「カガヤキホコル……では其方が本名なのか」
「いや本名というかなんと言いますか……私的にはやっぱり雷電 輝の方が真名ですかね、正直カガヤキホコルを名乗ろうとはもう思いませんでしたから」
どういう事なのかと動揺が走っていく。その名前は異世界で活躍した存在の魂と名前を引き継いでいるというのが有力な説とされている。なのかウマ娘にとって名前というのは魂に刻まれている物でありそれが以外を名乗ると言う事は全くない。それなのに輝という名を名乗っている輝は、自己の存在を否定しているに等しく、正しく異端中の異端という事になる。
「でもどうしてなんですか?あっ私スペシャルウィークって言います、私はこの名前を変えたいとも思ってませんしっこの名前が大好きです」
「これはご丁寧に……いや私も嫌いって訳じゃないんですけどだって嫌じゃないですか、私は雷電家に生まれたのに雷電を名乗れないって」
単純な理由、輝にとっては家族同じ姓を名乗れないというのが余りにも嫌だった。確かにウマ娘によって家族と名前が違う事に疑問を覚えるという事はあるだろうが……それで名前を変えてしまうというのは聞いた事がない。
「だから私は輝です、カガヤキホコルは封印してるに近いかな僕としては」
「なんか一人称違くね?」
「輝はそうなのよ、明確にウマ娘としての自分を分けてる」
ある種封印していると言ってもいい、ウマ娘としての本能は彼女の中では区別化されて切り離されている。時折繋げてはいるらしいが……一人称を変えるのもその一環らしい。
「というか大っ嫌いなら輝なんて名乗りませんって、カガヤキホコルっていう名前だって私ですから誇りに思ってますよ」
「カガヤキ……輝き、輝、そういう事か」
「えっ如何いう事?」
「漢字の読み、輝きはあきらとも読めるからな」
嫌っているどころかその名の通りに誇りに思っている、だが自分はそれ以上に誇りに思っている物がある。だが周囲はウマ娘なのに可笑しいという目で見るのだ。
「太鼓奏者に憧れたらそんなに可笑しいのかよって感じなんですよ、全くやってらんねぇですよ」
「太鼓奏者!?貴方っレースとかに興味ないわけ!?」
「いや無い訳じゃないですけど、私からしたら完全に気分転換の領域ですからね走るって。私の目標は雷電一家に伝わる称号、鬼を継ぐ事ですから」
「鬼……?」
鬼という単語を聞いて思わず全員がヒビキを見た。ヒビキも名前に鬼を持つ者、何か関係があるのかと説明を求められると頷いた。
「ウチだと資格アリだと思われると鬼という名前を与えられるんだよ、俺の名前も元々は響輝って名前だったんだけど俺が鬼を襲名したから輝の部分が鬼に代わって、そっちは輝に上げたって事」
「上げたって……名前ってそういう物じゃないと思いますけど……」
「だって輝が気に入っちゃったんだもん」
曰く、鬼という名前を一生の物として引き継ぐか、それとも鬼という名を背負うのかで改名するかは変わるらしい。事実として伊吹という青年がいるが、彼は鬼という名前を加えていない。但し、鬼としての名前はあり其方は威吹鬼となっている。
「名前を変えるか……ウマ娘達としては理解出来ない考えかもな」
「そう言う意味でも輝は異常者だからね、まあ赤ん坊の時からずっと太鼓の音とか聞き続けて来たからねこの子」
「因みにとっつぁんは何時名前変えたんだ?」
「16の時だよ」
「高1で変えたのかよ」
「まあそういう事です、私は何れ輝鬼になるつもりなんです。ですから名前を戻す時が来たとしたらその時ですかね」
決して嫌いではない、寧ろ誇りに思っている。だからこそカガヤキの名前を自分が本当に誇れるようになった時に名乗りたい、自分の憧れた鬼の名前と共にそこに立つ事が輝にとって夢なのである。
「そう……じゃあトレセンには来ないっという事なのかしら」
「マジかぁ……期待の大新人現ると思ってたんだけどなぁ……」
明らかに落胆するハナと沖野。それ程までに輝のポテンシャルは高い、山が遊び場且つ鍛錬場というだけあって荒地や坂路にも強いのではと想像が出来る上にマイルを走った後でも殆ど息を切らしていない、だから適性距離は長距離までカバー出来る筈。磨ぎ方によって輝き方を何処までも変えられる、万能さを伸ばすかそれとも特化にさせてもいい、本当に育ててみたいと思えるような存在。
「いやでもちょっと楽しかったなぁ……私もウマ娘って事かぁ……こっちでも太鼓の練習とか勉強が出来るなら考えるんだけどなぁ……」
「ならヒビキくんに見て貰えばいいんじゃないかしら」
「えっ現状トレーナーになれって迫られてるのに輝の指導まで押し付ける気」
今ですら色々と忙しくなってきてるのにさらに忙しくする気なのだろうか、トレーナーやら何時まで経っても練習に顔を出さない事への当てつけだろうか。
「おじ様のマンツーマン……それならありか?」
「おい進路決めてたんじゃないのかお前」
この影響受けやすい姪っ子は……いや教えてもいいのだが、現状でも結構忙しいのにそれに輝の指導まで咥えられるのは割かしキツくなってくるのだが……。
「ああでも中央ってなると学費がなぁ……一回中央の学費見たけどハァッ!?って思う位に高かった記憶が……」
「スカウトだったら大丈夫じゃねえか?奨学金の対象にはなるだろうし返済制度もウチは充実させてるし、というかレースに勝ったらその賞金とかも入るから勝ちさえすれば直ぐに返済できるぞ。それに一人で鍛錬じゃ飽きないか?強敵と戦いたいとかないのか」
「……」
自分の夢を叶えたいというのもあるが、ウマ娘としての本能が擽られるのか此処で自分の知らない強者との戦えるという未知の魅力、憧れでもあるヒビキに太鼓を教われる。様々な物が此処にあって少々惹かれてしまう。
「というか何で太鼓奏者に憧れてんだ?おっちゃんの影響か?」
「まあ生まれてこの方ずっと太鼓の音を聞いてきたのもありますしおじ様が憧れなのもありますが―――鬼って称号にして名前ってカッコよくないですか」
「超分かるわ」
「―――師匠と呼んでもいいですか」
「おう、このゴルシ師匠を崇めろ」
何故か通じ合う輝とゴルシ。というかこれで影響を受けてゴルシみたいになったら、もう輝の両親になんて侘びたらいいのか分からないから勘弁してほしい。下手したら鬼の名前を返上するレベルの謝罪を求められるかもしれない。
「いやでも、将来の安定を考えたらトレセンも選択かなぁ……ちょっと真剣に検討します」
「おう、それで来てくれたら俺は嬉しいな」
「私もトレーナーとしては嬉しいわね」
そんな風に輝への勧誘は中止、あくまで彼女の自主性に委ねる方向性へと舵を切った二人を見ながらもヒビキは隣にいたルドルフへと目をやった。
「……なあシンちゃん、もしかしてスカウトが輝の中学行ったのって……」
「すまないヒビキさん……スカウトに意見を求められた時にうっかり口が滑って……」
「まあどっちにしろ、輝ならその内目を付けられてただろうし……早いか遅いの違いかなぁ……」
雷電 響鬼。
姪っ子の進路が揺れ始めた事に不安を覚えた用務員のおじさん。実は鬼の資格を得てから改名をしていた。尚、当時は16歳で歴代最速だったらしい。
雷電 輝。
カガヤキホコルという名前のウマ娘と姪っ子としての雷電 輝という二面性がある。カガヤキと元のヒビキの名前である響輝から輝を貰って
ウマ娘としての本能が刺激されているのか、トレセンも悪くはないのかな……と思い始めている。