トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第10話

「よしスペちゃん、あと5回で休憩ね」

「はいっけっぱるべぇぇ!!」

 

なし崩し的にチームスピカに顔を出す事になってしまったヒビキ、あの後スピカの部室に顔を出したのだがそこにいたゴールドシップやダイワスカーレット、そのライバルでもあるウオッカ、そして本当に移籍していたサイレンススズカも驚いたような顔で此方を見つめていた。がそれは本当に僅かな間で次の瞬間には本当に嬉しそうにしながら絡んできた。好ましく思われているのは良いのだが……何とも面倒な事になったなぁと思いながらもスペシャルウィークのトレーニングを行っていた。

 

「やっぱり朝の空気って気持ちいいですね!!キリっとしてて目も覚めますし」

「そうだよね、これが好きで俺も早起きしてるようなもんだからね」

 

嬉しそうな顔をしながらヒビキの指導を受けているスペ。初日の触れ合いや優しさ、器の大きさなどを感じてこの人に担当になって貰いたいと思う程度には惚れこんだからだろう。そんな響鬼はスペにはリギルの選考レースの邪魔をしてしまった負い目もあるのでトレーニングを見ている……が、この先はスピカの面々も見なければいけないという事を考えると少しばかりため息が出る。

 

「んじゃ次は……仕上げのランニングだね、朝ごはんの前に最後の汗をかこうか」

「はいっ!!これだけ動いた後だときっとすごい美味しいんですよねご飯!!」

「その意気その意気、んじゃ行こうか」

 

 

「ほらほらっ足が乱れてるよ~疲れてるのは分かるけどペースは一定」

「はっはい~!!!」

 

スペシャルウィークは嬉しかった。トレセンに入ってこの人に見て貰いたいと思っていた物の矛先であったヒビキに指導をして貰える事が、チームスピカの皆も凄く喜んでいた。その時に聞いたがヒビキはトレセン内では凄い人気を誇る用務員であると。用務員としても優秀だがそれだけでは人気にはならない。

 

トレーナーとの関係に悩んだ時に気軽に相談出来る相手、落ち込んで居る時に声をかけてくれて有難かった、休日なのに遊びに付き合ってくれた、苦手だったダンスの特訓に付き合ってくれたなどなどウマ娘たちからすればこれ程心強く有難い存在は中々いない。そして器が大きい上に大人の魅力に溢れていてイケメンという年頃の乙女ならばときめく要素だらけの用務員。それが人気の秘密だと言う。

 

「はいラスト~」

「頑張りますぅ!!」

「頑張るのはいいけどペース一定ね~おじさんついて行けないから」

「すっすいません!!」

 

確かにそれには同意するが……それ以上に凄いのはヒビキの身体能力ではないだろうか。自分は本気で走っている訳ではない、あくまでランニング。だがその速度は普通の人からすればかなりきついランニングに入って走り続けるのは辛い筈なのに、平気な顔をしたまま自分の後ろについている。

 

「鍛えてますからっシュッ」

「何も言ってませんけど!?」

「聞きたそうな雰囲気してたから」

「(お母ちゃんヒビキさんって本当に凄いです、やっぱり私ヒビキさんにトレーナーになって欲しいです!!)」

 

そんな思いと共にゴールを切った。流石に疲れたのか多少なりとも息が荒くなっているのだがヒビキは全くそんな事はなくふぅ……と一息つくともう何ともなかったかのようにお茶を飲み始めた。如何言うスタミナをしているのだろうか……。

 

「あのヒビキさんは何で大丈夫そうなんですか、全然苦しそうじゃないですけど」

「まあ単純に言えばメンタルと経験の差だね。慣れているのとまだまだ行けるなって思ってれば身体もそうなるんだよ、ほら病は気からって言うじゃん。それと同じだよ」

「そうなんですね……よしっ私も気持ちを鍛えます!!そして今度のデビュー戦、絶対に勝ちます!!」

「応援してるよ」

 

それじゃあ失礼します、っと朝ご飯を食べる為に去っていくスペシャルウィークを見送る。しかし、まさか6日後にはデビュー戦が控えてしまっているとは難儀と言うべきかそれとも沖野がそれだけ彼女のポテンシャルを信じているというべきなのか……これは迂闊に手を抜けないなと思いつつも用務員室で簡単な朝食を済ませると早速仕事に入るのであった。

 

「んっ~……やっぱり視線増えたなぁ」

 

仕事も一段落したので身体を伸ばしていると矢張り思う事を口にする。元カノ云々で騒がれていたのにそこに自分が実はトレーナーもやれるという事が伝わっているのかあからさまに自分を見るウマ娘たちの視線が増えた。まあしょうがないとしょうがないのかもしれないが……。

 

「ヒビキさん今暇っ!?」

「あらっダスカちゃん」

「だからそれやめてって言ってるでしょ」

 

のんびりとしていると突然目の前に二つの影が走り込んできた、一つはダイワスカーレット、そしてもう一つは―――彼女のライバルのウオッカだった。

 

「ヒビキのおっちゃんちょっと俺達に付き合ってくんねぇか!?ちょっと勝負すんだよ、その審判してくれよ!!」

「あららっまた勝負?相変わらず元気だね」

 

カッコよく生きることを第一に掲げる、ボーイッシュなウマ娘。優等生なスカーレットとは対照的な性格もあって二人はぶつかり合う事が多い、というかしょっちゅうぶつかり合っている。

 

「それじゃあどんな勝負をするんだい?」

「いやそれはまだ決めてねぇんだけどさ、折角だからおっちゃんに決めて貰おうぜって話になったんだよ」

「折角スピカに入ったんだからいいでしょヒビキさん、ほらっチームの管理って事で」

「やれやれ……その辺りは沖君のせいなんだけどなぁ……」

 

ハッキリ言ってトレーナーをやる気は皆無、だが状況はそれを許してはくれないらしい。スペを見るつもりが、彼女はチームスピカに入ってしまったので彼女だけを見るというのは不公平を呼ぶので全員を見ろという事にもなる。用務員でいたいヒビキとしては中々に辛い今が広がっている、だがそれは顔に出さない。何故ならば―――ヒビキはウマ娘の笑顔が好きだからだ。

 

「それじゃあ二人はご飯食べたの?」

「まだよ」

「それじゃあまずはご飯の勝負と行こうか、どっちが多く食べられるかってのは如何だい?」

「おおっそれ良いじゃん!!丁度最高に腹減ってたんだよ!!」

「よしっそれじゃあ食堂に行くわよ、ほらヒビキさんも早く!!」

 

と彼女らはそれぞれ手を引っ張ってヒビキを急かしながら食堂へと向かって行く。その姿はまだ遊び盛りな娘二人に振り回されているお父さんのようだった。




雷電 響鬼。

トレーナーの資格がある事が分かって更に視線が増えたおじさん。スペのサポートの関係上、スピカの面々にも色々としなければいけなくなったがトレーナーをする気はない。が、状況がそれを許してくれ無さそうだなと感じている。
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