「ヒビキさんお代わりを頼む」
「あいよ」
「オグリ、もうちょっと遠慮ってもんをな……」
「いいよいいよタマちゃん、最近はスピカメンバー全員にご飯作る事も多かったからね」
用務員室、普段其処にいるのはヒビキだけなのだが時折ウマ娘が尋ねては一緒に食事を取ったりしている。ウマ娘達は基本的にかなりの量を食べる、レースで時速60キロを突破する彼女らがその身体を維持してパフォーマンスを発揮するにはそれだけのエネルギーが必要、そんな料理を一介の用務員は普通は作らない。が、アスムというウマ娘に対して料理を作っていたヒビキにとってはその辺りにも理解がある。
「このお肉美味しいな~!!柔らかいのに噛み応えあっておいしい~!!」
「確かに、本当に美味いなこれ……所々の硬いコリコリした部分も最高や……こんなの、こんなの―――米を我慢できるわけないやろぉ!!」
「米くいてー人」
『はい!!』
「でも痩せたーいってね、あいよお代わり増量ね」
ブロック肉で作った紅茶豚は柔らかいがコリコリとした歯応えと共に硬さも十分あるので食べ盛りなウマ娘達にも大好評、副菜として用意した大根サラダや卵スープもどんどん減っていく。栄養バランスも確りと管理しているのでカロリーの取り過ぎという事も無いようにしている。
「にしてもオグちゃんは本当によく食べるね、作り甲斐があるよ」
「オグリの喰いっぷり見てそんな事言えるのおっちゃんぐらいやで」
「そ~そ~。食堂の人が言ってたぞ、オグリが来ると特殊シフト?って奴が発動するって」
特殊シフト、簡単に言えば特に健啖家なウマ娘相手に発動される物。多くの料理人はそれに集中しつつ、他のメンバーはそれをサポートしつつも他のウマ娘の要望に応えていくという物。ある種混沌としている調理スタッフ、トレセン学園で退職率が一番高く、スタッフは常に募集中。職場の環境はホワイトなのだが……仕事内容が余りにもハード過ぎるのが理由。
「偶に俺が入る位忙しいからねぇ……今年は特にスペちゃんも入っちゃったし」
「あ~……スペシャルウィークも相当食べるさかい、オグリと一緒のタイミングは……ほんまに調理場の人には頭が下がるわ、ターボは違うやろな?」
「ターボは違うもん!!口に入れたら30回噛む、これが基本だぞ!!」
「おおっ分かっとるなぁ、よく噛むと味が良く分かるし腹も膨れる……良い事尽くめやからな!!」
タマモクロスとツインターボの相性は思った以上に悪くはないらしい、というかタマと相性が悪いウマ娘自体が少ないだろう。面倒見がいい上にノリも良い、故に彼女は様々な意味で人気で人を集める。
「そうなのか、ではこれからは私もよく噛んだ方が良いのか?」
「当然や、飯をたくさん噛むと幸せになるんやで。味も良く分かって栄養が無駄なく摂取出来て満腹になりやすいんや」
「そうなのか……では私もそうしよう(モグモグモグモグモグモグモグモグ)これで良いのか?」
「えっもう30回噛んだんか!?顎が振動してた位にしか見えんかったで!?どういうスピード!?」
「おおっ!!まるでターボの逃げみたいだったぞ!!」
結局の所、オグリの食べる量に変動はなく炊飯器4つをペロリと空にしてしまった。それを見てターボも負けじと頬張るが……早々に限界がきて、ヒビキの膝に頭を置いてKOされてしまった。
「うぅぅっ……食べ過ぎた……」
「下手にオグリの真似せん方がええで……オグリの消化と代謝能力が相当に凄いから出来るんや」
「フムッ有難うヒビキさん、今度何かでお返しする」
「お粗末様、食後にタンポポ茶は如何?」
「タンポポの珈琲は聞いた事がある気はするが……」
そう言われて手に取って啜るオグリ、優しい味わいだが何方かと言えば珈琲に近いような味わいにも感じる。身体を起こしながらもヒビキの身体に寄り掛かりながらもターボも口にする。
「おっ結構飲みやすいなこれ」
「ううっ……ターボもこれは好き……」
「このお茶は身体に良いんだよ、デトックス効果もあるし美肌にも良い。新陳代謝の促進にも期待出来る」
「つまり―――これ飲んだら身体にええ上に美人になってるって事かおっちゃん!?」
「いやそこまで極端って訳じゃ……って何がぶ飲みしてるのよ」
一気に飲み干すタマ、如何やら普段一緒にいるオグリが大食いなのに最近肌の艶などが良くなってきているらしい。確かに食べるメニューについて口出しをしたが、そんな一気に変わるのか……と思う程に彼女の消化と代謝は凄まじいらしい。それに触発されているのか、最近はタマも色々と試しているとの事。
「おっちゃんには分からんやろうなぁ……普段、横で大食いしとる奴の肌がどんどん綺麗になっていくのを見る気分は!!ウチらはウマ娘でアスリートである前にうら若き乙女なんやで!?肌やスタイルは気にするのにこんだけバカ食いしてて気にしてるウチよりも綺麗になっとるんやオグリの奴ぅ!!」
「ムッ私はそんなに綺麗になってるのか?」
傍から見たら暴飲暴食なのに、確りと綺麗になっていくオグリを傍で見ている身としては色々と溜め込んでいる物があるのだろう……。
「それじゃあタンポポ茶分けてあげようか、食後に飲むだけでも随分変わって来るから」
「流石おっちゃん話が分かるなぁ~!!乙女の味方やでホンマに!!」
この時、タマは知らなかった。オグリには劣るが、それでも十分早いペースで綺麗になっていく肌を見て周囲のウマ娘から様々な目を向けれる事を……。
「んで何でターボはおっちゃんに絡んどったん?」
「担当トレーナーになってくれ!!ってお願いしてた」
「あ~そんな噂が新しく回ってた」
「あれっタマモは興味ないのか?」
「ないっちゅう訳でも無いけど……」
新しく淹れて貰ったタンポポ茶を啜る、タマは用務員時代のヒビキには結構世話になって来たし自分の事を分かって貰えているという認識もある。相談にもよく乗って貰ったし自分も助けられているという自覚もある。
「でもまあ、その辺りはおっちゃんの自由でええと思うで。今までトレーナーやらなかったのもなんか事情があるんやろ、ウチは野暮やないから首は突っ込まんけど」
「おおっなんかカッコいいぞタマ」
「フフンせやろ?これが出来る女って奴や!!」
「私は素直に担当になって欲しいな、ヒビキさんのご飯は大好きだからな」
「それは最早トレーナーじゃなくて専属の料理人やないか!!」
冗談だ、と述べておくオグリだが食に関しては何処までがジョークなのはいまいち分かり辛い。
「まああれや、用務員とは勝手とか違うしいざとなったら用務員に戻ればええと違う?」
「それはそうだね。辞めようとしたらそれはそれで大騒ぎになりそうだし……数日休み取ったら結構混沌としてたし」
それと怪我は絶対にしないようにと心掛ける事にする。
「皆デザート食べるかい?バナナプリンあるんだけど」
「食べたい」
「ホンマに即答やな……あっウチも貰うで~」
「ターボも!ターボも食べたい~!!」
雷電 響鬼。
用務員室がウマ娘達の溜まり場となりつつあるが、これはこれで賑やかで楽しいと思っているおじさん。何だかんだでターボ、オグリ、タマの三人は一緒に居て気が楽でかなり楽しい時間だと思っている。
後日、タンポポ茶を分けて欲しいとグラスワンダーがやってきた。
競走馬のグラスワンダーはタンポポが大好きらしく、放牧地のタンポポを殲滅するレベルでタンポポが大好きだとか……。
最近、競走馬の動画を見るのが習慣になって来た。YouTubeのホームが実馬のハルウララとかゴールドシップとか、グラスワンダーとかで埋まるのも不思議な話。でも見てて面白いんですよ本当に。可愛いし。