トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第25話

「モムモムモムモムッ……プッハァッ美味しい~!!」

 

あの後立ち直った輝は鼻を鳴らした、如何やら急に走った事で腹が空いたらしい。他のメンバーは練習などがあるのでヒビキが食堂へと案内する事になった。見学では食堂の体験もさせる事になっている、なのでそこで食事にした。トレセンの舌鼓をする輝を隣できんぴらごぼうを食べるヒビキ。

 

「おじ様もズルいなぁ~毎日こんな豪勢でおいしいご飯を食べられるなんて」

「俺は基本自炊、此処はあまり使用しない」

「相変わらずだなぁ」

「此処はウマ娘達の為場所、俺は用務員。その違いは分かるだろ」

「うんっ分かるよ」

 

静か食べ続けるヒビキ、その言わんとしている事を確りとしている輝はカツを咀嚼しながら質問する。

 

「ねぇっおじ様」

「んっ~」

「―――トレセンの日々って、楽しい?」

 

そう問いかけて来た輝の瞳は何も映さない、何処までも何もない瞳がそこにあった。しかしそれを意味しているのは彼女の心情などではない、随分当たり前な事を聞いてくる物だとヒビキはお茶を啜る。

 

「……毎日毎日大変な事も多いさ、年頃の娘の中におじさんが入るんだからね」

「でもモテるじゃんおじ様」

「茶化さない」

「は~い」

 

改めてご飯を掻き込んでいく輝、彼女に自分からも問いを投げる。

 

「お前は如何するんだ、進路」

「―――真面目な話、トレセンに来るのも良いと思ってる」

 

そこにあったのは輝としての顔ではない、カガヤキホコルとしての、ウマ娘としての顔があった。

 

「僕は如何しても一人だった、子供の頃から聞いてきた太鼓の音色が好きだったし雷電一家の清めの音も好きだよ」

 

雷電一家は嘗て神としても崇められた大蛇の怒りを鎮めた一族の末裔であり、その血筋は脈々と受け継がれている。毎年毎年神へと捧げられる清めの儀式では鬼を襲名した者が集って魂と命を懸けた最高の演奏を奏でる。それに強く憧れていた、自分の家族は何てカッコいいんだと思っていた。それが異端の始まりだった。

 

年頃の娘が興味を示す音楽よりも太鼓の演奏や演歌などの方が好きだった。周囲と話が合わない、故に自分の領域に入る。ウマ娘としての意欲は少なく、一人で鍛錬するヒビキに憧れてその背中を追った。そんな彼女の中でもあった、ウマ娘としての本能が。

 

「僕……初めて思った、負けて強くなりたいって」

「そうか」

 

負けてもいい、そこから強くなりたい、勝つための鍛錬を積みたい、孤独の中で自らを磨き研磨し鍛え続けて来た輝と誰かに負けてそこからの巻き返しを望むカガヤキホコル。初めて二つが一つになって一人として言葉を話しているとヒビキは感じる。

 

「一人で鍛え続けるのも限界があると思うし……でも私は輝鬼になる事を諦めない、響鬼さんみたいになるのが私の目標だから」

「んで如何するつもり」

「―――やる、やりたい事全部やる」

「そっか……んじゃ好きにするといい。俺だって好きにしてるんだ、お前だって好きにすればいい、それが生きるって事だ」

 

姪っ子の進む道を感じ取ったが敢えてそれには何も言わない、本当に考えた結果ならば此方が口を挟む事は許されない。間違えて助けを求められたら助けてやる、それが自分の役目だ。輝は頷いた。

 

「それじゃあ好きにする―――ねぇっおじ様は本当に好きにしてるの」

「してるじゃん、鬼を襲名しているのに用務員をやってるんだから」

「……それは好きにしてるからじゃないでしょう」

 

そんな事を言う輝は瞳を反らしながら味噌汁を啜る、彼女は知っている、ヒビキの過去を全て。故に分かるのだ、如何して此処にいるのかも……鬼を襲名しながらも此処にいる理由も、雷電一家もそれを認めるのかも全てを彼に一任している。

 

「自分はそれなのに私に好きにしろって言う、反面教師のつもりですかおじ様」

「俺が望んだ事だ、それ以上もそれ以下も無い」

「……分かった何も言わない」

 

ほんの一瞬自分にだけ見せたヒビキの鬼、それが自分を強く睨みつけた。それ以上踏み込むなと言いたいのか、それとも……自分の好きにさせろと自分へと忠告しているようなそれに輝も言葉が過ぎたと言葉を仕舞ったのであった。

 

「おおっ誰ぞと思うたらおっちゃんやん、如何したんや食堂におるなんて」

「んっ誰かと思ったらタマちゃんじゃない、オグちゃんもやっほ」

「やっほっヒビキさん」

 

此方へとやってきたのはタマモクロス、そしてその友人でもあるオグリキャップ。相変わらずとんでもない量のご飯を盛っている、これで確りと食べ切ってお代わりまでして走る前には確りと消化しきって普段のスタイルに戻っているのだからとんでもない消化能力である。

 

「ってなんや隣の子、ハッまさかおっちゃん……ほんまに結婚してたうえに、こんな子供まで……つまり、何歳やったんや!?」

「違う違う、姪っ子だよ」

「姪っ子かいっ紛らわしいわ!!」

「なんか賑やかな子が来ましたね」

「お前が言うか輝」

 

オグリは既にマイペースに前の席に着いて食事を始めた。タマも遅れながらも席に着いて食事を始める。

 

「はぁ~スカウト、そりゃごっついな。っちゅう事も中々に強いって事やろって自己紹介が遅れたな、ウチはタマモクロスや。こっちはオグリキャップや」

「オグリキャップだ。ヒビキさんの姪ならばオグちゃんでいい」

「雷電 輝です、それにしても……」

 

前に座ったタマモクロスへと視線を投げる、何故見られているのか分からないのか首を傾げるタマに輝は悔しそうな顔をする。

 

「こんな小さな子も此処にいるとは……」

「って誰がちんまいや!!ワレだって人の事言われへん位にはチビやろがい!!」

「チビじゃないッ!!私はまだっ成長期に入ってないだけだし!!」

「それがチビって事やろがい!!」

 

食堂だと言うのに喧嘩一歩手前な言い合いが始まってしまった。正直な所、身体的な特徴で言えば二人は完全に団栗の背比べ。最早双子言えるレベルで体型が一致していると言ってもいい。

 

「うるさいんですよこのおバカさん!!本当におバカさん!!そんな許容の気持ちも皆無だから胸も大きくならないんですよぉ~だ!!」

「バカ言う方がアホやっちゅ~ねん!!それやったらお前の方が許容の心が無いって事の証明にもなるんやでべろべろべろばぁ~!!」

「そういう事を平然とやれるそっちは私以上のガキって事なんですよ!!幼稚園児のコスプレを勝負服にしたらいかがぁ~じゃりん子ちゃぁぁぁん!!!?」

「あ"~ん!?誰がじゃりん子やねん!!?」

「じゃりん子でしょ~そういう態度が~」

「何やぁ~やる気か!!」

 

もう完全に言い合いが子供の喧嘩に移行し始めた。それに完全に我関せずまま食事をし続けていくオグリ、そしてヒビキ。山のように積み上げたご飯とおかずを次々と平らげていくオグリはヒビキと同時に食べ終わると手を合わせた。

 

「「上等だってコラァァァ!!こっちがこんだけヒートアップしてるのに黙々と食べ続ける奴があるか!!」」

「ヒビキさん、以前頂いた角煮は大変美味だった。また食べたいのだが」

「いいよ。丁度今日辺りまた作ろうと思ってたから食べたければおいで」

「そうか!!思い出すだけでも涎が……むっ腹が鳴ってしまった、お代わりを取ってくる」

「「あんだけ食べてまだ食べる気か~い!!」」

 

とツッコミをしあう二人だが、途中で何か感じるものがあったのか互いに見つめ合いながらも瞳を煌かせながらもガッチリと熱い握手を結んだ。

 

「中々にキレがあるいいツッコミやったで……!!」

「其方こそ、只者ではないと思ってました」

「それはこっちもや。此方こそアンタみたいに賑やかで楽しい奴は大歓迎や、もうウチらは友達やな、改めてタマモクロスやで。タマでええで輝」

 

そんな風に笑い合ったタマと輝だが、輝は涙を流した。ギョッとしたタマは輝の背中を摩って必死に励まそうとする。だが輝の意志で泣いている訳ではないのか、頬に流れている涙に触れて、漸く泣いている事に気付いた。そしてその涙は全く止まらない。

 

「え"ぇっ!?ちょっどないしたん!?どっか痛いんか!?」

「タマ、泣かせたら駄目だぞ」

「いやいやいやウチ何もしとらんって!?おっちゃんせやろ、ウチ何にもしてないやろ!?」

「その筈だけど……輝、如何したの」

「お"じざま"ぁ″~……初めて、ウマ娘のっ……友達が出来たと思ったら、急に眼から汗が……!!嬉しい筈なのにぃ~……!!」

「ってそれ汗じゃなくて涙や!!完全にお約束やないかい!!」

 

咄嗟にタマはツッコミを叩きこんだ、それを受けた輝は確かにそうですねと泣きながらも笑っていた。タマは輝とは初対面で今までどんな風に生きて来たかなんて分からない、だが分かるのである。彼女が如何して欲しいのかが。輝も初めて出来たウマ娘の友達に心が震えたのだろう、孤独で居続けた少女が初めて掴んだ友達の手。それは本当に暖かったのだろう。

 

「良かったなヒビキさん、とても嬉しそうだぞ」

「んっそう見えるかい?」

「ああっ満開の桜のような笑みだ」




雷電 響鬼。

姪っ子が進みたい方向に進めばいいと思っている用務員のおじさん―――が、輝曰く当人は好きにしていないように見えるらしい。

初めて姪っ子に出来たウマ娘の友達、タマも心から感謝している。


雷電 輝。

自分がやりたい事を全部やる事に決めたおじさんの姪っ子。ヒビキの過去を知っているらしく、その姿を反面教師と表現した。

タマモクロスが友達になってくれると言ってくれた時に心から嬉しかった。
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