トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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多分ぼろぼろです……初めての挑戦ですので出来ればお手柔らかに……


第22話

「えっと……それで結局私って何メートル走ればいいのかな」

「アキラ、こちらの都合は気にしなくていい。君の走りたい距離を自分の走りで走ればいいんだ」

「は、はあ……やってみます」

 

ウォーミングアップを終えて十二分に身体が温まっている輝は聞いた。短距離、マイル、中距離、長距離に区分されるレースの距離。この中で走るとしたらどれを走ればいいのか全く分からないというのが素直な輝の本音。ルドルフのアドバイスもハッキリ言ってピンとこないし指定してくれた方が気が楽になるといったレベルである。

 

「おじ様マジで如何したらいいんですか……?」

「取り敢えず普段何キロ走ってる」

「えっと……早朝に10キロに夕方に10キロです」

「それだったらマイルで如何だろ。大体1600位だけど行ける?」

「えっ1600キロ……?」

「メートルに決まってるでしょうが……」

 

 

「何を話しているのかしら……」

 

素直に何を話しているのか気になる、アキラの方からヒビキのように寄ったように見えるが……何かアドバイスを貰おうというのだろうか。そこにたづなが意見を出す。

 

「資料ではウマ娘向けのレースにも殆ど出場した事ないみたいです、何でもダンスが大の苦手だと」

「成程、それで避けていたのか……ならばライバルなどが皆無の状態、矢張りヒビキさんと同じように鍛錬し続けただけで今がある訳か……だとすればあのフォームは天性のものなのか」

 

ウイニングライブを毛嫌いするウマ娘は少なからずいる、しかし大きな大会でより強い相手に走れる事などの高揚感がそれを打ち消す場合が大半、自分を応援してくれるファンの為ならば……とダンスは努力する場合が多い。なのでそこは自分の努力次第で何とかはなるとは思う……まあ前提条件としてダンスが大っ嫌いとなるとハードルは高いだろうが。

 

「その鍛錬の結果が奈良から此処まで来る事……か、にわかには信じられないわね」

 

やろうと思えばウマ娘は出来るだろう、だが普通はやろうなんて思わない。自分も見た事があるが、ヒビキのあの大きな太鼓を抱えたままで……それはたった三日で東京までやって来るというとんでもない。身体能力だけではなく精神力も相当な化物という事になる。

 

「でもヒビキ君が嘘を言うとは思えないし……これが其方が言ったなら嘘だと思うけど」

「おいおいおいひでぇな、俺でもこういう時は確りいうぞ」

「普段の行い」

『確かにない』

「うぉい」

 

ハナの言葉に納得するようにスピカの面々も頷いた。人格面は悪くはないが勝手に足を触るという部分が余りにもマイナスポイント過ぎるのである。

 

「それにして一人で走らせちゃっていいの、何なら私も一緒に走るけど」

「あっ俺も走りてぇな」

「まあ距離にもよるしな……あくまで実力を見るだけだから大丈夫だろ」

 

ダスカとウオッカが名乗りを上げるが、あくまでこれは確認する為だけの走り。それならば相手は必要ない、逆に今までまともにレースがした事がないなら集中を削ぐ恐れがある。今は実力が知りたい、例え後に削がれると分かったとしても後で幾らでも矯正は聞くのだから。

 

「んじゃ1600行きます」

「あいよっゴルちゃんゴールお願いしてもいい~?」

「あいよ~」

 

と頼まれたゴルシは即答で赤いゴールフラッグを受け取って小走りでゴールへと向かって行く。そして位置に付いたのを確認するとヒビキは懐へと手を入れて何かを取り出して輝に見せた。

 

「んじゃ輝いいな、こいつが鳴った時が合図だ」

「うんっそれが合図だと思ってた」

 

ヒビキがその手に握っていたのは音叉だった、輝にとっては馴染みの物なのかそれを見て笑顔を作ってから腰を落としてスタートに備えた。間もなく始まる、それはスカウトに見初められた輝が力を見せ付ける時、それを見た時皆はどう思うのか、そしてどんな感想を漏らすのか―――ヒビキもそれは気になっていた。故に落ち着いて声を出す。

 

「位置について、よ~い……」

 

キィィィィンッ……酷く涼やかで清らかな音が開始の合図となってそれによって解き放たれた輝きがコースを駆ける閃光となる。開始とほぼ同時に駆け出した輝はコースを力強く踏みしめていく、これがレースを殆ど知らぬ少女の走りなのかと思う程に力強さに溢れていた。彼女が踏みしめた地面は芝が抉れるように穴が開いている。とんでもない馬鹿力だが、それを生み出す頑強な肉体。それは少女が作り上げた物。

 

「脚質的には……先行だな。速いがまだ余裕を残してるって顔してるな」

 

沖野から見た輝の脚質は先行、走り方はかなり粗さがあるが速い。流石はヒビキの姪というだけあるという所だろうか、身長は低いからか足の回転を重視したピッチ走法を使用している……いやストライド走法との中間辺りだろうか。そしてそのままの速度でコーナーへと突っ込んでいくが、コーナーギリギリを攻めていく。

 

「近っ!?」

 

ウオッカが声を上げてしまう程に輝は内ラチを攻めている。ウマ娘の走行速度では擦っただけでも怪我はほぼ確実、それなのに顔色一つ変えずに内側を抉り続けていく。内ラチとの距離は5センチ程度、それを維持したままで駆け抜けていく。

 

「山を駆け回った結果だね、木々の間を駆け抜けてるから慣れたんだろうなぁ……」

「いやそれで慣れるのか……?」

 

感覚的には近い物はあるだろう、だがそれで慣れるような物ではない。それによって培われた精神力が輝を支えている、この程度で自分は揺らがないと宣言するかのように直線へと入ると更に加速していく。

 

「速いですねスズカさん!!」

「速いわね」

 

その速度はスズカも素直に褒めざるを得ない程に速い。実際のレースであれが出せるのであれば相当な逸材、そして何より直線に入ってから常に加速し続けているような印象を受ける。そこまでの速度を維持したままで更に加速、ヒビキ譲りのスタミナだと思うと不思議と納得できた。

 

「よぉ~しそのまま来い!!ゴルシちゃんに気持ちよく旗を振らせろよぉ~!!」

「っ―――だぁぁぁぁぁぁありゃああああああ!!!!」

 

最後にラストスパートに一気に最高速度へと到達してゴールへと到達する。勢い良く振られた旗がはためく中、輝はブレーキを掛けながら後ろを見ると少しばかり頬を掻いた。

 

「こんな感じで良いのかな……」

 

ストップした輝は直ぐに呼吸が整いながらもそんな疑問の声を浮かべた、やれる限りの全力を尽くしたがこれで中央の人達は満足する結果なのだろうか。そう思っているとゴルシが輝を確保する。

 

「お前中々やるじゃねぇか、ゴルシちゃんシールを贈呈してやるぞ!!」

「ゴルシちゃんシールですと!?何だかよく分からないけど集めたくなるような不思議な魅力を感じます!!」

「分かってるじゃねえか、10個集めるとなんと……!!」

「なんと!?」

「ゴルシちゃんが釣ったマグロをプレゼントだ」

「凄いけどなんで釣ったのマグロ!?」

 

褒められる輝だが素直に喜んでいいのか分からない、輝はそのままゴルシが頑張ったご褒美と称して肩車をしたままヒビキの下へと連れて行く。

 

「ゴルシちゃん号到着~」

「おかえりゴルちゃん。如何だった輝の走り」

「いやぁ~このゴルシちゃんには敵わねぇけど良かったと思うぜ、根性とスタミナあるからスピードも出し放題なんだな」

 

輝は速い事は速いが正直な所、スピードは中の上が精々。しかし、持ち前の精神力と鍛錬によって磨かれた体力によってほぼ無尽蔵に加速させられる。普通ならばそれをすれば身体に無理が掛かり過ぎるが、長年の鍛錬で頑強になった身体はそれを許容出来ているし、走るフォームも崩れないのも理想的。そして何よりあの内ラチへの攻め方、正しく強い心が実現する走りである。

 

「如何だった沖君におハナちゃん」

「いやっすげぇと思ったわ、色々と荒い部分あるけど逆にそれがいい味出してると思った。根性で二段階加速か……いやいいなぁ」

「殆ど同意見。これは是非模擬レースも見たいわ、技術があるのかないのか……いや無いにしても磨く価値がある原石よ」

 

トレーナー二人からは高評価を貰えて輝は満足気にしながら胸を張る。

 

「如何ですか、これがおじ様直伝の鍛錬によって磨き続けた輝の輝きです!!」

「別に直伝じゃないし人のノート盗み見てやってるだけじゃん」

「おじ様……分かって無いなぁ細かい事は良いんですよ細かい事はっ……あのすいません圧縮の刑はご勘弁を……!!」

 

たづなのようなナイスバディになる為にも絶対に避けたいのだろう、頭に置かれた手に本気で戦慄する輝。そんなやり取りを知っているたづなは微笑み、走りを見たルドルフは素直に称賛した。

 

「素晴らしい走りだったよライデンアキラ、あれが君の走りなんだな」

「そうだと思います、良く分からないですけど……というか何でフルネームで呼ぶんです?」

「何故と言われてもな……これが君の名なのだろう、ならばそう呼ぶのが君への走りへの敬意だと思ったまでだ」

 

純粋に称賛と敬意を込めているルドルフ、ウマ娘としての走りは彼女から見ても良い物だった。ならばそれをした彼女には相応の物を向けるべきだろうと思っていた。しかし首を傾げた輝はポンッと手を叩きながら輝は告げた。

 

「雷電 輝はライデンアキラじゃないです。カガヤキホコル、それが僕のウマ娘としての名前です。輝っていうのはそこから貰った私の名前です」




雷電 響鬼。

姪っ子の走りの実力を確認した用務員のおじさん。真面目に鍛錬し続けていた事にちょっと感心している。


雷電 輝。

スカウトを受けた姪っ子。脚質は先行、スピードは特質して速いではないが鍛錬で磨いた精神力と体力を活かしてでコーナーをギリで攻めつつ、どんどん加速していくタイプ。精神力と体力でごり押しする系。

ウマ娘としての名前はカガヤキホコル。輝という名前はそこから頂いているとの事。
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