「スペシャルウィーク、弥生賞大勝利を祝して乾杯!!」
『かんぱ~い!!』
その日、用務員室のガレージは賑わっていた。ガレージには雨よけの屋根もあるのでその下にテーブルや椅子を準備してそこでパーティを開いていた。今日は見事に弥生賞の大勝利をもぎ取ったスペのお祝いなのでヒビキも場所を貸してくれた。
「さあどんどん作るよ、ニンジンタップリ焼きそばいる人」
『は~い!!!』
「全員ね了解」
本来は部室でこういった事をするべきなのだが、沖野曰く響鬼もチームスピカの一員なので一緒にやらなければ意味がないと力説しそれに珍しくチーム全員が賛同したので此処でやる事になった。
「プッハ~!!このニンジンジュース最高!!どこで買えるのよこれ!?凄い美味しいわ!!」
「いやマジで美味いなこれ!!俺お代わりっと!!」
「ああっちょっとアンタそれで何杯目よ!?私まだ2杯しか飲んでないのよ!?」
「俺だってまだこれで3杯だけだっつの!!ああおい注ぎ過ぎだっつの!!」
相変わらず簡単な事でも争いごとになるダスカとウオッカ、それほどまでにジュースが気に入ってくれたらしい。
「はいはいっジュースは沢山準備してあるから大丈夫だよ、はいヒビキ特製ニンジンジュース」
「えっヒビキさんのお手製なんですか!?」
「というかここにある料理全部俺が仕込んだものだよ?」
「嘘だろおっちゃんどんだけ万能なんだよ!?」
「鍛えてますからっシュっ」
母親から料理を仕込まれているウオッカはテーブルの上を埋め尽くすように並べられている料理の数々をたった一人で作ったというヒビキに驚く、ニンジンハンバーグにローストチキンにニンジンポタージュ、ニンジンが練り込まれた特製餃子……どれもこれも手が込みまくっている。
「おっちゃんっ焼きそばお代わり~」
「私もお願いします!!」
「はいはいっそんなに気に入ったのかい」
「だって美味いんだもん、なっスペ」
「はいっすっごい美味しいです!!」
満面の笑みでそんな事を告げてくるスペ、今日の主役の意見を無視は出来ないとお代わりを出して上げるが……もう既に随分と食べているように見える。なんだか傍から見たら妊婦のように見える程度にはお腹が膨れているのにまだ食べられるのだからウマ娘という奴には驚かされる。
「おじさん僕にもジュースお代わり頂戴~!!」
「やれやれ折角作ったジュース全部飲まれちゃうなこりゃ、しかしテイちゃんもよく教え込んだもんだね。弥生賞だとかなり良くなってたもんねスペちゃん」
「うんっ頑張ったもん!!」
TVで観戦したが、最後のウイニングライブは最初と比べると大幅に進歩しているスペの姿がそこにあった。まだ何処かぎこちなく、まだ周囲からは遅れているようではあったが棒立ちに比べたら圧倒的な成長と言えるだろう。
「あっそうだ、僕スピカに入る事にしたから宜しくね!!」
「へぇっそりゃ良かったじゃないか」
『えっ~!!?』
「えっ何それの反応」
ヒビキからしたらスピカの面々はそれを知っていると思っていたが、如何やら今のこの場で初めて言った事らしい。と言ってもヒビキ的にはもう既にスピカのメンバー的な印象があったので何とも言い難いのが正直な反応。だが彼女が尊敬し憧れているルドルフがいるリギルではなくていいのかとは思うが。
「僕会長に追いつく、だからスピカで力を付けて会長とレースに出て見せる!!」
「良い目標じゃないか。どうせだから皇帝を越える帝王になっちゃえなっちゃえ」
「あっそれカッコいい!!よ~し最高に凄い帝王になるぞ~!!」
祝いの席に新たにチームメンバーとなったテイオー、彼女の夢もスペの日本一のウマ娘になると同じ位に大きな目標。あの皇帝に並び立つ、それは極めて困難な道筋、だがこの子ならばきっとそれは出来るだろう。皇帝という大きな星を目指して進む新たらしい光……こういうのを見るとどうしても応援したくなるのは歳だからだろうか。
「ねっおじさんっスペちゃんのお祝いだし太鼓やってよ!!」
「今かい、夜もいい時間だから不味くないかな」
「えっ~いいじゃんいいじゃん~」
トレセンの敷地内とはいえ周囲には一般の人が住んでいるのだからこの時間に余り煩くしてしまうと迷惑が掛かる、昼間ならまだしもこの時間は流石に……と渋るヒビキだがテイオーを援護するようにダスカ達も続いた。
「良いじゃないヒビキさんっ折角のお祝いなんだから派手に行かなきゃ!!」
「そうそうっ俺もおっちゃんの太鼓聞きてぇよ!!」
「ケチケチ言わずにやっちまえよおっちゃん」
「好き勝手言ってくれるなぁ……スズちゃんも何か言ってあげてよ」
「今日ぐらいは良いじゃないんですか?」
「ええっ……」
どうにも逃げ場がないような気がしてきた。沖野に目をやってみると大丈夫だろ、やっちまえとサムズアップが帰ってきた。溜息を吐いているとスペが笑顔を向けてくる。
「お願いしますヒビキさん、私ヒビキさんの太鼓聞きたいです!!だって聞いてると凄い爽やかな気分になるんですもん!!」
そんな風に自分へと思いをぶつけてくるスペシャルウィーク、その笑顔はヒビキが好きな類の物だった。如何にも自分はこういう物に弱い、何時弱くなったのか……―――いや元々自分は弱いかと思いながらも如何やらやるしかなさそうなので菜箸を置きながらバチを握る。
「よしっそれじゃあやったるか、苦情が来ても沖君の責任って事で♪」
「ええっ俺のせいかよ!?」
「だってスピカのトレーナーなんだからチーム内で起きた問題は君が責任を持たなきゃいけないでしょ」
「ぐっ……とっつぁん、最近なんか黒くなってきてねぇか!?」
「お陰様でね♪」
沖野の曇った声と引き換えにウマ娘達からは歓声が上がる、ヒビキは太鼓をセットしながらとある事を考えそうになった。そして呼吸を整えながら、スペのこれからの躍進とテイオーのスピカ参入を祝う為に太鼓を叩く。
「ではご照覧あれ、雷電 響鬼が見せますは豪火連舞の型による演奏で御座い!!」
「やれやれ~!!」
「カッコいいぞおじさ~ん!!」
「あっリクエストは?」
『ズコ~!!!』
雷電 響鬼。
パーティの為に頑張って料理を仕込んで全部食べられた用務員のおじさん。残さず食べてくれたのは嬉しいが、オグリキャップのようにパンパンになっていたスペのお腹を見てちょっと心配中。