トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第21話

「という訳でして校内の施設は以上となります」

「いやぁっ着替え持って来て正解でした。まあ普段の山籠もりのノリで着替え突っ込んだだけなんですけど」

「だと思ったよ」

 

プールの施設を案内した事で漸くコース以外の施設の案内が終了した。が、最後の最後で飛び込みをしたサクラバクシンオーの水飛沫を諸に被った輝は全身びしょ濡れになってしまった。着替えがあったのは幸いだった……と言えるかは微妙だが。尚、たづなはヒビキが手を引いて一緒に下がったので濡れなかった。

 

「アキラさんは普段から山に行っているんですか?」

「はい。うちの御爺ちゃんが山を持ってまして、それが私の遊び場で鍛錬場になってるんです。子供の時からそりゃ文字通り山野を駆けまわってましたよ~夏は虫を捕ったりしたり、秋は焼き芋をしたり、冬はカマクラを作ってその中でキャンプしたりって誰が子供やねん!!」

「まだ何も言ってないっつの」

 

最近そういうキャラが出てくる漫画でも読んだのか随分と一人のボケとツッコミが多い、これで下がるとしたら自分の評価なのだからそこは気にした方が良いとは思うのだが……いや下手に取り繕うよりも自然体である事を見せた方が印象としては良いのだろうか……。

 

「それではこれからレース場にご案内しますね」

「おおっ!!実はちょっとこういう所で走ってみたいとは思ってたんですよねぇ~」

「輝もそういう事は考えるのか」

「何ですかその発言、おじさまちょっと酷くないですか」

 

そんなやり取りをしているとたづなが微笑んだ。本当にこの二人は仲が良い、おじと姪という関係なのだろうか余りにも仲良しな姿は父と娘、いや兄と妹にも見える。

 

「んで如何よ実家の方は皆元気してる?」

「はいモチのロンです、最近は伊吹さんがお弟子さんを取ったんですよ」

「へぇっあの伊吹が……教え方上手いしなぁ~あいつ」

 

時折聞こえてくる実家の話、如何やらヒビキの実家は何を脈々と継承させる事をする家柄らしくそこで役職についていると思われる人が弟子を取って次代を育て居るという話が聞こえる、興味が沸く話題ではあるのだが間もなくコースに到着する。折角だからトレセンでのレースを見て欲しいと今日模擬レース行われるウッドチップのコースへと連れて来た。

 

「此処がトレセン学園のコースです、此処はウッドチップのコースで今丁度模擬レースを……やってた筈なんですけど終わっちゃったみたいですね」

 

今日は此処でチームリギルが誇る短距離最強ウマ娘のタイキシャトルとチームスピカのスペシャルウィークの模擬レースが行われていた。それを見せたかったのだが……如何やら丁度終わってしまった所らしい。勝敗はタイキシャトルの勝ちだと聞こえてくる、そして目の前では沖野とハナが話している。矢張りと言うべきか今回は沖野が頼み込んで組んでもらった模擬レースのようだ。

 

「今回は有難うなオハナさん、マジで速いなタイキシャトル」

「当たり前でしょ。次はウチが得をするレースを組みなさい」

「言うねぇハナちゃん」

「あらっ意外な人と会ったわね」

 

そこへ声をかけるヒビキにハナは意外な顔をする。下手に顔を出せば他のチームにも顔を出さなければいけない、という名分が出来るので来ることを避けていたヒビキのご登場。しかもたづなと見た事も無いウマ娘を連れているならば余計に気になる。

 

「おっなんだとっつぁん来たのか。来るならもっと来いよな、そうすりゃスペだって元気出たのによ」

「それは悪かったね、でもこちとらスカウトされて見学に来た姪っ子の案内係って仕事があってね。別に俺が来たくて来た訳じゃないから」

「あっ姪っ子?」

 

視線を逸らすとそこにいた酷く小柄なウマ娘がいた、彼女は視線に気付いて無い胸*1と大して変わらない背伸び*2をして自己紹介をする。

 

「初めまして、奈良から見学に来ました雷電 輝です。ヒビキおじ様の姪です、気軽に輝と呼んでください」

「とっつぁんの姪か!!というか姪っ子なんていたのかよ、全然話してくれなかったじゃねえか」

「自分の家の家族構成とかべらべら話す事でもないでしょ」

 

それもそうかと笑いながらも沖野は咳払いをしつつ挨拶をする。

 

「俺はチームスピカの沖野トレーナーだ。とっつぁん、いやヒビキのおじさんとはまあ……同僚で世話になってるかな」

「迷惑かけまくってるが正しいでしょ貴方の場合は。ようこそトレセン学園へ、私はチームリギルの東条 ハナよ」

「宜しくお願いします!いやぁっ東条さんってばこりゃまた美人な上にやれるカリスマ上司感が溢れ出てますね!!」

「とっ突然褒めるわね……」

 

開口直ぐにこんな誉め言葉を受けるとは思っていなかったハナは少しばかり照れる。こんな事をサラッと言えてしまうのが輝の長所かも知れない。そんな空気を打ち破ろうと咳払いをしようとするハナだが、それは遮られた。奇しくも自分のチームメンバーであった皇帝、シンボリルドルフによって。

 

「やぁっアキラ、見学に来たのか。生徒会長として歓迎するよ」

「あっ会長さんじゃないですか!!いやぁなんかウチの中学にスカウトが来ちゃって……それで取り敢えず見学にした次第です」

「そうなのか。兎も角遠い所よく来てくれたな」

 

ルドルフは柔らかな笑みで応えながら手を差し出す、輝もそれに気付いて握手を返す。この中では唯一輝の事を知っているウマ娘、そしてそれを聞いたハナはスカウトの目に叶ったという彼女の実力が気になった。それを代弁するように沖野が尋ねた。

 

「とっつぁんの姪かぁ……んじゃやっぱり―――鍛えてたりするのか?」

「ええ勿論、おじ様の鍛錬ノートを参考にしながら毎日毎日山で鍛えてますからっしゅっ」

「随分とっつぁんの事慕ってるじゃないか」

「当然です!!響鬼おじ様は私にとっての憧れ、私が目指すべき人なのですから!!」

 

一度回転しながら、腕を勢いよく天目掛けて掲げる。妙に洗練された動作と意気込みに周囲からおおっ……と声が漏れる程に自信に満ち溢れている。ならば、期待の新人の自信が一体どれ程の物であり、それに裏付けされる程の実力があるのか気になるのがアスリートの性。

 

「だったら一度走ってみないかアキラ。私も万全且つ全力の君の走りをぜひ見たい」

「いやぁっ~照れますなぁ~♪それじゃあ私も走ってみたいですからいいですよ、でも出来れば芝が良いです。ウッドチップでしたっけ、走った事無いので」

「たづなちゃん大丈夫かな」

「はい大丈夫ですよ、それではご案内しますね」

 

とたづなの後に続いていく輝、そして来たい人は着いて来なと言いたげなヒビキ。それにつられてハナはチームに声を掛けてからルドルフを連れて後に続いていく。沖野はいい刺激になるかもしれないとスピカの面々に声を掛ける。

 

「お~いとっつぁんの姪っ子が走るってよ」

「えっヒビキさん!?っというか姪っ子!?」

「えっヒビキさんに姪っていたの!?」

「しかも走る!?」

「なんか面白そうじゃん!!」

「いこいこ~!!」

 

見に来るのはチームリギルのハナにルドルフ、そしてチームスピカの全員。芝のコースへと移動する最中にハナは面識があるらしいルドルフに軽く話を聞く。

 

「貴方が見たい程のもの、だったのかしら」

「百聞一見、見た方が早いと思います。ですが、彼女は奈良からトレセンまで響鬼さんの太鼓を背負って走って来れる程に身体を鍛えているらしいです」

「奈良から……それは是非見たいわね」

 

様々な方向から注目を集められる輝、スカウトが見初めた才能、そしてルドルフの言葉……ハナの中で輝に対する興味が著しく大きくなっていく瞬間であった。

 

「そんなに私の走りって気になるんですかねたづなさん」

「それはもう。スカウトされている訳ですから気になるのは当然ですよ」

「プロ野球でスカウトされて来たバッターのバッティングとか見たいに決まってるじゃん」

「確かに」

*1
B71

*2
身長141㎝




雷電 響鬼。

トレセン学園を見学に来た姪っ子をたづなと共に案内する用務員のおじさん。タイキシャトルとスペの模擬レースは純粋に忘れていた。

雷電 輝。

トレセン学園を見学に来たヒビキの姪っ子。ルドルフやハナも憧れるような存在ではあるが、個人的にはたづなさんの方が魅力的に映るらしい。

響鬼の鍛錬ノートを参考にしながらメニューを組み、毎日山で鍛え続けている。曰く無駄な脂肪などないらしい、確かに胸に脂肪はない。
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