トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第3話

「感謝ッ!改めて先日の模擬レース前に手早い芝修復誠に感謝!」

「気にしないでくださいよ理事長、それが俺の仕事なんだから」

 

その日、ヒビキの姿が理事長室にあった。何か問題を起こしたという訳ではなく、寧ろ労いの言葉を掛ける為に呼び出されたというのが正しい。

 

「それでも大助かり何だったんですよ、だって他の用務員さんからは直ぐには直せないから模擬レース中止しないとダメだって言われてしまって。それで藁にも縋る気持ちでヒビキさんに相談したんですから」

「頼られるのは悪い気しないし頼られたら素直に頑張るのが俺の仕事だから、これからも気にしないでガンガン声掛けちゃっていいからねたづなちゃん、勿論理事長も」

「無論ッ!!これからも全力で頼っていく!!」

 

大きな椅子に座りながら無論!!と大きく書かれた扇子を広げる小柄な少女、こんななりだがこのトレセン学園の理事長なのである。ウマ娘をこよなく愛し、ウマ娘のために私財を投じて支援をするような人でヒビキも結構好きなタイプの人。そしてそんな理事長の秘書をする駿川 たづな、色んな意味飛び抜けているヒビキには頼りっぱなしな二人である。

 

「疑問、他の用務員が匙を投げる程なのに何故あれほど手早く……」

「鍛えてますからっシュッ」

「困惑、答えになっていない!?」

「いやでもヒビキさんの場合、本当に鍛えまくってますから否定も出来ないんですよね……」

 

一部では名前に因んで鍛錬の鬼とも言われている響鬼、謙遜でもなく誤魔化しでもなく本当にその通りなのだから困った物なのである。そんな事をやっていると窓の外が光を放つと共に大きな雷が落ちる。

 

「霹靂!!今日の予報では快晴の筈だったのだが……」

「ゲリラ豪雨って奴ですかね」

 

などと言っている内に一気に曇り始めていく空、加えて色は酷く黒い物となっている。

 

「こりゃ直ぐに降っちゃうな……」

「ヒビキさんお仕事は大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫、今日は虫の知らせがあったから朝早くから仕事してもう今日の分終わらせてるから」

「驚愕っ!?相変わらずそのバイタリティには驚きを隠せない!!」

 

というのも早朝に石段を10個程重ねて行っていたレッグプレス中に雨のような気配がしたので早めに切り上げて仕事に取り掛かっていた。その為にもう深夜の校内巡回位しか仕事は残ってないのである。

 

「まあ俺は用務員室に居ますんで何かあったら声かけてください」

「了承!!」

「はいっそれじゃあお疲れ様です」

 

挨拶をしながらも理事長を出たヒビキは校舎から少し離れた場所にある用務員室へと戻った。レースコースにも近く何かあれば此処に修繕要求なども来るので基本的に暇があれば此処にいるようにしている。

 

「そう言えばお昼だったな……何か作るかなぁ」

 

理事長に呼び出されたタイミングがお昼を食べようとする少し前だったのでこれから何か作ろうかと思いながら用務員室へと入った時に、一際大きな稲光と音と共に雨が降り始めてしまった。しかも相当に勢いと雨量が強い雨である。

 

「ありゃりゃ……こりゃ凄いな」

 

窓から見えるトレセンが忽ち雨に染め上げられて行く、雨で視界が利かなくなる程の豪雨。場合によってはこの中で仕事をしなければならないというのが用務員の辛さである。それを回避した自分の直感を褒めつつもお昼の準備に取り掛かっていくのだが―――直後に玄関扉が凄い音と共に開け放たれる。

 

「おじさん雨宿りさせてぇ~!!」

「すみませんがっお願いしますっ……!!」

 

フライパンを持った其方を見てみると、そこにはトレセン指定のジャージごと酷いびしょ濡れになっている二人がいた。一人はシンボリルドルフに憧れている身体は小さいが独特なステップで他を圧倒するトウカイテイオー、もう一人は名門メジロの御令嬢にして天皇賞獲得を目標にするメジロマックイーン。互いにライバルと公言しつつも仲が良く共に練習もしている。

 

「あらららっこりゃ一大事だ、ほらタオル。シャワーも使っていいよ、身体冷やして風邪ひくのが一番まずい」

「有難うおじさん~!!」

「申し訳っありませんがお借りします……!!」

 

と受け取ったバスタオルで身体を拭きつつも奥にあるバスルームへと入っていく。練習熱心な二人もこの雨には敵わない、寧ろ用務員としてはこんな時にコンディションを崩さないような配慮をしてあげるこそだと思いながらケトルに水を入れてスイッチを入れながら食事の準備を進める。

 

「おじさんこの服借りちゃっていいの~?」

「いいのいいの、寧ろ新しく買った奴はそれしかないからさ。まあ年頃の娘さんにそんなのでごめんね」

「そのような事御座いませんわ、お風呂を借りただけではなくご洋服まで……この御恩は必ずお返しいたしますわ」

 

お風呂から上がった二人には新品のジャージを用意した。元々は汚れや破けて着れなくなった物の代わりなのだが、自分が既に着てしまった物を女性に着させる訳に行かないので新品を出した。

 

「にしてもひっどい雨だなぁ……止む迄居ていいからね、ほいあったかいお茶」

「わ~いおじさんありがと~!!」

「有難う御座います、あらっ良い香り」

 

天真爛漫で元気いっぱいなテイオーと落ち着いた淑女的な物腰と気品を感じさせるマックイーン、かなり対照的な二人はある意味ライバルになって当然なのかもしれない。

 

「これから俺はお昼にしちゃうけどどうする、二人も食べる?」

「しかし既にこれ程までにお世話になっておりますのに……」

 

ねぇと横目で同意をテイオーへと求めようとするのだが―――

 

「食べる食べる!!おじさんってば料理も上手いからご飯も美味しいんだよねっ!!ねえねえなに作るの?」

「この前仕込んだローストビーフ使った丼にしようと思ってる、そこに味付け卵を乗せてって如何よ」

「何それ美味しそ~!!マックイーンも食べるよね!?」

「……頂きます」

 

目を輝かせてながら準備されていく料理の香りに胸を高鳴らせるテイオー、そしてそれに呆れる前にその本能を貫くようないい匂いに我慢出来ずにマックイーンも昼食を取る事になった。

 

「おいひぃぃぃぃ!!!」

「お代わりもあるからじゃんじゃん食べていいからね」

「ううっしかしこれではっ折角のプランが……!!」

「美味し~!あれマックイーンはお代わりしないの?まだお肉も卵も残ってるって」

「ううっ~……頂きますわ!!」

「はいはいっちょっと待ってね」

 

ヒビキが夕食分も含めて炊いていたお米は全てテイオーとマックイーンによって消費され、仕込んであったローストビーフと味付け卵も全て平らげられてしまった。だがヒビキは嬉しそうにしながら笑っている二人を見て満足気に食器を洗っていると雨が上がって虹が空に掛かっているのを見て猶更笑みを深めた。

 

「あのっヒビキさん……早朝のトレーニングにご一緒させて頂く事は出来ないでしょうか……」

「いいけどどうしたの」

「聞かないでくださいませ……」




雷電 響鬼。

晩酌用のローストビーフと味付け卵を全て食べられてしまったが、それでウマ娘の笑顔が買えたら安い物っと思っている。尚、二人が着たジャージは流石に使いにくいので、また同じような事になった時の為の備えに回して新しくジャージを買い直した。

あと最近早朝のトレーニングにマックイーンが混ざるようになった。如何にも体重を気にしているらしいが、口には出さない。
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