スカイハイ   作:ラケットコワスター

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騙されたああぁぁぁぁああぁぁあっ!

 突然ゴーレムが咆哮し走り出す。それと同時に二人は絶叫し、全力で地を蹴った。

 

「何あれ!?なんでゴーレムが出てくるの!?」

「俺が知るかよ!おい!おいレミー!どこだ!?無事か!?」

 

 その瞬間、背後からゴーレムの剛腕が振り下ろされる。二人は間一髪それをかわし、生じた砂埃に紛れて近くの大きな岩へ身を隠した。

 

「くそ……どうなって……」

 

 ふと顔を上げる。

 そこにはゆっくりと元の場所へ戻っていくエレベーターと、それに乗っているレミーが見えた。

 

「レミー!待って!まだ僕達が!」

 

 ぺトラが声を上げる。それを受けたレミーはゆっくり手を上げ、

 

「んべっ」

 

 あかんべをした。

 

「は?」

「やだ。危ないし。それにあんた達を乗せたら誰がそのゴーレムを引き付けるの?」

「え?何?どういうこと?」

「何って……まだわからないの?」

「……まさか、僕達を連れてきた本当の理由って」

 

 急に口調も雰囲気も変わったレミーにぺトラが質問を投げる。

 

「そ。このエレベーター、本当はゴーレムの運搬に使われてた物なの。あぁでも嘘は言ってないわ。たまたま裏口が今はゴーレムの格納庫を通って行かなきゃダメってだけだし、ゴーレムを引き付ける役として複数人必要なのは事実だしね。ま、上手いこと頑張って。それじゃあね。ばいばーい」

 

 わなわなと震えるぺトラとは対照的に、笑顔で手を振りながらレミーが格納庫へ消えていく。

 

「騙されたああぁぁぁぁああぁぁあっ!」

「ぺトラ!」

 

 叫ぶと同時に修一に抱き寄せられる。その瞬間、ぺトラの居た場所がゴーレムの大きな拳に吹き飛ばされた。二人は小さく悲鳴を上げると、岩場から離れ先程入ってきた入口へ全力で走り出した。

 

「だから放っとけって言ったのに!」

「あぁ悪かったよ!とにかく今は走れ!」

 

 完全に二人の姿を捕捉したゴーレムは雄叫びを上げ、両腕を振り回しながら追いかけてくる。四メートルの岩の塊は移動するだけで地響きを起こし、背中でそれを感じる二人に重苦しい恐怖を与えた。

 

「もう少し!」

 

 円形の広場を横切り、入口が迫る。あと数メートルで手が届きそうだ。

 

「うぉんッ」

 

 突然、背後のゴーレムが声を発する。それと同時に何かが二人の頭上を飛び越えていった。

 岩だ。先ほどまで二人が身を隠していた岩が宙を舞っている。それは飛ばされるままに二人を跳び越え、真っすぐに着地点へと飛び込み──

 入口を塞いだ。

 

「嘘でしょ!?」

 

 ぺトラが叫ぶ。そしてその瞬間、目の前で道を塞がれ足を止めてしまった二人目がけてゴーレムの拳が振り下ろされた。

 

「くっ!」

 

 直前で二人はなんとか横っ飛びにそれをかわす。

 

「下がってろ!」

 

 すぐに持ち直した修一がぺトラを後ろ手に庇い、素早く拳銃を抜いた。そしてゴーレムが二人の方を向くと同時にその巨大な顔目がけて引き金を三度引く。

 銃口から飛び出した弾丸は真っすぐにゴーレム目がけて飛んでいき、その眼球──宝石でできた眼球に飛び込み、跳弾した。

 

「危ねぇッ!?」

 

 跳ね返ってきた弾丸を間一髪でかわすと、その背後から飛び出したぺトラが修一を引き倒す。すると一瞬前まで修一が居た場所にゴーレムの足が振り下ろされた。

 

「目まで石とか反則だろ!」

「当たり前だろ相手はゴーレムだよ!?」

 

 そう言いながら今度はぺトラが剣を抜く。

「翠晶石……試してやる!」

 ぺトラの指に収まった翠晶石が緑色に淡く発光する。

 

「おお……」

「剣の強度上昇、斬れ味増強……喰らえッ!」

 

 翠晶石の効果を乗せ、一気にぺトラが斬りかかる。

 がいぃん、と岩に金属が打ち立てられる大きな音が響いた。その衝撃は剣を伝い、ぺトラの全身に走る。

 

「ういいぃぃぃ……硬ったぁ!?」

「おんっ」

 

 ゴーレムの腕が横なぎに払われる。巨体の割に素早い動きにぺトラは今度こそ反応が遅れ、その衝撃を喰らってしまう。

 

「うっ……ぐっ!」

 

 吹き飛ばされたぺトラを修一が受け止めるが、それでも勢いは殺せず、そのまま二人とも後方へ吹き飛ばされていく。

 

「痛った……」

「くそ……」

 

 打つ手無し──。ゴーレムは二人を見据えながら、近くにあった岩を持ち上げている。

 

「う、ぉんっ!」

「やっ……べ!」

 

 また岩が宙を舞う。放物線を描きながら二人の元へ、標的を押しつぶそうと落ち込んでくる。

 瞬間、二人を大きな衝撃が襲う。次の瞬間、体が浮遊感を訴えた。あまりに唐突な浮遊感に、ぺトラはついに死んだかと、そう考えてしまう。痛みはなく、死ぬというのは存外苦しくはないようだ──

 

「へぶっ!」

 

 が、更に次の瞬間、何かに体が打ち付けられ、全身に激痛が走った。

 

「痛たた……今度は何……?」

「おい!そこのアンタ達!」

「……え?何?」

 

 修一が弱々しい声を出す。よく見ると二人はがれきに少し埋もれており、地面の崩落に巻き込まれたらしかった。

 その崩落によって巻き上がった大量の埃の向こうで誰かが手を振っている。

 

「こっちだよ!」

「だ……誰……?」

 

 ぺトラがそれを確かめようと目を凝らすと、突然腕を掴まれ立ち上がらされた。修一だった。

 

「行くぞ!」

「早く!あのでっかいのはここまでは来れない!」

 

 痛みを訴える体を無理やり動かしながら、修一に引っ張られるままに走っていく。その先の、よく見えない人影についてくように──

 

 ***

 

「……ひどい目にあった……」

「全くだね……」

 

 遺跡の広場の下にもスペースは広がっていたようで、先を行く声に従ってしばらく走っていると、いつの間にかゴーレムの足音は遠のいていった。完全に足音が聞こえなくなったところで二人は足を止め、その場に座り込んだ。

 

「危なかったねー、大丈夫?」

 

 そんな二人に暗がりの向こうから声が届く。その声につられて二人が顔を上げると、暗がりから一人の少女が現れた。

 戦闘用の装備を身に着けている二人とは違い、大きなバックパックを背負い、ゴーグルを額に着用する姿は探検家を思わせた。着用しているコートは丈夫な素材でできており、その下にはシャツを着ているようだがコートの胸元が大きく開き、そこだけ探検家の武骨なイメージとはかけ離れていた。

「あ……あぁ……どうも……ありがとう」

 少女が差し出した手を掴み、立ち上がりながら修一が礼を言う。

 

「名前は?」

「西沢修一……と、ぺトラだ。ぺトラ・ナッツ」

 

 修一に紹介されたぺトラはやはり疲れ切った顔で軽く会釈する。

 

「ナッツ?ひょっとしてナッツ家の人かい?」

 

 すると、少女が驚いたような顔をした。

 

「え?う、うん……まぁ、そうだけど……」

「はぁー、そうなのかい!いや、あたいの学校がアンタんとこから援助してもらってるからさ……」

 

 そう言って大きな音をたて手を合わせる。

 

「いつもありがとうございます」

「そ、そんな。僕に言われても……」

 

 困ったような顔をするぺトラを横目に修一が軽く笑った。

 

「あたいはクリス・アクロー。ま、気軽にクリスって呼んでおくれよ」

 

 ***

 

 それから少しして、ゴーレムの追撃の心配が無いとわかると三人は通路の奥へ向かって歩き出した。その途中で話題はお互いの身の上へとシフトする。

 

「こう見えても学生でね。歴史の勉強してンだ」

 

 クリスはそう言って腰のポーチから何やら難しい文字の並んだノートを見せびらかしてくるが、知識の無い修一にはさっぱり内容のわからないものだった。

 

「レースの参加者じゃないんだね」

「まぁねぇ。むしろレースの参加者がここ通ろうとしてたことにこっちが驚いてるくらいさね」

 

 そう言ってカラカラと笑うクリスに対し、ぺトラは自分がまんまと出し抜かれたことを思い出したのか、小さくため息をつく。

 

「ま、そんな落ち込むことは無いよ。確かレースはまだ始まったばかりだったろう?」

「でもこれで大きなロスだよ……少なくともレミーには離されちゃっただろうし……」

「なぁ……クリス?その……なんだ、そろそろここを脱出したいんだが……道わかるか?」

 

 そんなぺトラの様子に居心地の悪さを感じたのか、修一がそう話を切り出す。

 

「大丈夫だよ。裏口まで案内してやるよ」

「本当か!じゃあ悪いが頼めないかね……」

 

 が、瞬間修一の肩に手が回され、クリスから離される。視界の回転が止まると、ぺトラの渋い顔が映り込んだ。

 

『ちょっと待って、これレミーの時と同じ展開だよ?』

「は?」

『だから!日!本!語!』

『……そうは言っても実際こいつのおかげで助かったじゃないか』

『そうだけど……もうちょっと慎重になるべきだ。修一は人を信じすぎだよ』

 

 突然違う言語で話し始めた二人をクリスが怪訝な顔で覗き込むが、それでもぺトラはお構いなしに続ける。

 

『確かにレミーの件は悪かった。すまん。だが、今んとここいつに頼る以外の道は無いぞ?戻ればあのでっかいのが居るし、俺達だけで道を探すにも時間がかかりすぎる』

『う……』

「大丈夫さ。別にとって食おうってんじゃないよ。あたいとしてもそろそろ脱出したいし、一緒に行こうよ」

 

 ぺトラの態度から自分が信用されていないということだけ察知したクリスが手を差し出す。

 ぺトラが渋い顔をする。瞬間、その手を修一が迷わず握り返した。

 

「ところでアンタ達……壁登りはできるかい?」

 

 同日 一六時三二分

 

「できなくはないって言ったけど……」

 

 それから少しして。クリスの案内で遺跡を進み、三人は無事太陽の下へと出てくることができた──が──

 

「本当に崖登りじゃねえか!」

「諦めな。もうここしかないよ」

 

 げんなりとした表情のぺトラと修一に対し、クリスが残酷に言い放つ。

 クリスが案内した場所は海に面した洞穴の入口だった。クリスが言うには、人工的に作られたと思われる石橋があることから恐らくかつては港として使われていた場所らしい。

 そしてその石橋の近くにある崖、その上をクリスが指さしていた。その先に目を凝らすと、頂点に見覚えのある一本の大きい木が見えた。確か瑞雲を着水させた大きな湖から少し離れた場所に一本だけ生えていた大きな木だ。

 

「ここ登っていけばあそこまで行けるか……」

「……」

「怖いかい?」

 

 少し青い顔をしているぺトラの肩をクリスが軽く叩いた。

 

「そ……そんなわけないだろ!行くよ!」

 

 いたずらっぽく笑うクリスに対しぺトラは少し大きな声でそう言い返すとさっさと崖に向かい、手頃な出っ張りに足をかけた。

 

「早く!置いてくよ!」

「……かわいいね」

「だろ?」

 

 そんなぺトラに対し声をかけられた二人は和やかな笑顔を浮かべた。

 

 同日 一六時四二分

 

「ついてこれてるか?」

 

 崖を登り始めてから十分。不意に修一が声を発する。同時に足元から返事が返ってくる。

 崖登りは先頭をぺトラが買って出たが、修一が承知せず、結局修一を先頭にぺトラ、クリスの順で登っていた。

 

「思ってたよりキツいねこれ……」

「ああ下見るんじゃないよ、足止まっちまうよ!」

 

 決して短くはない距離に命綱は無し、どうもクリスと修一は慣れているようだがぺトラにとっては初体験の行動。落ち着いてはいるようだが内心穏やかではないはずだ。

 

「……ん」

 

 ふと、修一の動きが止まる。

 

「修一?」

「……なんか……音しないか?」

「え?」

 

 そう言われ耳をすます。確かに──どこか遠くから──

 

「何か……砕いてるような……」

「……?」

 

 クリスもそれにならい壁に耳を当てる。これは──遺跡の内部からか?

 何か硬いものを粉砕し、叩きつけるような力強い音が──段々と──

 

「これ近づいてきてない?」

 

 瞬間、すさまじい音と共にぺトラのすぐ隣の壁が吹き飛んだ。

 

「うおおぉぉぉぉおおぉぉおおぉおおぉぉおおぉっ!?」

 

 修一が声を上げる。同時に、ぺトラの隣に空いた穴から大きな腕が伸び、彼女の脚を掴んだ。 

 

「え」

「うぉんっ」

 

 ゴーレムだ。

 

「うわあああああぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁあああああぁっ!嘘でしょ!?」

 

 三人がそう認識した瞬間、まるで答え合わせのように大穴からぬっ、とゴーレムが顔を出した。先ほどから聞こえてきた音は、ゴーレムが遺跡の壁を破壊しながら無理やり進んできている音だったのだ。

 あまりに突然のことにぺトラはパニックを起こし、ゴーレムに捕まれた脚をめちゃくちゃに振り回すがまるで振り払えそうにない。ぺトラの少し下にいるクリスが石を投げつけているが、注意を引くことすらできていないようだった。

 さらに次の瞬間、ゴーレムが穴から身を乗り出したかと思うと、背中から勢いよく翼を展開した。

 

「と……ととと……飛べンのかいコイツぅ!?」

「嫌だああああっ!連れてかれるうぅぅぅううううぅぅぅうぅぅぅッ!」

 

 ゴーレムが背中から勢いよくエネルギーを放出する。魔力の類いだろうが、あまりの濃度に色がついて見えた。

 飛ぶ。ゴーレムが飛び立つ。ぺトラとクリスがそう認識した瞬間、不意に二人に影がかかった。

 反射的に顔を上げる。何か、何かが太陽を背にして飛び込んできて──

 

「ぅおりゃああぁぁああぁぁあああぁぁぁぁぁあああぁぁッッッ!」

 

 どすん、という鈍い音と共に修一がゴーレムに〝着弾〟した。その衝撃でゴーレムはぺトラから手を放し、上方から飛びついてきた修一と共に落下していった。

 

「はああぁぁぁああああぁぁぁああぁぁぁああああぁぁぁッッッ!?」

「おいデカブツぅ!てめぇの相手は俺だあああああああああああああああッ!」

 

 驚愕するぺトラとクリスの叫びよりもさらに大きい声で修一がそう宣言する。海に向かって落下していくゴーレムの体にしがみつきながら、羽交い絞めのような体勢へと移動していく。

 

「修一ぃ!」

「お前ら!今のうちに登り切れ!そしたら瑞うぶっ」

 

 最後まで言い終わらないうちに海に落ちてしまう。

 

「──雲を動けるようにしとけああああああああぁぁあぁぁああぁぁああぁぁぁあああッ!?」

 

 かと思うと次の瞬間には水面から飛び出してきたゴーレムにしがみつきながら悲鳴を上げていた。

 

「正気かいアイツ……」

「……」

 

 あまりに非常識で馬鹿馬鹿しさすら感じてしまう目の前の光景に言葉を失うぺトラ。しかし何度確認しても目の前にあるのは空中をめちゃくちゃに飛び回るゴーレムとその背に掴まりながら何かを叫んでいる修一である。

 

「ペ……ぺトラ!とりあえず登り切っちまおう!いつまたあれが来るかわかんないよ!」

「え?あ、あっ!うん、そうだね……!」

 

 クリスの言葉に現実へ引き戻されたぺトラは微妙な返事を返し、再び頭上の出っ張りへ手をかける。

 

「この……大人しくしろ!危ねえだろうが!」

「うぉう」

 

 一方空中ではゴーレムと修一が激しく飛び回っていた。ゴーレムは背に張り付いた異物を排除しようと躍起になるが、修一の方も振り落とされればそのまま死に直結するため簡単には手を離さない。

 

「大人しくしろって……」

 

 銃を抜く。

 

「言ってんだろうがああああぁぁぁあああぁぁぁッ!」

 

 叫びながらゴーレムの関節に弾丸を撃ち込んだ。

 するとその内の数発がゴーレムの推進機構にダメージを与えたらしく、大きくゴーレムがよろめいた。

 

「はぁ……はぁ……瑞雲!」

 

 丁度その下では崖を登り切ったぺトラとクリスが瑞雲の元へ走り寄ってきていた。

 

「これがその……ええと、ジーウンってのかい!?」

「うん、そう!今からエンジンかけるから、僕の言う通りにしてくれる!?」

 

 そう言いながらぺトラがどこからか取り出した二回折れ曲がった棒を機首に空いている小さな穴に突っ込んだ。

 

 

 

 

 




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