だってこの人だもん、それ以外の選択しないだろ!?
「失礼、ヒビキトレーナーで違いないだろうか」
「ああそうですけどっ……ああ成程、君だねトロちゃんじゃなくてトロンべちゃんが言ってた親友っていうのは」
「如何にも」
カノープスのサブトレーナーとして仕事をする番が回ってきたので其方へと向かおうとした時、不意に声を掛けられたのと振り向くとそこには酷く目立つウマ娘が立っていた。短く切り揃えられた銀髪、自分ほどではないが女性としてはかなりの高身長、ゴールドシップよりも大きい180センチほどだろうか。そして、何よりもこの学園にいるどのウマ娘よりも圧倒的に漢らしさを感じさせる堂々たる立ち姿と腰に差されている一本の棒、それも相まってもう侍にしか見えなくなってきた。
「本日より我がチーム、カノープスのサブトレーナーになっていただけると聞き、案内人の役目を南坂トレーナーより拝命している」
「こりゃどうもご丁寧に……確かゼンガー……」
「否っ既にその名に非ず、我が名はっ―――ダイッゼンガー!!!」
胸を張り、空気を震わせる裂帛の気迫のまま叫んだ自らの名前。近くにあったガラスはその声の音圧によってビリビリと震えており、近くにいたウマ娘達は其の咆哮に驚いてしまっており、中には余りのも大迫力の咆哮に腰を抜かしてしまっている生徒までいる。
「ダッダイゼンガー……!?」
「左様。我が友より話を聞いておられると思うが、初代トロンべと我が初代は莫逆の友、そしてその初代と活躍した名前こそゼンガー。私はそれを継承した、だがそれでも足らぬ、私は初代を越える存在となる。更に巨大、いや強くなる。故に私は己をダイゼンガーと名付けたのだ」
「そりゃまた凄い自信と気迫だね」
何とも凄まじくこちらもキャラが濃い、そしてなんてストレートなネーミングだろうか……初代を越える、つまり所初代よりも更に巨大な存在となる。だから自分の名前はダイゼンガーだ!!という事でダイを付けたらしい、安直と言うべきか単純明快というべきか……。
「あ~あ……んもう騒がしいと思ったらやっぱりだったわぁ~……」
「ネイチャか、何用だ」
呆れたような諦めたような表情を浮かべて如何にもやれやれと言いたげな態度を作っているのはナイスネイチャ、ヒビキと仲良く用務員室にやってきては駄弁ったりしたりする仲。下町の商店街の大人たちに囲まれていたからか、ヒビキのような大人と一緒にいる方が落ち着くからとの事。
「何用か、じゃないですよもう……迎えに行くって言うから任せたら突然先輩のでっかい声聞こえたから様子見に来たんですよ、そしたらまたこの有様……何処だろうと大声出すのはやめた方が良いってトレーナーにも言われてるじゃないですかぁ」
「ムゥッ……だが、ヒビキ殿には一度お会いして鍛錬をご一緒したいと思っていた。その念願が叶い、そして名乗りを上げられるのだ。気合が入るのは当然だろう」
「まあ気合が入るのは良いと思いますよ~ネイチャさんも思います、ですけどせめてターフのだけにしたらどうですか?」
「済まぬ……」
如何やらネイチャの方が学年は下らしいが力関係はほぼ同じ、いやネイチャの方が強いように見える。
「ヒビキさんごめんね~。先輩ってば気合が入りまくる侍系でさ、レースでも最後の直線で今みたいな雄叫び上げながらゴールするんだよ?」
「はぁ~……気合十分でいいんじゃない」
「うんまあね……その声の迫力あり過ぎるんだよね。ゴールした後も叫ぶんだけどさ、歓声が一瞬なくなるレベルなんだよ。それをどこでも上げるのは勘弁してほしいけどね」
「それやばくね?」
「うん控えめに言って音響兵器」
バツの悪そうな顔をするゼンガー改めダイゼンガー、別段走っている最中に声を上げる事は問題は無し叫びながら走るウマ娘なんて大量にいる。が、その中でもダイゼンガーは特別に声がでかい。コース場が揺れる程の大歓声を自らの咆哮で鎮める程の大迫力な大声を上げる。そんな音響兵器は練習でも発揮される。
「推して参る―――ぬおおおおおッッ!!!」
「いやぁっ……凄い声だね南ちゃん」
「いやはや全くです……」
隣でタブレットでメニューを確認しながらも苦笑いをしているカノープスのトレーナーである南坂。若輩ながらもウマ娘達と確りと向き合って助け合い、時に助けられながらと言ったようなヒビキとはまた違った二人三脚で前へと進んでいくタイプのトレーナー。
「なんでも御実家で剣術指南を成されている方が示現流という剣術の使い手らしくて、その影響でトレーニングとかで腹の底から大声を出す事が習慣付いたとか……」
「示現流、成程あれは猿叫な訳か」
「ご存じなので?」
「まあね」
猿叫というのは分かりやすく言えば示現流特有の裂帛の気合を込めた掛け声の事。確かにあんな声を出せば一時的に身体のリミッターは外れる、その影響か彼女の走りは途轍もなく力強い。トロンべのそれは軽快で連続で跳ぶのような走り、が此方は一転して大地を確り踏み込んで駆け抜けていく走る。
「あれって事は何時も腰に差してる奴って……」
「マジモンの刀だよ、毎朝毎朝立木打ち*1だったかな。そんな奴をやってるんだって、グラス先輩と演武もやったりしてるって」
「マジの武人じゃん」
確かにグラスワンダーとは仲良くなれそうな子だと、偶に薙刀を持っている稽古をしている彼女を見た事があるヒビキは思う。
「まあその影響もあって彼女の走りは凄まじいです、持ち前のパワーで全てを抜き去っていく走りです。ゴールした後は必ず勝鬨として大声を上げるんですけど、何時の間にか定番になって固定のファンも付いていて辞めさせるわけにいかなくなって」
「そうだろうなぁ……見た目はクールビューティなのに実際は凄い漢気溢れる武人だもん」
「いやぁ~このネイチャさんよりも人気でちょっと嫉妬しちゃいますよ~、唯一の欠点はあの声のせいで並走トレーニングとかしたくないんですよね~」
ネイチャの気持ちは分からなくはない、声量もあるがこの圧と迫力がとんでもないのである。意図しなくても相手を威圧する事になる、あの隣で走れるのは余程強い心が無いとかなり辛い事になる。
「というか先輩って本当にウマ娘なんですかねぇ~ってレベルなんだよね、なんという覚悟が極まりまくってるっていうの?」
「そうですね、その影響で何人かうちのチームを辞めちゃう子もいる位大迫力です」
「あららっ……」
一度、声について走行妨害になるのでは?という審議が起きたレベルでの巨大な雄叫び。だが走り方は全く問題ない上に別に当人も邪魔の為に上げるのではなく、気合を入れる為なので無問題とされている。が、本当の問題はそこではないのである。
その声を上げるのにも相当なエネルギーを使うのか、走り終わった後に度々ガス欠を起こしてしまっている。そしてその疲労でウイニングライブに参加出来ないという珍事も起こしている。
「つまり、改善すべきは……そこ?」
「そうなりますねぇ……スタミナをつけるか大声を出させるのをやめるかになるんですけど……」
「でも声を出さないと先輩って本領発揮できないっぽいだよねぇ~声出さないと一気に走りのレベル下がるんだよ」
「すっごい癖強いなぁ……」
流石にキャラが濃すぎないか……と色々と思うヒビキ、そして取り敢えずダイゼンガーはこれから毎日ヒビキの朝練に参加する事が決定、そこでスタミナを付けながらも声に関しても何か対策を考える事になった。
「我が疾走に―――走れぬ路無し……!!」
「というか、ウイニングライブにはちゃんと参加するのね」
「寧ろ積極的に参加してるよ、可愛い系の歌よりカッコいい系の歌の方が得意だけどね。よく私とカラオケに行って練習とかもしてるよ」
「真面目ではあるんです、真面目で素質もあるし努力もするんですけど……」
「なんとまあ……」
復帰したトレーナー業務、それは色んな意味でインパクトが強くなるなぁ……と半分思考を放棄するヒビキであった。
雷電 響鬼。
南坂トレーナーのカノープスに来たらいきなり超キャラが濃いウマ娘に歓迎されて、早くもこれからの兼任するトレーナー業務に不安を覚えた用務員のおじさん。声に関しては徐々に大きくしていく方針ならば……と真面目に考えている。
早朝鍛錬に参加するウマ娘が増加して、素直に困り始めて新しいメニューを考案中。
うん、メイガスとかアンセスターとかメタルメシアとか色々考えたけどやっぱりダイゼンガーしかねぇだろと言う事でそのまま採用。ブシンソウコウ、よりは良いと思ってる。