トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第40話

「貴殿がヒビキ殿か、お噂はかねがね……私の名はトロンべ、我が家の誇り高き最高のウマ娘の名を継承した者。是非覚えて頂こう」

「お、おう……こりゃまた随分とキャラが濃いのが……」

 

基本、スピカのサブトレーナーとして働く事になっているヒビキだが他のチームにも派遣される事となり、真っ先に行く事になったのはくじ引きで決定した黒沼がトレーナーを務めるチームへと訪れたのだが……真っ先に自分を待っていたのは妙にキャラが濃い腰まで届く金髪に緑色の瞳にサングラスを掛けているウマ娘が堂々としながら挨拶をして来た。

 

「にしてもトロンべ……聞いた事無いな俺、ごめんね」

「いや当然、気を遣って頂き感謝する。ウマ娘と言ってもレースで名を残した訳ではなく初代当主と共に苦楽を共にし、生涯を初代の愛として捧げ、始祖となった偉大な方なのだから」

「成程そっちか」

 

自分の鬼に近い何かだろうか。まあ彼女の場合と自分の場合は事情が異なるだろうからあまり考えないでおくことにしておく。

 

「ヒビキ用務員、本日は宜しくお願い致します。本日お会いできることを楽しみにしておりました、ステータス:嬉しさを検知しました」

「ブルちゃんも相変わらずだね、んじゃまあ―――始めるかい?」

「ああっ頼む」

 

そんなこんなで始まったサブトレーナー業務。ある意味今まであって来たウマ娘の中でもぶっちぎりにキャラが濃い二人を抱えているチームの指導方針は精神は肉体を越えられるという黒沼トレーナーの考えが反映されているのか、所謂根性トレーニングに該当する坂路が多く分配されている。

 

「ブルボン、お前はあと2本。トロンべは1本だ」

「マスターの御命令通りに」

「承知した、行くぞトロンべっ!!」

「個性的だなぁ……」

 

サイボーグのような言葉遣いで頭を下げるミホノブルボンとマックイーンよりもずっと貴族らしさを感じる自信に溢れながらも素直さを見せるトロンべ。中々にキャラが濃いが、その分と言わんばかりに両者の能力は極めて高い。

 

「誰が休んでいいと言った、お前らももう一遍行ってこい」

『はっはい!!』

「頑張って、終わったら俺が持ってきたドリンク差し入れるから」

 

ヒビキの言葉を受けて泣き言を何とか引っ込めながら再度坂路トレーニングへと勤しみ始める他のウマ娘達も中々に基礎体力が高く侮れない。坂路を既に2本こなしているのにあれだけ声を出せる上に直ぐに動けている。かなり精神が鍛えられている証拠だ。

 

「っつうか2本って……ブルちゃんもう2本やってるのに」

「あいつなら出来る」

「相変わらずスパルタだねぇ……坂路なんて好きこんでやるウマ娘は絶対に居ないって言われるぐらいに超キツいトレーニングなのに」

 

1本完走出来れば上等とも言われる程に超キツい坂路トレーニング、それをブルボンは既に2本こなしているのに更に追加2本。普通ならばきつ過ぎてウマ娘が潰れてしまいかねないハードトレーニングだが、ブルボンはその苦しさや辛さを全て飲み込んで自分の力に変えている。

 

「ウマ娘の世界にはエリートか雑草しかいねぇ、あいつらはそれを越えたいって言って俺の下に来た。だったら俺は鍛えてやる事しか出来ねぇ、下剋上―――目指すのがそれだ」

「それならトロちゃんは何で此処に、なんか言い方して名家な感じするけど。さっきのもなんか言い聞かせてるって感じがする」

 

物言いからして相当なエリート一家の生まれのように感じられるトロンべ、雑草とは対極にあるエリートと言うべき存在なのではないかと思うが……何故黒沼の下へと訪れたのか。

 

「奴の家は普通に名家らしい、だが如何にも血統と才覚だけを重視しちまってる。んで事情があって出奔させられたらしい、それもあって気に入らねぇんだと。それであいつはそんな家をひっくり返すつもりらしい」

「そりゃ凄い意気込みだ。下剋上を目指す元名家の御令嬢……か」

「名を継いだトロンべっつうのも苦労続きのウマ娘だったらしい、初代の愛トロンべの忘れ去られた崇高な理念を私が取り戻す、その為にチームに入れてくれって言ってきた。俺はそこが気に入った」

 

如何やら貴族然とした態度は自分が目指すべきものがあるらしい、確かに黒沼が好きそうなウマ娘だ。素質も中々な物に見える、あの坂路トレーニングに果敢と挑んで持ち前のパワーで坂を跳ぶように駆け抜ける。だが途中でスタミナ切れなのかかなり息が乱れる、しかしそこを根性で補うように歯を食いしばって駆けあがってゴールを決める。隣では平気そうな顔をしながら息を整えているブルボンがいるのを見てニヤリと笑う。

 

「ハァハァハァハァハァ……流石ブルボン、だが私の目標は君だ。何時か君のようにこの坂路を登り切って見せよう……!!」

「トロンべ、貴方ならば必ず出来ると断言致します。待っています」

「フッ……ご期待に沿えるように努力しよう―――」

 

如何やらブルボンとも中々に良い友人関係を築けているらしい、その言葉を受けて笑みを浮かべながらも精進する事を誓うのだが疲労からかどんどん前のめりになっていき、そのまま倒れこんでしまった。ヒビキが助け御越しに向かおうとするが、それを黒沼が止める。フラフラな腕と脚を動かして足搔くようにしながらも立ち上がろうとする。

 

「例え、無様だとしても、私は……何度でも立ち上がる、初代トロンべもそうやって、我が家を興したのだ……!!私は、その名と魂を受け継ぐ者だぁ……!!」

 

顔が土で汚れようと、身体が泥で塗れようが、決して折れずに立ち上がってみせる。その逞しい根性がトロンべの持ち味だと黒沼は語る。ブルボンとは違った意味で優れた精神を宿している。

 

「根性こそあるがスタミナがまだまだだ、今はまだ短距離しか走らねぇがあいつはブルボンをライバルとして見てる。故にあいつは長距離を目指してる」

「努力で埋めていくか……君らしいね。んじゃこれも役に立つかな?」

 

そう言いながらヒビキは懐から一冊のノートを差し出す。

 

「俺の鍛錬メニュー基本編。まずはこっから始めさせるべきだね、毎朝の鍛錬にもトロちゃんは参加させてもいいよ」

「感謝するぜおやっさん、是非使わせて貰うしアンタからも扱いてやってくれ」

「程々にね」

 

 

 

「ヒビキ殿、失礼ながらカノープスにも出向く事はありますかな」

「あるけどどったの」

「あのチームには我が親友が在籍している、目立つ故に直ぐ解ると思う。奴も貴方による鍛錬を楽しみにしている」

「それはいいけど君の親友って聞くとなんか怖くなってきたのは気のせいかな」

「フッ褒めてもなにも出ませんぞ、精々フレンチのフルコース程度かな」

「凄い出すじゃん」




雷電 響鬼。

黒沼トレーナーのチームに出張して、そこのキャラの濃さにビビったトレーナー兼任の用務員のおじさん。精神鍛錬主体の黒沼トレーナーとヒビキの鍛錬は相性がいい、が、ブルボンやトロンべ以外のウマ娘達からしたら勘弁して貰いたいとの事。

後、カノープスに行くのが怖くなってきた。
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