トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第2話

「ヒビキさんおはよっ~!!」

「はいおはよう、今日も元気だね」

「用務員のお兄さんおっは~!!」

「そこはおじさんで良いんだぞ~」

 

トレセンの用務員というのは忙しい。トレセンの生徒数が多いというのもあるが、ウマ娘が通う学校という特性が本当に強い為に壊れる物は多かったり修繕する箇所が尋常ではなかったりと基本的多忙―――の筈なのだが……

 

「おはようヒビキさん、今日もいい朝だ」

「うんおはよう。昨日も生徒会で徹夜してたね、美容に悪いって言ってるのに」

「おっとこれはくぎを刺されてしまったのか、余りの早さにヒッという声を出して吃驚してしまいそうな気持になってしまったよ」

「ヒビキだけに?ちょっとギャグとしては長いなぁ30点」

「ウゥム……私としては良いと思うのだが……」

 

余裕を持った態度で応対する、やって来たウマ娘がウマ娘なのでそのような体勢を作っているとも言えなくはないがそれが一般的な用務員ならばの話。彼ならば彫脳に余裕を作り出す事など容易いのである。

 

「しかしいつもながら見事な御手前……貴方が直した後の芝は走り抜けて非常に気持ちいいと好評です」

「そう言われると直す甲斐があるねぇ……おじさんが出来るのは皆が気持ちよく走る為のお手伝いでしかないからね、景気よく荒らしてくれて嬉しい限りだよ」

「そんな風に言えるのは貴方だけですよヒビキさん」

 

語り掛けている相手はウマ娘界においてに知らぬ者はいない皇帝、皆の憧れの完全無欠の生徒会長、シンボリルドルフ。あらゆる面において完璧すぎる実力を備え人気も桁外れな最強バ―――尚、やたらと連発するダジャレのレベルはかなり低い。

 

「それで如何したの」

「いやっ以前頂けたアドバイスのお礼を言いに来た。お陰で快調だよ」

「会長だけにてか、20点」

「ムゥッ……ヒビキさんは優しいのに其方は厳しい」

 

彼の鍛錬癖はトレセン学園周知の事実。毎朝日が昇る前に始めるトレーニング、それはウマ娘でなければまともに出来ないであろう密度、それを平然とこなし続けているヒビキ。常日頃から鍛えてますからっという、それが彼の凄さの秘訣らしくそれに肖ろうと一部のウマ娘はヒビキのメニューを真似てみたりしている。

 

「お礼って言うならさっもっとおじさんを頼りなさいな、生徒会のやる事が多いなら言ってくれれば手伝うから」

「いやしかし、それは……私達がすべき事、それを放棄するに等しい」

「うら若き乙女が何を遠慮してるのよ、子供はもっと大人を頼りなさいって」

 

真剣な顔で悩んでいる皇帝の額を軽く小突く、普通なら畏れ多くやる者などいない事を平然とする。それをされて少しばかり不服そうな顔を浮かべる。

 

「子供というのはやめて頂きたい、子供というのは何方かと言えばテイオー辺りの事を言うと思うのだが……」

「おじさんからしてみれば皆子供も子供、そこに区別はないよ。だから皇帝様ちゃんも大人を頼りなさい」

「―――ハハハッギャグ以外で笑いを取られるとは思わなかったな」

 

常に凛としているシンボリルドルフもこの時は破顔して年相応の笑みを浮かべた、ウマ娘誰もが幸福になれる時代を目指しているが故に皇帝は苦労する。自らの身体を酷使して幸せになれる時代を作ろうとする、ならばその為にももっと自分達を利用すればいい。そうしろと進言するヒビキに肩の荷が下りる。

 

「ではこれからは出来るだけ寄っ掛からせて貰うとしよう、一度そうすると決めたら私は意地でも利用させて貰うから覚悟して欲しいな」

「望む所だよ、何せっ『鍛えてますからっ』シュッ」

「だろう?」

「そゆこと♪」

 

決め台詞に被せるシンボリルドルフ、それに対して笑顔で肯定するヒビキ。トレーナーと担当ウマ娘という関係という訳ではないのに確固とした信頼関係が構築されている、これもヒビキという男の持つ雰囲気のなせる業なのかもしれない。

 

「あっ居たぁ!!ヒビキさんすいませんっゴールドシップが芝を大変な事にぃ!!」

「あいよっ直ぐ行くよ、それじゃまたね生徒会長のシンちゃん」

「ああっ有難う用務員でヒビキのおじさん」

 

 

「修復完了!!」

『いやなんであんな短時間で出来るんだよ……!?』

「鍛えてますからっシュッ」

 

ゴールドシップのせいでコースの芝の一部がまるで爆撃にもあったかのような事態に陥ってしまいこの後予定されていたスケジュールが崩壊する一歩手前だった。それを修復したヒビキへは畏怖と驚愕の視線が注がれている。いい仕事したなぁ……と額の汗を拭っていると自分に向けてドリンクが差し向けられた。

 

「はいっお疲れ様」

「ありゃダスカちゃんじゃない」

「その呼び方やめてよ、可愛くない」

 

やや不機嫌ですと言いたげな態度を取る豊満な髪質のツインテールが特徴的な少女、ダイワスカーレット。彼女に謝罪しつつも差し入れを受け取りつつ飲む、適度に冷えていて飲みやすい。渡す相手の事をよく考えられていると心遣いには感心する。

 

「良く短時間であんなに酷い有様だった芝を直せるわね……如何なってるの?」

「鍛えてますからっシュッ」

「あのメニューに付き合ってるから知ってるわよ」

 

ダイワスカーレットは時々、夜にヒビキが行っているトレーニングに混ざっている。彼女は負けず嫌いで1番に拘りがある、その為の努力を惜しまない。そんな彼女が夜に寮を抜け出してトレーニングしている際にヒビキに出くわした。本来は門限を破っての夜間外出は言語道断、トレセンの職員としての対応をするのが当然。彼女も最初にそう思っていた。

 

『あらっ夜なのに頑張ってるね。これさっき買ったココア、これで身体を冷やさないようにね。それじゃ応援してるよ』

『えっ……?ああはい、有難う……』

 

咎める所か自分の応援をして去っていった、そしてこっそりと寮に戻ると見つかってしまったのだが……ヒビキの手によって外出手続きが成されていた為に怒られる事はなかった、それでも夜は気を付けろと注意は受けたがその程度で済んだ。礼を兼ねて作業中の所を訪ねて、聞いた。如何してと。

 

『だって頑張る子って応援したいじゃない』

 

極めて単純な理由に呆気に取られたが、彼女は笑った。その日からヒビキのお世話になるようになっていった。時間さえあれば早朝の鍛錬も参加している、その為もあったか彼女の記録は伸び続けているらしく時折自慢げにその成果を語っている。

 

「この後のレースで私走るから見ていってよね」

「おおっそうなんだ、じゃあきっと君の1位かな?」

「そうに決まってるじゃない、何せヒビキさんと一緒に」

「「鍛えてますからっシュッ!!」」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう告げるダイワスカーレット。言いたい事は言った、だからレースは見ていってねと示すと去っていく姿を見送った。

 

「やっぱりウマ娘は笑顔が一番だよね」

 

そして、その後のレースではダイワスカーレットは見事1位を取って満面の笑みを見ていたヒビキへと捧げた。




雷電 響鬼。

今年で32歳になる用務員のおじさん。愛称はヒビキさん。学園としては非常に助かっている部分が大きく頭が上がらない事が多々あり、やめられないように気を遣われつつ頼られている。

穏やかな性格且つウマ娘達の為ならと協力を惜しまない為か、人気も高い。
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