トレセン用務員のおっちゃん   作:魔女っ子アルト姫

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第51話

「……フムッ成程な、確かに此奴は濃いな」

「濃いでしょ。もう慣れちゃってるけど」

「これに慣れるって相当だったろ」

「まあ結構時間かかったね」

 

テーブルを囲みながらも何やら話し込んでいる黒沼とヒビキ。基本的に親しい二人、時間があればトレーナーとして意見を交換したりしている―――が、それ以外にも理由はある。

 

「おやっさんも誰か実力を示すのが一番だろ」

「殴れって事?」

「それもありだな」

「何物騒な話をしてる」

 

と呆れた顔の東条トレーナーがやってきた、何やら内容が物騒なだったので忠告にやって来たのかそれとも別の理由があるのか分からないが、一先ずヒビキはお手製のスペシャルブレンドティーを差し出す。

 

「あらっ美味しいじゃない、かなり濃いけどこれもまたいいわね」

「ヒビキ特製のスペシャルブレンドだよ、日によって配合だけじゃなくて茶葉の状態も変わるから味の保証は出来ないけどね」

「此奴で占いもどきをするのも悪くないな。自分好みの味を引き当てられたら一日はツイてるとかな」

「それでそれは何のノート?」

「おやっさんの鍛錬メニューノートだ」

 

トロンべ用に新しいメニューを製作するに当たってヒビキの力を借りようと黒沼は普段やっているメニューを聞いていた所、そして改めて見てみると密度が相当に濃く設定されており、ウマ娘でもこれは相当に辛い部類に相当する。

 

「特に重りを下半身に付けて山を往復するなんて相当だな……確か往復で5キロあるだろ、しかも相当にアップダウンが激しい」

「だからこそ利くんだよね、自然そのままの道だからスタミナとパワーを付けるにはもってこい。あれに比べたら中山の坂なんてあっという間だよ」

「ウチでも試すべきかしら……?」

「やるんだったらいきなり重りは無しね、芝とかと違ってコンクリだから走る感覚も違うから」

 

ブルボンと同じ長距離を目指しているトロンべ、しかし如何せん長距離を走り切るだけのスタミナはまだなく根性で如何にか完走出来る程度。ブルボンもスタミナの強化は重要な課題でもあるので、ヒビキが行っているそれを一部導入する予定だったのでこれを参考にするつもりらしい。

 

「重り、重りか……だが蹄鉄を付けさせる訳にはいかん。色々考えてみるか、有難うなおやっさん。このメニューの礼は必ずさせて貰う」

「いいよいいよ別に。それだったら用務員室でまた飲み会でもやるかい?」

「それがいいな、酒は俺が用意する」

 

そう言いながら黒沼は去っていく、それを見送ったヒビキに対して東条が隣に座る。

 

「んで其方の本題は?」

「トレーナー研修の件よ、悪いけどその日は私予定が入ってるから無理って事を伝えに来たわ。調整すれば出来なくもないけど」

「いや、ハナちゃんにそこまでさせるのは悪いから俺がやるよ」

 

如何やら京介の案内を何方がするかという話だった。ハナの方がスケジュールを確認してみたが、如何やらレースの日取りらしく外す事が出来ない。出走を考えているレースを変更するなどすれば行けるが流石にそこまでしたくはないと素直に伝えに来た。

 

「それで如何して私かヒビキ君なのか、聞いても良いかしら」

「単純。来るのが俺の幼馴染だから」

「成程ね、此方側として馴染みの配慮と実力確かな案内の配慮って所?」

「全部正解」

 

矢張り彼女は頭の回転が速い、こういう時ばっかりは会話が楽だと素直に安心する。

 

「それにしても態々中央に来るのはどっちなのかしらね―――中央が目的か貴方が目的か」

「野郎が野郎を目的にするかな」

「状況によってはすると思うわよ、ヒビキ君っていい意味で人誑しだし」

「人聞きが悪いなぁ……」

 

まあ実際問題、京介が中央に来るなんて理由はある意味分かっているような物でしかない。何故復帰したのか、何がそうさせたのか……様々な物を見極めるつもりなのだろう。

 

「面倒にならないといいけど」

「問題児って事か」

「いや、本音隠さずズバズバ言うタイプだから好き嫌いが超別れる系」

「そっち系か」

 

良くも悪くも自分に素直な為に相手の事を考えずにズバズバ言ってしまうタイプ、理性的で向上心が強いウマ娘との相性はいいだろう、それでも好みは分かれるトレーナーになる事は確実。黒沼とは別方向で厳しい。

 

「ウチのメンバーも朝練に参加させたいけど、人数的に難しい?」

「だって今でさえ10人位面倒見てるんだよ、しかも交代交代で。そこにリギルのメンバー突っ込んだら必然的にレベル上げないといけないから他の子がついて行けないよ」

 

ヒビキの朝練に参加しているのは基本的にスピカメンバーにトロンベにダイゼンガー、ブルボン。最近ではオグリキャップやビワハヤヒデも参加している、流石にこれ以上は面倒を見切れないしそれぞれに適したメニューを組むのも大変なのである。

 

「リギルはリギルで俺のメニューそのまま適応させるだけで楽だけどさ、それだと他が絶対ついてこれないよ」

「そう……ってちょっと待って、リギルならやれるメニューを今までずっとやってきた貴方って何なの」

「鍛え続けてるトレーナー兼任の用務員のおじさんです」

「もうツッコむのも疲れて来たわね……」

 

皆も成長して来ているが、流石に全開の自分のメニューにはついてこれない。ゼンガーとトロンベ辺りはそれを聞いてさらに闘志を燃やし、必ずその域へと達して見せると言っていたが……。

 

「朝練の後って大体俺の所でみんなご飯食べるのよ。流石にこれくじで決めてるけど」

「あらっそれは普通に羨ましいわね。ヒビキ君の料理は美味しいから大人気でしょうね」

「くじによっては本当に作るの大変だけどね……オグちゃんとスペちゃんが一緒の時なんてもう地獄絵図よ。業務用の炊飯器新しく買い足した位だもん」

「それは、御愁傷様」

 

其処にリギルメンバー迄来ると言う事は更にその争いが過熱する事にもなる。

 

「後、ナリちゃん来るとなると肉以外どうやって食わせたろかって考えないと」

「それは、確かに……ハヤヒデ辺りに相談するしかないかな」

「カレーに入れてる玉ねぎは確り溶かしてるって事は聞いたんだけどなぁ……」

 

ヒビキの苦労は続く、が、何処か楽しそうに見えるのは彼自身がウマ娘と関わる事が好きなのか、それとも指導するのが好きなのか……何方なのだろうか。

 

「―――中央、色々と楽しみにさせて貰うぞ……なぁっ響鬼さん」




雷電 響鬼。

早朝の朝練参加メンバーが限界に近いおじさん。流石に10人以上となると厳しくなってくるので、最近は希望者を募り、その中から抽選する方式にしようかと真面目に思っている。
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