トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第48話

「あ~美味しかった~……」

 

炬燵に入りながらの新年会の鍋、沖野が支払いに顔を青くするだけの食材を突っ込んだ甲斐もあってその味は極上の一言であった。流石に色々な食材を突っ込み過ぎると味がくどくなるが……その辺りはヒビキが上手く調整したのでご令嬢であるメックイーンも満足いく味に仕上げる事が出来た。そして其処で今年の抱負にも似たこれからを語ったのち―――良い時間なので一同は出発する事にした。

 

「此処でヒビキさんは太鼓を叩くんですか!?」

「そっ。如何も此処の神主さんが雷電一家の事を知ってたらしくてね、邪な物を払いたい人の為に清めの音を如何かお一つ……!!って懇願されちゃってねぇ」

「ぐぬぬっ……そう言われたら私が出る訳にはいかない……!!」

「随分と聞き分けいいじゃねぇかアキラ」

 

神社へと到着一同、そこではお祭りのように出店が構えられており多くの人がそれらを楽しんでいた。その中に居るヒビキの言葉にアキラは悔しそうにしつつも納得していた。それに不思議そうなゴルシにアキラは反論する。

 

「だって向こうは雷電一家の清めの音を望んでるんですよ、だったら私は不適格の未熟者……出る訳にはいきませんよ……本当はおじ様と叩きたいですけど、おじ様の清めの音を濁らせる訳にはいきません」

 

悔しそうにしているが、それはあくまでヒビキと一緒に叩く訳にはいかないと言うだけで理由については納得している。それだけ清めの音についての重要性は理解している。そこに自分が入ればそれは既に清めの音ではない、濁った雑音でしかない。

 

「まあンな事言っちまったら清めの音で邪な物を払うって考え方間違ってますけどね」

「あり、そうなんおっちゃん」

「元々神の怒りを鎮める為の演奏が清めの音だからね、別に邪悪を払うっていう意味合いではないね」

 

まあそれでもやってくれと言われたら吝かではない。この神社の一部を自分の鍛錬メニューに組み込んで使わせて貰ったりもした事があるので、その恩を返すという意味でもやらせて貰うつもりでいる。

 

「おじさん~甘酒買っていい!?」

「いいよ~折角だからみんなの分も買っちゃおうか」

「やった~!!おじさん太っ腹~!!」

「まあ実際は―――」

 

ドンッと胸を叩くのではなく腹を力強く叩いてみせる、周囲からは大丈夫なのかと言った目が向けられるが全く平気そうな顔をしてドヤ顔で言う。

 

「腹筋バキバキのムキッ腹、鍛えてますからっシュッ」

「実際硬いもんね~おじさんのお腹~」

 

そんな茶番をやりながらも甘酒を人数分購入して皆に配っているとおみくじを引いて恐る恐る中を見るマックイーンの姿があった。そこにあったのは―――凶の一文字。思わずシュンと気落ちしてしまっている彼女の下へと甘酒を持って参上する。

 

「ほらっマクちゃん甘酒」

「有難う御座います……はぁっ新年の始まりから縁起が宜しくありませんわ……」

「いや凶を引けるって寧ろ幸運だよ」

「どういうことですの……?」

 

耳をピクリと動かしながらも何かを求めるような顔を向けてくる。

 

「メタ的だけど、こういう場所だと基本的に吉の数を増やして皆に気分良く新年を迎えて貰おうってする。という事は逆に凶を引く可能性は低くなる、その中でそれを引いたって事は新年から運を持っているって事だよ。ウマ娘にとって運を持っているという事が分かるっていうのは重要じゃないかい?」

「……フフフッ物は言いようはこの事ですわね」

 

正しく物は言いようである。だがその様に前向きに捉える事こそが運を掴み取る原動力になるのも事実。

 

「それでは私に幸運を教えてくださった素敵なおじさま、私のエスコートをお願い出来ます事?」

「マックイーンお嬢様のご要望とあればこのヒビキ、喜んで御伴させて頂きます」

 

そんな寸劇のお陰もあって先程まで凶を引いて凹んでいたマックイーンは普段の調子を取り戻していた、そして差し出されたヒビキの手を令嬢らしく取るとそのままその隣を確保しながら歩き出していく。その姿も執事とお嬢様という雰囲気が出ていて様になっている。

 

「―――有難う御座いますヒビキさん」

「何か言ったかい」

「いえ、何も……唯、ヒビキさんのような素敵な方のハートを射止めたアスムさん、そしてそんな人に尽くしたヒビキさんの関係が少々羨ましいと思っただけですわ」

「よせやい。照れるじゃないか」

 

お嬢様の傍につく事に徹しているヒビキ、そんな彼を見つめていたスズカは矢張りまた、同じような物を滲ませているような表情を隠しているのを感じ取った。アスムとの事、本当の事を語っていない事があるのではないのだろうと思いつつも賽銭箱へと到着し、そこでそれぞれの想いや願いを込める。

 

『……』

 

静かに手を合わせ、それぞれが想いを捧げていく。例外なのはゴルシだけ、他の事なんて如何でもいいかのように次々と自分の願いを述べ続けていく。どれだけのお願いをするつもりなのか、それでも他の皆は自分の事に集中している。

 

「……さて皆確りと願ったかい」

「もっちろん!!おじさんは何を願ったの?」

「秘密~おじさんってば秘密大好きだから」

「ムッ~ズルいぞおじさん!!ずるっ子は嫌われ者なんだぞ~!!」

「おじさんは嫌われ者じゃないから違うよ、さてと―――そろそろ行ってくるわ」

 

ひらひらと手を振りながら去っていくヒビキ、間もなく清めの音の披露の時間だからだろう。

 

「でも清めの音って普通の音とどう違うのかしら」

「さあ……アキラ如何なんだ実際?」

 

と親族でありおじ様とヒビキを尊敬するアキラへと話を振って尋ねてみる。

 

「まあ百聞は一見に如かずって奴というのは簡単なんですけど、清めの音は鬼が放つ音です。普通の音と違ってこう……身体の内面へと浸透するような音っていったら良いのかなぁ……正しくそうとしか言いようがないです」

 

こればっかりは流石のアキラでも説明不能、論理的に説明する物の類ではなく実際それを受けて感じて理解する感覚的な物なのである。兎も角演奏の場へと向かって行くと―――

 

「うわぁっおっきな太鼓!!」

 

立派な社に収められている巨大な太鼓、直径2メートル以上もある大太鼓。これをたった一人で叩くのかという程の迫力を放つ巨大太鼓の前にヒビキが一人立っていた。そして上着を脱ぎ棄てた、女性から黄色い声が上がるが、そこには肩から先が大胆に露出し鍛え抜かれた肉体が露わになる衣装に身を包んでいた。

 

「流石とっつぁんの身体だなぁ……すっげぇなあれ、肉の鎧だ」

「す、すげぇ……おっちゃんやっぱカッコいいなぁあれ……」

「でも、あの衣装って何なのかしら。この時期にあれって寒くないのかな」

 

男してあそこまで鍛えられた肉体には羨望の眼差しを向けてしまう沖野と純粋なカッコよさに憧れるウオッカ、そしてそれらに同意しつつも純粋にヒビキの意匠に目が行くスカーレット。其処を透かさず説明しよう!とテンションを上げるアキラ。

 

「あれは腹掛っていう物です。元々は大工さんが使ってた作業着がルーツとされている祭り衣装です」

「へっ~そんなのがあるんだ」

「にしてもおっちゃんの筋肉が映えるな~」

 

ゴルシの意見には皆が同意だった。肩だけではなく胸筋も見える形になっているので、余計に鍛えまくっているヒビキとは相性がいい。そしてその手に撥を握り込み、太鼓の前にへと立ちながら大きく白い息を吐く。そして―――

 

いよおっ!!!

 

大きな掛け声とともに撥が振るわれ、太鼓を震わせる。その一撃で神社は更なる静寂へと包まれ、社の左右に置かれている松明の燃える音が周囲に木霊する。薪が音を立てると次の声があげられ更に太鼓が打ち鳴らされていく。

 

ハァッ!!ヤァッ!!!

 

声と共に鳴らされていく音色、周囲に太鼓の音色が響くがその音色は何処か違って皆に聞こえてくる。耳ではなく全身でそれを感じて聞き取り、心と魂を震わせる不思議な音色。それを聞く度に心と身体が研ぎ澄まされていくような感覚に包まれていく、これが清めの音なのかと思う中で―――スピカの面々はある者を見た。太鼓を打ち鳴らすヒビキの姿が―――全く違うモノに見えた。

 

『鬼……?』

 

炎の中に佇みながら清らかな音を奏で続ける一つの影、頭に角を携えている姿は正しく鬼。力強くありながらも逞しく勇ましい、あれこそが神の怒りを鎮めた鬼だと言わしめんばかりの姿に魅了される。

 

「あれっ……」

 

だが、その中でも見えた者が居た。奏で続けている鬼の傍にいる一人の女性の姿、何処か薄く存在感が希薄にも見えるそれはヒビキへと執着しているように見えた。それは一体何なのか、それを見た者は何を思ったのか。何も分からぬまま―――

 

よおおおっ!!!

 

最後の奏を行ったヒビキへと盛大な拍手が捧げられて行く。それらを受けながらヒビキは深い深い息を吐き出すと振り返って頭を下げた。

 

「あれって……ウマ娘……もしかして……」




雷電 響鬼。

新年会の後、神社へとやって来たトレーナーを兼任している用務員のおじさん。清めの音を披露してと頼まれるが、本来の清めの音にはならないと思いながらも引き受けた。

―――そして、奏でている最中、鬼へと姿を変えていた時、響鬼に何かが憑いているのが見えた。
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