここにもあるし」

 

 それを見てレミーが言葉を失う。

 

「でも使わないのが一番だよ。その為にあまり人気のないルート通ってるしね」

「ま、まぁ……そうですよね……あ!見えてきましたよ!」

 

 すると話の途中で突然レミーが声を上げる。彼女の指さす方向を見ると、遠目に大きな岩山が見えた。植物の類は一切生えてないようで、遠目に見ながらでも緑が一切見受けられない。おまけにそのシルエットもごつごつといやに攻撃的で、全体的に圧を感じる山だった。

 

「なんだありゃ……鬼ヶ島が実在してたらあんな感じなのかね……」

「……ん?」

 

 すると今度はレミーが声を発する。

 

「どうした」

「何か……来ますっ!」

 

 レミーがそう言った瞬間、修一の顔つきが変わる。ただ一人反応の遅れたぺトラが急に機体がバンクしたことに驚いたように声を上げる。

 

「見つけたぞ。今度こそその機体貰い受けようじゃないか」

「げぇっ!またあんたかよ!」

 

 恰幅の良いシルエットに複数の空飛ぶ絨毯──ゾイだ。

 

「どうしたの修一!?」

「あの先生だ!戦闘用意!」

 

 そう言われぺトラは慌てて手帳をポーチに戻し、機銃に手をかける。

 

「レミー!離れてろ!」

「私も戦えます!」

 

 修一の言葉にレミーがそう返し、どこからかやや大ぶりな小銃を取り出した。木製で細身ではあるものの、淡く光る青い曲線が何本も走り、引き金の近くに小さい電球のようなものが先端に向けて三つ縦に並んでいる。

 

「小銃……?にしちゃ随分派手だな」

「見てのお楽しみです。来ますよ!」

 

 そう言葉を交わすと同時に一枚の絨毯が瑞雲とレミーの間に突っ込んでくる。両者はそれを横旋回でかわすと、それぞれ両側に展開してゾイを挟み込む位置につけた。

 

「ぺトラ!またあれやれるか?」

「合成魔法?駄目だよ火が無い!」

「ああそうか……!くそ……火……火……!どっかに無いか……!?」

 

 一方反対側では、レミーとゾイがにらみ合っていた。

 

「おやお嬢さん、珍しいものを持ってるね」

「へぇ、この銃の価値がわかるんですか。こんな出会いじゃ無かったら仲良くしたかったですね」

「五百年前の戦乱で使用された魔術式四号銃……まさかそんなオーパーツを生きて拝めるとは思わなかったね」

 

 ゾイに銃が向けられる。刹那、三つ並んだ電球のうち一番手前の電球が青く発光し、銃口から青い光弾が吐き出された。弾丸のそれと変わらない速度を持つ光弾が飛来するが、ゾイはそれをいとも簡単にかわしてしまう。

 

「その機体と一緒に貰い受けよう!」

 

 そして右手の人差し指と中指をレミーに向けた。

 

『撃て!』

 

 叫ぶ。するとそれを銃声の代わりに指先から緑の光弾が飛び出し、レミーへと飛来した。

 

「ッ!」

 

 レミーはそれを身を捻って回避するが、オスカーの翼に着弾してしまう。オスカーは悲鳴を上げるとバランスを崩し、レミーの制御むなしく高度を落としていく。

 

「く……!」

「次だ!」

 

 ゾイがレミーを追いながら叫ぶ。今度は五本の指全てをレミーへと向け、狙いをつけた。

 

『撃──』

「待てやこらああああぁぁぁあああぁぁああッ!」

 

 不意に上方がする。ゾイが顔を上げると、瑞雲が三枚の絨毯にまとわりつかれながら急降下を仕掛けてきていた。

 

「うおおおおおおおおおおっ!?」

 

 慌てて腕を引っ込め、絨毯を急旋回させる。勢いの殺しきれない瑞雲はそれを追いきれず落下していった。

 

「ふん、むしろ的が一つになったわ!」

 

 そのまま瑞雲と反対方向に急上昇し、未だ急降下を続ける瑞雲の後方につく。

 

「今度こそ、撃──」

 

 両手を向け、瑞雲とその向こうのレミーを打ち抜こうと呪文を口に出す。

 

「!」

 

 その瞬間、()()()()()()()()()。瑞雲を挟んでこちらへ銃口を向けている。

 

「撃て!」

 

 魔法の小銃の二つの電球が発光する。次の瞬間銃口から勢いよく炎が噴出した。瑞雲のフロートをかすめるように伸びていき、真っすぐにゾイへ──

 

「かわせ!」

 

 絨毯が急上昇で炎の手をかわし、瑞雲の機体上部へ出る。

 

「──ッ!」

 

 ──その先では、ぺトラが機銃を向けていた。

 

『混ざれ!』

 

 レミーの放った火炎と合わさり、機銃から炎と共に銃弾が吐き出された。先ほどより強い勢いで放たれたそれは今度こそかわす余裕の無くなったゾイに着弾し、彼の乗っていた絨毯に火をつけた。

 

「ほがあああぁぁあああぁぁああああああぁぁぁぁぁあああ!」

 

 ここへきてゾイは初めて悲鳴を上げ、慌てて傍へ呼び寄せた別の絨毯に乗り移る。

 しかしその頃には瑞雲とすれ違いながら上昇してきたレミーが迫ってきていた。

 

「!」

「シッ!」

 

 銃口から飛び出した銃剣でレミーが斬りかかる。不意を突かれたゾイはそれに対応しきれず、絨毯は大きく切り裂かれてしまった。

 半分程のサイズにされてしまった絨毯はどうやら力を失ったようで主人を乗せたまま高度を失っていく。

 

「くそっ!次!」

 

 ゾイは浮力を失った絨毯を切り捨てると、そのまま宙へ飛び出した。両手を広げ次の絨毯が落下地点へ飛んでくるのを待つ。

 

「よし!」

 

 すると一枚の絨毯が眼下に現れる。ゾイは位置を調節し、そのまま真っすぐに絨毯へ落ち込む──

 

「んぐふぅっ!?」

 

 が、絨毯に落ちたにしてはあまりにも硬い感触が衝撃となって全身を駆け巡った。神経が訴える痛みを処理しながら目を開ける──

 

「うおおおおお!?」

「なんだああああああ!?」

 

 修一と目が合った。わけもわからず周りを見ると、瑞雲の操縦席の上にいる。どうやら降下中の瑞雲が横旋回に転じた結果、ゾイと絨毯の間を通ってしまっていたらしい。そうして落下するゾイとコースがぶつかり、彼の巨体が瑞雲の操縦席の上に落ちて──

 

「お……お前!今すぐ離れなさい!私を絨毯の上に降ろせええええええええ!」

「うるせええええええええええッ!こっちだって前見えねえんだよさっさと離れろ!」

 

 風防のガラス越しに二人の男が混乱しながらぎゃんぎゃんと騒ぎ立てる。

 

「ええい、死なばもろともよッ!」

 

 一瞬早くゾイが冷静さを取り戻す。風防の中の修一へ人差し指を向け、狙いをつける。

 

『撃てッ!』

「させるかッ!」

 

 その瞬間、修一が操縦席にとりつけられた取っ手に手をかけ、勢いよく風防を開いた。

 

「うおっ!?」

 

 しがみついていた場所が激しく動いたことでゾイがバランスを崩す。直前に放たれた光弾はどこかあさっての方へ飛んで行ってしまった。

 

「この……!」

 

 体勢を立て直したゾイが再び指を修一に向ける。

 が、それを逆に掴まれた。

 

「え」

「おんどりゃああああぁぁぁぁあああぁぁああああああぁあッ!」

 

 ゾイの左頬に修一の拳が深々と突き刺さる。驚くほど綺麗に決まった鉄拳にゾイの意識は簡単に刈り取られ、ついに風防にしがみついていた方の手も放してしまう。そのまま重力に引っ張られるように下へ落下して行った。途中絨毯が助けに行っているのが見えたが、流石にもう追撃はしてこないだろう。

 

「はぁ……はぁ……」

「……なんとかなったね」

 

 三者三様に肩で息をしながらお互いの無事を確かめ合う。

 

「思ってた以上にしつこい野郎だったな……ん?」

 

 ふと、修一が左手の中に異物感を感じた。開いてみると、緑色の宝石のはめ込まれた指輪が転がっている。先程掴んだゾイの右手にはめられていた物だろうか。

 

「翠晶石じゃないですか。いい物手に入れましたね」

 

 いつの間にか運転席の隣にいるレミーが解説する。

 

「翠晶石?」

「ええ。魔石の一種ですね。物質や運動の力の強さに作用すると言われてます」

「へぇ……」

 

 修一が何気なくそれを握り込むと、確かに拳の中央からじんわりと何か暖かいものが広がっていくのを感じた。

 

「……」

「どうしたの?」

「ぺトラ」

 

 修一が手を開き、後部座席のぺトラを呼ぶ。

 

「何?」

「お前が持ってろよ。俺が持ってても持て余しそうだ」

「え?……そ、そう?じゃあ降りたら受け取るね」

 

 同日 一三時一二分

 

「よし、降りるぞ」

 

 ゾイの襲撃を切り抜け、無事に岩山へとたどり着いた一行。丁度いい湖を見つけると機体を着水させ、予想通り一本の雑草すら生えていない地面に降り立った。

 

「……いやに風が強いな」

 

 修一が感想を述べる。この岩山を飛び越えて行けない理由はこれだった。レミー曰く、このあたりの地盤は広範囲にわたって魔力を帯びているらしく、そのせいで温度がめまぐるしく変わり、それなりに強い風が予測できない吹き方をしているかららしい。一本だけ生えていた大きな木の枝が不規則に揺れているあたり、本当のことなのだろう。

 

「……で、この山の中にある遺跡の仕掛けなんですが、これを起動すれば山の向こう側に出れるらしいです」

「なるほどなぁ……じゃあそれを起動してからもう一回ここに出てくることになるのか?」

「そうですね。中の広さもそれなりですし、多分瑞雲でも抜けられると思うんですけど」

「そうか」

「……」

 

 そう話す二人の後ろでは、ぺトラが自身の指にはめられた緑色の魔石を眺めていた。少しして腰の剣をおもむろに抜くと、二、三回振ってみる。

 

「どうだぺトラ?」

「……うん、ちょっと軽く感じる」

「さぁ、行きますよ」

 

 ***

 

「思ったより綺麗だな」

 

 洞窟へと足を踏み入れ、少し進んだあたりで修一がふと言葉を漏らす。遺跡がある、という情報を踏まえれば、どこかしらの団体が保全活動を行っていても不思議ではないが、それにしても苦も無く進んでいける程には物も散らかっていなく、障害となりうる物もこれと言って見当たらなかった。

 

「そういえばここって何の遺跡だったのかな」

 今度はぺトラが口を開く。そっと壁に手を触れ、埃を払うと何やら紋章のようなものが彫られているのがぼんやりと見えた。

 

「古代文明の競技場だったみたいですよ」

 

 レミーが言葉を返す。いつの間にか壁の模様ははっきりとしてきており、雰囲気も自然のものから人の手の入ったものへと変わっていく。

 

「かの英雄の時代から更に数百年も昔、娯楽嫌いの暗君の時代に非合法の競技場として作られたようですね。数年で存在が露呈して、すぐに封鎖されてしまったみたいですが、それにしては随分大掛かりな施設みたいですよ」

「へぇ……そうだったんだ」

「さぁ、つきましたよ」

 

 そう言うレミーの言葉につられて顔を上げると、途端に視界が開けた。

 通路の低かった天井は急に天を突くほど高くなり、高く伸びる壁には観覧席と思われるスペースが散見される。大小様々な岩の転がる円形の地面にはどこからか日光がさし、ほんのりと光を反射していた。

 確かイタリアにこんな遺跡があったな──修一は密かにそんな感想を抱く。

 

「ここは……」

「競技場みたいですね。そこ、見えますか?」

 

 急に現れた光景に驚き、ぼんやりと天井を見上げていた二人にレミーが声をかける。指を指した方を見ると、地面に大きめの円が描かれていた。

 

「なんだこれ」

「円……だね」

「どうもこの上にエレベーターがあるみたいなんですよ」

 

 円の上に立ちながらレミーが言葉を続ける。

 

「裏口へ続くエレベーターなんですが、降ろした後下で止まらずにすぐ戻っちゃうみたいで」

「技術の未熟さを感じる」

「それで、この上にある制御室でエレベーターを降ろす役と、下で止めておく役が必要だったんです。複数人必要って言った理由はこれですね。私が降ろすので、お二人は下でエレベーターを止めておいてもらっていいですか?」

 

 あらかた説明したあとレミーが二階の一室を指さす。二人が顔を上げると、観覧席の中に混じって少し大きなスペースがあるのが見えた。

 

「魔法制御みたいだね……そこの技術は今とそんなに変わらないんだ」

「魔法技術は歴史上、結構早い段階である程度成熟しちゃいましたからね。さ、降ろしてきますね」

 

 そう言ってレミーが壁際の階段へ歩いていく。

 

「すごいな、この世界の昔の人はこんなもの作ってたんだな」

「そうだね……僕も知らなかったよ」

 

 そんなレミーの動きを目で追いながらぺトラと修一の会話が弾む。

 

「お前でも知らないことがあるんだな」

「当たり前だろ。僕はまだ十六だよ?知らないことの方が多いよ」

 

 レミーが制御室に到着する。

 

「しかしお前でも知らないようなことを知ってたなんて、あいつもあいつで結構すごいよな」

「まぁね……どこで知ったんだろ。少なくとも僕が読んだ本には載ってなかったんだけど」

 

 エレベーターが降りてきた。

 

「お、降りてきたな」

「思ってたより大きいね。何か運ぶのに使ってたのか……な……?」

 

 エレベーターが止まる。

 そこには、四メートルはあろうかという大きな岩人形──ゴーレムが乗っていた。

 

「修一」

「あぁ」

「何かいる」

「いるな」

 

 沈黙。その中で、ゴーレムがゆっくりと腕を上げていく。

 

「ごあああぁぁあぁぁぁあぁぁあああぁぁぁぁああぁぁぁあああぁぁああッ!」

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁッ!?」

 

 

 

 

 




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